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宗像 淳 / イノーバCEO2024/12/06 15:17:371 min read

次世代BtoB営業⑤|ルートセールス ―デジタル時代に求められる営業改革とは―

前回までは業界別の課題を見てきましたが、今回は商材特性という新たな視点から、デジタル時代の営業改革を考えます。まずは有形商材の特性に応じた変革の方向性を探っていきましょう。

▶前回の記事を読む

はじめに:変革期に直面する業態

「カタログスペック以外の価値を、どう伝えればいいのか」 

「従来の営業スタイルだけでは、競争力を維持できない」

 「デジタル化への対応に苦慮している」

工具、事務用品、包装資材など、形のある商品を定期的に販売するルートセールスの現場から、こんな声が聞こえてきます。ルートセールスとは、営業担当者が担当エリアの顧客を定期的に訪問し、商品の補充や新商品の提案を行う営業スタイルのことです。

これらの業界では長年、定期訪問を通じた関係構築と受注確保が営業の基本でした。しかし、デジタル化の進展により、この伝統的なアプローチだけでは十分な競争力を維持できなくなってきています。では、ルートセールスの特性を活かしながら、いかに営業改革を進めていけばよいのでしょうか。

目次

 

1. ルートセールスの現場で起きていること

御用聞き型営業の限界

長年、ルートセールスを支えてきた御用聞き型の営業スタイルが、大きな岐路を迎えています。定期的な訪問を通じて受注を確保し、顧客との関係性を築いてきたこのモデルは、その有効性を段階的に失いつつあるのです。

従来型営業の機能不全は、以下のような形で顕在化しています。

定期訪問の非効率化による機会損失

  • 意思決定者との接点減少
  • 形骸化した定期訪問の増加
  • 実質的な商談機会の減少

情報収集手段の変化

  • オンライン情報収集の一般化
  • SNSやWeb経由での情報取得増加
  • 製品比較の容易化

2024年の調査によると、BtoB商材の購入において、決裁者の67%が営業担当者以外の経路から購入を決定していることがわかります。この数字は、従来型の営業アプローチの限界を如実に示しているのです。

BtoBの購買プロセス、84%の決裁者が営業担当との接触前に「購買を決定づける情報」へリーチ/wib|SalesZine(セールスジン)

しかし、注目すべきは業界や企業規模による大きな差異です。大手企業ではデジタル発注システムやオンライン商談が一般化し、営業担当者との対面は戦略的な議論に限定されつつあります。一方、中小企業では導入コストや人材育成の負担から、従来通りの対面営業や電話・FAXでのやり取りが主流です。

この二極化は、営業改革を進める上で重要な考慮点となります。画一的なデジタル化ではなく、顧客の規模や業界特性に応じた柔軟なアプローチが求められているのです。

 

価格競争の激化

さらに、価格競争の深刻化も見過ごせない問題です。2022年の調査では、法人営業担当者の約7割が直近3年の営業状況の変化として、「価格競争が激しくなっている」ことを挙げています。これは単なる一時的な現象ではなく、構造的な変化として捉える必要があります。

法人営業担当者の67%が3年前と比べ価格競争が激しくなっていると回答。 | 株式会社アルヴァスデザインのプレスリリース

その背景には、インターネットの普及による価格の可視化があります。顧客企業は複数の取引先の価格を容易に比較できるようになり、従来のような「長年の取引関係」や「きめ細かいサービス」だけでは、価格差を正当化することが難しくなっているのです。

この構造的な変化に対応するには、価格以外の価値をいかに創出し、顧客に認めてもらえるかが重要です。単なる値引き競争から脱却し、製品知識や業界知見を活かした付加価値の提供へと、営業活動の軸足を移していく必要があります。

 

在庫管理の課題

また、在庫管理の問題も、深刻な課題として浮上しています。2022年の調査では、コロナ後の在庫管理における業務上の課題として、「発注数を予測しづらい」「過剰在庫が多い」が上位にあがっています。

在庫適正化に関する市場調査結果2022年【抜粋版】 | NECソリューションイノベータ

 

しかし、現場が直面している課題は、単なる在庫量の適正化だけではありません。

  • サプライチェーンの不安定化
    • 半導体不足に代表される部材調達の困難化
    • 納期の長期化・不安定化
    • 代替品対応の増加
  • 品質管理の厳格化
    • 製品品質への要求水準上昇
    • トレーサビリティ管理の強化
    • 不良品発生時の対応迅速化
  • コスト管理の複雑化
    • 原材料価格の変動
    • 物流コストの上昇
    • 在庫保管コストの増大

こうした問題に対応するには、従来の経験則や勘に頼った営業手法では限界があります。営業プロセス全体を見直し、より体系的なアプローチを構築する必要があるのです。そこで次章では、これらの課題に対する具体的な対応策について詳しく見ていきましょう。

 

2. 課題に対する打ち手

提案型営業への転換

ルートセールスの課題解決の核となるのが、提案型営業への転換です。これは単なる営業スタイルの変更ではなく、顧客に対する価値提供の在り方そのものを見直すことを意味します。この転換を実現するには、以下の3つの要素が重要になります。

提案力強化の3つの柱

1.コンテンツを軸とした提案力の強化

まず重要なのが、提案の土台となるコンテンツの整備です。従来の製品スペック中心の説明から、具体的な導入効果を示す提案へと転換を図る必要があります。

■ 効果的な提案コンテンツの例

  • 導入企業での生産性向上率
  • 設備稼働率の改善実績
  • 人件費削減効果の具体的数値

また、業界別の課題解決事例も重要な武器となります。同業他社での成功事例を、具体的なROI(投資対効果)と共に提示することで、顧客の投資判断を後押しすることができます。特に、初期投資額の大きな設備投資では、3年後、5年後までの長期的な投資効果を示すことが、経営層の決断を促す重要なポイントとなっています。

 

2.ハイブリッド戦略の実践

次に重要なのが、デジタルとアナログを効果的に組み合わせたハイブリッド戦略です。顧客との接点を最適化するため、以下のような使い分けが効果的です。

■ 商談フェーズ別のアプローチ

  • 初期段階:デジタルツールを活用した情報提供
  • 提案段階:対面での詳細な打ち合わせ

特に注目すべきは、顧客のデジタル対応レベルに応じた段階的なアプローチです。デジタル化が進んでいる顧客には、オンライン商談やデジタルカタログを積極的に活用。一方、従来型のコミュニケーションを重視する顧客には、対面での丁寧な説明と実機によるデモンストレーションを組み合わせるなど、柔軟な対応が求められます。

 

3.データ活用による提案精度の向上

さらに、営業活動の質を高めるうえで重要となるのが、データの戦略的活用です。これは単なる数値の分析ではなく、営業活動全体の最適化を目指すものです。

■ データ活用の主要な領域

  • 商談履歴の分析:成約率向上パターンの発見
  • 製品使用状況:最適な追加提案タイミングの把握
  • 在庫管理:デジタルツールと人的ネットワークの両立

例えば、商談履歴のデータ分析からは、「どの段階で、どのような提案を行うことが効果的か」「どのような情報提供が決め手となるか」といった知見を得ることができます。また、製品の使用状況データからは、メンテナンス提案の適切な時期を把握することが可能です。特に消耗品や定期交換部品を伴う製品では、このようなデータに基づく先回りの提案が、顧客満足度の向上と安定的な受注につながっています。

在庫管理においては、デジタルツールの活用と人的ネットワークの強化の両輪が必要です。AIによる需要予測は確かに有用ですが、それ以上に重要なのが、サプライヤーとの強固な関係構築です。代替品の確保や緊急時の融通といった、システムでは対応できない課題も、こうした人的ネットワークで解決されることが多いのです。

 

このように、提案型営業への転換は、コンテンツ、アプローチ手法、データ活用の3つの要素が密接に結びついて初めて効果を発揮します。

 

3. 変革要素

デジタル活用の新たな方向性

デジタル技術の活用は、もはや避けては通れない課題です。しかし、その推進にあたっては、「デジタル化ありき」ではなく、顧客の実態に即した形で進めることが重要です。

段階的な導入アプローチ

多くの企業が陥りがちな失敗は、最新のデジタルツールを一斉導入しようとすることです。例えば、製造業の現場では、最新のデジタル発注システムを導入しても、現場での紙の注文書が依然として主流というケースも少なくありません。

■ 効果的な導入ステップ

  1. 顧客のデジタル成熟度評価
  2. 基本的な受発注のデジタル化
  3. 効果検証と改善
  4. 高度なデータ分析・予測機能の段階的導入

また、新しいデジタルツールと既存の基幹システムとの連携も重要な課題です。データの二重入力や、システム間の不整合は、現場の大きな負担となります。システムの統合やデータ連携の自動化を通じて、業務フローを効率化していく必要があります。

 

マーケティング部門との新たな協業モデル

従来、営業部門とマーケティング部門は、いわば「上流と下流」の関係でした。しかし、この関係には大きな課題があります。

部門間の構造的な課題

■ 現状の主な課題

  • 時間軸の違い:マーケティング(四半期・半期)vs 営業(日次・月次)
  • 重視する指標の違い:ブランド認知・市場シェア vs 受注件数・売上

新たな協業の仕組み

こうした課題を解決するには、まず評価指標の調整が必要です。例えば、マーケティング部門の評価に「営業現場での活用度」を加え、営業部門の評価に「市場情報の収集・共有」を組み込むなど、両部門の協業を促す仕組みづくりが重要です。

 

効率的なフィードバック体制

特に重要なのが、営業現場からのフィードバックの活用です。ただし、現場の負担を最小限に抑えることが成功の鍵となります。

■ 具体的な効率化施策

  • 商談報告書のテンプレート最適化(必要最小限の項目)
  • 音声入力によるフィードバック収集
  • 週次ミーティングでの口頭報告の議事録化
  • チャットツールでの簡易報告の許容

さらに、収集したフィードバックを営業現場に還元する仕組みも重要です。他の営業担当者の成功事例や、よくある課題への対応策など、現場で即活用できる情報として共有することで、フィードバックを提供する側のモチベーション向上にもつながります。

 

組織能力の抜本的な強化

こうした変革を実現するには、組織能力の強化が不可欠です。

人材育成と評価制度の見直し

■ 求められる新たなスキル

  • デジタルツールの活用能力
  • データ分析力
  • 提案力・課題解決力

より本質的なのは、従来の評価制度を見直すことです。単純な売上目標だけでなく、顧客満足度や長期的な関係構築、デジタルツールの活用度なども評価指標に加える必要があります。

このような組織能力の強化は、一朝一夕には実現できません。しかし、変革の方向性を明確に示し、地道な取り組みを積み重ねることで、確実な成果につながっていくはずです。



まとめ:次世代のBtoB営業の成功の鍵

今後のルートセールスにおける成功の鍵は、デジタルとアナログのベストミックスにあります。特に重要なのは以下の点です。

1.現場起点の改革推進
  • 顧客の実態に即した段階的な変革
  • 業界特性を考慮したアプローチ
  • 現場の声を活かした施策立案

 

2.複合的な価値提供
  • 製品そのものの価値
  • サービスやソリューションとしての価値
  • 長期的なパートナーシップの価値

 

3.組織全体での取り組み
  • 部門間の密接な連携
  • 継続的な改善サイクルの確立
  • 変革を支える文化の醸成

デジタル化の波は確実に押し寄せていますが、それは一足飛びの変革ではなく、現場の実態に即した段階的な進化として捉える必要があります。顧客との関係性を維持しながら、新たな価値提供の形を確立していく。それこそが、これからのルートセールスに求められる姿勢といえるでしょう。

 

▼次世代BtoB営業シリーズ全8記事

次世代BtoB営業①|BtoB企業の構造改革:下請けモデルからの脱却を迫られる日本企業

次世代BtoB営業②|SIer業界 ―クラウド時代の新たなビジネスモデル―

次世代BtoB営業③|製造業 ―EVシフト、デジタル化の波に飲み込まれないために―

次世代BtoB営業④|医療営業 デジタル時代における価値提供モデルの再構築

次世代BtoB営業⑤|ルートセールス デジタル時代に求められる営業改革とは

次世代BtoB営業⑥|無形商材営業 価値の可視化がカギを握る時代に

次世代BtoB営業⑦|商社ビジネス ―デジタル時代に問われる存在意義―

次世代BtoB営業⑧|なぜ今、BtoB企業にマーケティングが必要なのか

 

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。