営業から見れば当たり前?ABMが従来のマーケティングとは違う点

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最近になって、特にアメリカのマーケティング関連のトピックとして取り上げられることの多いABMというキーワードがあります。これは優良な見込み顧客を企業(アカウント)レベルで定義をして、最適なアプローチしていくというマーケティング手法のこと。

営業から見れば当然にも見えるこの手法、いったい何が従来の営業手法と違うのでしょうか。

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ABMとは?

ABMとは「アカウント・ベースド・マーケティング(Account-Based Marketing)」の略です。ここでいうアカウントとはターゲット企業のこと。ターゲット企業を明確に定義して戦略的にアプローチするという手法です。アカウントを定義したら、社内にあるすべてのリソースを結集してアカウントが抱える課題、あるいはアカウントの潜在的なニーズを分析し、アプローチを行なっていきます。

ABMにおける「アカウント」を定義するプロセスは、マーケティング戦略の最も基本的なフレームワークのSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)におけるT(Targeting)に該当しますが、STPと大きく異なるポイントは、ターゲットとして定義する対象が市場でなく、より具体的な個別の「企業・団体」だという点です。

ABMは、「徹底したアカウント(ターゲット企業)攻略」というわけで、いわば「当たり前の営業戦略」です。日本では昔から「顧客企業をよく知る」ことが営業の基本として行われてきたため、非常に受け入れやすい考え方といえるでしょう。

なぜいまABMが注目を集めているのか?その背景

では、なぜいまABMなのでしょうか?その背景を知るにはまず、米国のビジネスの文化や商談スタイルを知っておく必要があります。

米国で近年急激に注目を集めるようになったABM

前述の通り、ABMの考え方自体は決して新しいものではありません。ただし、アメリカに目を向けると必ずしもアカウントベースでのアプローチは浸透していませんでした。というのも、アメリカの企業の多くは日本の組織に多いボトムアップ式の意思決定プロセスとは逆で、意思決定をトップダウンで行なっているため、もっぱら意思決定者(CEOやCOOなど、Cクラスと呼ばれます)にどのようにアプローチしていくか、という面でのマーケティングが行われてきたのです。

米国は国土が広いので、対面で商談する場合は飛行機での移動が前提です。そのため、テレビ会議などのリモートコミュニケーション環境も充実しています。そのような背景のなか、Webを起点に集めたリードに対して具体的な提案の機会を作り出すため、リードごとの行動データを評価してスコアリングしつつ、メールやWebサイトでのコミュニケーションをリードごとに重ねていく手法が浸透しました。

しかし、新規のリードを大量に集め、興味やニーズを育成するプロセスを時間をかけて実施するよりも、当初から成約の可能性が高いターゲットアカウントを明確に見定めて関係性を深め、クロスセルやアップセルなどに注力したほうが、効率的に成果が得られると注目されるようになりました。

上記のような考え方は以前から存在していましたが、IT技術が進歩し、顧客とのデジタル内での接触頻度が増え、マーケティングオートメーションやCRM(顧客関係管理)に関するソフトウェアの開発が進んだので、アカウントを指定し、リード単位での個別コミュニケーションが実行可能になりました。その結果、ABMが急速に広まるようになったのです。

日本では旧来からABMを実践していた?ーABMは何が新しいのか

それまで米国で普及していたデマンドジェネレーションなどのファネル型のマーケティング手法は、新規リード(見込み顧客一人ひとり)を主軸にしたアプローチでした。

しかし、日本や欧州など市場が限られている国や地域では、アカウント(企業)を1つの単位としてマーケティングに取り組むことが以前から実施されていました。初めて取引する企業とは、小さい金額の取引から始めてコツコツと信用を積み重ね、相手の課題や要望にコツコツと対応することで取引額を増やしていくといった手法です。

また、顧客企業の担当者を個人としてとらえ、その趣味・嗜好から学歴、社内人脈、職歴などを把握したうえで、取引を通じて信頼関係を築き、場合によっては酒席での接待も使って相手の懐に入り込むアプローチは、選定したターゲット企業のリードに対して手厚い対応をするABMの考え方と非常によく似ています。

では、ABMのいったい何が新しく、画期的なのでしょうか。それは、近年急激に発達しているITを活用していることです。SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)やマーケティングオートメーション、CRMなどの企業ITシステムが普及してきているという背景が関係しています。

ABMを実現するには、企業内で部門を超えたデータ連携と情報の一元管理が必要です。また、ターゲット企業にアプローチするために、「適切なコンテンツを」「必要な人に」「適切なタイミングで」届ける必要があります。

しかし、そのために必要なデータとコンテンツを統合管理する「プラットフォーム」も「組織」も従来は存在していませんでした。それを実現したプラットフォームがマーケティングオートメーションであり、組織がデマンドセンターなのです。

営業や展示会やセミナーなどで獲得したアンケートや名刺、Webでの資料請求やメールマガジンなどで見込み顧客が自ら登録した情報、購買履歴や取引実績データ、SFAにある営業の対応データ、さらにはFacebookやLinkedInなどのSNSの情報など、各部署に散在していた大量のデータがマーケティングオートメーションによって一元管理できるようになりました。

これによって、ターゲット企業に対して、自社の商材・サービスの価値を伝えるために良質なコンテンツでキャンペーンを実施し、その行動と属性情報でスコアリングして、ターゲット企業のなかで「今アプローチすべき個人」を特定し、そのリストを営業チームに供給できるようになり、ABMが実現できるようになったのです。


ABMを実践するステップ

ABMの概要と注目の背景がわかったところで、ここからはABMを実施する具体的な方法を紹介していきます。

ABMの具体的なアプローチ方法

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1. アカウントの選定

手元にあるデータを活用して、顧客の優先順位をつけます。見込まれる取引の大きさ、市場での影響度、リピーターになる可能性、平均的な利益幅より大きくなる可能性などを考慮したうえで、価値の高いターゲット企業を洗いだします。

2. アカウント内で重要な役割を担っている人物の特定

狙うアカウントを特定したら、その組織構造を把握し、組織のなかで重要な役割を担う人物(意思決定者やインフルエンサーなど)を見定める必要があります。そのような人物とのタッチポイントはすでに社内にあるかもしれませんし、そうしたデータの提供を受けるサービスも契約済みかもしれません。もし重要な役割を持っている人物とのタッチポイントが無いならば、営業チームに調査を依頼するか、社外の専門業者からそうした情報を購入する必要があります。アプローチすべき人物を見極めたらペルソナを作成します。

また、ここでABMとしてアカウントをより深く理解し正しくアプローチするために、社内のデータを統合管理ができるプラットフォームが必要です。

3. コンテンツとパーソナライズメッセージの決定

このプロセスは非常に重要です。対象顧客が直面する明確かつ重要な課題やニーズを解決するような、深くて価値のある、適切なコンテンツやメッセージを提供すると効果的でしょう。

ここでいう「適切なコンテンツ」とは何でしょうか?

答えは「パーソナライズされた」メッセージです。半数以上の顧客が自分の業界および職種に向けて作られたコンテンツを高く評価するというリサーチもあります。もちろん、コンテンツを発信する各個人向けに全てゼロから作るというのは現実的ではないので、実際には既存のコンテンツを活用し微調整を加えることで「パーソナライズされた」コンテンツに作りかえることになります。

4. 最適なチャネルの決定

Web、Eメール、モバイル、紙媒体など、対象顧客とコンタクトを取れるチャネルはたくさんあります。そのなかで、最適なチャネルを検討します。

5. ターゲットに合わせたキャンペーンを実施

コンテンツやメッセージの準備ができたら、対象顧客のインフルエンサーと意思決定者にそれを見てもらう施策を実践します。Webのパーソナライゼーションソリューション機能や、GoogleやFacebookなどのバナー広告のパーソナライズ機能など、ソリューションやサービスはさまざまです。キャンペーンがチャネル間で連動するようにして、一貫したメッセージが伝わるようにする必要があります。

6. 測定し、学び、最適化を行う

キャンペーンを測定し、PDCAサイクルを回すことで最適化し、時間をかけて改善しつづけていくことが重要です。ABMとは、1回だけ実施して効果を得るキャンペーンとは違うのです。傾向データを確認し、価値の高い顧客へのアプローチができているのか、これらの顧客とのエンゲージメントは強化されているのかを評価しましょう。

ABMがもたらすメリット

1. 効率のよいマーケティング活動

売上の8割は2割の上位顧客によって生み出される、というパレートの法則に基づいてターゲットを選定することで、効率のよいマーケティングが期待できます。

ITSMAが2014年に実施したアカウントベースドマーケティング調査によると、「BtoBマーケティング戦略または戦術のなかで、ABMが最も高い投資対効果(ROI)を生んでいる」とのこと。

2. 自社リソースの無駄の削減

ターゲットが明確であるため、自社のリソースを効果的に集中させることができます。そのため、対象顧客に合わせた最適なマーケティングを実施することが可能です。

3. パーソナライズかつ最適化されている

ABMでは、アカウント企業のリードに関心を持ってもらえるように、メッセージやコミュニケーションを特定の顧客に合わせてパーソナライズすることも行います。リードは、自分に向けて特別に作られたコンテンツや、自分の事業やカスタマージャーニーのステージに関連するコンテンツに関心を持つ可能性が高いのです。

また、展開されるキャンペーンなども顧客情報に基づいてプログラムでき、アカウント企業のリードに最適化されたものが提供されます。

4. リードの追跡と測定がしやすい

ABMでは限られた顧客をターゲットにしているため、キャンペーンの効果を分析する際に明確な結論を導きやすいという特徴があります。明確な結論からPDCAを回すことで、より高精度のマーケティング施策を講じることが可能です。

5. 営業との連携がスムーズになる

営業は顧客志向が基本です。ABMにおいて、マーケターも同様な考え方をベースにマーケティングを展開するため、営業と密接に連携し、対象顧客を洗いだして、顧客にアプローチすることができるのです。

ABMの例

アカウントを選定しおえたとして、具体的な打ち手として考えられるデジタル施策を紹介します。

自社サイトにアクセスしたユーザーのIPアドレスを調べれば、ABMで自社がターゲットにしている企業に所属していることがある程度の精度でわかります。もしターゲット企業であれば、ユーザーが最初に目にする画面(いわゆるウェルカムスクリーン)にその企業の名称を掲げてアクセスを歓迎するメッセージを掲示したり、その企業に向けた特別なコンテンツに誘導するバナーを表示したりすることが可能です。ただ、ここであからさまな誘導をしてしまうと怪しまれたり、気味が悪いと思われたりしてしまうので、さり気なく活用し、適切な形でアプローチする必要があります。

他社との比較や見積もり結果、置き換え提案など、特定の人以外に見られたくないような情報は、Webサイトに来訪したターゲットアカウントしか見られないようにページを用意することもできます。このように、Webコンテンツの情報構造や見せ方を工夫して、対象顧客をうまく回遊させ、誘導することがポイントです。

ABMを実施する上でおすすめのツール

ABMが注目されるようになった背景には、テクノロジーの進歩によって、ABMの核となるデータの統合管理・解析が従来よりもようになったためと述べました。

本章ではABMを実施していく上でのツールの活用方法として、データベースツール(ABMツール)と顧客管理ツール(MA、SFA、CRM)についてその領域と役割の違いについて解説します。

営業・マーケティングの3ステップとツール

営業とマーケティングのプロセスは、「リード獲得・育成」「商談」「顧客維持」の3つに大きく分けられます。それぞれの段階に適したマーケティングツール、インサイドセールス・フィールドセールス・マーケティングの領域と役割を整理すると以下のようになります。

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インサイドセールスはフィールドセールスと異なり、メールや電話で営業活動をする内勤型営業です。営業活動をフィールドセールスと分業化する際に、マーケティングチームと連携して業務をおこないます。

それぞれの段階に適したマーケティングツールとして、MA、ABM、SFA、CRMツールがあり、それぞれのツールの特徴は以下のようになります。

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具体的なABMツールにはFORCASやSansanがあげられます。

FORCAS

独自の企業データと分析アルゴリズムで、成約確度が高い企業を特定できるクラウドサービスです。
エクセルの企業リストをアップロードするだけで、保有する約144万社のデータと照合し解析、確度が高い企業属性を特定します。アップロードした企業リストは自動的に名寄せされます。利用中のMAツールやCRMツールと連携することで、マーケティング施策の成果や効率がアップします。

Sansan

Sansanは、法人向けクラウド名刺管理サービスです。名刺をスマホアプリやスキャナーで読み取りデータ化します。データは、部門を超えて可視化・共有できます。
Sansan Data HubはSansanのデータ統合機能で、社内の名刺データの整理・統合を行います。自動で名寄せとデータクレンジングができ、現在使用しているMA・CRM・SFAツールの二重登録を防ぎます。名刺データに、帝国データバンクの情報を付与することで、マーケティングに適した精度の高いデータにグレードアップさせます。

▼ABMツール以外のマーケティングツールについて詳しく知りたい方はこちらの記事から

ABMには向き不向きがある

ABMは、ロングテールになりにくい商材や検討から購入までの期間が短い商材は不向きです。また、営業部とマーケティング部の連携は必須となるため、連携が無理なら実施できません。
ABMより従来の手法の方がいい場合もあります。どちらも優良顧客を抽出することは同じなので、必要に応じて補強するとよいでしょう。

派生語としてのPBM

興味深いことにB2Bで生まれたABMの考え方は、B2C業界にも影響を与えているようです。それが特定の個人にフォーカスした「People-based Marketing」と呼ばれるもの。オンラインで出される広告は、どのようなキーワードを検索したか、どのサイトを閲覧したかなどのユーザの行動によって思考を分析、パーソナライズが進んできました。

しかし、こうした広告は多くの場合クッキーに頼っていることから、問題が指摘されています。匿名で収集されるクッキーを情報源としてマーケティングを展開した場合、ターゲッティングが誤っていることがあるというのです。これにはユーザが利用するデバイスが多様化したことも理由として挙げられています。つまり、デスクトップPCであるECサイトを利用したユーザとスマートフォンでGoogle検索を行ったユーザが同一だったとしても、クッキーに依拠したマーケティングでは別々の人間と認識されるのです。

こうしたオンライン広告での課題を解決するために、より正確に「個人」を特定しマーケティングを展開していこうというのがPBMの基本的な考え方です。具体的な手法としては、SNSやECサイトのログインデータから正確なプロファイリングを実施すること。ここから先にも挙げた複数のデバイスを個人に関連づけることもなされます。また、電話番号や住所、クレジットカードのような個人が継続的に使い続ける情報をベースにオンラインでの活動を個人に集約させることも考えられます。今のところ、こうしたデータを活用したマーケティングが可能なのはFacebookやGoogleのような巨大企業だけに限られていると言われていますが、PBMには「クッキー依存型の古いオンラインマーケティングからの脱却」という側面もあるので、新しい技術が開発される可能性もあり、今後も注目していきたいところです。

日本ではなじみやすいABM

日本では昔から「お得意様」を大切にして深い関係を構築するビジネススタイルが多かったこともあり、ABMは日本企業ではなじみやすい考え方かもしれません。それらが最新のテクノロジによって進化を遂げつつある現在、特に国内のB2B企業にとってはおさえておく価値のあるマーケティング手法だといえるでしょう。

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