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生成AIの活用が進む中、BtoBマーケティングは大きな変革の時代を迎えました。2000年代に始まったWebサイト活用やSEO対策、2010年代のマーケティングオートメーション(MA)ツールの普及を経て、2020年代には生成AIの実用化が進み、データ活用と自動化がさらに高度化しています。
特に生成AIは、コンテンツ制作の効率化だけでなく、パーソナライズされたマーケティングの精度向上や営業支援の強化など、多方面で変革をもたらしています。これにより、マーケターはこれまで手作業に頼っていた業務を短時間で処理できるようになり、より戦略的な課題に集中する環境が整いつつあります。本記事では、生成AIが今後のBtoBマーケティングに与える影響と進化の方向性について見ていきましょう。
生成AIがもたらす変革
本シリーズでは生成AIがコンテンツ制作に与える影響について詳しく述べてきましたが、実際の影響はそれだけではありません。シリーズ第2回の記事でも紹介したように、生成AIはマーケティング全般においても変革をもたらしています。
では、生成AIの登場でBtoBマーケティングはどのように変わるのでしょうか?以下の3つの観点から解説します。
- リード獲得重視からリード育成重視へ
- 大勢を刈り取るマーケティングから、ターゲットを絞ったABM型へ
- データを元にした自動パーソナライズの世界へ
1.リード獲得重視からリード育成重視へ
BtoBマーケティングではこれまで、リード獲得に重点を置いた施策が主流でした。しかし、多くのリードを短期間で獲得する手法は、実際には効果を上げにくいことが分かってきています。
実際、海外では、2014年の段階で、リード獲得型マーケティングの限界が叫ばれています。
キャンペーンベース、施策ベースのマーケティングの限界
Annuitasが実施した2014年のB2Bエンタープライズデマンドジェネレーションの調査では、回答者の60%以上が、年間ベースで15以上のキャンペーンを実施していると回答しており、ForresterやContent Marketing Instituteの調査でも同様の数字が示されています。
これらのキャンペーンは、通常、コンテンツやイベントを中心に行われます。典型的なシナリオでは、ホワイトペーパー、eBook、ビデオなどのアセットを作成し、マーケティングチームはこれらのアセットを企業のWebサイトに掲載し、アセットを宣伝するEメールをターゲットリストに送信し、おそらくソーシャルメディアでも共有します。そのアセットをダウンロードした潜在的な購入者はリードとみなされ、その連絡先が営業チームに送られます。
反応がなかった人にはもう一度メールが送られ(このプロセスはしばしばナーチャリングと誤解されています)、「リード」の生成数を示すレポートが作成されて、次のキャンペーン(展示会でのブースプロモーション、新しいコンテンツの宣伝、次のWebセミナーの準備)に取り掛かります。
このようなサイクルが続くと、購買担当者と接触する機会を失い、投資収益率(ROI)はほとんど上がりません。このような戦術的なキャンペーン主導のアプローチでは、ファネルの中間段階(育成段階)にギャップが生じるだけです。この段階で多くのリードが失われ、プログラムの成功の可能性が失われてしまうのです。
出典:Driving Demand: Transforming B2B Marketing to Meet the Needs of the Modern Buyer|Carlos Hidalgo
この手法では、シリーズ第1回の記事でも解説したように、リードが営業チームに引き渡されるタイミングが早すぎたり、見込みが十分に高まっていない段階でフォローされないまま放置されたりすることで、ファネルの途中でリードが失われてしまうという課題が生じます。
Forrester Research社の資料を元に作成
こうした背景から、リードを獲得するだけでなく、適切に育成(ナーチャリング)し、購買意欲が高まった段階で営業へ引き渡すことが求められています。ナーチャリングを重視することで、リードの転換率が5倍から10倍に向上する可能性があるのです。
この変化は、リード育成を通じて限られたリソースを最大限に活用し、ROIを改善する上で欠かせないアプローチとなっています。特に生成AIは、リードナーチャリングのプロセスを飛躍的に効率化する役割を果たします。パーソナライズされたフォローアップメールの自動作成や、顧客の行動パターンを分析して最適なタイミングや内容を提案する機能を活用することで、従来では見逃されていたリードを効率的に育成できます。このため、生成AIはリード獲得から育成へと重心を移すにあたり、戦略を支える重要なツールとなるでしょう。
2.大勢を刈り取るマーケティングから、ターゲットを絞ったABM型へ
これまで多くの企業では、大量のリードを一括で獲得し、その中から商談に繋がる見込み客を選別するという「刈り取り型」のマーケティングが主流でした。しかし、この手法では商談転換率が低いだけでなく、営業チームに大きな負担をかけることが課題となっています。
そこで注目されているのが、ABM(アカウントベースドマーケティング)です。特定の企業や顧客にターゲットを絞り、その企業が抱える課題に合わせたパーソナライズドなアプローチを行うことで、商談転換率や受注金額の向上を実現します。
実際に、ABMを導入した企業では、受注率や商談規模の改善が見られ、多くの指標で優れた成果を挙げています。
ただし、ABMの実践には手間とコストがかかるという課題もあります。ターゲットごとに個別のコンテンツやアプローチを設計するため、従来の「一括型」とは比較にならないほどのリソースが必要でした。
ここで役立つのが生成AIです。生成AIを活用すれば、ターゲット企業ごとにコンテンツを迅速かつ効率的にカスタマイズできます。例えば、一つのホワイトペーパーを元に、複数の企業向けに内容や表現を調整したバージョンを短時間で作成することが可能です。これにより、ABMの実行が現実的な選択肢となりつつあります。
生成AIの活用により、これまでハードルが高かったABMがより実行しやすくなっています。ターゲット企業ごとに課題に応じた効果的な施策を展開することで、BtoBマーケティングにおける競争優位性を確立できるでしょう。
3.データを元にした自動パーソナライズの世界へ
BtoBマーケティングにおいても、Amazonような高度なパーソナライズが求められる時代が訪れています。データを活用して顧客ごとに最適化された提案を行うことで、顧客体験が向上し、結果的にコンバージョン率や顧客からの信頼とリピートしたい気持ちを劇的に高めることが可能です。
例えば、顧客の過去の購入履歴や行動データをもとに、興味を引く商品やサービスをAIが自動的にレコメンドする仕組みは、BtoBの世界でも応用されています。生成AIは、これをさらに一歩進め、顧客の意思決定プロセスに応じたメールやコンテンツをリアルタイムで生成することで、パーソナライズをより効率的に実現します。
具体的な効果として、実際に以下のような効果が報告されています。
- パーソナライズによりコンバージョン率は10.8倍向上する
- パーソナライズされたCTAは、コンバージョン率が200%高い
- リードへのパーソナライズアプローチは反応率や関心度を20%以上高める効果がある
- パーソナライズされたメールは、開封率が29%高く、コンバージョン率が6倍高い
参照:29 Personalization Statistics: Businesses Must-Know in 2024|Business Dasher
こうしたパーソナライズを実現するには、生成AIが膨大な顧客データを効率的に処理し、それに基づいて的確なコンテンツを生成することが鍵となります。これにより、従来では手作業で対応していたパーソナライズが自動化され、マーケティングチームは他の戦略的業務に集中できるようになります。
データを元にした自動パーソナライズの取り組みは、顧客の満足度を高めるだけでなく、ビジネス全体の成長を後押しする強力な手段です。生成AIの力を活用して、効率的かつ効果的なパーソナライズの世界を実現することで、他社との差別化を図るチャンスをつかむことができるでしょう。
まとめ
生成AIは、BtoBマーケティングにおける新たな可能性を切り開き、リード育成、ターゲットを絞ったアプローチ、そして高度なパーソナライズの実現を支える重要なツールとして進化を遂げています。本記事で紹介した通り、生成AIの導入により、マーケティングプロセス全体が効率化され、企業が持つリソースを最大限に活用する道が開かれます。
特に、生成AIを活用することで、従来の手作業では困難だったリードナーチャリングやABM型アプローチ、データを元にしたパーソナライズが現実的かつ効果的に実行可能になります。これにより、顧客体験の向上だけでなく、競争優位性を確立するための基盤を構築することができるでしょう。
しかし、生成AIは万能ではなく、その活用には計画的な導入と人間の戦略的な関与が欠かせません。企業としては、生成AIの特性と限界を理解した上で、段階的な導入計画を立て、組織内での運用体制を整えることが求められます。そうすることで、生成AIの真価を引き出し、マーケティングの未来を切り拓く一歩を踏み出せるはずです。
▼生成AI × BtoBマーケシリーズ
生成AI × BtoBマーケ①|「課題訴求型」コンテンツの必要性
生成AI × BtoBマーケ②|AIをマーケティングにどう活用すべき?