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宗像 淳 / イノーバCEO2024/12/06 15:18:311 min read

次世代BtoB営業⑥|無形商材営業 ―価値の可視化がカギを握る時代に―

前回はルートセールスからの進化という観点から考察しました。一方で、ITサービスやコンサルティングなど、目に見えない価値を提供する無形商材の営業現場でも、大きな変革が求められています。本記事では、無形商材の次世代営業モデルへのヒントを探りましょう。

▶前回の記事を読む

はじめに:無形商材とは

「また今月も受注できませんでした...」 

「商品の説明をすればするほど、かえって分かりづらくなる気がします」

「結局、価格の話に持っていかれてしまいます」 

こうした悩みの声が、無形商材を扱う営業現場では日常的に聞かれます。

無形商材とは、ITサービスやコンサルティングのように、目に見えない価値を提供する製品やサービスを指します。その特性ゆえに、「見えない価値」をどう伝えるかという課題が、営業の大きな壁となっているのです。

目次

 

1. 無形商材営業の3つの壁

無形商材の営業現場では、日々様々な課題に直面しています。「数字が見えない」不安、社内調整の煩雑さ、組織間の軋轢...。これらの課題は、個人の営業スキルだけでは解決できない構造的な問題となっています。具体的に見ていきましょう。

1. 「価値」の壁

無形商材の営業で最も大きな課題は、「見えない価値」を顧客にどう伝えるかという点です。物理的な形がないため、提供する価値を言葉や資料で説明するには高度なスキルが求められます。特に、無形商材の効果が中長期的に現れる場合、短期的な成果を重視する顧客との間でギャップが生じやすくなります。この「時間軸の違い」が、商談をスムーズに進めるうえで大きな障壁となるのです。

 【現場の実態】

  • 現場の声:「導入効果を数字で示してほしいと言われても...」
  • 現状の対応:類似事例の数値を提示
  • 限界:業種や企業規模が違うと説得力が落ちる
  • 心理的負担:「本当にこの数字で大丈夫か」という不安

 

2.「プロセス」の壁

商談における意思決定プロセスも、大きな課題です。特に近年、商品やサービスが高額化・複雑化していることから部門横断的な意思決定が必要になるケースが多く、意思決定プロセスは複雑化しています。そのため、調整が難航することが増え、長期化する傾向にあります。

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  • 現場の声:「各部門の承認が取れず、いたちごっこです」
  • 現状の対応:部門別の説明資料を用意
  • 限界:説明すべき部門が多すぎて時間が足りない
  • 心理的負担:「あの部門の承認は絶対に通らない」という諦め

 

3.「組織」の壁

さらに、営業部門内外での組織的な課題も見えてきています。

  • 現場の声:「マーケティング部門と営業部門で方針が違います」
  • 現状の対応:定期的な会議で情報共有
  • 限界:評価制度が異なり、本質的な協力が困難
  • 心理的負担:「数字だけを求められる」というプレッシャー

これらの壁は、一見すると乗り越えがたい障害に思えます。しかし、これらは多くの企業が直面している共通の課題でもあります。重要なのは、これらの課題を個人の問題として捉えるのではなく、組織として解決すべき構造的な課題として認識することです。

 

こうした状況の中、多くの企業では次のような諦めの声が聞かれます。

「やっぱり形のない商材は売りにくい」

「うちのサービスは説明が難しすぎる」

「マーケティングなんて向いていない」

確かに、価値の可視化の難しさ、複雑な意思決定プロセス、組織間の連携不足...。これらの課題に直面すると、無形商材の営業は本質的に難しいと考えたくなります。

しかし、本当にそうなのでしょうか。

むしろ、これらの「壁」は、従来の営業アプローチの限界を示唆しているのではないでしょうか。発想を転換することで、無形商材ならではの新たな可能性が見えてきます。

 

2. 「無形商材は売りにくい」という思い込みの誤り

無形商材の営業は、「価値を伝えにくい」「即効性を示しづらい」と思われがちですが、実はその特性が強みになることもあります。戦略的なマーケティング活動との親和性が非常に高い点がその一例です。

本章では、こうした「売りにくい」という思い込みを覆し、無形商材ならではの3つの強みを活かす具体的な手法を探ります。

1. 長期の検討期間を味方につける

無形商材の導入検討は、通常3ヶ月から1年以上かかります。一見これはデメリットに思えますが、実は大きなチャンスです。

【長期検討期間の活用ポイント】

  • 段階的な情報提供による理解促進
    • 業界レポートの提供
    • 課題解決の事例紹介
    • 具体的な導入方法の提案
  • 顧客との信頼関係構築
    • 定期的な情報提供による接点維持
    • 課題に対する継続的な提案
    • ニーズの深掘りと解決策の共同検討

このように段階的なアプローチを取ることで、単なる商品説明ではなく、顧客の課題に寄り添った提案が可能になります。時間をかけて信頼関係を構築することで、価格競争に巻き込まれることなく、本質的な価値提供の実現につながるのです。

 

2. 経営層との接点作りに威力を発揮

無形商材は多くの場合、経営課題と直結しています。そのため、経営層との直接的な対話の機会を作りやすいという特徴があります。

【経営層アプローチの具体策】

  • 経営課題に焦点を当てたセミナーの開催
    • DXによる競争力強化
    • 人材育成を通じた生産性向上
    • コスト構造改革の実践事例
  • 業界動向や他社事例の共有
    • 成功企業の取り組み紹介
    • 業界特有の課題解決策の提示

これらの取り組みを通じて、経営層との深い対話が生まれます。結果として、単なる製品・サービスの導入という次元を超えて、経営課題の解決パートナーとしての地位を確立することができます。特に、投資判断の最終決定者である経営層との関係構築は、その後の商談プロセスを大きく加速させる原動力となります。

▶課題解決パートナーとしてのブランディングについての資料を読む

 

3. デジタルツールで見えない行動を可視化

無形商材の検討プロセスでは、顧客は必ず情報収集を行います。この行動をデジタルマーケティングツールで可視化できることは、大きな強みとなります。

【デジタルツール活用のポイント】

  • 顧客の興味関心の把握
    • コンテンツの閲覧履歴分析
    • ダウンロード資料の傾向把握
    • メールマガジンの反応率測定
  • 適切なタイミングでの提案
    • 閲覧頻度の上昇時期の把握
    • 資料請求後の最適なフォロー
    • 組織内での検討状況の推測

このように顧客の行動データを分析・活用することで、「見えない検討プロセス」が可視化され、最適なタイミングでの提案が可能になります。さらに、組織内での検討状況を推測できることで、各部門に対する的確なアプローチも実現できます。これは、従来の営業活動では得られなかった大きなアドバンテージといえるでしょう。

 

マーケティングを活用した価値訴求

無形商材の「見えない価値」は、マーケティング活動との親和性が極めて高いといえます。重要なのは、これらの特性を理解し、戦略的に活用することです。

この転換により、より効率的かつ効果的な営業活動が可能となります。次章では、この考え方に基づいた具体的な施策について解説していきます。

 

3. 成功のための具体的な営業アプローチ:Nice to HaveからMust Haveへ

無形商材を「あったら便利」から「なくてはならない」ものへと転換することは、営業成功の鍵となります。そのために、以下の3つの視点からアプローチを考えていきましょう。

業界課題との紐付け

経営課題と自社ソリューションを結びつけることで、導入の必然性を示すことができます。

【課題との紐付けの具体例】

  • 人材不足への対応
    • 現状:属人的な業務が多く、新人育成に時間がかかる
    • 解決策:業務の標準化とシステム化による生産性向上
    • 効果:一人当たりの生産性が30%向上した事例を提示
  • コンプライアンス対応
    • 現状:法令違反のリスクが経営課題に
    • 解決策:システマティックなリスク管理体制の構築
    • 効果:人的ミスによるインシデントの90%削減を実現

 

ROIの具体化手法

投資対効果を時間軸で整理し、段階的な価値実現のストーリーを描くことが重要です。

【時間軸別の効果提示】

  • 短期的効果(3ヶ月以内)
    • 業務時間の削減:月間40時間/人の削減実績
    • 直接コスト削減:印紙代・郵送費等の削減額を明示
    • 具体例:「導入1ヶ月で経費精算業務の工数が半減」
  • 中期的効果(1年以内)
    • 生産性向上:一人当たりの売上高15%増加
    • 顧客満足度:問い合わせ対応時間の50%短縮
    • 具体例:「営業担当の商談件数が2倍に増加」
  • 長期的効果(3年以上)
    • 市場シェア:競合との差別化による顧客基盤拡大
    • 新規事業:デジタル基盤を活用した収益機会の創出
    • 具体例:「データ活用による新サービス展開で売上30%増」

 

成功事例の戦略的活用

導入企業の具体的な成功体験を、検討企業の状況に合わせて効果的に提示します。

【成功事例活用のポイント】

  • 業界別の詳細事例
    • 同業他社の成功事例(可能な範囲で)
    • 類似業界での応用事例
    • 規模感の近い企業での実績
  • 効果測定の方法論
    • 定量指標の設定方法
    • 測定プロセスの確立
    • 改善サイクルの回し方
  • 導入企業の生の声
    • 現場担当者の評価
    • 経営層の評価
    • 想定外の副次的効果

 

実践のためのステップ

これらのアプローチを効果的に実行するために、以下の順序での取り組みができると良いでしょう。

【自社ソリューションと業界課題のマッピング】

  1. 時間軸別の効果測定指標の設定
  2. 成功事例のデータベース化
  3. 提案資料のテンプレート作成
  4. 営業チーム全体での共有と実践

このように、体系的なアプローチを確立することで、無形商材の「必須の投資」としての位置づけを確立することができます。

 

まとめ:変革は「思い込み」を捨てることから

無形商材の営業改革は、「売りにくい」という思い込みを捨てることから始まります。その特性を活かしたマーケティング活動と、それを支えるデジタルツールの活用。そして何より、顧客の課題を深く理解し、その解決に向けた価値提供を継続的に行うことが成功への鍵となります。

まずは小さな成功事例を作り、それを組織全体で共有し、拡大していく。そんな地道な取り組みが、結果として大きな成果につながっていくでしょう。

 

▼次世代BtoB営業シリーズ全8記事

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次世代BtoB営業②|SIer業界 ―クラウド時代の新たなビジネスモデル―

次世代BtoB営業③|製造業 ―EVシフト、デジタル化の波に飲み込まれないために―

次世代BtoB営業④|医療営業 デジタル時代における価値提供モデルの再構築

次世代BtoB営業⑤|ルートセールス デジタル時代に求められる営業改革とは

次世代BtoB営業⑥|無形商材営業 価値の可視化がカギを握る時代に

次世代BtoB営業⑦|商社ビジネス ―デジタル時代に問われる存在意義―

次世代BtoB営業⑧|なぜ今、BtoB企業にマーケティングが必要なのか

 

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。