前回の記事では、架空の中堅BtoB企業A社のケーススタディをもとに、セールスベロシティを活用した営業・マーケティングの改善アクションをご紹介しました。
注目すべきはその成果が「部門横断の連携」によって実現されたという点です。
セールスベロシティを高めるには、マーケティングと営業のどちらか一方だけの最適化では限界があります。両者が分断された状態では、シリーズ第1回で解説したようにリードが適切に管理されず、受注のチャンスを取りこぼしてしまう恐れがあるのです。
そこでシリーズ最終回となる本記事では、「マーケティングと営業が一体となってセールスベロシティを最大化するにはどうすればよいのか?」をテーマに、連携を阻む壁とその乗り越え方を徹底解説。マーケティングと営業の分断が生まれる背景を整理し、「データとツールの統合」「共通KPIの設定」「連携プロセスの最適化」という3つのステップで、マーケティング・セールスベロシティを軸にした統合の方法を解説します。
この記事を読むと得られること
- マーケティングと営業の分断が商談機会を逃す要因であることがわかる
- MAとSFAの連携方法や、データを一元管理する手法が理解できる
- 組織全体でセールスベロシティを高める方法がわかる
目次
TABLE OF CONTENTS
マーケティングと営業部門の情報共有がうまくいかないのはなぜ?
マーケティングと営業は、それぞれの業務に最適化されたツールを使用しています。
一般的に、マーケティングはMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、リードの獲得やナーチャリングを行う一方、営業はSFA(営業支援ツール)やCRM(顧客管理システム)を使い、商談管理や成約に向けたアクションを記録します。
▼マーケティングと営業が使用する主なツール
目的 |
マーケティング部門 |
営業部門 |
リード管理 |
MA(マーケティングオートメーション)ツール |
SFA(営業支援ツール)/CRM |
メール施策 |
MAのメールマーケティング機能 |
なし(個別送信のみ) |
ナーチャリング |
メール配信・スコアリング |
なし(MQL後の管理のみ) |
商談管理 |
なし |
SFAで管理 |
顧客情報 |
MAで収集・スコアリング |
CRMに登録 |
このように、部門ごとに異なるツールを使用すること自体は合理的ですが、ツール同士が適切に連携されていないと、リード情報の受け渡しや商談プロセスの可視化に大きな障害が生じます。
ツールの分断がもたらす4つの課題
ツールやデータが統合されていないことで、具体的には以下のような問題が生じます。
1.リードの引き渡しが非効率に
MAで獲得したリードが営業ツールに自動連携されず、エクセル等で手作業で共有されるケースがある。
最新の情報がリアルタイムで反映されないため、営業が適切なタイミングでリードにアプローチできない。
2.営業がリードの行動データを把握できない
MAにはリードの行動履歴(閲覧ページ、開封メール、ダウンロード資料など)が蓄積されているが、営業ツールと連携していなければ、それらのデータを営業担当者が確認できない。
そのため、営業はリードの関心度に応じた適切なアプローチができず、商談機会を逃すリスクが高まる。
3.責任範囲が曖昧になりやすい
リードの管理や引き渡しのルールが不明確な場合、「マーケティングが渡したリードを営業がフォローしていない」「営業がアプローチしないリードはマーケティング側でどう扱うべきか」といった問題が発生する。
組織内で「誰が何を管理するのか」が曖昧だと、リードの適切なフォローアップが行われず、商談機会を逃してしまう。
4.マーケティングが施策の効果を評価できない
成約情報がSFAやCRMにしか記録されていないと、マーケティングは「どの施策が最終的な売上につながったのか?」を正しく分析できない。
その結果、PDCAを回しにくくなり、リード獲得施策の最適化が困難になる。
このように、ツールとデータの分断が続くと、マーケティングと営業の連携はうまく機能せず、組織全体の成果に悪影響を及ぼします。
では、この分断を解消し、セールスベロシティを高めるためには、どのような対策が必要なのでしょうか?
マーケティングと営業の連携を推進する3つのステップ
マーケティングと営業のツールやデータが分断されたままでは、リードの適切な管理やフォローができず、商談機会を逃すリスクが高まります。この課題を解決し、組織全体でセールスベロシティを向上させるには、次の3つのステップが重要です。
1. MAとSFA間でのシームレスなデータ連携を実現する
マーケティングと営業がスムーズに連携し、商談機会を最大化するためには、リード情報を正しく引き渡し、双方がリアルタイムでデータを共有できる環境を整えることが不可欠です。しかし、異なるツールを使用していると、手作業でのデータ共有が発生したり、情報が更新されないままになったりすることがあります。こうした課題を解決するためには、「統合型ツールを導入する」 か、 「既存のツールを連携させる」 という2つのアプローチが考えられます。
①MAとSFAが統合されたツールの導入
マーケティングと営業のデータ連携を効率化する最もシンプルな方法は、MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援)の機能が統合されたツールを導入することです。例えば、HubSpotやSalesforceのような統合型プラットフォームを使えば、リード獲得から商談・成約までを一つのシステムで管理できます。
例えば、HubSpotはCRM、マーケティング、セールス、カスタマーサポートを統合したオールインワンプラットフォームであり、これらの機能を一元的に管理できます。 このような統合型ツールを導入することで、異なるツール間の連携設定やデータ同期の課題を解消し、より効率的な業務運営が可能となります。
イノーバでは、HubSpotの導入支援サービスを実施しております。ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせください。
▶関連記事:【2025年最新】MAの選び方5つのポイント&おすすめ7選!
②既存のツールを連携させる
新しい統合型プラットフォームを導入するのが最もシンプルな解決策ですが、すでにMAやSFAを導入している場合は、現在のツールを連携させる方法もあります。これにより、大幅なシステム変更をせずにデータの一元管理を実現できます。主な方法は以下の3つです。
連携方法 |
API連携(公式コネクター) |
ノーコードツール(Zapier, Workato など) |
iPaaS(Mulesoft, Boomi など) |
概要 |
API(異なるソフトウェア同士がデータをやり取りする仕組み)を活用し、公式の連携機能を通じてMAとSFAを接続する方法 |
ノーコード/ローコードツールを活用し、専門知識なしで異なるツール間の連携を構築できる方法。特に小規模・中堅企業での導入が進んでいる |
iPaaS(クラウド上で複数のシステムを統合する仕組み)を利用し、複数の業務ツール間でリアルタイムにデータを同期する方法 |
特長 |
公式の連携機能を活用できるため、比較的安定して運用可能。ただし、カスタマイズには開発が必要な場合がある |
設定が簡単で、エンジニア不要で導入可能。ただし、連携できるデータ項目や処理フローには制限がある |
大規模なデータ統合が可能で、リアルタイムデータ連携も実現。ただし、導入コストが高く、運用負荷も大きい |
こうしたツールの連携を活用することで、マーケティングと営業が同じ情報をリアルタイムで参照できるようになり、リード管理の精度が向上します。
このように、マーケティングと営業のデータがリアルタイムで共有される環境を整えることで、リードの適切なフォローアップが可能になり、商談機会の最大化につながります。 また、マーケティング施策の効果測定が正確に行えるため、より高精度なデータをもとに施策の改善を進めることができます。データ連携の仕組みを整えることは、組織全体のパフォーマンス向上に直結するといえるでしょう。
2. 共通のKPIを設定し、組織全体の目標を統一する
データが統合されても、マーケティングと営業が異なる指標を追っていては、連携がうまく機能しません。そこで、両部門が共通のKPIを持ち、部門間の連携を強化することが重要です。 具体的には、「どれだけのリードが商談につながっているのか」「商談化までにどのくらい時間がかかっているのか」を可視化する指標を設けることで、マーケティングと営業が同じ目標に向かって動きやすくなります。
▼共通KPIの設定例
指標 |
目的 |
KPI |
商談化率(SQL化率) |
MQL → SQLの転換を可視化 |
MQL → SQLの転換率を30%以上 |
リード品質スコア |
商談につながる確度を測定 |
スコア80点以上のリード比率を50%に |
リードタイム |
商談までのスピードを短縮 |
MQL → SQLに転換するまでの期間を2週間以内に |
このように、単に「リードの数」ではなく、「商談につながるリードをどれだけ増やせるか?」を指標にすることで、マーケティングと営業が共通のゴールを持ち、連携が取りやすくなります。
また、KPIの設定には、営業のフィードバックを反映させることが重要です。例えば、営業が「このリードは商談につながりやすい」と感じる要素(企業規模、業種、特定のコンテンツへの関心など)を基にスコアリングを調整することで、より精度の高いリード管理が可能になります。
さらに、KPIの達成状況を定期的にモニタリングし、PDCAサイクルを回す仕組みを整えることで、マーケティングと営業の双方が継続的に改善を図れる環境を作ることができます。こうした取り組みを通じて、組織全体のベロシティを向上させ、売上の最大化につなげることができるでしょう。
3. 役割分担を明確にし、連携プロセスを最適化する
ツールやデータを統合し、KPIを共有しても、それを運用するプロセスが整備されていなければ、スムーズな連携は実現できません。マーケティングと営業が「誰が・どのタイミングで・何をするのか」の役割分担を明確にし、連携プロセスを標準化することが必要です。
▼最適な連携プロセスの構築例
項目 |
具体的な施策 |
目的・効果 |
リードの引き渡し基準を明確化 |
「スコア80点以上」「3回以上のコンテンツ閲覧」「フォーム送信済み」など、一定条件を満たしたリードのみ営業にトスアップ |
確度の高いリードを営業へ渡し、商談化率を向上させる |
定期的なマーケティング・営業ミーティングを実施 |
週1回の「リードレビュー会議」や、失注案件を振り返る「失注分析ミーティング」を設定 |
営業のフィードバックを施策改善に活かし、リードの質を向上させる |
SLA(業務遂行の基準や対応ルール)の策定 |
例:「営業は受け取ったリードに24時間以内に初回コンタクトを行う」など、リード対応のルールを定める |
営業の初動スピードを高め、リードの鮮度を活かした商談機会を増やす |
このように、マーケティングと営業の連携フローを標準化することで、「リードを渡して終わり」「営業がフォローしないまま放置」といった課題を防ぐことができます。
また、失注したリードの取り扱いも重要です。商談に至らなかったリードをマーケティング側へ戻し、ナーチャリングを継続する仕組みを整えることで、再アプローチの機会を創出し、長期的な成果につなげることが可能になります。
こうした取り組みを通じて、マーケティングと営業が単独で成果を追うのではなく、共通のゴールを持ち、相互にフィードバックを活かしながらリードを成果へと結びつける環境を構築できます。
これらの3つのステップを実行することで、マーケティングと営業がバラバラに動くのではなく、一つの流れとして連携できるようになります。
特に、セールスベロシティの視点から考えると、商談までのプロセスを最適化することが成約率の向上につながります。適切なリードを適切なタイミングで営業に引き渡し、スムーズにフォローできる環境を整えることで、効率的に商談化させることができるのです。
つまり、マーケティングと営業の分断を解消し、組織全体でセールスベロシティを高めることが、最終的に売上の最大化へとつながるでしょう。
まとめ:セールスベロシティを軸に「成果の出る仕組み」をつくる
本シリーズでは、セールスベロシティを軸に、営業プロセスの「効率化」と「成果最大化」を実現するためのアプローチを解説してきました。
ポイントは、単にリードを増やすことではなく、無駄なく・確実に商談・成約へとつなげる流れをどう整えるか。
そのためには、マーケティングと営業が連携し、データやKPI、プロセスを共通化していくことが不可欠です。
セールスベロシティは、そうした部門横断の非効率を“見える化”し、改善の道筋を示す指標です。この指標を活用しながら組織全体で動ける仕組みを整えることが、最終的に売上の最大化につながっていくでしょう。
本シリーズを通じて、その重要性と実践方法を理解し、貴社のマーケティング・営業プロセスに活かしていただければ幸いです。
▼「セールスベロシティ」シリーズ
