Skip to content
宗像 淳 / イノーバCEO2025/01/09 10:26:521 min read

失敗事例から学ぶ④|SEO施策の誤算

目次

▶前回の記事を読む

「SEO施策を外注したものの、流入は増えても問い合わせが増えない」

 「自社のビジネスにはSEOは合わないのではないか」

これは、あるモバイル関連のベンチャー企業C社のマーケティング担当者から聞かれた言葉です。SEO施策への投資は確かに検索流入を増やしましたが、肝心の商談機会には結びつきませんでした。なぜ、このような結果になってしまったのでしょうか。

 

ザ・モデル型ベンチャーの挑戦

C社は、企業向けのモバイルソリューションを提供するベンチャー企業です。「ザ・モデル」と呼ばれる営業スタイルを採用し、以下のような体制を整えていました。

  • マーケティングによるリード獲得
  • インサイドセールスによる見込み客の選定
  • フィールドセールスによるクロージング

このリード獲得を強化する目的で、SEO施策に取り組むことになりました。SEO会社に施策を外注し、以下のような取り組みを実施しています。

  • 定期的なコラム記事の執筆・公開
  • キーワード選定とコンテンツ最適化
  • 内部対策の実施

表面化した問題:流入増が成果につながらない

結果として、サイトへの流入数は確かに増加しました。しかし、以下のような問題が表面化してきました。

  • アクセス数は増えても問い合わせにつながらない
  • 獲得できたリードの質が低い
  • コストに見合う効果が得られない

なぜ流入が成果に結びつかなかったのか

1. BtoBとBtoCの混在問題

C社の事例で最も顕著だったのは、ターゲットとするキーワードの選定における問題でした。モバイル関連という事業領域の特性上、以下の2つの文脈が混在していました。

  • BtoB:企業向けのモバイルマーケティングソリューション
  • BtoC:一般消費者向けのスマートフォン関連情報

これは一見、幅広い層へのアプローチが可能になるように思えます。しかし、現実にはいくつかの深刻な問題を引き起こしました。

まず、消費者向けキーワードの検索ボリュームが圧倒的に多いため、SEO会社からBtoB向けキーワードの優先度が下げられてしまいました。結果として、ビジネス層ではなく一般消費者の流入が増加する事態となりました。

これにより、C社のサイトには本来のターゲットである企業担当者ではなく、一般消費者が多く訪れる結果となりました。流入数自体は増加したものの、リード獲得や商談にはつながらず、マーケティングROIの低下を招きました。つまり、適切なターゲティングがなされなければ、どれだけトラフィックを増やしてもビジネス成果には直結しないのです。この事例は、単なる集客ではなく、質の高いリードを獲得するための戦略的なSEO施策の重要性を示しています。

 

2. SEO会社との協業における構造的な問題

さらに、SEO会社との協業においても、以下のような重要な課題が存在しました。

コミュニケーションギャップ

  • BtoBビジネスの特性(商談サイクルの長さ、意思決定者の複数性、業界特有の商習慣)が十分に伝わっていない
  • SEO会社側のBtoB経験の不足により、BtoC向けSEOの成功体験が逆効果となる
    • BtoCでは検索ボリュームの大きいキーワードを狙う手法が有効だが、BtoBでは購買意欲の高い特定層へのリーチが重要。そのため、BtoC的なトラフィック重視の施策では関係のない流入が増え、コンバージョンにつながらない。

 

不適切なKPI設定

  • 流入数という表層的な指標のみに注目
  • 正しいターゲット層からの流入かどうかの判断基準がない
  • 問い合わせやリード獲得までの導線設計が不十分

このようなKPIの設定では、一見成果が出ているように見えても、実際にはビジネス成果に結びつかない可能性が高くなります。流入数の増加だけではなく、ターゲット層の質や商談・受注への貢献度まで考慮した指標を設定することが重要なのです。

 

コンテンツ制作の課題:知見不足のライターによる品質低下

加えて、SEO施策の一環として外注されたコンテンツ制作にも問題がありました。業界特有の知識を持たないウェブライターが執筆を担当したため、以下のような課題が発生しました。

  • 専門的な視点の欠如
    企業担当者の意思決定に必要な深い洞察が不足し、表面的な情報にとどまっていた。
  • 業界特有の表現・課題の理解不足
    専門用語や業界特有のニーズを適切に反映できず、ターゲット層に響くコンテンツにならなかった。

結果として記事の質が不十分なため、C社のマーケティングチームは記事公開後のリライト対応に追われることになってしまいました。外注費用が無駄になっただけでなく、SEO施策の戦略的な最適化やリードナーチャリングといった本来の業務に十分な時間を割くことができなくなってしまったのです。

この問題は、単にSEO会社との連携不足に起因するものではなく、外部のライターにコンテンツ制作を依頼する際の管理体制が不十分だったことを示しています。BtoB領域のSEO施策では、検索順位の向上だけでなく、ターゲットとなる企業の意思決定者に「有益で信頼できる情報」を届けることが不可欠です。そのため、コンテンツ制作においては、業界知識を持つ執筆者の確保や、専門家による監修、社内のフィードバックプロセスの確立など、品質を担保するための仕組みを整えることが求められます。

 

3. より本質的な戦略的課題

さらに深刻だったのは、市場アプローチに関する戦略的な問題です。

モバイルマーケティングという比較的新しい市場において、確立された検索需要がまだ限定的でした。顧客の課題認識自体が未成熟な段階で、競合他社も同様に市場開拓の段階にあったのです。

このような状況下では、既存需要の取り込みに注力するのではなく、「市場を作る」という視点が重要でした。しかし、啓蒙的なコンテンツが不足し、新しい価値提案の機会を逃す結果となってしまいました。

BtoB向けSEO戦略の再構築に向けて

C社の事例から、BtoBにおけるSEO戦略は、BtoCとは全く異なるアプローチが必要であることが分かります。

1. コンテンツ設計とSEO施策の再構築

より専門性の高いキーワードでの検索に対応できるコンテンツ設計が求められます。意思決定に役立つ深い知見を提供するため、以下のような要素を組み合わせていく必要があるのです。

  • 具体的な課題解決事例
  • 業界エキスパートの知見
  • 技術的な詳細の解説

また、SEO施策を外部パートナーと進める場合、BtoB特有のマーケティング要素を正しく理解した上での協業が不可欠です。特に、以下のような視点をSEO会社と共有し、戦略的な調整を行う必要があります。

  • BtoBとBtoCの検索行動の違いを明確にする
  • KPIの設定を流入数ではなく、リードの質に重点を置く
  • コンテンツ制作において、専門知識の正確な反映を重視する

このように、SEO会社との協業を戦略的に進めることで、単なる流入増加ではなく、実際のビジネス成果につながるSEO施策へと進化させることが可能になります。

 

2. 市場創造型アプローチの確立

特に新しい市場や成長途上の領域では、既存の検索需要を獲得するだけでは不十分です。むしろ、市場自体を創造し、育てていく視点が重要になります。

  • 業界全体の課題や展望の提示
  • 新しい技術やソリューションの解説
  • 先進的な取り組み事例の紹介

こうしたアプローチを取ることで、単に既存の検索ニーズに対応するだけでなく、ターゲットとなる企業の課題認識を高め、潜在顧客層を育成することが可能になります。結果として、競合との差別化を図りながら、自社が業界内でリーダーシップを確立し、長期的な市場シェアの拡大につながるでしょう。

 

まとめ:検索流入からビジネス成果へ

C社の事例は、BtoBにおけるSEO施策の難しさと、同時にその可能性も示しています。重要なのは、単なる検索流入の増加ではなく、ビジネスのゴールに向けた戦略的なアプローチです。

特に以下の点に注意を払う必要があります。

  • BtoB特有の文脈を理解すること
  • 適切なパートナー選定と協業体制の構築
  • 市場の成熟度に応じた戦略設計

これらを踏まえた上で、改めてSEO施策を検討することで、より効果的なリード獲得が可能になるはずです。

次回、シリーズ最終回の「施策が成果に結びつかない本当の理由とその解決法」では、これまでに解説してきた3つの事例をもとに共通する課題と解決策を考えていきます。

▼失敗事例から学ぶシリーズ全5記事

失敗事例から学ぶ①|多くのBtoB企業が直面する「伸び悩み」

失敗事例から学ぶ②|メールマーケティングの失敗要因

失敗事例から学ぶ③|マーケ部門が孤立する構造的問題

失敗事例から学ぶ④|SEO施策の誤算

失敗事例から学ぶ⑤|施策が成果に結びつかない本当の理由とその解決法

avatar

宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。