Skip to content
宗像 淳 / イノーバCEO2024/11/18 14:14:231 min read

ROI攻略④|ROIの可視化がもたらす組織変革

▶前回「具体例で学ぶ!マーケティングROIの計算方法」はこちら

「マーケティングから来るリードの質が低すぎる」

 「せっかくの商談機会も、なかなか成約に結びつかない」 

「投資対効果が見えないから、予算が通らない」

このような声は、多くのBtoB企業でよく聞かれます。マーケティング部門、営業部門、経営層、それぞれが異なる課題を抱え、お互いの不満が積み重なっていく...。

しかし、ROIの可視化を実現した企業では、こうした部門間の溝が埋まり始めています。データに基づく対話が、組織全体にポジティブな変化をもたらしているのです。

ある製造業A社での具体的な変革事例を見ていきましょう。

 

マーケティング責任者 田中さんのケース

Before:数値化できない成果と予算獲得の苦労

田中さんは毎月の経営会議を憂鬱に感じていました。

「今月の展示会では来場者数が前年比120%、名刺も500枚集まりました。Webサイトのアクセス数も20%増加しています」

しかし、この報告に対する経営陣からの反応は毎回同じでした。 

「それは分かった。でも実際の売上にどう貢献しているんだ?」

具体的な数字での説明ができず、いつも歯切れの悪い回答に終始します。そして予算策定の時期が近づくと、根拠となるデータがないため、前年と同じ配分で予算を組むのが精一杯でした。

「展示会に年間1,000万円、Webマーケティングに500万円...。この配分で本当に良いのか自信が持てない」

なにより問題だったのは、マーケティング活動の結果を数値で示せないため、追加の施策を提案することすらできない状況だったのです。

 

After:データで語るマーケティングの実現

それが、リードファネルの可視化を導入してからは、状況が大きく変わりました。

 

展示会後の経営会議での田中さんの報告

「先月の展示会について、具体的な数字でご報告します。

  • 獲得した500件のリードのうち、当社のターゲット層が52件(10.4%)
  • その中から25件のMQL(マーケティングリード)を創出
  • インサイドセールスのフォローにより12件が営業リードに
  • 現在5件が具体的な商談に進展、2件が受注見込み

特筆すべきは、リード1件あたりのコスト比較です。

  • 展示会:4万円/リード
  • Webマーケティング:1.2万円/リード
  • セミナー:2.5万円/リード

さらに、商談化率を加味した商談創出コストは、

  • 展示会:80万円/商談
  • Webマーケティング:13.3万円/商談
  • セミナー:20.8万円/商談

このデータを踏まえ、来期はWebマーケティングの予算を40%増額し、展示会予算の一部をセミナーに振り替えることを提案させていただきます」

 

経営陣の反応も大きく変化

「具体的な数字があると、判断しやすいね。ただ、展示会は本当に縮小して良いのか?」

「はい。実は展示会については、アフターフォロー施策を追加することで、もっと効果を高められると考えています。

  • 現在の展示会ROI:187.5%
  • フォローアップ施策(資料送付、セミナー招待等)を追加した場合の予測ROI:625%
  • 追加コスト:1展示会あたり20万円

このように、予算を削減するのではなく、まずは既存施策の効果最大化を図りたいと考えています」

このように、データに基づいた提案ができるようになった結果、マーケティング部門の発言力は確実に高まっていきました。

 

営業責任者 鈴木さんのケース

Before:質の低いリードに振り回される日々

鈴木さんの部署では、深刻な問題を抱えていました。

「先月マーケティングから100件のリードをもらったが、実態はこんな状況です。

  • 予算も導入時期も未定の初期検討段階が83件
  • そもそも自社製品の対象市場ではないリードが42件
  • 営業担当者が1件あたり平均2時間かけてヒアリング
  • 最終的に商談化したのは2件のみ

単純計算で、200時間の営業時間のうち、196時間が実質的な無駄になっています」

チームのメンバーからも不満の声が上がっていました。 

「これでは既存顧客のフォローに十分な時間が取れない」 

「売上目標は達成できそうにない」

 

After:効率的な営業活動の実現

リードファネルの可視化後、状況は劇的に改善しました。

「新しいリードスコアリングシステムにより、優先順位付けが明確になりました。

 

スコアA(予算確定・導入意向あり)

  • 24時間以内に営業接触
  • 全体の15%程度だが、商談化率85%
  • 平均受注までの期間:3ヶ月

スコアB(予算検討中)

  • 1週間以内にインサイドセールスが詳細ヒアリング
  • 全体の35%程度、商談化率40%
  • 平均受注までの期間:6ヶ月

スコアC(情報収集段階)

  • メールマガジンや資料送付による育成
  • 全体の50%、3ヶ月後に再評価

この仕組みの導入により、

  • 商談化率:2%→23%に向上
  • 受注までの期間:平均8ヶ月→5ヶ月に短縮
  • 営業一人あたりの売上:1.4倍に増加

といった成果を出すことができました。」

その結果、かつて不満の声が上がっていたチームメンバーからは、「質の高いリードに集中できるようになり、既存顧客のフォローにも十分な時間が取れるようになった」「具体的な成果が見えることでモチベーションも上がった」という声が聞かれるようになりました。第2四半期には部門全体の売上目標も達成。マーケティング部門との信頼関係も大きく改善されています。

 

経営者 佐藤社長のケース

Before:モヤモヤとした投資判断

佐藤社長は、いつも歯がゆい思いをしていました。

「マーケティングに毎月100万円、営業活動費に50万円。年間で1,800万円以上を投資しているが、本当にこれで良いのだろうか?」

月次の経営会議では、このような会話が繰り返されていました:

マーケティング:「セミナー参加者が増えています」

 社長:「それは売上につながるのか?」 

営業:「商談は増えていますが、なかなか成約まで時間がかかって...」

 社長:「では、いつ頃結果が出るんだ?」

特に悩ましかったのは、予算配分の判断材料の不足でした。

  • 展示会とWebマーケティング、どちらにより投資すべきか?
  • インサイドセールスの人員は増やすべきか?
  • 来期の売上予測の確度は?

After:データに基づく戦略的意思決定

リードファネルの可視化により、経営判断が明確になりました。

1.施策ごとのROI把握

展示会:

- 投資額:200万円/回

- 期待利益:750万円

- ROI:375%

 

Webマーケティング:

- 投資額:100万円/月

- 期待利益:450万円

- ROI:450%

 

セミナー:

- 投資額:50万円/回

- 期待利益:280万円

- ROI:560%


2.売上予測の精度向上

過去の転換率から算出した掛け目を確度に応じてAは100%、Bは70%、Cは20%と設定し、

現在の商談パイプライン:

確度A(受注確実):2,500万円 × 100% = 2,500万円

確度B(商談後期):4,000万円 × 70%  = 2,800万円

確度C(商談初期):8,000万円 × 20%  = 1,600万円

予測売上合計:6,900万円

このように、確度に応じた掛け目を設定することで、より現実的な売上予測が可能になります。過去の転換率から算出したこの掛け目を使用することで、±10%の精度で3ヶ月後の売上を予測できるようになりました。

 

3.的確な資源配分

「マーケティング施策の効果が数値で見えるようになり、四半期ごとの予算組み替えが可能になった。特に大きな成果が出ているのは、オンラインセミナーとWebマーケティングの連携施策だ。直近の実績では、

投資額:1,000万円

利益:4,500万円

ROI:450%

という結果が出ている」

この成功を受けて、同社では他の施策についても同様の効果測定と予算の最適化を進めています。

 

成功のための注意点

陥りやすい罠と対策について、これまで紹介してきた皆さんは以下のように語っています。

 

① 完璧主義に陥らない

田中さん(マーケティング責任者):

「最初は完璧なデータ収集を目指して躊躇していましたが、まずは『展示会』『Web』など主要施策のデータ取得から始めることで、早期に効果を示すことができました

 

② 部門間の対立を避ける

鈴木さん(営業責任者):

「当初は『マーケティングのリードの質が悪い』という非難から入ってしまい、関係が悪化。まずは『共通の定義』を作ることから始めるべきでした」

 

③ 短期的な成果を求めすぎない

佐藤社長:

「導入3ヶ月で成果を求めたのは失敗でした。半年から1年のスパンで見ることで、より戦略的な判断ができるようになりました」

重要なのは、それぞれの組織の状況に応じて、これらの教訓を柔軟に解釈し、自社に合った形で適用していくことです。その過程で組織は徐々に、しかし確実に、パワーアップしていくでしょう。

 

まとめ:データがもたらす真の変革

これらの取り組みを通じて、A社では以下のような本質的な変化が生まれました。

  1. 対話の質の変化 
    感覚的な議論から、データに基づく建設的な対話へと進化。部門間の相互理解が深まり、共通言語としての数値指標が確立されました。
  2. 意思決定プロセスの改善 
    投資判断が明確になり、優先順位付けが容易に。よりスピーディーな判断と実行が可能になりました。
  3. 組織文化の変革 
    結果責任が明確になり、継続的な改善マインドが醸成。データドリブンな組織文化が形成されています。

ROIの可視化による組織変革は容易ではありません。しかし、本記事で紹介したような段階的なアプローチを取ることで、確実に実現可能です。まずは自社の現状を見つめ直し、できるところから一歩ずつ進めていきましょう。その一歩が、組織全体の大きな変革への第一歩となるはずです。

次回はいよいよROI攻略シリーズの最終回です。

最終回「今日から始めるROI改善アクション」では、ROI改善の実践的なアプローチを学んでいきましょう。

▶ROI攻略シリーズ記事一覧

ROI攻略①|待ったなし!なぜ今、マーケティングROIが重要なのか

ROI攻略②|ROI計算の第一歩:リード管理の基本

ROI攻略③|具体例で学ぶ!マーケティングROIの計算方法

ROI攻略④|ROIの可視化がもたらす組織変革【本記事】

ROI攻略⑤|今日から始めるROI改善アクション

avatar

宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。