地域ブランディング成功のための5つのポイント

経営・ビジネスハック

地域ブランディングとは、まちづくり、地域活性化プロジェクトといったことばにも置き換えられ、ここ数年でメディアにも多く取り上げられるようになりました。古くは「あきたこまち」「仙台牛タン」などの地域特有の特産物を製品化した事例が有名です。 

その他にも、地域が独自にもつアイデンティティを明確にし、ブランドとして認知させることで、地域に住む人々の満足度やロイヤリティを向上させるといった目的もあり、この概念は広義に渡ります。

ここでは、地域ブランディングの目的や背景などの基本情報、成功事例と、成功のための5つのポイントをご紹介します。

 

地域ブランディングの定義と目的

地域ブランディングとは?

地域ブランディングとは、地域そのものが生みだすアイデンティティを、製品や、空間サービスとして発信し、ブランドとして認知してもらう活動を言います。ブランド認知に必要となる地域ブランドのアイデンティティは下記の要素から構成されています。 

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また、地域ブランディングが確立されるためには、地域ブランディング特有の3R(Relationship、Relevance, Reputation)が必要になります。まずは、基本の3Rの概念について簡単に解説します。

 

ブランドイメージは、企業が発信元となり、消費者やステークホルダーに向けて、企業が発信したいブランドイメージを発信します(Relevance)。また、企業はブランドイメージを世の中に発信してくれる支援者となるグループとも、ブランドイメージを共有、関係性を構築します(Relationship)。これは、狙っているブランドイメージを世の中に発信、拡散することが目的です。この支援者グループが、企業のブランドイメージを正しく認知すると、今度は消費者グループへそのイメージを伝達、拡散する活動をします(Reputation)。広報活動をするメディアもこの支援者に含まれます。

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上記の三者が、同様のブランドイメージを認知し、消費者がそのブランドイメージを認知した時に、はじめて「ブランド」が構築されたといえます。

 

地域ブランディングの場合、この三者の関係性が少し複雑になります。下図をご欄ください。(右上が基本の3R、左が地域ブランディングの3R)

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まず、発信者(一番上)は行政と移住者を含む住民になります。これを実現するためには、まず、行政と住民・移住者が、地域ブランドのイメージを共有する必要があります。そのため、住民と移住者は、発信者であり、情報発信の支援グループである右下のグループにも記載されています。

行政が、住民・移住者とブランド認知に必要な関係性を構築(Relationship)を実現した後に、地域外の消費者や観光客といった人々に地域ブランドのコンセプトを広めていくプロセスが理想的です。

 

地域ブランディングが必要になった背景

高度経済成長期のトレンドとなった都市型ライフスタイル期を経て、2008年のリーマンショック以降、経済低迷期に入った日本に残されたものは、地方都市の過疎化や少子高齢化といった社会問題でした。こういった、地方都市の財務体制の弱体化を強化する1つの施策として実施された平成大合併は、地方都市のアイデンティティをより曖昧なものにしました。また、この頃、中国や東南アジアからの安価な製品が輸入されるようになり、高品質・高価格である地方の特産品は競争性を失い、地場産業は脆弱化、地方の税収が減少するという事態を招きました。

 

これらの負のサイクルをなんとか巻き返そうと、地域が独自で持っている、他にはない差別化できる魅力、例えば、特産品や、伝統品、食文化、空間、歴史といったアイデンティティを明確にし、世間にその魅力を認知させることで、企業や住民を地域に呼び戻したり、海外からの観光客を呼び入れ、地域を活性化しようという動きが地域ブランディングの起こりです。

 

 

地域ブランディングの成功事例

それでは、地域ブランディングの成功事例を通して、その効果について理解を深めていきましょう。

 

事例1:瀬戸内海「直島(なおしま)」

瀬戸内海「直島(なおしま)」は「島×生活×アート」をキーワードに地域ブランディングに成功した香川県の離島です。平成4年にはたった約3万人であった観光客を、平成25年には23倍にあたる約66万人に増やすという快挙を遂げています。また、その中には欧米、中国などからの海外観光客を多く含んでいることが他県と異なる特徴です。

 

直島のアイデンティティ「島×生活×アート」とは?

この3つは直島が持つ、言わばアイデンティティとなる独自の産品や空間を表現したものです。

 

「島」

直島の主要産業は、漁業である海苔やハマチの養殖、製塩業です。それから、海に囲まれた自然。まずこれが島です。

 

「生活」

島らしさを残した古民家が多く見られます。これは、行政が行った家プロジェクトによって、空き家になった古民家を改修し、アーティストが作品化したものです。

 

「アート」

上述した家プロジェクトの他にも、文化財や、建築家の安藤忠生氏による博物館をはじめとする作品群や、アーティストによって作られた町役場、町民会館などが多くあります。

これは、岡山に本社を置くベネッセコーポレーションの創業者、福武社長が1985年からはじめたプロジェクトが始まりとなっています。過度な都会化を嫌った福武社長は、岡山に接する自然を多く有する瀬戸内の島に世界中の子どもたちが集まれる場を作る構想を開始しました。1992年にベネッセハウスをOPENし、年月をかけてアートを島独自のものに根付かせてきたという歴史があります。

(詳しくはこちら)http://benesse-artsite.jp/about/history.html

 

この3つのキワードには、ブランディングを認知させるために必要な3つの価値が存在しています。1つ目は、島に来て、島独自の美術館、島独特のゆったりとした空間で美術感めぐりや、買い物、食事を過ごすことのできる「体験価値」。そして、この「アート」は、直島のそもそももっている独自の美しさを発信する「視覚価値」。最後に、住民がこういったほかの土地では体験できない情緒的でアーティスティックなまちに身を置いているという「共鳴価値」です。

 

こういったアイデンティティや価値を、移住を検討する人向けに作られたサイトが「NAOSHIMA COLORS(直島カラーズ)」です。島外の人々が移住のための不動産情報や生活情報を収集したり、島での仕事を探すことも可能です。ウェブサイトは、直島が持つ自然やアートなどのアイデンティティが打ち出されたブランディングデザインが施されています。

 

成功要因はフィロソフィーを住民に定着させたプロセス

直島では、観光地化することで税収を上げ、島の活性化に成功していますが、これを成功できる行政は多くありません。直島が成功した大きな理由は、観光業で成功していながら、観光業を地域ブランディングの目的としていない点にあります。

 

直島の行政は、常に島民の「島満足度」を意識しており、定期的な調査、課題抽出、解決策の提案(PDCA)を実施しています。こういった調査から、住民が行政に改善して欲しい問題は、島特有の問題である、医療や福祉の不足、交通の不便さなどであることはわかっています。こういった、住民の希望に応えられる形を取るために、計画書では観光業を主眼におかず、「まずは島満足度を向上させ、住民が誰かを招待したくなるような自慢の島を作り上げ、その結果、多くの人が島を訪問する」というスローガンを掲げています。

 

 

事例2:島根県 海士町

島根県と言えば、1960年を皮切りに急速な人口減少が始まり、2014年には人口70万人をきり、日本の人口ランキングでは46位に位置しています。そんな島根には、大小約80の島々からなる隠岐の島諸島が存在し、本土よりもその過疎化や財務状況は深刻な状況でした。今回取り上げる海士町の2002年時の借金総額は105億円。破綻寸前に追い込まれていました。しかし、地域ブランディングの長期的な実施により、現在ではIターン定着率48%、廃坑寸前であった隠岐島前高校の受験倍率を2.4倍に引き上ることに成功しました。

 

地域ブランディングの根幹となるフィロソフィー

海士町のポスターや職員名詞にロゴ兼フィロソフィーとして使われているキャッチコピーが「ないものはない」。これは、無くてもよい、大事なことは全てここにあるという2つの意味を表しています。地域同士の繋がりを大切にし、無駄なものを求めず、シンプルで満ち足りた暮らしから幸せを得ようという想いが込められています。

地域ブランディングの肝となるアイデンティティそのものをフィロソフィー起用している点が、興味をそそります。

 

海士島でしか手に入らないものって?

・島でとれる新鮮な海鮮物

これをそのままの味で保存し、出荷するために平成17年にCAS(Cells Alive System)という冷凍技術を導入。離島であることで鮮度が劣化するという障壁がなくなり、年々着実に売上を伸ばしています。

 

・島でしか飼育できない隠岐牛

従来、神戸牛や松阪牛などといったA5にランク付けされる牛を子牛の時期に販売していた隠岐牛を、現在は、島内で完全肥育しています。隠岐牛は、徐々にブランドとして認知されつつあります。

 

・島でしかできない島留学制度の実施。

島留学制度とは、島以外の住民を迎え入れ、寮生活を送りながら学校に通うシステムです。この制度導入の背景には、島の住民の声がありました。

限られた生徒数の中で生徒の親は、「刺激や競争がない」「多様な価値観との出逢いがない」「新しい人間関係をつくる機会がない」といった課題を抱えていました。それでは、島外から生徒を誘致し、こういった課題を解決し、島外の生徒には、島特有の限られた空間でしかできない教育プログラムを提供するという独自の島留学制度を考案しました。

 

海士町は、限られたモノ・コトから、海士町にしかないアイデンティティを明確に打ち出し続けました。地域が抱える課題をチャンスに変え、住民とのポジティブな関係性を構築していることが地域ブランドを継続して一貫したイメージで発信し、認知させることに成功しています。

 

 

地域ブランディング成功のための5つのポイント

上記のように、地域ブランディングに成功している行政はまだまだ多くありません。それは、地域ブランディングを戦略的に実施しないが故に、持続性のないブランディング活動を実施していることが理由の1つです。こういった失敗を回避するためのポイントを下記にまとめました。

 

1)企画先行、プロダクト先行型にならない

マーケティング戦略でも陥りがちなプロダクト先行型。「こんな地域産品がテレビで話題になっていた!うちでも独自の特産品や加工品を企画したら売れるんじゃないか!?」といった安易な予測に基づいた企画は危険です。アンケート調査や市場調査を実施し、市場や住民の実際の声に耳を傾けることが大切です。

 

2)アイデンティティを明確に

他地域にはない、独自性の高い差別化ポイントを明確にします。

冒頭でご紹介した、地域ブランドを構成する図を参考に、1つずつでも上げていくと地域のアイデンティティが明確になってきます。チーム員全員でできる限り、情報を出し合って、全ての意見をホワイトボードなどに書き出し、視覚化するとよりアイデンティティがどこにあるのかが特定しやすくなります。これは、時間をかけて行うべきプロセスです。

 

3)フィロソフィー、キャッチコピー、ロゴ、ブランドカラーを決める

フィロソフィーとは、地域ブランディング活動を通して、どういった価値を誰に提供していきたいかという理念です。こういった理念を、人々にさらに分かりやすく発信するためにロゴやブランドカラーなどのブランディングデザインが存在します。ポスターやチラシ、ウェブサイトで使用するキャッチコピー、ロゴ、ブランドカラーなどは、ステークホルダーに視覚で訴求できる効果的なコミュニケーションツールです。ブランド認知を高めるために、ブランドフィロソフィーを的確に落とし込んだブランディングデザインを制作します。

 

4)現代のトレンドである「体験型」を意識する

現代の消費者は、特産品がただ店舗に置かれているだけでは、購買意欲をさほど触発されません。それが、地域独自の文化的建造物や家屋の中で、お茶や試食という体験と通した販売方法であると、その製品自体の魅力が空間と体験によって高まるという現象が起きます。ただ、売るのではなく、消費者に体験を通して感動や共感を提供する場を創出することがポイントです。

 

5)3Rをとことん意識する

地域ブランディングでよくある失敗は、行政が一方的な発信者となり、ブランド醸成に欠かせない関係者から共感を得るという目的を見失いがちです。3Rの関係構築が実現できていれば、行政は住民の「協力」や消費者からの「共感」を得ることができ、ブランド認知が実現します。また、行政が、地域ブランディングの継続性を維持するためには、一時的な政府からの経済補助に頼らず、持続性可能な製品、サービス、産業や事業を立案することが重要です。

  

まとめ

地域ブランディングは、行政と住民の関係性構築が非常に重要になります。住民は、発信者であり、インフルエンサーの立場でもあります。成功事例でご紹介したいずれの行政も、住民との良好な関係性を構築することが地域ブランディングの成功要因となっています。ブランド認知に必要な3Rのロジックを正しく理解し、実践に活用していきましょう。

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