本シリーズは、第1回で「マーケティングは投資である」という視点の重要性を取り上げ、第2回では、「ROIを語るために必要なKPI設計の考え方」を整理しました。
最終回となる今回は、「マーケティングの価値をどう社内に伝えるか」にフォーカス。
どれだけ丁寧にKPIを設計しても、その意味や価値を正しく共有できなければ、マーケティングは「意味のない活動」と見なされかねません。
マーケティングを“投資”として捉えてもらうためには、その成果をわかりやすく、納得感のある形で社内に共有することが不可欠です。
本記事では、社内の理解と協力を得るために「数字をどう伝えるか」に焦点を当て、実務に活かせるヒントをご紹介します。
目次
TABLE OF CONTENTS
この記事を読んで得られること:
- マーケティングの価値を伝えるのに役立つ“3つの視点”がわかる
- 他部門にKPIを「納得感を持って伝える」方法が理解できる
- 社内会議や報告資料ですぐに使える“伝え方の工夫”が見つかる
押さえておきたい3つの視点
これまで、「マーケティングは投資である」という視点を持ち、ROIを語るためにKPIをどう設計すべきかを整理してきました。
つまり、マーケティングの“価値”を説明するための材料は揃ってきたと言えます。
しかし、その価値を「正しく伝える」ことを疎かにしてしまうと、社内の理解や協力は得られません。マーケティングが「よくわからない活動」「成果に結びつかない活動」と見なされてしまうのを防ぐには、伝え方の設計も欠かせないのです。
ここで重要なのが、以下の3つのステップです。
- 相手と“共通目標”でつながる
- 経営や営業の関心軸で示す
- 数字を「ストーリー」で語る
この3つを押さえることで、マーケティングの取り組みは「戦略的な投資」として社内に浸透しやすくなります。
それぞれの具体的なポイントを見ていきましょう。
1. 相手と“共通目標”でつながる
たとえば、「今月はホワイトペーパーが30件DLされました」と伝えるだけでは、「で、それは売上にどうつながったの?」という反応で終わってしまいます。
第2回で解説したとおり、これは“活動KPI”だけに焦点を当てており、その先の成果にどうつながっているかが見えていない状態。活動と成果のつながりが整理されていなければ、数字をいくら示しても納得感にはつながらず、マーケティングの価値が伝わりません。
しかし、「このMQLのうち〇〇件が営業に引き渡され、商談化率は〇〇%。つまり、今月の施策が全体の商談創出数にこれだけ貢献しました」と語れば、営業や経営と“同じゴール”を見ていることが伝わり、成果への貢献も明確になります。
そのためには、
- KPIを営業や経営の視点と接続しておく
- 全体の売上・商談・利益といった成果指標から逆算した施策設計にする
- セールスベロシティなど「部門をまたぐ視点」で、売上プロセス全体を俯瞰する
といった準備が欠かせません。
マーケティングを孤立した活動にしないためには、「何をもって成果とするか」という共通認識を他部門とつくり、共通の“言葉”と“視点”で語れる関係性を築くことが重要なのです。
▼セールスベロシティについて詳しく知りたい方へ
関連記事:セールスベロシティ①|リードが商談につながらないのはなぜ?
関連資料:セールスベロシティ入門
2. 経営や営業の関心軸で示す
共通言語での接続ができても、相手の関心ごとに合わせた“伝え方”ができていなければ、マーケティングの価値は十分に伝わりません。
たとえば、経営層が知りたいのは「それがどれだけ売上や利益に貢献したのか」。営業部門が気にするのは「商談の数や質がどう変化したのか」。
こうした関心ごとは、マーケティング部門で使われる指標(DL数やMQL数など)とはズレていることが多いのです。
だからこそ重要なのが、KPIを「相手の言葉に翻訳して伝える」こと。
たとえば、
- Before:「今回の施策でMQLが30件創出されました」
- After(経営層向け):「商談化率・受注率ベースで見ると、今回の施策から〇件、〇〇百万円の受注が見込めます。短期的なROIは〇〇〇になりそうです。」
- After(営業向け)「この30件のうち、すぐに商談化できそうなものが〇件あります。すこし時間はかかりますが、さらに〇件の商談につながりそうです。」
- Before:「新規ホワイトペーパーが50件ダウンロードされました」
- After(経営層向け):「今回のホワイトペーパー施策で約50万円の受注が見込めそうです。ホワイトペーパーの制作費は5万円だったので、ROIは10.0です。」
- After(営業向け):DLからの商談化率がこれまで10%だったので、今月は5件の新規商談が見込めます。受注率が20%受注単価をは50万円くらいなので、50万円ほどの受注になりそうですね
このように、「どの成果が、どの数字につながるのか」「それが誰にどんな価値をもたらすのか」を相手の関心領域に落とし込んで伝えることで、マーケティングの役割や意義が“自分ゴト”として受け取られやすくなります。
3. 数字を「ストーリー」で語る
どれだけ正確な数字を示しても、それが“どう変化したのか”“なぜそうなったのか”が語られなければ、聞き手の納得にはつながりません。
マーケティングの価値を伝えるうえで重要なのは、「数字に至るまでの流れ」や「そこから得られた学び」まで含めて共有することです。
たとえば、
Before:「ホワイトペーパー施策の成果が改善しました」
After:「前回はDL後のフォローが遅れたため商談化が低迷しましたが、今回は営業部門との連携を強化し、3営業日以内に電話フォローを徹底。結果、商談化数が2件→6件に伸びました」
Before:「展示会での名刺獲得数は500件でした」
After:「前回の展示会での反省点を活かし、ブースの展示物とアフターフォローのメッセージを統一し、来場者の記憶に残りやすい工夫をしたことで、展示会後の商談数は約2倍になりました。
このように、ただの「結果」だけではなく、「背景→アクション→成果」という流れで伝えることで、マーケティング施策の意味や価値がより伝わりやすくなります。
数値を単に並べるだけでは、「結果がどうだったか」の報告にとどまり、なぜその数字になったのか、何が良かったのか/悪かったのかが伝わりません。
一方で、その数字に至るまでの背景や工夫、そこから得られた学びや今後の示唆までを一貫したストーリーとして語ることで、「なぜそれが価値ある結果なのか」が伝わりやすくなります。
こうした“意味のある結果”としての伝え方ができれば、施策の意図が共有され、社内の理解や納得が得られやすくなるだけでなく、次のアクションの判断材料としても機能します。
今すぐできるアクション
ここまでの内容を読んで、「なるほど、伝え方って大事なんだな」と感じた方も多いかもしれません。とはいえ、いきなり社内のあらゆる報告を変えるのは難しいもの。まずは、以下のような“小さな一歩”から始めてみてはいかがでしょうか。
- 活動と成果の“つながり”を一文で語れるようにする
→ 「DL数が30件」ではなく、「DLから3件の商談につながり、1件の受注が生まれた」といった“流れ”を伝える習慣をつけてみましょう。 - KPIを「誰に向けて伝える数字なのか」で整理してみる
→ その数字は経営層に?営業部門に?伝えるべき相手とその関心ごとを意識して、KPIを見直してみましょう。 - 1つの数字に“背景”と“学び”を添える
→ たとえば「商談数が倍増した」の裏に、「新たなフォロー体制を組んだ結果」というエピソードを添えるだけでも、伝わり方は大きく変わります。
まずは次回の報告や定例会議などで、1つでも実践してみること。それが、マーケティングの価値を伝える第一歩です。
まとめ
全3回にわたってお届けしてきた本シリーズでは、「マーケティングはコストではなく、戦略的な投資である」という視点を軸に、 「ROIという視点を持つこと」、そして「そのROIを語るためのKPI設計と社内への伝え方」がいかに重要かを整理してきました。
単に「数字を整える」だけでは、マーケティングは評価されません。
大切なのは、成果から逆算して活動を設計し、その因果を自ら語る力を持つこと、
そして、部門を超えて共通のゴールを見据え、マーケティングが「売上にどう貢献したか」を自分たちの言葉で伝えていくことです。
マーケティングの価値は、正しく設計され、正しく語られて、はじめて伝わるものです。
「なんとなくやっている活動」から、「成果に向けた投資」としてのマーケティングへ。
その一歩を、あなたのチームからぜひ踏み出してください。
▼「マーケティングはコストじゃない」シリーズ(全3記事)
