前回の記事では、マーケティングがコストと見なされてしまう背景には、「成果を語れない」という構造的な問題があることを解説しました。
その状況を変えるために必要なのが、「ROI=投資対効果」という視点です。
とはいえ、「ROIを見ましょう」と言われても、何をどう整えればよいのか、実務ではすぐに答えが出せないことも多いはず。
そこで今回は、ROIを語るための“準備”として重要なKPI設計の考え方を、わかりやすく整理していきます。
目次
TABLE OF CONTENTS
この記事を読んで得られること:
- ROIを語るのに欠かせない“逆算思考”とKPI設計が理解できる
- KPIの定義を再確認し、自社の指標を見直すヒントが得られる
- 今すぐ実践できるKPI設計の“初期ステップ”がわかる
営業は「成果から逆算」で動いている
ROIを語るには、最終的な成果から逆算して目標や行動を組み立てる視点が欠かせません。
まずは、目標に向かって逆算で設計されている部門の代表例として、営業の考え方を参考にしてみましょう。
営業部門であれば、「目標から逆算して行動を決める」のはごく当たり前の考え方です。
たとえば、新規営業のアウトバウンド施策において、目標受注金額を仮に300万円とすると、以下のように逆算することができます。
- 「受注金額の目標が300万円。受注単価が50万円だから、6件の受注が必要」
- 「受注率が33%だから、18件の商談が必要」
- 「商談化率が40%だから、45件のアポイントが必要」
- 「アポイント化率が0.66%だから、6,750件の架電が必要」
- 「つまり、300万円の受注をするには、まず6,750件の架電から始める必要がある」
このように、最終成果から逆算して必要なアクションを設計するのが基本です。
この考え方があれば、
「今月はあと〇件商談をつくる必要がある」
「新規リード獲得のペースが足りていない」
といった現状把握と対応が可能になります。では、マーケティングはどうでしょうか?
マーケティングは「逆算のロジック」が抜けがち
一方で、マーケティングではこうした逆算のロジックが設計されていないケースが少なくありません。
たとえば、「ホワイトペーパーのDL数」「ウェビナー申し込み数」など活動実績の数字は追っているものの、それが「どんな成果につながっているのか」「どこまで成果に近づいたのか」が明確にされていない…そんな状況に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
これでは、「今月のDL数は30件です」と報告しても、営業や経営からは
「で、それは売上にどうつながるの?」という問いが返ってきてしまいます。
▼マーケティング責任者と経営陣の会話例
行動を可視化しても、成果との関係が見えなければ、評価されにくいのです。
ここで重要になるのが、「ファネル」の考え方です。
商談や受注といった最終成果から逆算して、リード獲得やナーチャリング(リード育成)、コンテンツ配信といった各施策がどの地点を担っているのかを見える化することで、マーケティング活動に明確な“役割”が生まれます。
成果から逆算する「ファネル設計」の視点
ファネルとは、一定の歩留まりを考慮しながら、徐々にステージが転換していく様を「漏斗(ろうと)」の形状で視覚化するフレームワークのことです。
これをBtoBの実務レベルで見ていくと、以下のようなステージにセグメントできます。
このようにファネルを使ってステージごとの見込み顧客の状態を定義できれば、「今どの段階にどのくらい見込み顧客がいるのか」「どの段階に注力すべきなのか」が見えてきます。
そして、この各ステージでの取り組みや成果を捉えるために役立つのが、マーケティングの効果を“可視化”するための指標、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の設計です。
ファネルで見えてくる“活動KPI”と“成果KPI”
KPIとは、「最終的に目指すゴールに対して、どこまで進んでいるか」を数値で把握するための指標です。
あくまでも成果に向かう“途中経過”を測るものであり、目標達成までの道のりを可視化する役割を果たします。
▶関連記事:KGI・KPIとは?分かりやすい設定方法と運用のコツ
マーケティング活動を評価するKPIには、先行指標である「活動KPI(何をどれだけやったか)」と、遅行指標の「成果KPI(どんな成果が出たか)」という、2つの視点があります。
項目 |
活動KPI |
成果KPI |
定義 |
施策ごとの「どれだけ実施したか」「どれだけ反応があったか」を示す指標 |
その施策が最終的に「どれだけ成果を生み出したか」を示す指標 |
具体例 |
・メルマガ配信数 ・ホワイトペーパーDL数 ・ウェビナー申込数 |
・MQL(マーケティングリード)創出数 ・商談化率 ・受注数 |
活動KPIは、各施策がどのくらい実施され、どのくらい反応があったかを可視化するための指標です。
一方で、成果KPIは「その施策が成果にどうつながったか」を判断するための指標であり、ROIの文脈ではこちらの設計が欠かせません。
日々の業務では、どうしても活動KPIばかりを追いがちですが、ROIを語るには「施策と成果がどうつながっているか」を見える形にしておく必要があります。
活動と成果をつなぐKPI設計
成果KPIの達成は、単体の施策ではなく、いくつかの施策が段階的に機能することで実現されます。たとえば、以下のような形です。
- ホワイトペーパーのDL(活動KPI)によってMQLが創出(成果KPI)
- MQLに対してメールを通じてリード育成=ナーチャリング(活動KPI)を行い
- 結果として商談につながる(成果KPI)
ROIを正しく語るには、それぞれのKPIが「どのような成果に向けたプロセス上にあるのか」を理解し、「どの活動が、どの成果に、どのように貢献しているのか」という流れ全体を意識することが重要です。
▶関連記事:KPIツリーとは?目標達成のための作成方法と活用事例を詳しく解説
今すぐできるアクション
ここまで読んで、「たしかに成果に結びつくKPI設計が必要だ」と感じた方も多いのではないでしょうか。とはいえ、すぐに完璧なKPI設計を行うのは難しいものです。
そこでまずは、以下のステップから始めてみましょう。
- 自社のマーケティングファネルを図にしてみる
「リード獲得→MQL→SQL→商談→受注」といったステージごとの流れを可視化して、ボトルネックがどこにあるのかを確認してみましょう。 - 手元にあるKPIを棚卸しする
現在追っている数値が、「活動KPI」なのか「成果KPI」なのかを整理したうえで、それぞれがどのステージに対応しているのかを見てみましょう。 - 活動KPIと成果KPIをつなぐ仮説を立てる
たとえば「ホワイトペーパーDL→ナーチャリング(リード育成)→MQL創出」というように、「この施策がこの成果につながるはず」という関係性を仮でよいので可視化しておくと、ROIの議論がしやすくなります。
このように、まずは小さな「見える化」から始めてみましょう。KPIの全体像を把握することが、ROIを語る上での第一歩です。
まとめ
ROIを語るには、成果から逆算した設計が欠かせません。
そのためには、単に「どの数字を追うか」ではなく、活動と成果をどうつなぐかという視点でKPIを設計していく必要があります。
ファネルで流れを整理し、「どの施策が、どの成果にどうつながるのか」を可視化すること。その積み重ねが、「マーケティング=コスト」ではなく「マーケティング=投資」として語れる状態をつくる鍵となります。
ROIを“語る”下準備が整ったら、次に必要なのはその“伝え方”です。
どんな数字を、どのように示せば、営業や経営の理解と協力を得られるのか?
次回、シリーズ最終回となる「社内を動かす“数字の伝え方”」では、マーケティングを「投資」として社内に浸透させるための「共通認識の作り方」をわかりやすく解説します。
▼「マーケティングはコストじゃない」シリーズ(全3記事)
