2021年2月、マッキンゼーは「日本の営業生産性はなぜ低いのか」という衝撃的なレポートを発表した。レポートによれば、法人営業では営業コストの4〜5倍の粗利を稼ぐのがグローバル標準であるのに対し、日本企業はその半分以下の水準に留まっている。この事実は、日本企業の営業部門が競合と比べて2倍以上のコストをかけて同じ利益を上げているという厳しい現実を示している。
本稿では、まずマッキンゼーが示した日本企業の営業効率の実態を紹介する。その上で、日本の営業組織の持つ独自の背景を踏まえつつ、海外企業が実践する分業型の組織モデルを検討し、これからの営業組織の在り方を探っていく。
第1章:マッキンゼーレポートが突きつける厳しい現実
マッキンゼーのレポートは、過去50年間にわたり日本の労働生産性が、G7諸国の中で最下位に甘んじてきたというデータを示す。そして、その上で、「営業ROI」という数字を使って、営業部門における生産性の低さ、利益貢献の低さを指摘している。
「営業ROI」は、これは営業コストに対する粗利の比率を表す指標であり、マッキンゼーの調査によれば、グローバル企業の法人営業では4~5倍が標準とされている。つまり、営業コスト1に対して4~5の粗利を生み出しているということだ。
では、日本企業の実態はどうか。業種によってばらつきはあるが、およそ、グローバル企業の半分以下の水準に留まっている。この数字が意味するのは、日本企業の営業部門が、グローバル競合と比較して2倍以上のコストをかけて同じ利益を上げているという厳しい現実だ。
実際、この効率性の差は、すでに企業の収益力に明確な影響を及ぼしている。
マッキンゼーのデータによれば、日本企業の営業コスト率(売上高に対する営業コストの比率)は平均15%と、グローバル平均の11.6%を大きく上回っているのだ。この差は、そのまま利益率の差となって企業の競争力を低下させている。
第2章:なぜ従来の営業改革は機能しないのか
欧米企業の半分以下の営業ROIという厳しい数字を見て、「課題はわかった。では、どうすればいいのか?」とあなたは考えるはずだ。「うちは、コンサルに外注するような余力がある会社ではない。」とも考えるかもしれない。
私は、従来型の営業の良い点と悪い点を明確にし、良い点は維持し、悪い点を見直すのが、あるべきアプローチだと考える。
従来型と私が呼ぶのは、チームで対応する日本型の営業体制である。これの良い点は明確だ。顧客への対応力が上がる、そして、チーム対応を通じて、若手の社員人材の育成(OJT)が進むという二点である。
しかし、同時に限界や課題もある。まず、大勢参加することで、時間が取られる。第二に、知識が経験を通じて伝授されるので、短期での営業育成には向かない。属人化するため、詳しい人に聞かないとわからない。その人が辞めたら、ノウハウは闇に消えてなくなる。
あえて、耳が痛い話をさせていただくと、現状の営業組織のモデルは、新卒の大量一括採用がうまくいき、その後、若手の営業が20年、30年と働き続けてくれる時代に最適化されている仕組みなのだ。今の時代、3年サイクル、5年サイクルで転職する若者は珍しくない。そして彼らが求めているのは、キャリアであり、専門性であり、ワークライフバランスだ。従来のやり方は、今の時代の明らかにそぐわないモデルだ。
第3章:変革への実践的アプローチ。ヒントは海外にある。
では、どこから変革すべきなのか?私の答えは、ずばり、「分業化」である。一般的に、従来型の営業モデルでは、営業がアポの取得から提案、受注後のフォローアップまでを一元的に行ってきていた。これを複数チームで分業するのである。
以下は、米国のIT業界で作り出されたモデルだが、営業活動を「リードの発掘」「商談のクロージング」「既存顧客のフォロー」といった工程に分け、それぞれの役割に専門の担当者を配置することで、生産性向上を実現しているのだ。
そして、この分業モデルは実は、様々なメリットをもたらす。(下記参照)
分業モデルのメリットは様々あるが、最大のものは、「人材育成の短期化」であろう。
私は、新卒で富士通に勤務したが、当時(今から26年前)は、入社1年目は、完全なるペーペー社員、猫の手に毛が生えた状態、その後5年くらいすると、一人前に育ってきたな、とみてもらえる感じであった。逆に言うと、それぐらい時間をかけて、大事に育ててもらっていたということだ。
しかし、今はこれが成り立たない。前述した通り、今の若者は、3~5年サイクルくらいでキャリアを考えている。5年かけて育てた時には、すでに転職していなくなってしまうのだ。今の時代は、中途採用も含めて、3か月や半年くらいで戦力化し、売上貢献、受注貢献してもらうように育てないといけない時代になってきているのだ。
このような人材育成の課題に対して、分業化は効果的な解決策となる。なぜなら、分業化により各担当者の習熟範囲が限定され、より短期間での育成が可能になるからだ。さらに、分業化には別のメリットもある。守備範囲が明確になることで、デジタル化やIT化も進めやすくなるのだ。一方、日本の「営業マンが何でもやる」モデルでは、属人的なスキルに依存するため、標準化や仕組み化が難しい。「とにかくやり切る」というマインドセットと、「効率化・仕組み化」は、時として相反するのだ。
では、具体的にどのような分業モデルが効果的なのか。私が注目しているのは、米国企業の実践例だ。インサイドセールスやカスタマーサクセス(CS)など、米国発の新しい営業モデルには、日本企業にとって示唆に富むベストプラクティスが数多く存在する。
次回以降のシリーズでは、これらの分業型営業モデルの具体的な仕組みと、その実践方法について詳しく解説していく。一部の日本企業では、すでにこのアプローチへの転換が始まっている。その先行事例も含め、今後の営業改革のヒントをお届けする予定だ。
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