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イノーバマーケティングチーム2024/03/26 13:32:052 min read

【保存版】M&Aや事業再編に伴うブランド統合・再構築の完全ガイド

はじめに

近年、企業間のM&Aや事業再編が活発化している。グローバル競争の激化や技術革新の加速により、企業は競争力強化や成長機会の獲得を目指して、戦略的なM&Aや事業ポートフォリオの見直しを積極的に行うようになった。こうした企業の再編においては、ブランドの統合や再構築が重要な課題となる。

ブランドは企業の顔であり、顧客との接点となる重要な経営資源だ。M&Aや事業再編に伴うブランド統合では、複数のブランドを一体化し、シナジー効果を発揮することが求められる。一方、不要なブランドを切り離し、残すブランドを再構築することで、ブランド価値の向上を図ることも必要だ。

ブランド統合の成否は、企業の競争力に大きな影響を与える。成功すれば、ブランド認知度の向上やブランドロイヤリティの強化につながり、売上拡大や利益率の改善が期待できる。反対に、失敗すれば、顧客の混乱や離反を招き、ブランド価値を毀損するリスクがある。

本稿では、M&Aや事業再編に伴うブランド統合のプロセスについて解説する。ブランド統合が必要となる状況や、統合のステップ、成功事例や課題などを詳しく見ていく。ブランド統合に取り組む企業の実務家の方々に、少しでも参考になれば幸いである。

ブランド統合が必要となる状況

ブランド統合が必要となる代表的な状況として、M&Aと事業再編が挙げられる。

M&Aは、企業が他社を買収したり、他社と合併したりすることで、事業規模の拡大や新たな市場の獲得を目指す戦略だ。M&Aによってブランド統合が必要になるのは、買収先企業のブランドをどう取り扱うかという問題があるからだ。買収先企業のブランドを残すのか、自社のブランドに吸収するのか、あるいは新しいブランドを創るのか。こうした判断は、買収の目的や統合後のビジネスモデル、ブランド間のポジショニングなどを総合的に考慮して決める必要がある。

例えば、高級ブランドを展開する企業が、より大衆向けのブランドを買収した場合、両ブランドの価値を守るために、ブランドを分けて運営することが望ましいだろう。一方、同業種の企業同士のM&Aでは、ブランドを統一することでシナジー効果を発揮し、効率的な経営を目指すことができる。

事業再編は、企業が事業ポートフォリオを見直し、非中核事業を切り離すことで、経営資源を集中し、収益性を高める戦略だ。事業再編に伴うブランド統合では、切り離す事業のブランドをどう取り扱うかが問題となる。売却先企業のブランドに吸収されるのか、独立したブランドとして存続するのか。また、残る事業のブランドをどう再構築するかも重要な課題だ。

例えば、総合電機メーカーが、家電事業を切り離し、産業用機器事業に経営資源を集中するケースでは、家電ブランドを売却先企業のブランドに統合し、産業用ブランドを再構築することが考えられる。ブランド再構築では、新しいブランドビジョンや価値を定義し、ブランドアイデンティティを刷新することが求められる。

ブランド統合のプロセス

では、ブランド統合のプロセスを具体的に見ていこう。ブランド統合は、一般的に以下の5つのステップで進める。

ステップ1: ブランド監査

ブランド統合の第一歩は、既存ブランドの評価と分析だ。統合対象のブランドについて、その資産価値や顧客からの評価、認知度などを把握する。ブランド監査では、財務データやマーケティングデータ、顧客調査などを活用し、ブランドの強みと弱みを可視化する。

具体的には、ブランドの売上高や利益率、市場シェアなどの定量的なデータに加え、ブランドイメージや連想、ロイヤリティなどの定性的なデータを収集・分析する。また、競合ブランドとの比較や、ブランドポートフォリオ全体での位置づけも確認する。

こうしたブランド監査を通じて、統合後のブランド戦略の方向性を見定めることができる。例えば、買収先企業のブランドが自社ブランドよりも高い認知度と好感度を持っていれば、買収先ブランドを残すという選択肢が有力になるだろう。

ステップ2: ブランド戦略の策定

ブランド監査の結果を踏まえ、次に統合後のブランド戦略を策定する。ブランド戦略では、統合後のブランドのビジョンと価値を定義し、ブランドアーキテクチャーを設計する。また、各ブランドのポジショニングを明確化し、ブランド間の関係性を整理する。

ブランドビジョンは、統合後のブランドが目指す姿であり、企業の経営ビジョンと整合している必要がある。ブランド価値は、顧客に提供する機能的価値と情緒的価値を表したもので、他ブランドとの差別化ポイントを示す。

ブランドアーキテクチャーは、企業が展開する複数のブランドの構造と関係性を示したものだ。ブランドを統合する際は、マスターブランドとサブブランドの関係や、ブランド間の階層構造を再設計する。例えば、買収先企業のブランドを自社の傘下ブランドとして位置づけるのか、独立したブランドとして運営するのかを決める。

ブランドポジショニングは、各ブランドの狙う市場領域や顧客セグメント、提供価値などを明確にすることだ。統合後のブランドポートフォリオにおいて、各ブランドの役割と位置づけを定義し、棲み分けを図る。

ステップ3: ブランドアイデンティティの開発

ブランド戦略が決まったら、次はブランドアイデンティティの開発に移る。ブランドアイデンティティは、ブランドの視覚的・言語的な表現であり、ロゴやデザイン、ネーミング、メッセージなどが含まれる。

統合後のブランドのネーミングは、既存ブランドの資産を活かしつつ、新しいブランドビジョンに合致したものにする必要がある。例えば、買収先企業のブランドを自社ブランドに吸収する場合は、自社ブランドの名称を一部変更したり、買収先ブランドの名称を併記したりすることで、ブランドの連続性を保つことができる。

ロゴやデザインは、ブランドの個性や価値を視覚的に表現するものだ。統合後のブランドロゴは、既存ブランドのイメージを継承しつつ、新しいブランドビジョンを反映したデザインにすることが求められる。また、買収先ブランドのロゴを活かす場合は、自社ブランドのデザインとの統一感を持たせることも重要だ。

ブランドメッセージは、ブランドの価値や個性を言葉で表現したものだ。統合後のブランドメッセージは、新しいブランドビジョンや顧客への提供価値を端的に伝えるものでなければならない。

こうしたブランドアイデンティティの開発には、社内外のデザイナーやコピーライターなどの専門家の力を借りることが有効だ。ただし、最終的な判断は経営者が行う必要がある。

ステップ4: 社内への浸透と研修

新しいブランドアイデンティティが開発できたら、次は社内への浸透と研修を行う。ブランド統合の成否は、社員一人ひとりがブランドの価値や個性を理解し、実践できるかどうかにかかっている。

社内浸透では、経営者自らがブランド統合の意義や目的を説明し、社員の理解と協力を求めることが重要だ。新しいブランドビジョンや価値を分かりやすく伝え、ブランドを体現する行動指針を示す。また、ブランドに関する情報を社内報やイントラネットで継続的に発信し、社員の意識を高める。

ブランド研修は、社員がブランドの価値や個性を深く理解し、実践するためのプログラムだ。営業や販売、サービス部門の社員を中心に、ブランドの基本知識やコミュニケーションスキルを身につける。また、ブランドの実践事例を共有し、成功要因を学ぶ。

こうした社内浸透と研修を通じて、社員一人ひとりがブランドアンバサダーとなり、お客様との接点でブランド価値を体現することができる。

ステップ5: 外部への発信とプロモーション

最後に、統合後のブランドを外部に発信し、プロモーションを行う。ブランド統合の発表は、統合の目的やビジョン、提供価値を明確に伝えることが重要だ。記者会見やプレスリリース、ウェブサイトでの告知などを通じて、ステークホルダーに統合の意義を説明する。

統合後のブランド価値を訴求するために、マーケティングキャンペーンを展開することも有効だ。広告や販促施策、イベントなどを通じて、新しいブランドの認知度を高め、顧客の理解を深める。また、統合に伴う混乱を避けるために、顧客への丁寧な説明とフォローが欠かせない。

ブランド統合の発表後も、ステークホルダーとの継続的なコミュニケーションが重要だ。統合の進捗状況や成果を適宜報告し、ブランドに対する信頼を高める。また、顧客からのフィードバックを収集し、ブランド戦略に反映することで、ブランド価値の向上につなげることができる。

ブランド統合の成功事例

ここでは、ブランド統合の成功事例を2つ紹介しよう。

事例1: 日本たばこ産業(JT)のM&Aにおけるブランド統合

日本たばこ産業(JT)は、1999年にRJRナビスコ社の海外たばこ事業を買収し、世界有数のたばこメーカーに躍進した。買収に伴うブランド統合では、「ウィンストン」「キャメル」「マイルドセブン」など、グローバルブランドと国内ブランドを統合し、シナジー効果を発揮することに成功した。

統合後のブランド戦略では、「ウィンストン」をグローバルフラッグシップブランドに位置づけ、「キャメル」を高付加価値ブランド、「マイルドセブン」を国内基幹ブランドとして、棲み分けを図った。また、各ブランドの個性を活かしつつ、JTのコーポレートブランドを全面に打ち出すことで、グループとしての一体感を高めた。

ブランド統合の成果は、売上高の拡大に如実に表れ、JTのグローバル展開を加速させた。

事例2: 日本航空(JAL)の事業再編によるブランド再構築

日本航空(JAL)は、2010年に経営破綻し、会社更生法の適用を受けた。事業再生に向けて、不採算路線からの撤退や子会社の売却など、大規模な事業再編を断行。これに伴い、JALブランドの再構築にも取り組んだ。

ブランド再構築では、「お客様第一」「安全運航」「社会への貢献」を新たなブランド価値に掲げ、世界最高水準のサービスを提供することを宣言した。また、ロゴやデザインを刷新し、機内サービスや制服なども一新することで、ブランドイメージの刷新を図った。

再生後のJALは、顧客満足度や定時運航率で高い評価を獲得し、経営指標も大幅に改善した。2012年には、営業利益で1,950億円の黒字を達成。2020年には、顧客満足度調査で世界のエアラインの中で4年連続で1位に輝くなど、ブランド再構築の成果を示した。

JALの事例は、事業再編とブランド再構築を同時に進めることで、企業の再生と価値向上を実現した好例と言えるだろう。

ブランド統合の課題と対策

ブランド統合は、企業の競争力強化や成長戦略の実現に欠かせない取り組みだが、いくつかの課題もある。ここでは、代表的な課題とその対策を見ていこう。

組織文化の違いによる摩擦

M&Aによるブランド統合では、組織文化の違いが大きな障壁となることがある。買収先企業と自社の価値観やビジネススタイルが異なると、社員間の摩擦が生じ、統合作業が難航するケースがある。

こうした課題への対策としては、統合前から両社の文化を理解し、尊重し合うことが重要だ。経営層が率先して、コミュニケーションを図り、社員の不安を取り除く努力が求められる。また、統合後は、新しい企業文化の構築に向けて、社員の参画を促し、一体感を醸成することが欠かせない。

顧客の混乱と離反リスク

ブランド統合では、顧客の混乱や離反のリスクもある。特に、買収先企業のブランドを廃止する場合、顧客からの反発を招く恐れがある。

こうしたリスクへの対策としては、顧客への丁寧な説明とフォローが重要だ。ブランド統合の目的や提供価値を分かりやすく伝え、顧客の不安を解消する。また、統合後も、顧客との対話を重ね、ニーズを把握し、サービス改善に活かすことが求められる。

ブランド価値の毀損リスク

ブランド統合では、ブランドの価値を毀損するリスクもある。買収先ブランドを安易に廃止したり、自社ブランドに無理に吸収したりすると、ブランドの個性や信頼が失われ、顧客離れを招く恐れがある。

こうしたリスクへの対策としては、ブランド監査を徹底し、各ブランドの資産価値を正しく評価することが重要だ。その上で、ブランド統合の方向性を慎重に見極め、ブランドの個性を活かす戦略を立てる必要がある。また、統合後も、ブランドの価値を継続的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行うことが求められる。

統合プロセスの効果的なマネジメント

ブランド統合では、複雑なプロセスを効果的にマネジメントすることも重要な課題だ。多岐にわたる統合作業を円滑に進めるには、関係部門の連携と全体最適が欠かせない。

こうした課題への対策としては、トップのリーダーシップとプロジェクトマネジメントが重要だ。統合の目的や方針を明確に示し、関係部門の役割と責任を明らかにする。また、進捗状況を定期的に確認し、課題を早期に発見・解決する仕組みを整える。外部の専門家の知見を活用することも有効だ。

まとめ

本稿では、M&Aや事業再編に伴うブランド統合のプロセスについて解説した。ブランド統合は、企業の競争力強化や成長戦略の実現に欠かせない取り組みだが、複雑なプロセスをマネジメントする必要がある。

ブランド統合を成功させるためには、まず、ブランド監査を徹底し、各ブランドの資産価値を正しく評価することが重要だ。その上で、統合後のブランドビジョンと価値を明確に定義し、ブランドアーキテクチャーを再設計する。また、ブランドアイデンティティを刷新し、社内外へ効果的に発信することが求められる。

ブランド統合には、組織文化の違いによる摩擦や顧客の混乱、ブランド価値の毀損などのリスクもある。こうしたリスクに対しては、経営層のリーダーシップとコミュニケーション、顧客への丁寧な説明とフォロー、ブランド価値のモニタリングなどが欠かせない。

本稿で紹介したJTやJALの事例は、ブランド統合による企業価値の向上を示した好例だ。M&Aや事業再編を機に、ブランド統合に取り組む企業は少なくない。本稿が、ブランド統合に取り組む企業の一助となれば幸いである。

ブランド統合は、企業の未来を左右する重要な経営課題だ。市場環境や顧客ニーズの変化を踏まえつつ、自社の強みを活かしたブランド戦略を構築することが求められる。ブランドの力を結集し、新たな価値を創造することで、企業の持続的な成長を実現していくことが期待される。

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