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イノーバマーケティングチーム2025/03/24 11:48:012 min read

セールスベロシティ③|モデルケースで学ぶ活用術

前回の記事では、「セールスベロシティ」という指標の定義や計算方法、構成要素について解説しました。
この指標を使えば、受注までのプロセスを「商談数・成約率・平均契約単価・営業サイクル」の4つの観点から分解し、営業活動の効率性を定量的に把握できます。

とはいえ、「実際にはどうやって現場で活かせばいいの?」と感じた方も多いのではないでしょうか。
今回は、「もしあなたの会社だったら?」という視点で、架空の中堅BtoB企業・A社のケーススタディをもとにセールスベロシティの活用法を見ていきます。改善前後の数値を比べながら、「どこを変えれば、成果がどう変わるのか?」を具体的に探っていきましょう。

この記事を読むと得られること

  • セールスベロシティで営業プロセスの課題を発見する方法がわかる
  • 数値と実態から課題を見極め、改善につなげるヒントが得られる
  • 営業・マーケティングそれぞれの具体的な改善アクションがわかる

目次

 

A社の課題感と現状

A社は、ソフトウェア開発を手がける中堅BtoB企業。

比較的高単価なITソリューションを提供しており、リードはマーケティング部門が獲得→インサイドセールスが初期対応→営業がクロージングという、よくある「THE MODEL型」の分業体制が敷かれています。

これまで大きな問題もなく、「なんとなくうまく回っている」感覚があった営業活動。

しかし、最近になって現場からこんな声が聞こえてくるようになりました。

 

「アポも取れてるし提案もしてるんですけど、なぜか数字がついてこないんですよね」

「商談が進まないままフェードアウトされることが増えた気がします」

「なぜか今期はクロージングまでいけない案件が多くて…」

 

営業責任者も、KPIを見ながらこう感じていました。

「売上自体は大きく落ちていない。でも、案件の進みが遅くなってる気がするし、なんとなく非効率な印象もある。どこに課題があるのか、今ひとつ見えてこないんだよな…」

 

そんなモヤモヤの中で出会ったのが、「セールスベロシティ」という考え方でした。

「営業プロセスを構成する4つの要素を可視化して、全体の“効率性”を測る」というシンプルなロジックに可能性を感じたA社は、まず自社の営業活動をこの指標で“診断”してみることにしました。

 

各構成要素の現状値は以下の通り。

構成要素

現状値

1.商談数

30件/月

2.平均契約単価

70万円

3.成約率

12%

4.営業サイクルの長さ

75日間

これを公式に当てはめて計算すると、

セールスベロシティ

約 33,600 円/日

セールスベロシティの現状値は1日あたり約33,600円と算出できました。

 

セールスベロシティから見えてきた改善のヒント

この33,600円/日という数値は、例えば以下のように評価することができます。
営業チーム全体で「1日あたり約3.3万円」という数値は、営業日数を月22日と仮定すると月間売上は約72.6万円

A社のような平均契約単価70万円のビジネスモデルにおいては、営業チーム全体で月に1件しか成約できていない水準です。

「頑張っているのに数字がついてこない」という現場の声が上がるのも、納得のいく結果でした。

そこでA社では、過去3ヶ月分の営業支援ツール(SFA)のデータや営業メンバーのヒアリング結果をもとに、セールスベロシティを構成する4つの要素(商談数・平均契約単価・成約率・営業サイクル)を3ヶ月分計測し、数値と実感を照らし合わせながら、課題の仮説を立てていきました。

▶関連記事:SFAって本当に必要?導入のメリットと営業現場のリアルな声を紹介

 

すると、以下のような傾向が見えてきました。

構成要素

現状値

気づき・課題の仮説

1.商談数

30件/月

リード数に対して量は足りているが、“質”に課題がある可能性。受注につながりにくいターゲットや検討初期の層が多い。リードの“質”見直しが必要?

2.平均契約単価

70万円

業種水準としては妥当だが、より高単価を狙える可能性あり。ターゲット設定の見直しや、提供価値の訴求強化が有効?

3.成約率

12%

商談10件あたり1件強しか成約しておらず「クロージングできず失注」の傾向あり。提案の内容やタイミング、顧客理解のズレが影響している?

4.営業サイクルの長さ

75日間

提案から受注までが長期化。顧客要因だけでなく、営業側の準備や社内フローにも課題がある。属人化・非効率化を是正し、標準化・ツール活用の余地あり?

このように、全体として複数の改善余地が見られましたが、特に成約率と営業サイクルの長さに課題が集中していることが、セールスベロシティの分析を通じて明確になりました。

「なんとなく非効率」と感じていた営業責任者の肌感覚は、数値によって裏付けられる形となったのです。

営業とマーケティングが実践した“改善アクション”とは?

セールスベロシティの分析によって見えてきた課題をもとに、A社では営業部門とマーケティング部門が連携し、実際にいくつかの改善アクションに取り組みました。

ここでは、成約率の向上と営業サイクルの短縮という2つの大きな課題に対して、それぞれの部門がどう動いたのかを振り返ってみましょう。

 

営業チームが実践した“改善アクション”

A社では、セールスベロシティの分析によって明らかになった課題をもとに、営業チーム主導で改善に着手しました。特に重点を置いたのは、数値の低さが顕著だった「成約率」「営業サイクル」。ただし、それ以外の要素である「商談数」や「平均契約単価」についても改善余地があると判断し、あわせて取り組みを進めることにしました。

改善対象

課題の仮説

改善アクション

1.商談数

数自体は確保できているが、質にバラつきあり

・インサイドセールスと合同で「商談化基準」のすり合わせを実施

・検討初期段階のリードには、無理に商談を設定せず、ナーチャリングリストとして別管理し、適切なタイミングでアプローチする体制に変更

2.平均契約単価

業種水準としては妥当だが、より高単価を狙える可能性あり

・成約単価が高かった顧客の業種・課題傾向を洗い出し、ターゲットリストを再構築

・商談ヒアリング時に「隠れニーズ」を掘り起こし、それに応じて提案内容の幅を広げるトレーニングを実施

3.成約率

提案内容やタイミング、顧客理解にズレがある可能性

・失注案件の傾向を分析し、フェーズ別の離脱理由を可視化

・受注率の高い営業メンバーの提案書・ヒアリングフローを共有

・提案の標準テンプレートを再設計、プレゼン練習を実施

4.営業サイクルの長さ

案件の進行が滞りがちで、社内稟議や準備プロセスが長い

・顧客の意思決定者を初期段階で巻き込む体制に変更

・社内の稟議フォーマットを統一し、営業マネージャーによる承認スピードをアップ

・提案資料作成にかかる時間を短縮するためのナレッジ共有・テンプレ整備

中でも、成約率向上のための提案プロセスの見直しは、営業メンバーにとって手応えのある取り組みだったようです。

「提案がズレていた理由が、改めて振り返って見えてきました」

「今まで自分のやり方に固執してたけど、他のメンバーのやり方が参考になった」

こうした声も上がり、チーム内のナレッジ共有が活性化されたことも、副次的な成果となりました。

 

マーケティングチームが実践した“改善アクション”

A社では今回のセールスベロシティ分析を通じて、「獲得リードの“質”」や「受注率につながるリードの見極め」といった点で、マーケティング部門としても改善できる余地があることに気づきました。

そこで、マーケティング側でも以下のような取り組みを実践しました。

改善対象

課題の仮説

改善アクション

獲得リードの質

そもそも商談につながりにくい層の流入も多く含まれていた可能性あり

・過去の受注案件に共通する属性(業種・職種・課題感など)を分析し、ターゲットペルソナを再設計

・広告や資料DL導線を見直し、検討度の高い層に響く訴求を強化

マーケティングから営業へのリード受け渡し基準

全ての獲得リードを関心度に関わらず一律で営業に渡していたため、商談化につながらないケースが多かった

・リードのスコアリングルールを営業と連携して再設計。資料DLやWebサイト内行動などをもとに関心度を数値化し、一定以上のスコアに達したリードのみを営業に引き渡す体制に変更

・今すぐ商談化が難しいリードに対しては、段階的に関心を高められるようコンテンツや接点を設計し直し、ナーチャリング(リード育成)施策を強化

営業との情報共有

顧客の興味・関心の内容が営業にうまく伝わっておらず、初回商談でズレが生じていた

・どのコンテンツ経由でリードが獲得されたか(例:ホワイトペーパー、ブログなど)を営業に自動で連携する仕組みを構築

・営業定例にマーケ担当が出席し、月次で「今月よく見られているコンテンツ」やリード傾向を共有

中でも特に効果が大きかったのは、「営業へのリード引き渡し基準の見直し」でした。

関心度の高いリードを選別して届ける体制に変えたことで、営業側のリソースの集中と成果の向上につながる実感が得られました。

 

Before/Afterで見る、セールスベロシティの改善効果

営業・マーケティングそれぞれの改善アクションを実践した結果、A社の営業プロセスにはどのような変化が生まれたのでしょうか?

セールスベロシティの構成要素をBefore/Afterで比較したのが以下の表です。

構成要素

改善前

改善後

主な変化

1.商談数

30件/月

28件/月

数自体は微減したが、成約につながりやすい商談が増加

2.平均契約単価

70万円

80万円

高単価顧客の見極めと提案内容の拡張で10万円アップを実現

3.成約率

12%

20%

提案プロセスの見直しで大幅に改善

4.営業サイクルの長さ

75日間

60日間

提案準備の効率化と承認プロセスの改善で15日の短縮に成功

セールスベロシティ

約33,600円/日

約74,600円/日

約2.2倍に向上

営業へのリード引き渡し基準を見直したことにより、商談数自体は減っているものの、「平均契約単価」「成約率」「営業サイクルの長さ」といった構成要素それぞれに対する具体的な改善策が機能し、全体の営業プロセスが最適化されたことで、結果としてセールスベロシティ(=1日あたりの売上期待値)が約2.2倍に向上しました。

この結果は、ただ闇雲に「数」を追うのではなく、プロセス全体を可視化し、ボトルネックごとに的確な改善を積み重ねたことの成果だと言えるでしょう。

 

まとめ:セールスベロシティは改善の“道しるべ”

セールスベロシティを活用することで、個別のKPIだけでは見えにくい「営業プロセスのムダ」や「取りこぼし」に気づき、改善の方向性を探ることができます。

A社のケースのように、数値と実態を照らし合わせて分析することで、何が成果を妨げているのか、どこを改善すれば効果が出るのかといった仮説を立て、効果的な改善策を講じることができるのです。

しかし、営業やマーケティングがそれぞれ施策を最適化しても、両者の連携がなければ受注効率を高めることには限界があります

次回、シリーズ最終回となる「セールスベロシティ④|マーケティングと営業の連携で成果を最大化」では、営業とマーケティングが“バラバラ”の状態から“ひとつのチーム”として連携し、組織全体でセールスベロシティを押し上げていく方法に迫ります。

 

▼「セールスベロシティ」シリーズ

セールスベロシティ①|リードが商談につながらないのはなぜ?

セールスベロシティ②|受注までの効率性を測る新たな指標

セールスベロシティ③|モデルケースで学ぶ活用術

セールスベロシティ④|マーケティングと営業の連携で成果を最大化

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イノーバマーケティングチーム

株式会社イノーバの「イノーバマーケティングチーム」は、多様なバックグラウンドを持つメンバーにより編成されています。マーケティングの最前線で蓄積された知識と経験を生かし、読者に価値ある洞察と具体的な戦略を提供します。