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宗像 淳 / イノーバCEO2025/01/24 14:06:341 min read

生成AI × BtoBマーケ①|「課題訴求型」コンテンツの必要性

目次

多くのBtoB企業が、製品の機能や性能を前面に押し出すマーケティングの限界に直面しています。ホームページを充実させても問い合わせが増えない。メルマガやウェビナーの成果がでなくなってきているなど、コロナをきっかけにマーケティングを始めた会社の多くが、「伸び悩み」に直面しています。

▶関連記事:失敗事例から学ぶ①|多くのBtoB企業が直面する「伸び悩み」

では、なぜ、このような状況に陥っているのでしょうか?

本シリーズでは、この課題を解決するためのマーケティングアプローチの転換と、その実現においてAIをどのように活用していくべきかについて詳しく解説します。本記事では、まず前提としてマーケティングに強く求められている方向転換について深掘りしていきましょう。

 

「作って売る」から「価値を創る」へ

日本のBtoB企業には、ある特徴的な傾向があります。それは、製品の機能や性能を極限まで高めることに注力する「プロダクトアウト型」の思考です。かつて日本の製造業が世界市場を席巻した時代、この考え方は大きな強みでした。

しかし、市場が成熟し、顧客のニーズが高度化する中において、技術ありき、製品ありきで、わかりやすく売れる商品を作るのは極めて難しくなっています。顧客や市場をどれだけ理解しているのか、あるいは、顧客に「課題」や「ニーズ」を認識してもらえるよう、いかに働きかけられるかどうかが、重要な時代になってきているのです。

しかし、このような市場環境や顧客の変化にもかかわらず、多くのBtoB企業は、昔ながらの発想にとらわれてしまっています。商品が売れないのは、「認知度が足りないからだ」とか、「商品のアピールが足りてないからだ」と考えてしまっているのです。

では、あなたが買い手の立場だったらどうでしょうか?あなたに広告がたくさん表示される、広告的な売り込みのメールが飛んでくる、セミナーに出たら、商品の宣伝だけだった…こういう経験を多くしているのではないでしょうか?

コロナがきっかけで、「売り込みマーケティング」が世の中にあふれてしまい、それが効果を生まなくなってしまっているのです。そして、多くの会社が「売り込みマーケティング」から脱却できていないのです。

▶関連記事:BtoB業界の構造変化について記事を読む

実は、これらの課題の根底には、従来型のマーケティングアプローチが抱える根本的な限界があります。

これまでの「製品訴求型」マーケティング

これまでのBtoBマーケティングの主流は、自社製品の機能や性能を前面に押し出す「製品訴求型」でした。

「業界トップクラスの処理速度」

「AI搭載による高度な分析機能」

「クラウドベースで手軽に導入可能」

こうしたメッセージを、製品資料やホワイトペーパー、ウェビナーなどを通じて発信し続ける形が一般的でした。

製品訴求型マーケティングの典型的なアプローチは以下のようなものが挙げられます。

  • 製品の特長や機能を詳細に説明する製品カタログの作成
  • 自社製品の優位性を示す競合比較表の提示
  • 製品デモを中心としたウェビナーの開催
  • 機能や性能に関する優位性を強調する広告展開
  • 製品仕様に関する詳細な技術文書の公開

このアプローチは、確かに一定の成果を上げてきました。特に、すでに課題を認識し、具体的な解決策を探している顕在層に対しては効果的だったと言えます。製品の優位性を示すことで、競合との差別化を図り、受注につなげることができたのです。

「製品訴求型」マーケティングの限界

しかし、BtoBマーケティングを取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。かつては製品の機能や性能をアピールし、その優位性を示せば商談につながっていましたが、その「製品訴求型」アプローチは明らかな限界に直面しています。

その背景には、以下のような本質的な変化があります。

1.情報過多による顧客の変化
  • インターネットの発達により、顧客は様々な製品情報に容易にアクセス可能に
  • 機能や性能の比較表を並べても、もはや顧客の関心を引けない
  • 製品スペックよりも「具体的にどんな価値が得られるのか」を重視する傾向が強まる

2.購買行動の変化

  • 顧客が自ら情報を集め、製品を比較検討できる環境が整備
  • 調査によれば、購買検討の7割は、営業に声をかける前に完了している
  • 「製品の良さ」を伝えるだけでは、そもそも検討対象にすら選ばれない

  ▶関連記事:デジタル時代の顧客行動とは?データで見る劇的な変化

3.意思決定プロセスの複雑化
  • システム導入の判断に関わるステークホルダーが増加
  • 技術部門だけでなく、経営層や利用部門の承認も必須に
  • 投資対効果や具体的な価値の説明がより重要に
4.市場環境の成熟化
  • 類似製品の増加により、機能面での差別化が困難に
  • 単なる機能追加では解決できない本質的な課題の増加
  • 「製品」から「ソリューション」への価値シフト

このような環境変化により、従来の製品訴求型アプローチでは成果につながりにくくなっているのです。

これらの変化は、単なる一時的な効果の低下ではありません。これは、製品訴求型マーケティングという従来のアプローチが根本的な限界に達していることを示しています。もはや「より多くの製品情報を発信する」「より多くのリードを獲得する」という量的な施策では、この状況を打開することはできません。

求められているのは、プロダクトアウトからマーケットインへの本質的な転換です。そのためには、製品の機能や性能を訴求するのではなく、顧客が抱える本質的な課題に寄り添い、その解決に向けた価値を提供していく必要があります。

 

リードが失われる構造的問題

さらに、リードの扱い方にも深刻な問題があります。BtoBマーケティングにおいて、リード育成の非効率さが深刻な収益機会の損失につながっているのです。特に以下の3つの問題が、多くの企業で構造的な課題となっています。

Forrester Research社の資料を元に作成

 

1. 早すぎるリード引き渡しによる機会損失 

マーケティングチームが十分な育成を行わないまま、獲得したリードを営業チームに引き渡してしまうケースが頻発しています。

  • 商談準備が整っていない見込み客への早急なアプローチ
  • 営業担当者の時間とエネルギーの浪費
  • 結果として低い商談化率

これは単なる効率の問題ではありません。未熟なリードへの性急なアプローチは、見込み客との信頼関係を損ない、将来的な商談機会をも失わせてしまう可能性があります。営業チームの疲弊を招くだけでなく、企業としての成長機会を逃してしまうのです。

 

2. 営業チームによるリードの選別がもたらす長期的損失 

そして、営業チームが即効性のある案件のみを追求し、時間のかかるリードを放置してしまう傾向があります。

  • 短期的な成果を重視するあまり、将来有望なリードを見逃す
  • 潜在的な大型案件の芽を摘んでしまう
  • 競合他社にリードを奪われるリスク

この問題の本質は、短期的な売上目標と長期的な顧客育成のバランスが崩れていることにあります。即効性のある案件だけを追いかけていては、持続的な成長は望めません。

 

3. 失われたリードの再獲得に費やされる過剰なコスト 

さらに、一度失ったリードを取り戻すために、マーケティングチームが多大なリソースを投入せざるを得ない状況が生まれています。

  • 再アプローチのための新規コンテンツ制作コスト
  • リターゲティング広告への追加投資
  • 新規リード獲得機会の損失

これは単なるコストの問題を超えて、企業の成長戦略そのものに影響を及ぼします。本来、新規市場の開拓や新商品の開発に向けられるべきリソースが、過去の取りこぼしの回収に費やされているのです。

▶関連記事:マーケ部門が孤立する構造的な問題について記事を読む

これらの構造的な問題の根底には、より本質的な課題があります。それは、私たちが「何を売ろうとしているのか」という点です。 多くの企業では、製品の機能や性能を売ろうとするあまり、顧客が本当に求めている価値を見失っています。営業チームが短期的な案件だけを追いかけ、マーケティングチームが製品情報の発信に終始してしまうのも、この本質的な課題の現れと言えるでしょう。 では、どうすればいいのでしょうか?

ドリルを売るのではなく、穴を売る

この状況を打開するために必要なのは、発想の根本的な転換です。

マーケティングの世界で頻繁に引用される格言に、「ドリルではなく穴を売る」というものがあります。人々はドリルそのものが欲しいわけではなく、彼らが本当にほしいのは「壁に開けられた穴」なのです。

この一見シンプルな言葉の中に、効果的なマーケティングの本質が凝縮されています。顧客が求めているのは、製品そのものではありません。その製品を使って実現したい目的、解決したい課題なのです。

例えば、データ分析ツールの場合を見てみましょう。

 

従来の製品訴求型アプローチ(ドリル型)

  • 「最新のAIエンジンを搭載」
  • 「秒間100万件のデータ処理が可能」
  • 「直感的なドラッグ&ドロップ操作」
  • 「50種類以上の分析テンプレート」
  • 「カスタマイズ可能なダッシュボード」

このアプローチの問題点は明らかです。顧客は「AIエンジン」や「処理速度」が欲しいわけではありません。彼らが本当に求めているのは、「ビジネス課題の解決」なのです。

 

課題訴求型アプローチ(穴型)

  • 「売上予測の精度を向上させ、的確な経営判断を支援」
  • 「顧客離反の予兆を早期に発見し、解約率を低減」
  • 「在庫の最適化により、機会損失とコストを削減」
  • 「マーケティング施策の効果を正確に測定し、ROIを改善」
  • 「部門間のデータ連携により、組織の意思決定を効率化」

 

このように、課題訴求型アプローチでは、製品の機能や性能ではなく、それによって実現できるビジネス成果を具体的に示します。この考え方の転換がもたらす効果は、以下の3点で顕著に現れます。

  1. 顧客との対話の質の向上
    • 製品機能の説明ではなく、課題解決の文脈で会話が進む
    • 顧客のビジネス課題をより深く理解できる
    • 提案の説得力が大幅に向上
  2. 競合との差別化
    • 機能比較の土俵を超えた価値提供が可能に
    • 価格競争に巻き込まれるリスクの低減
    • より本質的な課題解決力をアピール
  3. 長期的な関係構築
    • 単なる製品提供者ではなく、課題解決のパートナーとしての地位確立
    • 継続的な価値提供による信頼関係の醸成
    • クロスセル・アップセル機会の創出

自社のマーケティングが「ドリル」と「穴」のどちらを売っているのか。この視点で見直すことで、コンテンツの作り方、製品の訴求方法、そして顧客とのコミュニケーション全体が根本から変わってきます。

さらに、この「ドリルではなく穴を売る」という発想の転換は、先に挙げたリード育成の構造的な問題の解決にもつながります。

  • マーケティングチームは、製品情報の押し付けではなく、顧客の課題解決に向けた価値ある情報を提供できるようになり、リードの質が向上
  • 営業チームは、製品の機能説明ではなく、課題解決のストーリーで顧客と対話できるようになり、より効果的な商談が可能に 
  • 両チームが顧客価値を軸に協働することで、リードの取りこぼしも防げるように

このように、「製品の価値」ではなく「課題解決の価値」を訴求することは、一時的なリード獲得や売上向上だけでなく、企業のマーケティング・営業基盤そのものを強化することにつながります。リードの質の向上、営業活動の効率化、そしてマーケティングと営業の協働体制の確立。これらはすべて、長期的な企業成長の礎となるものです。今、BtoB企業に求められているのは、まさにこの課題訴求型アプローチへの本質的な転換なのです。

▶関連記事:技術や機能の説明だけでは競争力を持てない理由

まとめ

BtoBマーケティングにおいて、従来の「製品訴求型」から「課題訴求型」へのシフトは不可欠です。市場に溢れる情報の中で顧客の興味を引くには、彼らの課題やニーズに焦点を当て、具体的な解決策を提示するアプローチが求められます。この変化は、単にリードを獲得するだけでなく、顧客との信頼関係を築き、長期的なビジネス成長を支える基盤となるでしょう。

顧客視点に立ち、「ドリル」ではなく「穴」を提供すること。それが、競争が激化する市場で他社との差別化を図り、真に効果的なマーケティングを実現する鍵となります。

次回「AIをマーケティングにどう活用すべき?」では、こうした背景を踏まえ、BtoBマーケティングにおいてAIをどう活用していけばいいのかを掘り下げていきます。

▼生成AI × BtoBマーケシリーズ

生成AI × BtoBマーケ①|「課題訴求型」コンテンツの必要性

生成AI × BtoBマーケ②|AIをマーケティングにどう活用すべき?

生成AI × BtoBマーケ③|AIは万能ではない?注意点と効果的な活用法

生成AI × BtoBマーケ④|AIが変えゆくBtoBマーケティングの未来

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。