ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)とは?定義・メリットから、今注目を集める理由、ツールや事例まで徹底解説!

BtoBマーケティング

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)とは、ターゲット企業を明確に定義して戦略的にアプローチするマーケティング手法です。

営業から見れば当然にも見える手法ですが、なぜ今ABMが 注目を集めているのでしょうか? ABMがほかのマーケティング手法と異なる点やメリット、ツールや導入事例などをご紹介します。

ABMとは?

ABMは、アカウント、つまりターゲット企業を明確に定義し、社内にあるすべてのリソースを結集して、ターゲット企業が抱える課題や潜在的なニーズを分析し、戦略的にアプローチする手法です。

ABMは、その他のマーケティングの手法と何が違うのでしょうか。

従来のマーケティングとの違い

従来のマーケティングでは、広く見込み客を獲得するところからスタートして徐々に絞り込んでいくのに対し、ABMでは最初から対象を絞り込みます。

よく例えられるのが、従来のマーケティング手法が「広く網を張る」ように比較的広範囲で見込み顧客(リード)を獲得して徐々に絞り込んでいく手法なのに対して、特定のターゲットに狙いを定めるABMは、「銛(もり)で突く」手法とされます。

このプロセスは、マーケティング戦略の最も基本的なフレームワークのSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)におけるターゲティングに該当します。

ABMがユニークなのは、ターゲットとして定義する対象が「市場」でなく、より具体的な個別の「企業・団体」だという点です。

従来のマーケティングに比べ、ABMは、確度の高いターゲット(企業)を定め、より洗練された戦略でアプローチする手法といえるでしょう。

ABMとデマンドジェネレーションとの違い

では、BtoBマーケティングの手法としてよく知られている「デマンドジェネレーション」とABMでは、何が異なるのでしょうか。

デマンドジェネレーションは、デマンド(需要)のジェネレーション(創出)という言葉通り、見込み客の創出や発掘活動全般のことを意味します。

手順としては、見込み顧客獲得(リードジェネレーション)、見込み顧客育成(リードナーチャリング)、見込み顧客の絞り込み(リードクオリフィケーション)の3つのプロセスから成り立っています。

一般的に、デマンドセンターと呼ばれるマーケティング部門がデマンドジェネレーションを行い、得られたホットリードを営業部門に渡すといった役割分担がとられます。

これに対して、ABMは初めから自社に利益をもたらす「企業」をターゲットアカウントとして選定します。また、マーケティングと営業が一丸となってターゲット企業にアプローチをかけていきます。プロセスの初めからホットリードにフォーカスできるため、デマンドジェネレーションに比べて効率がよいといえます。

とはいえ、ABMとデマンドジェネレーションは、マーケティングの手法として対立するものではありません。デマンドジェネレーションで行われる顧客データの把握・管理、育成といった活動は、ABMを実践する場合であっても重要な活動です。

なぜいまABMが注目を集めているのか?その背景

では、なぜいまABMなのでしょうか?その背景を知るにはまず、米国のビジネスの文化や商談スタイルを知っておく必要があります。

米国で近年急激に注目を集めるようになったABM

ABMは、まず米国で注目されるようになりました。注目されるようになった理由としては以下の3つがあります。

意思決定方法がボトムアップに変化した

米国の企業の多くは、意思決定をトップダウンで行なっていました。しかし、複雑なB2B案件では、意思決定に関わるメンバーが複数名のボトムアップ式に変化し、個人をターゲットにしていては成約に結びつかなくなってきました。

そのため、キーパーソンだけをターゲットにするのではなく、企業の業種や規模なども含めた情報を集め、企業全体をマーケティング対象としたABMの手法が求められるようになってきました。

マーケティングと営業の連携で効率アップ

マーケティングがホットリードを営業に渡しても、さまざまな理由でフォローされないまま放置されてしまうなど、マーケティングと営業の連携が悪いとさまざまな面で効率が悪くなりがちです。

これに対して、まず営業部門とマーケティング部門が戦略を共有したうえで、対象企業を絞り込んで活動を始めるABMの方がより効率的で効果的であるという認識が広がりました。

 IT技術の進化

企業全体のスタッフが持っている顧客情報を集約する、それを外部の企業情報を参照しつつ優先順位をつける、といった作業は手作業だと膨大な手間がかかり、簡単に実践できるものではありませんでした。

しかし、後述のようにインターネットが普及し、IT技術が進歩したことでさまざまな情報をデータとして集約して活用できるようになってきました。こういった技術の進歩で効率化が進んだことでABMは可能となり広まるようになりました。

旧来の日本のマーケティングとABMは何が違うのか

米国のマーケティング手法が上記のような進化を遂げる一方、日本や欧州など市場が限られている国や地域では、以前からアカウント(企業)を1つの単位とするマーケティング手法が行われてきました。

初めて取引する企業とは小さい金額の取引から始めてコツコツと信用を積み重ね、相手の課題や要望に地道に対応することで取引額を増やしていくといった手法です。

また、顧客企業と信頼関係を築き、場合によっては酒席での接待も使って相手の懐に入り込むアプローチは、選定したターゲット企業に対して手厚い対応をするABMの考え方と非常によく似ています。

では、日本ではABMのいったい何が新しく、画期的なのでしょうか。

キーとなるのは米国同様、近年急激に発達しているITを活用していることです。

SFA(営業支援システム)やMA、CRMなどの企業ITシステムが普及してきたことで、従来のマーケティングがより効率よく行えるようになってきたのです。

ABMを可能にした企業ITシステム

ABMを実現するには、企業内で部門を超えたデータ連携と情報の一元管理が必要です。また、ターゲット企業にアプローチするために、「適切なコンテンツを」「必要な人に」「適切なタイミングで」届ける必要があります。

しかし、企業ITシステムが登場する前は、それらをすべて手作業で行っており、限界がありました。

企業ITシステムの登場で、営業や展示会やセミナーなどで獲得したアンケートや名刺、Webでの資料請求やメールマガジンなどで見込み顧客が自ら登録した情報、購買履歴や取引実績データ、SFAにある営業の対応データ、さらにはFacebookやLinkedInなどのSNSの情報など、各部署に散在していた大量のデータがマーケティングオートメーションによって一元管理できるようになりました。

これによって、ターゲット企業に対して、自社の商材・サービスの価値を伝えるために良質なコンテンツでキャンペーンを実施し、その行動と属性情報でスコアリングして、ターゲット企業のなかで「今アプローチすべき個人」を特定し、そのリストを営業チームに供給できるようになり、ABMが実現できるようになったのです。

ABMを実践するステップ

ABMの概要と注目の背景がわかったところで、ここからはABMを実施する具体的な方法を紹介していきます。

ABMの具体的なアプローチ方法

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1. アカウントの選定

まず、手元にあるデータを活用して、顧客の優先順位をつけます。

見込まれる取引の大きさ、市場での影響度、リピーターになる可能性、平均的な利益幅より大きくなる可能性などを考慮したうえで、価値の高いターゲット企業を洗いだします。

2. アカウント内で重要な役割を担っている人物の特定

狙うアカウントを特定したら、その組織構造を把握し、組織のなかで重要な役割を担う人物(意思決定者やインフルエンサーなど)を見定める必要があります。

そのような人物とのタッチポイントはすでに社内にあるかもしれませんし、そうしたデータの提供を受けるサービスも契約済みかもしれません。

もし重要な役割を持っている人物とのタッチポイントが無いなら、営業チームに調査を依頼するか、社外の専門業者からそうした情報を購入する必要があります。アプローチすべき人物を見極めたらペルソナを作成します。

また、ここでABMとしてアカウントをより深く理解し正しくアプローチするために、社内のデータを統合管理ができるプラットフォームが必要です。

3. コンテンツとパーソナライズメッセージの決定

このプロセスは非常に重要です。対象顧客が直面する明確かつ重要な課題やニーズを解決するような、深くて価値のある、適切なコンテンツやメッセージを提供すると効果的でしょう。

ここでいう「適切なコンテンツ」とは何でしょうか?

答えは、パーソナライズされたメッセージです。半数以上の顧客が自分の業界および職種に向けて作られたコンテンツを高く評価するというリサーチもあります。

もちろん、コンテンツを各個人向けに全てゼロから作るというのは現実的ではないので、実際には既存のコンテンツを活用し微調整を加えることで「パーソナライズされた」コンテンツに作りかえることになります。

4. 最適なチャネルの決定

Web、Eメール、モバイル、紙媒体など、対象顧客とコンタクトを取れるチャネルはたくさんあります。そのなかで、最適なチャネルを検討します。

5. ターゲットに合わせたキャンペーンを実施

コンテンツやメッセージの準備ができたら、対象顧客のインフルエンサーと意思決定者にそれを見てもらう施策を実践します。Webのパーソナライゼーションソリューション機能や、GoogleやFacebookなどのバナー広告のパーソナライズ機能など、ソリューションやサービスはさまざまです。キャンペーンがチャネル間で連動するようにして、一貫したメッセージが伝わるようにする必要があります。

6. 測定し、学び、最適化を行う

キャンペーンを測定し、PDCAサイクルを回すことで最適化し、時間をかけて改善しつづけていくことが重要です。ABMとは、1回だけ実施して効果を得るキャンペーンではありません。傾向データを確認し、価値の高い顧客へのアプローチができているのか、これらの顧客とのエンゲージメントは強化されているのかを評価しましょう。

ABMがもたらすメリット

では次に、ABMを実践することでどんなメリットが得られるのかを見ていきましょう。

1. 効率のよいマーケティング活動

ABMを導入することは、「売上の8割は2割の上位顧客によって生み出される」という「パレートの法則」に基づいてターゲットを選定することに近く、効率のよいマーケティングが期待できます。

例えば、ITSMA(IT Services Marketing Association)が2014年に実施したアカウント・ベースド・マーケティング調査では、「BtoBマーケティング戦略または戦術のなかで、ABMが最も高い投資対効果(ROI)を生んでいる」という結果が分かっています。

2. 自社リソースの無駄の削減

ターゲットが明確であるため、自社のリソースを集中できます。ターゲットが狭くなる分、対象顧客に合わせた最適なマーケティングを実施することが可能です。

3. パーソナライズかつ最適化されている

先述のように、リードは、自分に向けて特別に作られたコンテンツや、自分の事業やカスタマージャーニーのステージに関連するコンテンツに関心を持つ可能性が高いとされています。

ABMでは、アカウント企業のリードに関心を持ってもらえるように、メッセージやコミュニケーションをパーソナライズします。

また、展開されるキャンペーンなども顧客情報に基づいてプログラムでき、アカウント企業のリードに最適化されたものが提供されます。

4. リードの追跡と測定がしやすい

ABMでは限られた顧客をターゲットにしているため、キャンペーンの効果を分析する際に明確な結論を導きやすいという特徴があります。明確な結論からPDCAを回すことで、より高精度のマーケティング施策を講じることが可能です。

5. 営業との連携がスムーズになる

営業は顧客志向が基本です。ABMにおいては、マーケターも同様な考え方をベースにマーケティングを展開するため、営業と密接に連携し、対象顧客を洗いだして、顧客にアプローチすることができるのです。

ABMの活用事例

アカウントを選定したら、どんな施策を実施すべきか、具体例を見てみましょう。

自社サイトにアクセスしたユーザーのIPアドレスを調べれば、ABMで自社がターゲットにしている企業に所属していることがある程度の精度でわかります。もしターゲット企業であれば、ユーザーが最初に目にする画面(いわゆるウェルカムスクリーン)にその企業の名称を掲げてアクセスを歓迎するメッセージを掲示したり、その企業に向けた特別なコンテンツに誘導するバナーを表示したりすることが可能です。

ただ、ここであからさまな誘導をしてしまうと怪しまれたり、気味が悪いと思われたりしてしまうので、さり気なく活用し、適切な形でアプローチする必要があります。

他社との比較や見積もり結果、置き換え提案など、特定の人以外に見られたくないような情報は、Webサイトに来訪したターゲットアカウントしか見られないようにページを用意することもできます。

以上のように、Webコンテンツの情報構造や見せ方を工夫して、対象顧客をうまく回遊させ、誘導することがポイントです。

ABMで成果を上げている企業の事例については下記の記事をご参照ください。

参考記事:ABMで成果を上げるB2B企業が急増!その概要と採用後の成功事例を徹底解説!

成功している事例に共通していることとしては、ITツールを活用してデータドリブンなアプローチを徹底していることが挙げられます。

以下では上記のような施策を可能にするABM導入のステップとおすすめツールについてご説明します。

ABMの3つのステップとおすすめのツール

先述のように、ABMを可能にしたのが企業ITシステムですが、ここでは、ABMを実施していくうえで重要となる営業部門(インサイドセールス、フィールドセールス)とマーケティング部門の領域と役割の違い、そして、それぞれのステップで使われるITツールについてご説明します。

営業・マーケティングの3ステップとツール

営業とマーケティングのプロセスは、「リード獲得・育成」「商談」「顧客維持」の3つに大きく分けられます。

それぞれの段階に適したマーケティングツールを整理すると以下のようになります。

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インサイドセールスはフィールドセールスと異なり、メールや電話で営業活動をする内勤型営業です。営業活動をフィールドセールスと分業化する際に、マーケティングチームと連携して業務を進めます。

それぞれの段階に適したマーケティングツールとして、MA、ABM、SFAがあり、それぞれのツールの特徴は以下のようになります。

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以下では、具体的なABMツールをいくつかご紹介します。

FORCAS

独自の企業データと分析アルゴリズムで、成約確度が高い企業を特定できるクラウドサービスです。

エクセルの企業リストをアップロードするだけで、保有する約144万社のデータと照合し解析、確度が高い企業属性を特定します。

アップロードした企業リストは自動的に名寄せされます。利用中のMAツールやCRMツールと連携することで、マーケティング施策の成果や効率がアップします。

Sansan

Sansanは、法人向けクラウド名刺管理サービスです。名刺をスマホアプリやスキャナーで読み取り、部門を超えて可視化・共有できるようにデータ化します。

Sansan Data HubはSansanのデータ統合機能で、社内の名刺データの整理・統合を行います。自動で名寄せとデータクレンジングをすることで、現在使用しているMA・CRM・SFAツールの二重登録を防ぎます。

さらに、名刺データに帝国データバンクの情報を付与することで、マーケティングに適した精度の高いデータにグレードアップさせます。

Adobe Marketo Engage

MarketoはABM機能を併せ持つMAツールです。2018年にアドビ社によって買収されたことが話題になりました。全世界で5000社以上に導入されており、ホットリードの割り出しを支援したり、ステージごとに適切な担当者にさまざまなチャネルを使ってアカウントへアプローチしたりすることが可能です。

▼ABMツール以外のマーケティングツールについて詳しく知りたい方はこちらの記事から

ABMには向き不向きがある

ABMの導入に際して気を付けたいのは、企業によって向き不向きがあるということです。

まず、ABMはロングテールになりにくい商材や検討から購入までの期間が短い商材は不向きです。

一方、ABMが向いているのは、取引額が大きい商材を少数の企業と取引している企業です。

例えば、ITやコンサルティング、サービスなど、取引額が大きい商材を少数の企業と取引している企業がABMに向いているといえます。または、中規模の企業との取引が多いが、今後は大企業との取引を増やしたい場合もABMの導入を県とする価値があるでしょう。

また、営業部とマーケティング部の連携は必須となるため、連携が無理なら導入は難しいでしょう。

企業や業界によってはABMより従来のマーケティング手法の方がいい場合もあります。どちらも優良顧客を抽出することは同じなので、必要に応じて補強するとよいでしょう。

ABMの派生語としてのPBM

興味深いことにBtoBで生まれたABMの考え方は、BtoCの業界にも影響を与えています。それが特定の個人にフォーカスしたPBM(People-based Marketing)と呼ばれるものです。

例えば、オンライン広告は、どのようなキーワードで検索したか、どのサイトを閲覧したかなどのユーザーの行動によって思考を分析し、パーソナライズが進んできました。

しかし、こうした広告は多くの場合クッキーに頼っていることから、匿名で収集されるクッキーを情報源としてマーケティングを展開した場合、ターゲティングが正確ではないという問題が指摘されています。

これにはユーザーが利用するデバイスが多様化したことも理由として挙げられています。つまり、デスクトップPCであるECサイトを利用したユーザーとスマートフォンでGoogle検索を行ったユーザーが同一だったとしても、クッキーに依拠したマーケティングでは別々の人間と認識されるのです。

こうしたオンライン広告での課題を解決するために、より正確に「個人」を特定しマーケティングを展開していこうというのがPBMの基本的な考え方です。

具体的な手法としては、SNSやECサイトのログインデータから正確なプロファイリングを実施することが挙げられます。また、前述の複数のデバイスを個人に関連付けたり、電話番号や住所、クレジットカードのような個人が継続的に使い続ける情報をベースにオンラインでの活動を個人に集約させたりすることも考えられます。

今のところ、こうしたデータを活用したマーケティングが可能なのはFacebookやGoogleのような巨大企業だけに限られていると言われていますが、PBMには「クッキー依存型の古いオンラインマーケティングからの脱却」という側面もあるので、新しい技術が開発される可能性もあり、今後も注目していきたいところです。

日本ではなじみやすいABMを活用しよう

以上、ABMについて解説してきました。

日本では昔から「お得意様」を大切にして深い関係を構築するビジネススタイルが多かったこともあり、ABMは日本企業ではなじみやすい考え方です。

ABMが最新の技術によって進化を遂げつつある現在、特に国内のBtoB企業にとってはおさえておく価値のあるマーケティング手法だといえるでしょう。

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