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イノーバマーケティングチーム2025/04/22 14:08:361 min read

【対談】ITよもやま話11-|求められているのは「気づきを与える」営業

前回では、ABMにまつわる誤解や、日本企業における導入の壁について掘り下げました。
今回はさらに一歩踏み込み、「ABMをやりたくても進まない」現場のリアルに迫ります。

キーワードは「営業人材」と「提案力」
ABMが本当に機能するためには、どんな組織と人材が必要なのか。実践視点で語っていきます。

イノーバCEO / 宗像 淳

東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。

1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。

MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメディアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。

2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。

イノーバ執行役員 / 高村 治男

慶應義塾大学法学部卒業。

NTT→NTT東日本にて、企業向けネットワーク等の実装および運用の企画提案・プロジェクトマネジメントを行う。その後マイクロソフトにて、Office 365 を中心としたクラウドサービスのソリューションスペシャリストとしてセールス・マーケティングを推進。

イノーバでは、インハウスマーケティングを経てマーケティングコンサルティングに従事。

目次

 

ABMの前に「そもそも営業人材が育っていない」問題

高村:

あとは、人材の問題も大きいと思っていて。大手顧客向けにはトップ営業がしっかりついてるんですが、これから攻めていきたい中堅層や新しい領域を担当できる営業人材がなかなか育っていないんですよね。ABMが機能しそうな領域を任せられる人がいない、っていうケースも結構見ます。

宗像:

たしかに人材の話も重要ですよね。攻めたい領域はあるけど、「じゃあ誰が動くの?」ってなると、なかなか適任者がいない…。そこがボトルネックになってる企業が多い気がします。

そういえば、以前聞いて印象的だった話を思い出しました。ある印刷会社の方のお話で、印刷会社さんっていわゆる「御用聞き営業」の文化が根強いそうなんですね。

 

高村:

既存のお客さんのところに足繁く通って、「何か困ってることありませんか?」と聞きに行くスタイルですね。

 

宗像:

そう。それが基本なので、自ら新しいお客様にアプローチして関係をゼロから築いていく、いわゆる新規開拓が得意な営業があまり育ってこなかったそうなんです。だから新規開拓をするときには、専任の新規開拓チームを作って、そこに心臓の強い人(笑)を配置するらしくて。

そういう話を聞いてると、「ABMをどうこう言う前に、まず一定レベルの営業人材が育っていない」っていう構造的な課題も感じますね。これは業種に関わらず、あるんじゃないかと思います。

 

高村:

たしかに、「営業は関係性をつくるのが仕事」とされてきた背景もあって、課題を深掘りして提案に落とし込むようなスキルって、今までは現場で育ちにくかったのかもしれませんね。でも今後は、お客さん自身もある程度の情報は持っていて、そこに対して「なるほど」と思える視点や切り口を提示できる営業じゃないと、なかなか厳しいですから…。

重要なポイント

  • 従来の“御用聞き型”営業では、新規開拓や課題提案に対応しづらい
  • ABMを導入する以前に営業人材が育っていないケースも多い

 

「誰が、どの視点で、どう提案するか」が問われている

宗像:

結局今って、営業にも「コンサル型」の姿勢が求められてきてると思うんです。いわゆるチャレンジャーセールス(※)的に、顧客の前提に対して「本当にそれでいいんですか?」と問い直しながら、気づきを与えていくような。

(※)チャレンジャーセールス…顧客の課題を見極め、従来の考えに“挑戦”するような提案を行う営業スタイル。情報提供や新たな気づきを通じて、購買行動を前に進めるのが特徴。従来の「関係構築型」とは異なり、コンサル型のアプローチに近い。

 

高村:

課題を見極めて、より本質的な提案をしていく必要がありますよね。

 

宗像:

そう。IT業界には、「ソリューションブランドさえ立ち上げれば脱プロダクトアウトできる」という思い込みがある気がするんですよね。例えば、AIソリューションなら「AIトランスフォーマー」というブランドを新たに作って、「弊社はAI時代のビジネスを変革するソリューションブランドを開発しました」って資料を作って、それを武器に営業してたと思うんですよ。でも、今の顧客ってそういうものにはあまり反応しないというか…。

 

高村:

「それ、他社でも似たのありますよね?」ってなりますよね(笑)。

 

宗像:

そうなんですよ(笑)。どの会社も似たような“ソリューションブランド”を持ってる時代だからこそ、最後は「誰が、どの視点で、どう提案するか」が問われてくる

だからこそ、営業側もアップデートしていかないと、ABMでどれだけターゲットを絞っても、成果にはつながらないってことになると思います。

重要なポイント

  • 従来の「製品を売る」営業から「課題を深掘りし提案する」営業へと進化が必要
  • 同じような製品が溢れる今、差がつくのは「誰が・どの視点で・どう提案するか」

 

ABMから始めるチャレンジャーセールス

高村:

そういう意味だと、チャレンジャーセールス的な営業スタイルを育てる上でも、ABMってすごく有効だと思うんです。

 

宗像:

お、そこ気になります。どういう意味ですか?

 

高村:

チャレンジャーセールスって、要するに「相手に新しい気づきを与える」ような営業ですよね。でも、それをいきなり何の情報もない状態からやろうとすると、営業が一人で全部リサーチして、仮説を立てて、ぶつけて…って、かなりハードルが高いじゃないですか。そもそも情報の正しさに確信が持てないことも多いですし。

 

宗像:

しかもそういうやり方って、属人的になりやすいし、再現性が低いですよね。

 

高村:
そうなんですよ。でもABMをやっていると、最初から「狙うべき企業はここ」とターゲットが絞られていて、その企業の関心や反応がある程度見える化できている。そこからスタートすれば、営業としても「何に気づきを与えるべきか」が考えやすくなると思うんですよね。

 

宗像:
なるほど、それは確かに。チャレンジャーセールスをいきなりゼロからやれっていうより、ABMの土台があるから挑戦しやすくなる、と。

 

高村:
もちろん中には「生まれながらのチャレンジャーセールス」みたいな人もいますけどね(笑)。大半の「そうじゃない人」にとっては、ABMって実はチャレンジャーセールスを目指す上での「入り口」にもなると思います。

 

宗像:

それ、ほんとにそうかもしれないですね。営業に「コンサル」的な役割が求められる中で、

ABMから始めるチャレンジャーセールス」っていう流れ、今後ますます増えていく気がします。

重要なポイント

  • チャレンジャーセールス=「相手に気づきを与える」営業
  • ABMにより、ターゲット企業の関心や行動を把握しやすくなる
  • ABMはチャレンジャーセールスの土台をつくる起点にもなる

 

まとめ

ABMを効果的に機能させるためには、仕組みだけでなく「人」の力が欠かせません
営業人材の育成や、コンサル型営業へのシフト…従来の「御用聞き営業」では通用しない時代において、顧客の本音を引き出し、気づきを与える存在(=チャレンジャーセールス)こそが営業の価値となりつつあります。
そしてその営業を支えるのが、緻密に設計されたABMの基盤。チャレンジャーセールスへの第一歩は、ABMの実践から始まるのかもしれません。

 

次回予告

次回「“人力”がむしろ武器になる時代へ」では、あえて“人力”で行う営業が、なぜ今こそ重要なのかを掘り下げていきます。また、ABMはBtoBのマーケティング部門こそ主体的に取り入れるべきだという視点から、ターゲットへのアプローチ方法についても深掘りします。お楽しみに!

 

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イノーバマーケティングチーム

株式会社イノーバの「イノーバマーケティングチーム」は、多様なバックグラウンドを持つメンバーにより編成されています。マーケティングの最前線で蓄積された知識と経験を生かし、読者に価値ある洞察と具体的な戦略を提供します。