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宗像 淳 / イノーバCEO2024/12/06 15:20:261 min read

次世代BtoB営業⑧|なぜ今、BtoB企業にマーケティングが必要なのか

これまでのシリーズでは、SIer、製造業、医療、商社など、業界別の課題を見てきました。そこで浮かび上がってきたのは、デジタル化の波が、業界を超えて営業現場に共通の課題をもたらしているという現実です。シリーズ最終回となる今回は、その課題を解決するための具体的なアプローチとして、マーケティングの可能性を探っていきましょう。

この記事のポイント

  • なぜ従来の営業だけでは課題を解決できないのか
  • 営業を強化する新しい選択肢としてのマーケティングの効果
  • 明日から始められる具体的なアクションプラン

 

▼次世代BtoB営業シリーズ全8記事

次世代BtoB営業①|BtoB企業の構造改革:下請けモデルからの脱却を迫られる日本企業

次世代BtoB営業②|SIer業界 ―クラウド時代の新たなビジネスモデル―

次世代BtoB営業③|製造業 ―EVシフト、デジタル化の波に飲み込まれないために―

次世代BtoB営業④|医療営業 デジタル時代における価値提供モデルの再構築

次世代BtoB営業⑤|ルートセールス デジタル時代に求められる営業改革とは

次世代BtoB営業⑥|無形商材営業 価値の可視化がカギを握る時代に

次世代BtoB営業⑦|商社ビジネス ―デジタル時代に問われる存在意義―

次世代BtoB営業⑧|なぜ今、BtoB企業にマーケティングが必要なのか


顧客接点の変化がもたらす3つの課題

もう従来型の営業だけでは立ち行かない

多くの営業現場から、こんな声が聞こえてきます。

これまでのシリーズで見てきたように、業界を問わず、多くのBtoB企業の営業現場が同じような課題に直面しています。そして、その根底には「顧客の行動変化」という共通の要因があります。

▶顧客行動の変化について詳しい解説を読む

目次

1. 営業現場が直面する3つの課題

「会えばなんとかなる」という前提で成り立っていた営業活動の前提が、今完全に崩れています。まず、これまでの記事で見てきた、現場が直面している具体的な課題を整理してみましょう。

(1) 商談機会の急激な減少
「御用聞き営業」が通用しなくなった今、対面での営業訪問が難しくなっています。特に大手企業では完全アポイント制が一般化し、具体的な案件がなければ会うことすら困難な状況です。


(2) 見えない検討プロセス
顧客は営業に会う前に検討の大半を終えています。「気づいた時には他社と商談が進んでいた」「比較表を見せられ価格の説明だけを求められた」という状況は、もはや珍しくありません。顧客が何を考え、どのような判断基準で評価しているのか、そのプロセスが完全にブラックボックス化しているのです。


(3) 価値訴求の時間的制約
「30分だけ」「概要だけ」「ポイントだけ」
商談の時間は確実に短縮化しています。長年築いてきた技術力やノウハウ、サービスの価値を、このような限られた時間でどう伝えるか。これが現場の大きな課題となっています。

 

2.マーケティングで営業を強化する

ここで提案したいのが、マーケティング活動による営業支援です。「マーケティングは広告や広報活動だけを担当する」と誤解されがちですが、それは大きな間違いです。むしろ、マーケティング活動は営業部門の「新しい武器」と考えてください。

 

なぜマーケティング活動が有効なのか

「会えない」「伝えられない」という状況で、どうやって顧客と接点を持つのか。その答えは、「顧客が情報を求めている場所に、価値ある情報を提供する」ことにあります。

具体的に見てみましょう。

顧客が情報を求めるタイミング

  • 「このままでは業務が回らない」と課題を感じ始めたとき
  • 「他社の取り組みはどうなのか」と業界動向を探るとき
  • 「具体的にどう進めればよいのか」と方法論を探すとき

こうした時、顧客は様々な手段で情報を探します。この段階で適切な情報提供ができれば、その後の営業活動にも大きく影響するのです。

 

3. コンテンツマーケティングという選択

では、具体的にどのようなマーケティング活動が有効なのでしょうか。

BtoB企業との親和性が特に高いのが、コンテンツマーケティングです。コンテンツマーケティングとは、価値ある情報を継続的に提供することで、顧客との信頼関係を構築し、最終的な購買決定につなげていく手法です。

例えば、以下のようなものがあります。

  • 製品の導入事例を紹介したホワイトペーパー
  • 業界トレンドを分析したウェビナー
  • 専門的な解説を含むブログ記事

従来型の製品・サービスの直接的なプッシュではなく、顧客が必要とする情報や知見を顧客のペースに合わせて提供することで、自然な形での関係構築を目指します。

 

(1) なぜコンテンツマーケティングなのか

BtoB企業の商談プロセスには、以下のような特徴があります。

  • 検討期間が数ヶ月から年単位と長期にわたる
  • 経営層、事業部門、技術部門など、複数の意思決定者が関与する
  • 製品・サービスの理解に専門的な知識が必要となる

これらの特性に対して、コンテンツマーケティングは非常に有効なアプローチとなります。

例えば、経営層は投資対効果や市場動向に関心を持ち、事業部門は具体的な業務改善効果を重視し、技術部門は実装の詳細に注目します。コンテンツマーケティングでは、このように異なる立場の意思決定者それぞれに対して、適切な情報を適切なタイミングで提供することができます。

さらに重要なのが、専門性の体系的な提示です。技術的な優位性や問題解決のアプローチ、将来的な発展性といった複雑な価値を、段階的に、かつ分かりやすく伝えることができます。顧客は自社のペースで情報を咀嚼し、社内での検討材料として活用できるのです。

 

(2) 具体的な効果

コンテンツマーケティングは、主に以下の3つの面で効果を発揮します。

①商談前の環境整備 

営業活動の上流で、自社の専門性への理解が自然な形で醸成されます。技術力や問題解決能力が可視化され、競合との本質的な差別化が可能になります。特に重要なのは、価格以外の価値基準を共有できることです。長期的なコスト削減効果や、運用面でのメリットについて、十分な理解を得た上で商談に臨むことができます。

 

②商談の質的向上 

事前の情報提供により、商談ではより本質的な議論に時間を使えるようになります。基本的な説明に時間を取られることなく、顧客固有の課題や、より専門的な内容について深い対話が可能となるのです。

 

③長期的な関係構築

継続的な情報提供は、単なる売り手・買い手の関係を超えた、パートナーシップの構築につながります。顧客の潜在的なニーズを早期に把握でき、追加提案の機会も自然な形で生まれてきます。

このように、コンテンツマーケティングは、商談前の信頼関係構築から、商談時の深い対話の実現、そして長期的なパートナーシップの確立まで、BtoB営業における本質的な課題を解決します。特に重要なのは、これらの効果が互いに強化し合う点です。商談前の適切な情報提供が質の高い対話を可能にし、その対話を通じて築かれた信頼関係が、さらなる情報提供の機会を生む——。このような好循環を作り出すことで、単なる売り手・買い手の関係を超えた、持続可能なビジネス関係を構築することができるのです。


4.現場が明日から始められること

「マーケティングの必要性は分かるが、どこから手をつければよいのか」「リソースが足りない」——。こうした声は、多くの企業から聞かれます。しかし、コンテンツマーケティングは必ずしも大規模な体制やリソースを必要としません。むしろ、小さく始めて徐々に成果を積み上げていく方が、持続可能なアプローチといえます。

(1) 既存資産の棚卸しから始める

多くのBtoB企業には、すでに価値あるコンテンツの素材が存在します。例えば、提案資料の中の業界分析や、技術資料の解説部分、お客様との対話から得られた知見など。これらは、そのままコンテンツとして活用できる可能性を秘めています。

重要なのは、これらの資産を「汎用的に使える情報」と「個別案件特有の情報」に整理することです。業界課題の分析や、ソリューションの基本的な考え方、一般的な導入効果の説明など、汎用的な部分は、そのままコンテンツとして活用できます。

(2) 段階的なアプローチ

コンテンツマーケティングは、以下のような段階を経て展開すると良いでしょう。

第一段階:定期的な情報発信の仕組み作り 

まずは月1回のメールマガジンから始めるのが現実的です。既存の提案資料や技術資料から、汎用的な内容を抽出して記事化していきます。この段階で重要なのは、「完璧を求めすぎない」ことです。

第二段階:コンテンツの質的向上 

定期的な発信が軌道に乗ってきたら、次は内容の充実を図ります。お客様の声の収集や、具体的な数値事例の整理、より詳細な技術解説の追加など、徐々にコンテンツの価値を高めていきます。

第三段階:双方向のコミュニケーション 

最終的には、オンラインセミナーの開催や、質疑応答の場の設定など、顧客との直接的な対話の機会を創出します。この段階で、単なる情報提供から、真の意味での関係構築へと発展していきます。

 

(3) 成果の可視化と改善

コンテンツマーケティングの効果は、短期的な数値だけでは測れません。以下のような複数の視点から、総合的に評価していく必要があります。

定量的な評価

閲覧数やダウンロード数といった基本的な指標は、取り組みの方向性を確認する上で重要です。ただし、これらは活動の一側面を示すに過ぎません。

定性的な評価

より本質的なのは、営業現場での変化です。「あの記事を読んで連絡しました」という声や、商談での理解度の向上、より具体的な質問の増加など。これらの変化を丁寧に拾い上げ、次のアクションに活かしていくことが重要です。

始めるのに「完璧な状態」は必要ありません。既存の資産を活用し、小さな成功体験を積み重ねていく。その積み重ねが、やがて大きな成果につながっていくはずです。

 

まとめ:マーケティングで実現する新しい営業の形

デジタル時代の到来により、BtoB営業は大きな転換点を迎えています。「会えない」「伝えられない」という課題は、一見すると営業活動の制約のように見えます。しかし、この変化は、より本質的な価値提供を実現するチャンスでもあります。

変化を受け入れ、新しい形の顧客接点を創造していく。その具体的な方法論として、マーケティング、特にコンテンツマーケティングは、極めて有効なアプローチとなるはずです。

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次世代BtoB営業②|SIer業界 ―クラウド時代の新たなビジネスモデル―

次世代BtoB営業③|製造業 ―EVシフト、デジタル化の波に飲み込まれないために―

次世代BtoB営業④|医療営業 デジタル時代における価値提供モデルの再構築

次世代BtoB営業⑤|ルートセールス デジタル時代に求められる営業改革とは

次世代BtoB営業⑥|無形商材営業 価値の可視化がカギを握る時代に

次世代BtoB営業⑦|商社ビジネス ―デジタル時代に問われる存在意義―

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。