前回の記事では、マーケティングから営業へのリードの受け渡しが適切に管理されていないことで、せっかくのリードが活用されずに失われてしまう現状を解説しました。
リードが商談や受注につながらない要因はさまざまですが、見落とされがちなのが 「営業プロセス全体の効率性」です。
どれだけリードを獲得しても、商談までに時間がかかったり、成約までのプロセスが非効率だったりすると、結果的に売上に結びつかないという課題が生じます。
そこで注目したいのが、「セールスベロシティ」という考え方。
これは、商談から受注までの流れを4つの要素で分解し、受注までの効率性を定量的に可視化する指標です。
本記事では、「セールスベロシティとは何か?」をあらためて整理し、その構成要素・計算方法・活用のヒントをわかりやすく解説していきます。
この記事を読むと得られること
- セールスベロシティの定義がわかる
- セールスベロシティの計算方法が学べる
- 「受注までの効率性」を測ることの重要性がわかる
目次
TABLE OF CONTENTS
セールスベロシティとは何か?
セールスベロシティの定義
セールスベロシティ(Sales Velocity)とは、「受注までの効率性」を測るための営業指標です。
“Velocity”という単語は英語で「速度」や「勢い」を意味しますが、ビジネスの文脈では、「一定期間内に、どれだけの価値や成果を継続的に生み出せるか」というパフォーマンスの指標として使われることがあります。
セールスベロシティは、一定期間内にどれだけの売上を生み出せるかを計算することで、営業活動全体の効率を定量的に把握するもの。
商談数、成約率、平均単価、営業サイクルといった複数の要素を組み合わせて算出されるため、営業プロセス全体の「どこに改善の余地があるのか?」を見つけるヒントにもなります。
セールスベロシティの計算式
セールスベロシティは、以下の式で表されます。
従来の営業KPIでは、売り上げ金額や受注件数ばかりに目が向いてしまっていましたが、この式から算出されるセールスベロシティは、パイプライン上の商談の効率性を測る指標です。つまり、「営業活動全体がどれくらい効率的に売上につながっているか」を、数字で確認することができます。
たとえば、同じ売上でも
- 商談数は少ないが売上につながっている
- 平均契約単価が高い
- 短い営業サイクルで成約に至っている
といったケースでは、より効率の良い営業活動ができていると評価できます。
セールスベロシティの構成要素
セールスベロシティの計算式には、営業活動の成否を左右する4つの要素が含まれています。
構成要素 |
概要 |
1.商談数 |
営業活動で発生する商談の数。 多いほど成約のチャンスが増え、売上の最大化につながる。安定的な商談創出が営業活動の基盤となる |
2.平均契約単価 |
1件あたりの契約金額の平均。 契約単価が大きいほど、同じ商談数でも売上が増加するため、収益性を最大化するためには単価の向上が重要 |
3.成約率 |
商談が契約に至る確率で、効率的な営業活動の指標。 成約率が高いほど、商談が成功しやすく少ない商談数でも売上を伸ばせる。低い場合は、営業の進め方や提案内容に改善の余地があることを示す |
4.営業サイクルの長さ |
商談開始から受注までにかかる期間。 サイクルが短いほど、同じ期間内でより多くの契約を成立させられるため、営業の生産性が向上する |
これらを掛け合わせて算出されるのが、営業活動の“効率性”です。どれか1つでも数値が悪化すれば、全体の効率は大きく下がってしまうため、バランスよく最適化することが重要です。
なぜ「受注までの効率性」を測ることが重要なのか?
ここまでセールスベロシティの定義や計算式、構成要素を見てきたことで、「どのような観点で営業活動を評価するか」の輪郭がつかめてきたと思います。では、なぜこの「受注までの効率性」という視点が、今の営業現場で特に重要なのでしょうか?
リードは「生もの」
BtoBマーケティングにおいて、リードは獲得した瞬間が最も価値が高く、時間が経つほど商談につながる確率が低下する、いわゆる「生もの」のような存在です。
例えば、リードがホワイトペーパーをダウンロードした直後は関心が高く、適切なフォローを受けることで商談につながる可能性があります。しかし、フォローが遅れると、他社と比較検討が進んでいたり、関心が薄れてしまったりして、商談の機会を失うケースが増えてしまうのです。
つまり、リードの関心が高いうちに、ムダなく商談・成約へとつなげるためのプロセス全体の効率性が求められるのです。
そのためには、営業プロセスを構成する各要素(商談数・成約率・平均契約単価・営業サイクル)が、それぞれどのように売上に影響しているのかを把握する必要があります。
そこで役立つのが「セールスベロシティ」。受注までのプロセスを構成要素ごとに可視化することで、どこに改善の余地があるのかが見えてきます。
商談数や成約率などのKPIだけでは見えない「全体最適」の視点
たとえば「成約率は高いのに、売上がなかなか伸びない」といったケースに出くわすことはありませんか?
こうした場合、成約率という一つのKPIだけを見ていても、本質的な課題には気づけません。実は商談数が足りていないのかもしれないし、平均契約単価が低すぎるのかもしれない。あるいは、成約に至るまでの営業サイクルが長すぎる可能性も。
セールスベロシティは、こうした複数の要素(商談数・成約率・平均契約単価・営業サイクル)を横断的に捉えることで、「どこに課題がありそうか?」の見当をつけやすくし、営業プロセスの全体最適を実現するための出発点になります。
例えば、構成要素ごとに以下のような示唆が得られます。
構成要素 |
兆候・気づき |
改善の方向性 |
1.商談数が少ない |
リード数・質に課題がある可能性あり |
マーケティングやインサイドセールスの活動、ターゲット設定の見直し |
2.平均契約単価が低い |
小規模案件に偏っている、単価アップの仕組みがない |
高単価を狙えるターゲット設定の見直し、提供価値の訴求強化 |
3.成約率が低い |
提案の質や営業スキルに課題がある可能性あり |
提案内容の改善、顧客課題の深掘り、営業研修の強化など |
4.営業サイクルが長い |
商談プロセスが複雑化している、社内の提案・承認フローに時間がかかっている |
提案・承認プロセスの見直し、ツール導入による効率化 |
つまり、セールスベロシティは定期的・継続的に算出し評価することで、営業活動のどこに改善のヒントがあるかを教えてくれるセンサーのような指標になるのです。
構成要素を分解して見ていくことで、現場では具体的な改善アクションを検討しやすくなり、マネジメント層にとっては「どこに注力すべきか」の判断材料になります。
さらに、数値という共通言語を通じて、現場とマネジメントのあいだの認識ギャップを埋めるコミュニケーションの橋渡しにもなるのです。
まとめ:営業の「効率性」を見極める新しい視点
リードをどれだけ獲得できたとしても、受注につながらなければ意味がありません。
重要なのは、限られた営業リソースで、どれだけ効率的に成果を上げられるかという視点です。
セールスベロシティは、商談数・成約率・平均契約単価・営業サイクルという4つの要素から、営業活動全体の「効率性」を可視化する指標。
数値の裏側を分解して見ることで、「どこに改善の余地があるか」「どこに注力すべきか」が明確になります。
次回「セールスベロシティ③|モデルケースで学ぶ活用術」では、このセールスベロシティを実際のモデルケースに当てはめて、改善アクションをどのように導き出すかを詳しく解説します。
▼「セールスベロシティ」シリーズ
