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これまで見てきた3つの事例(メールマーケティングの失敗、マーケティング部門の孤立化、SEO施策の誤算)は、一見すると異なる問題に見えます。しかし、その根底には共通する要因が存在します。今回は、これらの共通要因を深く掘り下げ、その解決の方向性を探っていきましょう。
失敗の根底にある5つの要因
BtoBマーケティング失敗に共通する要因を深堀りしてみると、以下の5つに集約されます。
- コンテンツの質と適合性の欠如
- 測定と分析の不足
- 戦略的アプローチの欠如
- 組織的な課題
- 顧客理解の不足
それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
1. コンテンツの質と適合性:顧客価値の創造ができていない
多くの企業で見られるのが、コンテンツの質と適合性の問題です。特に以下のような傾向が目立ちます。
- 製品スペックの説明に終始するコンテンツ
- 購買ステージを考慮しない情報提供
- 顧客の課題解決に結びつかない情報発信
これでは、ターゲットとなる顧客にとって有益な情報が提供されず、興味を引くことができません。結果として、リード獲得や商談につながらず、マーケティング施策の成果が限定的になってしまいます。コンテンツは単なる情報発信ではなく、顧客の課題を解決し、購買意思決定を後押しするものであるべきです。購買ステージに応じた適切な情報提供を意識することで、マーケティングの成果を最大化することが可能になります。
2. 測定と分析の不足:ROIが示せないマーケティングの悪循環
BtoBマーケティングでは、購入までの検討期間が長く、また複数の接点を経て受注に至るため、施策の貢献度を可視化しにくいという課題があります。
この「ROIを示せていないこと」が、マーケティング部門の立場を弱体化させる悪循環を生んでいます。
- 効果測定が不十分なため、マーケティング部門が過小評価される
- 過小評価された結果、予算獲得が困難に
- 予算不足によりリソース不足が発生
- 戦略的な役割を果たせず、コストセンターから脱却できない
この悪循環を断ち切るには、 ROIを正しく測定し、施策の評価を可視化することが不可欠です。
BtoBマーケティングにおいても、正しい手順でROIを測定すれば、施策の貢献度を可視化できます。ROIの計算方法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ROIを計算し、以下のような環境を整えることで、マーケティングの価値を定量的に証明し、組織内での立場を強化することが可能になります。
- 施策ごとのROIを試算する → どの施策がリード獲得や商談創出に貢献したかを事前に予測
- 実施後の効果を測定する → MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援ツール)と連携し、貢献度を分析
- データをもとに次の施策へ反映する → KPIを基に改善策を講じ、PDCAを回す
結果として、適切なリソース配分が実現し、より戦略的なマーケティングが展開できるようになるのです。
3. 戦略的アプローチの欠如:場当たり的な施策の限界
「MAを導入したから」「コロナ禍で展示会ができないから」といった場当たり的な理由でB2Bマーケティングを始める企業は少なくありません。しかし、こうした状況に応じた短期的な施策ばかりを繰り返していては、持続的な成果にはつながらないのです。
B社の事例では、事業部依存の予算体制により、マーケティング部門が独自の戦略を立てることができず、短期的な施策に振り回されていました。このような状態では、効果の積み上げができず、マーケティングの本来の役割である「市場を開拓し、事業成長を支える仕組みをつくること」が果たせません。
短期的な施策の積み上げではなく、長期視点でのマーケティング戦略を確立することが、持続的な成果につながる鍵となります。
4. 組織的な課題:部門間の壁を超えられない
B2Bマーケティングの成功には、組織全体での取り組みが不可欠です。しかし、多くの企業では以下のような組織的な課題が存在します。
- マーケティング部門の孤立化
- 営業部門との連携不足
- 事業部との調整の困難さ
B社の事例では、マーケティング部門が事業部の販促支援にとどまり、戦略的な施策を打ち出せないという問題が顕在化していました。予算・権限が事業部に依存し、施策ごとに承認を得なければならず、マーケティングの専門性を発揮できる環境が整っていなかったのです。
これらの問題は、単なるコミュニケーション不足の解消ではなく、組織構造にまで踏み込んだ解決が必要です。
5. 顧客理解の不足:売り込み型のコミュニケーションの問題
失敗の要因を掘り下げてみると、多くの企業で見られる最も根本的な問題は、顧客理解の不足です。特に製造業など技術系の企業では、製品性能や技術的特徴に注目するあまり、顧客の実際の課題やニーズを見失いがちです。
例えば、A社の事例では、業種を考慮しないメール配信を行っていました。これは単なるセグメンテーションの問題だけではなく、「顧客が何を求めているのか」という本質的な理解が欠如していたことを示しています。
顧客理解の不足は以下のような形で表面化します。
- コンテンツが「売り込み」ばかりになってしまう
製品やソリューションにフォーカスしすぎるあまり、配信するメルマガは機能紹介ばかり、ウェビナーは「当社製品なら解決できます」の連発になってしまう。結果として、顧客は「また営業か」と思い、情報を受け取る意欲を失ってしまう。 - 一方的な情報発信で関心を引けない
顧客が抱える課題や業界の変化に目を向けず、製品のスペックや導入事例だけを伝えても、ターゲットの関心を引くことはできない。「なぜこの技術が自分のビジネスに役立つのか?」という視点が欠けているため、顧客が自社の課題と結びつけることができない。 - リードが育たず、刈り取り型の施策に依存する
「問い合わせが来ないなら、より強く売り込もう」と短期的な成果を求めるあまり、リードナーチャリングの視点が欠け、結局のところ受注直前のホットリードしか追えなくなる。結果として、刈り取り施策に依存し続け、長期的な成長戦略が描けなくなる。
このような状況では、マーケティング施策が一時的に成果を上げたとしても、顧客との関係は長続きせず、結局はリードの枯渇を招いてしまいます。顧客にとって有益な情報を提供し、信頼を築くコンテンツ設計こそが、持続的なリード獲得につながるのです。
BtoBマーケティングが「伸び悩む」理由
ここまで見てきた5つの要因は、一見すると施策レベルの問題のように見えます。しかし、それらの根本には 「マーケティングが事業成長のための戦略的な機能として確立されていない」 という構造的な課題が横たわっています。
例えば、
- コンテンツの質や適合性が低い → 施策として展開しても顧客に響かず、商談や売上につながらない
- 測定と分析が不足している → 施策の効果が可視化されず、ROIを示せないため、社内での評価が低下
- 戦略的アプローチが欠如している → 場当たり的な施策が増え、長期的な成長につながらない
- 組織的な課題がある → マーケティング部門が孤立し、事業部や営業との連携が取れず、機能が分断される
- 顧客理解が足りない → 売り込み型の施策ばかりになり、リードの育成や関係構築が進まない
これらの問題が積み重なった結果、 「せっかく施策を実行しても、売上に結びつかない」 という「伸び悩み」状態に陥ってしまうのです。
この状態を放置すれば、
「施策のROIが示せない → 予算・リソースの削減 → さらに成果が出せない」
という悪循環に陥り、最終的にマーケティングが単なる販促活動の延長に留まってしまいます。
では、どうすればこの「伸び悩み」から脱却し、マーケティングを事業成長の推進力へと変えることができるのでしょうか?
「伸び悩み」解消のために取るべきアクション
BtoBマーケティングを成功に導くためには、 目指すべき「あるべき姿」を明確にし、現状とのギャップを可視化した上で、具体的な戦略立案・実行計画を策定することが重要です。
そのために、まず以下の3つの視点で 現状を棚卸しし、課題を特定することが重要です。
(1) 現状の分析
現時点でのマーケティング活動を以下の視点で客観的に評価します。
① リード獲得と育成の状況
- 獲得したリードが 商談・受注につながる仕組みになっているか?
- MQL(マーケティングリード)とSQL(営業リード)の 移行率が適切か?
- 既存のリードナーチャリング施策が 機能しているか? あるいは形骸化していないか?
② 施策ごとのROIと効果測定
- 各マーケティング施策が 商談・受注にどの程度貢献しているか?
- 開封率やクリック率といった表面的な指標だけでなく、 売上への影響が測定できているか?
- 成果指標(KPI)は 短期的なものだけでなく、中長期の成長につながるものが設定されているか?
③ 組織・予算の最適化状況
- マーケティング部門の 意思決定権はどこにあるのか?
- 予算は 適切に配分され、戦略的な投資ができているか?
- 営業や経営層と 十分に連携し、マーケティングの役割が明確になっているか?
(2) あるべき姿を明確にするためのヒント
現状の課題が明らかになったら、次に 自社にとっての「あるべきマーケティングの姿」 を定義する必要があります。ただし、これを 自社だけで考えようとすると、内製の視点に縛られ、過去の延長線上の施策から抜け出せなくなることも多いものです。そのため、以下のようなアプローチが有効です。
- 市場動向や競合の事例を分析し、自社に適した戦略を検討する
- 外部の専門家やパートナー企業の知見を活用し、最新のマーケティング手法を取り入れる
- 営業・経営層と定期的にディスカッションし、ビジネス戦略とマーケティング戦略の整合性を確認する
こうしたプロセスを通じて、 場当たり的な施策ではなく、企業の成長を支える戦略的なマーケティングの方向性を明確にする ことができます。
(3) 戦略立案・実行計画の策定
「あるべき姿」と現状のギャップを特定したら、次に 戦略を立案し、実行計画を策定 します。
- ギャップを埋めるために、どの領域を重点的に改善すべきかを優先順位づけする
- KPIを設定し、進捗を測定できる仕組みを構築する
- PDCAサイクルを回しながら、戦略の修正と最適化を継続的に行う
このように、 現状の可視化 → 課題の特定 → あるべき姿の明確化 → 戦略立案・実行計画の策定 というプロセスを踏むことで、 内製の罠に陥ることなく、客観的な視点を取り入れたマーケティング戦略 を構築できるようになります。
まとめ:BtoBマーケティングの「伸び悩み」を突破するために
本シリーズで述べてきたように、BtoBマーケティングの「伸び悩み」の本質は、 ROIの可視化不足・戦略の欠如・組織的な課題など、共通の構造的要因にあります。
これらを放置すると、場当たり的な施策に終始し、マーケティングが事業成長に貢献できないばかりか、単なる販促活動に留まってしまいます。その結果、
「ROIが測れない → 経営層からの評価が低い → 予算・リソースが削減される → さらにROIが示せなくなる」 という悪循環に陥ってしまうのです。
この流れを断ち切り、 マーケティングを「コストセンター」から「事業成長の中核」へ進化させるためには、単発の施策ではなく、 戦略的なアプローチの確立が不可欠です。そのためには、マーケティング部門単独での取り組みではなく、営業や経営層を含めた組織全体での連携と取り組みが求められます。マーケティングの役割を明確にし、データ活用を軸に意思決定を行うことで、部門間の壁を超えた成長戦略を実現することができるのです。
- 現状の棚卸しにより、課題を明確化する
- 戦略の再定義によって、場当たり的な施策から脱却する
- 実行計画を策定し、PDCAを回しながら持続的な改善を行う
このプロセスを進めることで、 マーケティングを事業成長の推進力へと変えていくことができるはずです。
今こそ、マーケティングの役割を再定義し、 持続的な成長につながる取り組みを始めるタイミングではないでしょうか。
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