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イノーバマーケティングチーム2025/04/22 14:07:511 min read

【対談】ITよもやま話-10|「ABM=うちには必要ない」という誤解

前回では、「ABM」という考え方が、営業リソースの限られた時代においてなぜ必要不可欠なのかを掘り下げました。

今回はその続きをさらに深掘り。「ABM=一部の外資系企業だけの高度な手法」といった日本企業の根強い誤解、そして導入が進まない理由とは何なのか―現場と経営層の認識ギャップや、マーケティング・営業のオペレーションに与えるインパクトに迫ります。

イノーバCEO / 宗像 淳

東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。

1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。

MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメディアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。

2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。

イノーバ執行役員 / 高村 治男

慶應義塾大学法学部卒業。

NTT→NTT東日本にて、企業向けネットワーク等の実装および運用の企画提案・プロジェクトマネジメントを行う。その後マイクロソフトにて、Office 365 を中心としたクラウドサービスのソリューションスペシャリストとしてセールス・マーケティングを推進。

イノーバでは、インハウスマーケティングを経てマーケティングコンサルティングに従事。

目次

 

「ABM=うちには必要ない」という誤解

宗像:

ABMについて、中堅以上をターゲットにしているIT企業の某社さんと最近お話しして感じたことがあるんですけど…。

その会社の役員の方って、営業ゴリゴリのご経歴で、マーケティングに関してもリテラシーが高いんです。でも、そんな方でも「うちにABMは合わないんじゃないか」っておっしゃっていて。

 

高村:

中堅もターゲットなら、むしろABMど真ん中ですよね。

 

宗像:

まさにそうなんです。明らかにABMがフィットするタイプの企業なんですが、そこが理解されていない。

やっぱりABMって、ちゃんとした情報が日本で流通していないというか、誤解されてると思うんです。アメリカではABMがバズって、ツールやコンサルも一気に普及して、わりと当たり前になってますけど、日本にはうまく翻訳されずに入ってきちゃった感じがあって。

 

高村:

「ABM=一部の外資系がやる高度な手法」みたいなイメージがありそうですよね。

「なんか難しそう」とか「うちにはまだ早い」とか、とっつきにくさを感じてる企業は本当に多いと思います。

重要なポイント

  • ABMは「うちには合わない」「難しそう」といったイメージが浸透の妨げに
  • 日本では正しい理解がまだ広まっておらず、ABM先進国とのギャップも大きい

 

ABMは「今すぐニーズ」も「これからニーズ」も逃さない

宗像:

なんとなく僕が思う誤解の典型が、「大手には営業が会いに行く」「中小はネットで買わせる」みたいな線引きなんですよね。それで、ネットで買わせる領域を“デジマ”(デジタルマーケティング)と呼んで分断しちゃってる。でもこれって、完全に売り手側の視点だよね、と。

 

高村:

今の時代、買い手の情報収集ってもっとバラバラですもんね。規模に関係なく、営業からじゃなくてネットで調べますし。

▶関連記事:BtoBブランディング②|デジタル時代の顧客行動とは?データで見る劇的な変化

 

宗像:

そう。営業マンに情報を聞きに行くっていうより、お客さんが自分で情報を集めて、ある程度意思決定の準備を整えてから動く時代ですよね。売り手が気づいたときには、すでにお客さんの中ではプロジェクトが動き始めていて、「じゃあ具体的な話を聞こうか」っていうフェーズまで進んでいることもある。

 

高村:

特にIT業界だと、ちょっと調べれば情報が手に入るので、「まず営業に聞こう」っていう発想自体がもう珍しくなってきてますよね。

 

宗像:

ですよね。だからこそ、「こちらが気づかないうちに始まっている案件をどうキャッチするか」がすごく重要になってきていると思います。

高村:

お客さんがまだ表に出していない「検討の気配」みたいなものをいかに早く察知できるか、ですよね。

 

宗像:

そうそう。あと、ABMには大きく2種類あると思っていて、ひとつは「守りのABM」。これは、すでに検討を始めている顧客の動きをキャッチして、タイミングよくアプローチする考え方です。

もうひとつが「攻めのABM」。まだニーズが顕在化していない企業に対して、こちらから働きかけて“プロジェクトのきっかけ”をつくるような動きですね。

 

高村:

なるほど、「守りと攻め」それぞれのフェーズでちゃんと狙いを持って動くってことですね。

 

宗像:

そうです。この2つを使い分けられると、機会損失を防ぎつつ、こちら主導で需要を掘り起こす動きもできる。でも、こうした意識って多くの日本企業の中でスカッと抜けちゃってる気がするんですよね。ABMの名前だけ一人歩きしていて、本質的なところがなかなか伝わってないなと。

重要なポイント
  • 今の買い手は企業規模に関係なくオンラインで情報収集を進める
  • 「検討中」も「検討前」もカバーできるのがABMの強み
  • 守りと攻めのABMで、機会損失を防ぎつつ需要を掘り起こす動きもできる

 

ABMの導入を阻む「3つの壁」

高村:

おっしゃる通りで、「なんでABMが必要なの?」って聞かれることはよくありますね。

で、二の足を踏むパターンが3つあると思っていて。

 

宗像:

おお、どんなパターンですか?

 

高村:

まず一つ目は、宗像さんもおっしゃっていた、ABMそのものがまだよくわからない、というところ。具体的なイメージが湧かないというか、「それって結局何をやるの?」みたいな感覚のまま止まっちゃってる。

 

宗像:

やっぱりABMの名前だけ先行して、本質が伝わってないですよね。

 

高村:

そうなんですよ。で、二つ目は「オペレーションが変わるのが怖い」っていう不安。ABMってやっぱり、営業やマーケティングの進め方にも少し手を入れる必要があるので、そこに抵抗がある企業は多いです。

 

宗像:

慣れたやり方を変えるのって、思った以上にハードル高いですもんね。

 

高村:

三つ目が、ツール導入のハードルですね。実際には慣れちゃえばすごく効率的なんですけど、「トレーニングの時間が取れない」「操作に自信がない」って理由で、導入を見送ってしまう企業も少なくない印象があります。

 

宗像:

特に日本だとシステムの仕様に業務を合わせる文化があまりないですからね。余計にツールに身構えちゃうのかもね。

 

高村:

まさにそうで、「日本企業向けのABMツールがもっと出てくれば…」って期待してる企業も多い気がします。

重要なポイント

  • そもそもABMの全体像がつかめず、イメージが湧かない企業が多い
  • 営業・マーケティングのやり方を変えることへの抵抗感がある企業も多い
  • ツール導入に対する不安(操作・時間・習熟)もABM導入の大きな障壁になる

 

現場は限界を感じているのに、上が動かない?

高村:

あと、意思決定に近いキーマンほどABMを敬遠しがちですね。一方で、現場のキーマンたちは「もうインバウンド型(※)のリード獲得じゃ限界だ」って気づき始めてるんです。「幅広く餌をまいて、誰が食いつくか待つ」みたいなやり方では、そもそも適切な顧客が来ない。ターゲットの幅が広すぎるとコンテンツづくりも大変すぎて、リソース的に持たない。

(※)インバウンド…顧客からの問い合わせや資料請求など、相手から自発的に接点を持ってくる「待ち」の営業・マーケティング手法。

 

宗像:
だからこそ、ABMで狙う企業を絞って、的を絞ったアプローチを仕掛ける必要があると。

高村:
はい。そういう意味では、最近は「ABMをやりたい」と言ってくれる現場の方も増えてきたので、少しずつ空気が変わってきた感じはあります。

 

宗像:

なるほどね~。たぶん外資系の企業だと、CMO(最高マーケティング責任者)や、エンタープライズ営業の責任者みたいな人が「ABMは当然やるべきだよね」という共通認識を持っていて、その上で「うちの場合はやる/やらない」とか「どこにどこまで取り入れるか」といった前向きな議論ができると思うんですよね。

でも、日本企業だと、役職者がABMをちゃんと理解していないことも多くて、現場でやりたいと思っていても、上を説得できないっていう構図、結構あるんじゃないですか?

 

高村:

あるあるですね。経営層が「ABMってよくわからないし、うちには必要ないんじゃないか」っていうスタンスだと、そもそも議論が始まらないですから。

重要なポイント

  • ターゲットが広すぎると施策が非効率になるので絞り込みが必要
  • 現場からは「ABMをやりたい」という声も聞かれるようになってきた
  • しかし必要性が上層部に伝わっておらず、足踏みしている状態

 

まとめ

ABMが日本で浸透しにくい理由は、決して“難しさ”だけではありません。そもそも全体像が知られていない、導入の現場にオペレーション上の不安がある、ツールへの抵抗感が強い、さらには現場と経営層の温度差が大きい──こうした多層的な課題が、企業の「やりたいのに進まない」を生んでいます。

しかし今やABMは、限られた営業リソースで成果を最大化するための“基本戦略”。売り手中心の発想から抜け出し、顧客視点で狙いを定めて動く。その土台を整えることこそが、これからの営業・マーケティング連携に求められています。

 

次回予告

次回「求められているのは『気づきを与える』営業」では、ABMを実践する上で避けて通れない“営業人材”の課題に踏み込みます。

「関係性を築く営業」から「課題を深掘りし、気づきを与える営業」へ。

その転換を支えるABMの役割とは?さらに、チャレンジャーセールスを支える仕組みとしてのABMの可能性についても掘り下げていきます。お楽しみに!

 

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株式会社イノーバの「イノーバマーケティングチーム」は、多様なバックグラウンドを持つメンバーにより編成されています。マーケティングの最前線で蓄積された知識と経験を生かし、読者に価値ある洞察と具体的な戦略を提供します。