ROI(投資対効果)。
この言葉は多くのマーケターにとって、時として重圧となることがあります。
「マーケティング予算の効果をどう説明すればよいのか?」
「この施策の投資対効果は十分なのか?」
「追加予算を申請する際、どう説明すれば良いのか?」
今回は、このROI計算の具体的な方法について、実例を交えながら解説していきます。
初心者の方にもできるだけわかりやすいようにかみ砕いていますので、ぜひ一緒にROIの計算方法を身に着けていきましょう!
アウトバウンド営業から学ぶROIの考え方
まず、比較的シンプルなアウトバウンド営業のケースから、ROI計算の基本を見ていきましょう。
例えば、営業担当一人あたりの月間受注目標が300万円だとします。これを達成するために必要な活動量を最終的な目標受注金額から逆算すると、上図の右側から、
- 受注目標金額:300万円
- 受注件数:6件(←受注目標300万円÷商談単価50万円=6件)
- 必要な提案数:18件(←受注件数6件÷受注率33%=提案数18件)
- 必要なアポイント数:45件(←提案数18件÷提案化率40%=アポ数45件)
- 必要な電話件数:6,750件(←アポ数45件÷アポ化率6.66%=電話件数6750件)
こうして、最終的な目標受注金額の300万円を達成するためには、架電が6750件必要であることがわかりました。このように、最終的な目標から必要な活動量を逆算することで、具体的な行動計画が立てられます。
基本的なROI計算の考え方
では、次にこのアウトバウンド営業のROIを計算してみましょう。
アウトバウンド営業の場合:
仮に営業担当の人件費を50万円(給与40万円×福利厚生1.2倍)、利益率を50%とすると、
- 投資額(月額):営業人件費 50万円(給与40万円×福利厚生1.2倍)
- 期待利益:300万円(受注額)×50%(利益率)= 150万円
- ROI = (150万円÷50万円)×100 = 300%
ROIは300%と計算することができました。
この例から分かるように、ROI計算の本質は、
- 必要な投資(コスト)の明確化
- 期待できるリターンの具体的な算出
- 両者の関係性の定量化
にあるのです。
展示会ROIの具体的計算例
今度は、展示会のROIを具体的に計算してみましょう。
まずは、シンプルに展示会単体での効果を試算します。
ステップ1:投資額を整理する
今回のケースでは、1回の出展にかかる費用は200万円とします。
ステップ2:期待できるリターンを試算する
このとき重要なのは、リードのファネル(漏斗)を意識しながら計算することです。
見込めるリード数を50件(=名刺50枚)とすると、ここから最終的に何件の受注が期待できるでしょうか?
段階的に見ていきましょう。
- 獲得リード→MQL(マーケティングリード)
- 50枚の名刺のうち、約半分(50%)がターゲット層
- 25件のMQLが見込める
- MQL→SAL(営業リード)
- 過去の経験から、獲得名刺の15%程度が営業フォローの対象に
- 7.5件のSALが見込める
- SAL→SQL(商談)
- 営業フォローしたリードの2/3(66%)が商談に
- 5件の商談が見込める
- SQL→受注
- 商談からの受注率は通常30%程度
- 1.5件の受注が見込める
ステップ3:ROIを計算する
では、この数字を基にROIを計算してみましょう。受注単価を500万円、利益率を50%とすると、この展示会での貢献利益は500万円x受注1.5件x利益率50%=375万円となります。
これをROIの公式にあてはめてみると、以下のようになります。
投資額:200万円
期待受注:1.5件
受注単価:500万円
利益率:50%
貢献利益 = 500万円×1.5件×50% = 375万円
⇒ROI = (375万円÷200万円)×100 = 187.5%
ステップ4:結果を評価する
このROIをどう評価すべきでしょうか?
187.5%という数字は、決して悪くはありません。投資額の1.875倍のリターンが期待できるということですから。しかし、展示会という大規模な投資を考えると、もう少し改善の余地がありそうです。
では、どうすれば改善できるでしょうか?ここで検討したいのが、展示会後のフォローアップ施策です。
改善案:フォローアップ施策の追加
展示会で獲得したリードに対して、
- 参考資料をメールで送付
- インサイドセールスで架電フォロー
といった追加施策を実施するとします。
追加コスト:20万円 (マーケティングの各種制作物等)
この追加投資で期待できる効果を試算すると、このようになります。
- リード→MQL
- 転換率が75%に向上(25件→35件)
- より多くのリードが有効なターゲットとして評価される
- MQL→SAL
- 転換率が64.3%に向上(7.5件→22.5件)
- 適切なフォローにより興味度が向上
- SAL→SQL
- 転換率が55.5%に向上(5件→12.5件)
- より多くの商談機会を創出
- SQL→受注
- 転換率が40%に向上
- 最終的に5件の受注が見込める
改善後のROI
ここで、改善後のROIを計算してみましょう。
投資総額:220万円(出展費用200万円+追加コスト20万円)
期待受注:5件
貢献利益:500万円×5件×利益率50% = 利益1,250万円
ROI = (1,250万円÷220万円)×100 = 625%
このように、わずか20万円の追加投資で、ROIを187.5%から625%へと大きく改善できる可能性があることが見えてきました。これこそが、リード育成の重要性を示す好例と言えるでしょう。
ROIを計算したことによって、この展示会は「名刺を集める場」ではなく、「質の高いリードを獲得し、育成するきっかけの場」として捉えることで、より大きな投資効果を期待できることが明らかになりました。
まとめ:ROI改善のポイント
展示会のケースから学べる重要なポイントは以下の3点です。
- ROI計算の基本
- 投資額の明確化
- 期待リターンの具体的な算出
- 改善余地の定量的な把握
- リード育成の重要性
- 単なるリード獲得に留まらない
- 段階的なアプローチの効果
- フォローアップ施策の重要性
- 継続的な改善の必要性
- 数値に基づく効果測定
- 改善施策の検討と実施
- PDCAサイクルの確立
このように、ROI計算は単なる数字合わせではありません。マーケティング活動の効果を最大化するための重要なツールなのです。
苦手意識を持つ方も多いROI計算ですが、まずは逆算して数字を追ってみませんか?
次回「ROIの可視化がもたらす組織変革」では、このようなROI重視の考え方を組織に定着させ、継続的な改善を実現するための具体的な方法について解説していきます。
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ROI攻略①|待ったなし!なぜ今、マーケティングROIが重要なのか
ROI攻略③|具体例で学ぶ!マーケティングROIの計算方法【本記事】