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宗像 淳 / イノーバCEO2025/01/06 11:03:151 min read

CEOブログ第4回|知らぬ間に失う商機:デジタルが変えたBtoB購買の新常識

最近、ビジネスの変化のスピードが目まぐるしい。日産とホンダが統合の話をするなど、過去には起こりえなかったことが当たり前に起きる時代になっている。

その中でも、特にBtoBの購買プロセスは、ここ数十年で劇的な変遷を遂げている。かつては営業マンが会社の扉を叩き、顧客との関係を築くことで商談を進めていた。しかし、インターネットの普及とともに、顧客の行動や期待は大きく変わっている。

私は、すべてのビジネスは顧客起点であるべきだと考えており、BtoB企業においては、なおさら、顧客理解が重要と考えている。今回の記事では、変化するBtoBの購買プロセスについて、説明させていただきたい。

 

飛び込み営業の時代:1998年の現場から

大変恐縮だが、私の個人的なエピソードをお話しさせてほしい。

1998年、私は新卒で富士通に入社した。海外部門に配属予定だったが、最初の3カ月間は、国内営業と合同の営業研修を受けさせてもらった。東北出身の田舎者である私は、極度の人見知りであり、大学でも友人は4-5人くらいしか作らなかった。(作れなかったという方が正しいか)

 

その私が、何の因果か、営業研修。やれやれ、困ったなと思っていたが、研修そのものはビジネスマナーや商品理解などごくごく基本的なもので、特に問題なく過ごしていた。が、しかし、問題は研修の最後に待ち構えていた。それが、「飛び込み営業」であった。

 

私が担当したのは新橋エリア。当時、富士通が力をいれていた、今や懐かしの富士通製パソコンFmvシリーズの最新機種のパンフレットを渡され、地図を頼りに雑居ビルの階段を上り、勇気を出して、見知らぬ企業の扉を叩いたことを思いだす。

 

一日で30件くらいの会社を訪問しただろうか。幸いにして怒鳴りつけられることは一度もなく、名刺交換をさせていただき、「引き続き富士通をよろしくお願いします。」と伝えて、次の会社へと向かった。

 

一日が終わった時には、へとへとであったが、幸いなことに、1社、JRAのグループ会社で、「パソコンは要らないんだけど、Excelの活用で困っていることがあるから相談に乗ってほしい」という情報を引き出し、そこから小さな仕事のきっかけをつかむことができたのだった。やれやれ、30件飛び込んでのようやくの1件。それでも、人見知りの私にしては、精一杯、頑張った自分をほめてあげたいという気持ちであったのを思い出す。

 

購買プロセスの変化:現代のIT担当者の行動

さて、あれから26年。同じ活動が通用するのかどうか考えてみよう。立場を変えて、買い手、購買する側の立場になったらどうであろうか?

 

考えてみてほしい。仮に、御社がパソコンを買い替える状況にあったら、御社のIT担当者は、どのように行動するだろうか?私のような、新人営業マンが訪問してくるのを待つだろうか?あるいは、電話帳でベンダーを調べて、訪問の依頼をするのだろうか?今の時代、そんなことはしないだろう。

 

BtoB購買プロセスは大きく変わった。御社のIT担当者が、真っ先に行うのは「ネットでの情報収集」だ。どのようなパソコンが現在市場に出回っているのか、将来的に会社のPC利用がどのように進化するのか、どのメーカーや型式が自社に最適なのか。ブラウザを立ち上げ、検索エンジンで調査を始める。例えば、「法人 パソコン 選び方」などと調べるかもしれない。そこで、法人のパソコンを選ぶ時に気を付けるべきポイントや、最新の法人向けパソコンのトレンドなどを知るかもしれない。

(なお、参考までに「法人向けPC おすすめ」や、「法人向けPC 見積り」などのキーワードは、企業がよく検索するワードである。)

 

現代の購買プロセス:ネットが主導する決定の流れ

一般には、以下のプロセスが進むのが一般的であろう。

  1. 自社の要求仕様を具体化
    例えば、従業員がリモートワークに対応できるようにするためのスペックやセキュリティ要件を定義する。
  2. 購買先やベンダーのリストアップ
    信頼できそうなメーカーや販売店を検索し、候補を絞り込む。
  3. 購入候補機種の絞り込み
    各メーカーの製品情報を比較検討し、性能やコストを考慮して最適な候補を選ぶ。
  4. 見積依頼先の決定
    最後に、最も信頼できそうな数社に見積を依頼する。

 

あなたの部下のIT担当者が、このような購買プロセスでパソコンを購入することに、違和感はないだろう。

しかし、だ。このプロセスと26年前に私が飛び込み営業をした当時の購買プロセスを比較して見てほしい。

当時は、お客さんは、飛び込み営業を受け入れてくれた。そして、その中から実際に商談が生まれた。今はどうだろうか?パソコンのパンフレットを持って、飛び込んできた営業にそのまま発注するだろうか?

あなたの部下のIT担当者が、「社長、いい話があるんですよ。たまたま、今日、飛び込んできた営業が、いいパソコンのカタログをもって来ましてね、社長、新しいパソコン欲しがってたじゃないですか?どうですか?良さそうですよ。」などという会話をするだろうか?

間違いなく、しないだろう。

私が言いたいのは、要するにこういうことだ。

 

  • 現代のBtoBの購買においては、顧客は、購入前に徹底的に、ネットでリサーチを行う。営業が売り込んでくるのを待つことは決してしない。
  • そして、営業の声をかける時には、すでに商品の選定要件もほぼ決まっており、さらには、発注先の候補が絞り込まれている。
  • そして、その発注先の候補は、ネットで見つけた会社であり、ネット上での情報発信がもっとも優れた会社を優先して決めるはずだ。

 

現代の課題:新しい購買プロセスへの対応状況を確認する

どうだろうか?御社は、この新しい購買の流れに対応できているだろうか?以下のリストをヒントに、新しいBtoB購買への対応状況を棚卸ししてみてほしい。

 

  • 自社の見込み顧客が商品を探す時に、どのような検索キーワードを使っているか、御社は把握しているだろうか? (例「法人PC おすすめ」など)
  • あなたは見込み顧客が、購入先を探し、絞り込む時に、どのようなやり方で、どのような情報を集めて検討しているのか把握しているだろうか?
  • 顧客が検索で使っている検索ワードを実際に調べてみたことがあるだろうか?御社は、検索順位で何位に出てくるだろうか?
  • 検索結果の上位に並んでいるのはどのような企業だろうか?競合他社であろうか?新興のベンチャー企業であろうか?業界情報を載せるニュースサイトだろうか?はたまた、商品の比較サイトだろうか?
  • あなたの会社では、自社のホームページに、どのような経路や検索ワードでアクセスを集まっているのか、把握しているだろうか?あるいは、そもそも、ホームページのアクセス数を把握しているだろうか。
  • 御社のホームページは、他社と比較して、情報量が充実していると言えるだろうか?

 

もし、御社が上記のリストを検討した時に、自信を持てないのだとしたら、おそらく、御社は、見込み顧客がたどり着かないホームページになっている可能性が高い。そして、御社が本来とるべきビジネスが競合他社に流れている可能性が高い。

しかし、実は、一番大きな問題がある。それは、見込み顧客が他社に流れてしまっているという状況に、御社が気付いていない可能性があるということだ。というのも、前述の例で、企業がパソコンを選ぶ例で説明した通り、御社のホームページがそもそも調べて出てこないのだとしたら、顧客は問い合わせてこない。そして、競合に問い合わせているという事実にも、御社は気づくことができない。

 

次回予告:データで解き明かすBtoB購買の真実

この記事では、BtoB購買プロセスがどのように変化してきたのかを概観してきた。今や顧客はネットで情報を収集し、購入の意思決定を行う時代である。この変化に対応できない企業は、見込み顧客にすらアプローチできないのだ。

次回の記事では、この変化するBtoB購買の驚くべき実態を、具体的なデータをもとにさらに深掘りする。普段、新聞やニュースでは見ることがないが、改めてデータをもとに顧客の購買行動を考え直すべきだ。冒頭にも言った通り、BtoBビジネスは、常に顧客起点であるべきなのだから。

 

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。