近年、B2Bマーケティングの世界で注目を集めているのがABM(アカウントベースドマーケティング)です。概念や手法そのものは目新しいものではありませんが、CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)やMA(マーケティングオートメーション)とも親和性が高く、ABMの導入で大きな成果を上げる企業も増えてきています。今回はABMの概要から、ABMを用いたビジネス戦略の成功に欠かせないインサイドセールスについても解説していきます。
ABMとは?
ABMとはAccount Based Marketingの略で、B2B企業におけるマーケティング戦略として近年注目を集めているものです。従来の主流であったリード顧客(見込顧客)という個人を対象としたマーケティングではなく、企業全体をアカウント(顧客)として捉え、自社にとっての優良アカウントを選別し最適なアプローチを行うマーケティング手法です。
日本でも、古くから法人営業などという名前で特定の優良企業に対するアプローチは行われてきました。海外でも同様に、KAユーザー(Key Account User)等の呼び方でアプローチが行われていた歴史があります。ABMが近年注目を集めている理由の一つは、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)、MA(マーケティング自動化)ツールの進化だと言われています。ツールの進化がABMに与えた影響はさまざまですが、従来は社内に(または事業部ごとに)バラバラに管理されていた顧客情報などがツールによって一元管理されるようになり、統一的なマーケティング戦略で企業にアプローチできるようになった、というのが一番大きな理由かもしれません。
★ABMに関しては以下の記事もご覧下さい
今注目を集めるABM(アカウントベースドマーケティング)とは?定義・メリットからツールや事例まで徹底解説!
ABMとインサイドセールス
ABMでは、アカウント内の決裁権を持つ幹部やあらゆる意思決定者がターゲットとなるため、点ではなく面でアプローチをしていく必要があります。とはいえむやみにアポイントを取り、押しかけるようなアプローチは好ましくありません。ABMを成功に導くには、インサイドセールスの手法を使って十分な情報収集を行うことが大切です。営業の手法にはインサイドセールスとフィールドセールスがありますが、ここで2つの違いについて確認しておきましょう。
インサイドセールスとフィールドセールス
インサイドセールスとは顧客を訪問しない営業スタイルで、日本語では内勤型営業と呼ばれます。これに対して、顧客を訪問し営業を行う旧来のスタイルはフィールドセールス、外勤型営業と呼ばれます。インサイドセールスの一般的な手法は電話やメール、オンライン会議システムなどを使い、顧客と非対面でコミュニケーションを行います。昨今は新型感染症の影響で普通のスタイルとなりつつありますが、下記のようなメリットがあることから、以前より特定の企業で積極的に活用されていた営業スタイルです。
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移動時間削減によるアプローチ数増加
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営業リソースの有効活用
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経費の削減
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メールや電話、ICT技術を使った双方向のコミュニケーションが可能
フィールドセールスは対面で行う顧客へのアプローチなので、価格交渉や契約といった難度の高いコミュニケーションに向いていると言えます。非対面のインサイドセールスは、見込み顧客への情報提供やアポイント、既存顧客へのフォローなどに適したアプローチですが、ABMにおいては早い段階で潜在顧客の状況を把握することが可能になるので効率的なビジネス判断を進められるメリットがあります。
ABMの成功に欠かせないインサイドセールス
ABMとは、自社にとっての優良アカウントを選別し最適なアプローチを行うマーケティング手法だと述べましたが、これを実行するためにはターゲットが「自社にとって優良なアカウント」となり得るのかを判断しなければなりません。そのためには、BANTCと呼ばれる情報を入手するのが最優先です。BANTCとは、Budget(予算の有無)、Authority(権限の有無)、Needs(需要の有無)、Timing(適切な時期)、Competitor(競合の存在)の頭文字を取ったもので、営業パーソンにおいては必須のヒアリング事項です。
ABMはテレフォンアポイントのように、片端から電話し会う約束を取り付けるようなマーケティング手法ではありません。ターゲットとした企業の経営課題や業務課題をじっくり精査し、BANTCを確認しながら営業戦略を立てる必要があります。そのためには、インサイドセールスの手法が大事になってくるのです。いきなり電話をして商品やサービスを売り込むのは得策ではありません。
ABMにおけるインサイドセールスは2種類存在する
ABMにおけるインサイドセールスの方法は2種類あります。インバウンドコールとアウトバウンドコールです。この2つはもともとコールセンターで使われていた用語ですが、ABMの場合は少し違う意味合いで使われます。※コールセンターでは、インバウンドコールは顧客からの電話を受ける業務、アウトバウンドコールは企業側が顧客に電話する業務と区別されています。
インバウンドコール
すでにターゲットとした企業の名刺や、リード顧客を持っている場合のアプローチです。この場合はアプローチ自体に難しさはありませんが、情報の整理がとても重要です。旧来の法人営業などでは、同じ企業の中に各営業パーソンがそれぞれのリード顧客を抱え、独自にアプローチをしていました。ABMは点ではなく面でターゲットを攻略することが大切なので、まずは情報をすべてオープンにし(もしくはSFAやCRMを活用し)、どの部署が決裁権限を持っているのか、誰がキーマンなのかを事前に整理、再リサーチを行います。その上でコールの優先順位を決め、アプローチを実行します。
アウトバウンドコール
アウトバウンドコールは、その企業の名刺やリード顧客など、コンタクト先を持っていない場合のアプローチです。当然窓口の攻略から始めることとなりますが、インバウンドコールに比べて難易度は格段に上がります。
ターゲット企業のWebサイトから代表電話を調べ、その電話から担当者に繋いでもらう方法もありますがやり方を一つ間違えるとブロックされてしまうことにもなりかねません。またWebサイトの問い合わせ窓口にメールするか、もしくは質問フォームに面談の希望を入力する方法もありますが、面談確約の確率が低いことは認識しておく必要があります。
一番確率が高い方法としては、自社の営業パーソンや社員の知人などを使ってアプローチすることです。普段から付き合いのある顧客に紹介してもらう、という方法も有効でしょう。また、昨今は状況的に開催数が減っているものの、展示会を利用するという方法もあります。ターゲット企業が商品やサービスなどを展示している展示会があればそこに出向き、説明員や責任者の人に事情を話して希望する部署の担当者と繋いでもらいます。やり方は代表電話にコンタクトする方法と変わりませんが、対面で話をすると成功率は上がるものです。成功すれば素早く担当者にコンタクトできるのが、社長に手紙などを送り直接アプローチする方法です。M&Aを行っている企業などでは普通に使っている手法なので、一考の余地はあるでしょう。
まとめ
予算や需要を持つ優良企業と長く付き合いたい、とはどの企業も考えることです。そのためにはまず大きなビジネスにつながるキーマンとコンタクトし、横展開を図りながら点を面に拡げていく必要があります。これはビジネス戦略に基づいて計画的に行われる営業展開であり、次々に電話をかけていくテレホンアポイントなどとは根本的に違うことを認識しておかねばなりません。決して数を狙おうとせず、一社一社丁寧に計画、実行、検証、再実行のPDCAを回していきましょう。
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