前回の記事では、組織の非連携がもたらす構造的なズレ、そしてそれを解消するアプローチとしてのRevOps(レベニューオペレーション)の効果について具体的に紹介しました。
では実際、自社でRevOpsを導入するには、どう取り組めばいいのでしょうか?
今回は、RevOpsを「これから始めたい」と考えている方に向けて、最初の一歩として取り組める“スモールステップ”をご紹介します。大がかりな仕組みの導入ではなく、今日からでも始められる具体的な見直しを中心に見ていきましょう。
目次
TABLE OF CONTENTS
この記事を読んで得られること
- 中小企業こそRevOpsに取り組むべき理由がわかる
- 現場ですぐに実践できる「4つの小さな見直し」がわかる
- まず一歩を踏み出すための具体的なヒントが得られる
RevOpsは“大企業だけの話”じゃない
前回の記事で見てきたように、富士通やソフトバンクなど、日本国内でも業界をリードする大手企業が続々とRevOpsの導入に乗り出し、専任チームを立ち上げ、全社の業務基盤を再設計しています。
こうした人的・金銭的なリソースありきの話を聞くと、「うちのような中小企業では難しそう…」と思われるかもしれません。
しかし、RevOpsの本質は「売上を生む部門同士の連携を高め、組織としての再現性ある成果を目指すこと」。この考え方自体は、企業の規模にかかわらず、あらゆる組織で効果を発揮します。
むしろ、リソースが限られた中小企業だからこそ、部門間の連携不足による“売上の取りこぼし”は致命的。だからこそ、いきなり完璧な体制を目指す必要はありません。まずはできる範囲の“小さな見直し”から始めることに、大きな意味があるのです。
今日からできる、4つの「小さな見直し」
では実際に、どこから手をつければいいのでしょうか?
専任チームや大きな予算がなくても、いまの体制のままで始められることはたくさんあります。
まずは、次の4つの「見直しポイント」から着手するのがオススメです。
- ①業務と役割の“棚卸し”をする
- ②小さな情報連携から始める
- ③共通KPIをひとつだけ決める
- ④CRMを使いやすく整える
ここからは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
①業務と役割の“棚卸し”をする
最初に取り組みたいのが、「いま自分たちは何を目的に、どのようなプロセスで業務を進めているのか?」を整理すること。
意外と見落とされがちですが、業務フローや役割分担、使っているツールやKPIを言語化・可視化するだけでも、多くの発見があります。
たとえば:
- 各部門でどんなKPIを追っているのか
- 顧客情報はどこで、誰が、どうやって管理しているのか
- 情報共有はいつ、どういう手段で、どこまでされているのか(そもそもされているのか、いないのか)
こうした“現状の見える化”によって、
「ここの情報が引き継がれていないな」
「このプロセス、二重でやっているのでは?」
といった、分断や非効率の“ほころび”が浮かび上がってきます。
特別な分析ツールや仕組みは必要ありません。
はじめの第一歩としては、メンバー同士で話し合いながら、簡単な業務フローを書き出してみるだけでも十分です。
②小さな情報連携から始める
次に着手しやすいのが、部門間の「情報の引き継ぎ」を意識的に行うことです。
ツール導入や統合といった大掛かりな対応ではなくても、まずは次の担当部門が“次の動き”を取りやすくなるような情報を、要点を押さえて共有するだけでも十分な効果があります。
たとえば、
- マーケティングが獲得したリードに対し、「閲覧していた資料」や「関心を示していたテーマ」を添えて営業に引き継ぐ
- 営業が商談中に得た顧客の懸念点や背景情報を、契約後に対応を担うCSへ共有する
- CSが日々のサポート対応で得た改善要望や成功パターンを、月次ミーティングでマーケティングにフィードバックする
このように、「次に動く人」や「その情報を活かせる部門」に向けて、情報を整理して渡すだけでも、連携の質は大きく変わります。この“引き継ぎの習慣”が根付けば、やがてそれが仕組みとなり、自然な連携体制へと進化していくのです。
③共通KPIをひとつだけ決める
さらに、「同じ成果を目指して動く」ための共通指標があると、意思決定や優先順位の共有がぐっとしやすくなります。
まずは1つだけでもいいので、部門をまたいで「共通で追える数字」を持ってみましょう。
たとえば、
- マーケティングと営業で「MQL→SQLの転換率」を共通指標にする
- 営業とCSで「オンボーディング完了後3ヶ月の継続率」を見る
- マーケティング・営業・CSの全体で「セールスベロシティ(受注までの効率性)」を共通指標にする
※MQL=Marketing Qualified Lead:マーケティングが獲得した見込み顧客
※SQL=Sales Qualified Lead:営業がアプローチ対象として認定したリード
※セールスベロシティ:一定期間内にどれだけの売上を生み出せるのかを計算することで、営業活動全体の効率を定量的に把握する指標。▶関連資料:セールスベロシティ入門
こうした共通KPIがあると、
「商談化率を伸ばすには、マーケティングが送り出すリードの“質”も問われるよね」
「CSが継続率を上げやすくするには、営業の提案の質も見直す必要があるかも」
といったように、“自分たちの数字の裏には他部門の動きがある”という視点が芽生えます。
結果として、お互いの業務に対する理解や連携意識が自然と高まっていくのです。
④顧客管理システムを“使いやすく”整える
顧客情報を一元管理する顧客管理システム(CRM)は、部門間連携の土台になる重要な仕組みです。ただ、実際の現場ではCRM・SFA(営業支援ツール)・MA(マーケティングオートメーション)といったツールの役割が曖昧なまま、1つのツールに詰め込んでいるケースも少なくありません。
▶関連記事:SFAって本当に必要?導入のメリットと営業現場のリアルな声を紹介
また、「導入はしているけど入力ルールが不明確」「営業しか使っておらず、他部門は見てもよくわからない」といった“形だけの顧客管理”にとどまっている企業も多いのが実情です。
だからこそ重要なのは、「ツールを変える」ことではなく、“いまある顧客管理システムを、いかに現場で使えるように整えるか”という視点です。
たとえば、
- 入力項目を最低限に絞り、無理なく運用できる状態にする
(例:顧客情報、ニーズや検討状況など、引き継ぎに必要な要素に絞る) - 他部門が見ても「何が参考になるか」が伝わる構成に整理する
(例:「ニーズ背景」や「温度感」など、文脈が伝わる記入欄をつくる) - 入力の負担を減らすため、テンプレート化や事例共有を行う
(例:「この項目にはこう書くと伝わりやすい」など運用ガイドを用意)
顧客管理システムは、ただのデータベースではなく、部門間の情報をつなぐ“要”です。
毎日の入力や閲覧が、他部門への気づきや行動につながるようになれば、それは強力な連携インフラへと進化していきます。
このように、いきなり完璧を目指すのではなく、「今すぐできること」からひとつずつ積み重ねることで、RevOps的な連携体制は確実に近づいていきます。
まとめ:まずは「できることから」でいい
本シリーズでは、RevOpsの考え方から始まり、組織が抱える“非連携の構造的なズレ”とその解消法、そして実際に現場で取り組める具体的なアクションまでを3回にわたって解説してきました。
RevOpsは、決まったマニュアルどおりに進めるような「正解の手順」がある取り組みではありません。完璧な仕組みづくりを目指す前に、まずは小さな情報共有から始める、ひとつだけ共通KPIを持ってみる、そんな日々の小さな“見直し”が、やがて「顧客視点でつながる組織」へと進化し、売上の“再現性”を生み出すカルチャーにつながっていきます。
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▼RevOpsシリーズ(全3記事)
