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宗像 淳 / イノーバCEO2024/11/06 14:34:531 min read

BtoBブランディング③|技術や機能の説明だけでは競争力を持てない理由

▶前回の記事はこちら

「弊社は0.01mmの精度で加工できる最新技術があります」

技術力に自信を持つBtoB企業の多くが、このように自社の技術的優位性を強調したアプローチを行っています。確かに、高度な技術力は企業の重要な強みです。しかし、なぜかそれが顧客の心に響かず、商談が進展しない―――。

このような経験はありませんか?

実は、技術や機能の説明だけでは、現代のBtoB市場で十分な競争力を持つことはできません。その理由と、効果的なアプローチ方法を、具体例を交えながら解説していきます。

 

技術→機能→価値提供のフレームワーク

なぜ技術説明だけでは不十分なのか

ある金属加工機械メーカーの例で考えてみましょう。営業担当者は以下の3つの方法で自社製品を説明することができます。

1.「弊社は0.01mmの精度で加工できる最新技術があります」

2.「弊社は高速・高精度加工を実現する旋盤を作っています」 

3.「御社の生産効率を30%向上し、コスト削減と納期短縮を実現できます」

お気づきでしょうか。1から3へと進むにつれて、説明の焦点が「自社の技術」から「顧客が得られる価値」へと変化しています。

 

3つのレベルの本質的な違いを理解する

一見似ているように見えるこれらの説明は、実は本質的に異なるアプローチを示しています。それぞれの特徴と、なぜ最後のアプローチが最も効果的なのか、詳しく見ていきましょう。

 

1.技術レベル:優れているけれど、届かない思い

多くのBtoB企業、特に製造業では、このレベルの説明に終始しがちです。確かに、技術力は企業の重要な強みです。「0.01mmの精度」「特許取得技術」「業界最高水準の性能」―――。

しかし、このアプローチには重大な問題があります。それは「自社視点」に留まっているという点です。数値やスペックによる説明は客観的で分かりやすいように見えますが、実は顧客にとって「それが何を意味するのか」が見えにくいのです。

 

2.機能レベル:一歩前進、でもまだ不十分

次に、技術が実現する機能に着目した説明です。「高速・高精度加工の実現」「生産ラインの自動化」「データの可視化」など、技術がもたらす具体的な機能を説明します。

これは技術レベルよりは一歩前進です。機能は技術より理解しやすく、イメージしやすいからです。しかし、まだ説明の中心は「弊社の製品・サービスができること」であり、本質的には自社視点から抜け出せていません

 

3.価値提供レベル:顧客の成功にフォーカス

そして最後が、価値提供レベルの説明です。ここでの特徴は、説明の主語が「御社」に変わることです。

「御社の生産効率を30%向上」 「御社の在庫コストを年間1,000万円削減」 「御社の営業チームの商談成約率を2倍に」

このレベルでは、顧客のビジネスにもたらされる具体的な効果を、できるだけ数値化して示します。なぜこれが最も効果的なのでしょうか。

それは、顧客が本当に欲しいのは「技術」でも「機能」でもなく、自社のビジネスを成功に導く「価値」だからです。顧客は、製品やサービスを購入すること自体を目的としているわけではありません。その先にある、具体的なビジネス上の成果を求めているのです。

 

実践のポイント:段階的な説明の組み立て

とはいえ、いきなり価値提供レベルの説明から始めるのは、必ずしも得策ではありません。なぜなら、その価値を実現する技術や機能の裏付けも、信頼性を築く上で重要な要素だからです。

効果的なアプローチは、これら3つのレベルを段階的に組み合わせることです。

  1. まず、価値提供レベルで顧客の関心を引く
  2. その価値を実現する具体的な機能を説明
  3. その機能を可能にする技術的な優位性を示す

このように、顧客視点の価値説明を軸としながら、それを裏付ける機能と技術を効果的に組み合わせることで、より説得力のある提案が可能になります。

このような価値提供型のアプローチは、単なる説明方法の改善ではありません。それは、企業の提供価値を顧客視点で捉え直す、より本質的な変革といえるでしょう。

 

BtoBバリューピラミッドが示す価値提供の本質

ベイン・アンド・カンパニーが提唱するBtoBバリューピラミッドは、企業が提供すべき価値を3層構造で表現した革新的なフレームワークです。この3層構造を理解することは、効果的な価値提供の第一歩となります。

 

機能的価値:確かな土台づくり

ピラミッドの土台となるのが「機能的価値」です。これは、製品やサービスが持つべき基本的な品質や機能を指します。例えば、製造業であれば安定した品質の製品を、約束した納期で、適切な価格で提供すること。これは必要条件ではありますが、十分条件ではありません。

なぜなら、この層の価値提供は、他社との差別化が最も困難な領域だからです。品質、価格、納期―――。これらは確かに重要ですが、これだけでは持続的な競争優位を築くことは困難です。

 

ビジネス価値:顧客企業の成長への貢献

中層に位置するのが「ビジネス価値」です。これは、顧客企業のビジネスにどれだけの具体的な貢献ができるかを示す価値です。

例えば、

  • 売上を20%増加させる新しい商機の創出
  • 生産効率の向上による30%のコスト削減
  • 自動化による人的ミスのリスク軽減
  • デジタル化による業務効率の50%改善

このように、具体的な数値で示せる経営課題の解決こそが、ビジネス価値の本質です。この層での価値提供は、顧客企業の経営層を動かす重要な要素となります。

 

個人的価値:意思決定者への共感的アプローチ

ピラミッドの頂点に位置するのが「個人的価値」です。これは、往々にして見落とされがちな要素ですが、実は決定的に重要な価値層です。

なぜなら、最終的な意思決定は「人」が行うからです。製品やサービスの導入を推進する担当者にとって、

  • このプロジェクトは自身のキャリア向上につながるのか
  • 日々の業務がより充実したものになるのか
  • 現在抱えているストレスが軽減されるのか
  • 自身の業務品質を向上させることができるのか

これらの点が、重要な判断基準となります。

 

3層構造の統合的な活用

重要なのは、これら3つの価値層を個別に考えるのではなく、統合的に提供することです。例えば、ある製造装置の提案において、

機能的価値: 「業界最高水準の精度と信頼性を持つ製造装置を、競争力のある価格で提供します」

ビジネス価値: 「この装置の導入により、生産効率が30%向上し、年間のコスト削減額は5,000万円に達します」

個人的価値: 「製造部門の責任者として、品質向上とコスト削減の両立を実現した成功事例となり、社内での評価向上につながります」

このように、3つの価値層を有機的に結び付けることで、より説得力のある価値提供が可能になります。

 

デジタルチャネルを活用した価値提供の実践

では、これらの価値を顧客に効果的に伝えるには、どうすればよいのでしょうか。現代では、6つの主要なデジタルチャネルを統合的に活用することが重要です。

 

情報ポータルサイトとしての自社ウェブサイト活用

デジタル戦略の中心となるのは、自社ウェブサイトです。ここでは、3層の価値を体系的に整理して提供する必要があります。

具体的には、

  • 機能的価値を示す製品・サービス情報
  • ビジネス価値を証明する導入効果の具体例
  • 個人的価値を示す担当者インタビューや成功体験

これらの情報を、分かりやすく構造化して提供します。

 

専門性を深めるブログとSNS

ブログでは、より詳細な専門知識や業界洞察を継続的に発信します。一方、SNSでは、よりリアルタイムな情報や、企業の人間味のある側面を伝えることができます。

 

関係を育むメールマガジンとウェビナー

メールマガジンは、定期的なコミュニケーションツールとして、顧客との関係を徐々に深めていく役割を果たします。ウェビナーは、より深い知見の共有と、直接的な対話の機会を提供します。

 

新しい可能性を広げるポッドキャスト

移動時間や作業中でも情報を得られるポッドキャストは、新しい形の価値提供チャネルとして注目されています。専門家インタビューや事例紹介など、音声ならではの親密なコミュニケーションが可能です。

 

まとめ:価値提供型コンテンツ作成の実践ステップ

これまで見てきたように、BtoBブランディングにおける価値提供は、3つの層で構成され、複数のデジタルチャネルを通じて伝えられます。では、これらを実践に移すために、具体的にどのようなステップを踏めばよいのでしょうか。

価値提供型のアプローチを実践するために、以下のステップを意識しましょう。

  1. 価値の再定義
    • 自社の技術・製品を価値の観点から見直す
    • 顧客にもたらす具体的な効果を数値化
    • 3つの価値レベルでの整理
  2. メッセージの組み立て
    • 顧客視点での価値提案の言語化
    • 具体的な事例やデータの整理
    • 説得力のあるストーリー作り
  3. チャネル戦略の構築
    • 各チャネルの特性の理解
    • チャネル間の連携設計
    • コンテンツの使い分け方針の策定
  4. 継続的な改善
    • 効果測定の実施
    • フィードバックの収集
    • コンテンツの最適化

技術から価値提供へのシフト―――。これは一朝一夕には実現できません。しかし、この転換こそが、現代のBtoBブランディングにおいて極めて重要な鍵となります。

▶BtoBブランディングシリーズ記事一覧

BtoBブランディング①|なぜイメージ広告だけでは不十分なのか?
BtoBブランディング②|デジタル時代の顧客行動とは?データで見る劇的な変化
BtoBブランディング③|技術や機能の説明だけでは競争力を持てない理由【本記事】
BtoBブランディング④|3社の成功事例から学ぶ具体的手法
BtoBブランディング⑤|実践ステップ:小さな成功の積み重ね方
BtoBブランディング⑥|よくある疑問を一挙解決!

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。