はじめに:営業職の危機と営業組織の再構築
日本企業における営業職の採用難は、いまや深刻な経営課題となっている。この背景には、若年層に広がる営業職へのネガティブなイメージがある。さらに、中堅層の離脱やベテラン層の退職が重なることで、既存の営業組織は持続的なパフォーマンスの維持すら難しくなりつつある。
いまこそ、従来の営業組織の在り方を抜本的に見直し、時代に適応した「営業職の魅力の再定義」と「組織の現代化」を実現する必要がある。営業改革、待ったなし!である。
第1章:データが示す採用戦国時代
最初に、日本が今直面している少子高齢化の課題を見てみよう。厚生労働省の試算によれば、2070年には15~64歳の生産年齢人口が4500万人にまで減少すると予測されている。すなわち、労働力が半分以下になる時代が目前に迫っているのだ。
この少子化の影響は、まさに採用市場に表れている。採用市場は、まさに戦国時代だ。特に中小企業における採用難は年々深刻化している。
エン・ジャパン株式会社の調査(2022年)によると、企業は、企業規模にかかわらず、人材不足に直面しており、その割合は7割から9割ときわめて高い状態である。
また、リクルートワークス研究所の調査(2024年)では、2025年卒の大卒求人倍率が300人未満の企業で6.50倍に達し、かつてのピーク(2019年卒の9.91倍)に迫る勢いを見せている。
中でも営業職は、最も人材が不足している職種である。同じくエン・ジャパン株式会社の調査では、人材不足を感じる企業の28%が「営業職」の不足を訴えており、これは2位の技術職(20%)を大きく引き離す数字である。
営業職がここまで不足している背景には、採用市場の競争激化だけではなく、営業職そのものの「人気の低迷」が影響していると考えられる。
第2章:なぜ営業職は人気がないのか?
営業職が不人気である理由は、ずばり、「若年層の価値観との乖離」だ。かつては企業の成長を支える花形職種とされていた営業職だが、今やその魅力は大きく低下している。
「仕事がキツい」「ノルマ中心」「長時間労働」「休みが取りづらい」。インターネットやSNSの普及により、こうした営業職のネガティブな印象は、若年層に広く浸透している。
さらには、昨今の若者の専門家志向もある。彼らは、長引く不況のさなかで育っている。したがって、「稼げるスキル」、「食べていけるスキル」を求めている。営業職は確かに、コミュニケーション力はつくかもしれないが、それだけで食べていける仕事とは認識されていないのだ。
さらには、ワークライフバランス重視の現代の若者の価値観にマッチしにくい仕事であるということもあるだろう。従来の「根性論」や「足で稼ぐ営業」のイメージが強いし、実際、営業職についた先輩や友人から、残業や土日出勤の話を聞き、敬遠されるのである。
第3章:採用できない以外の課題も
採用難だけが問題ではない。それ以上に深刻なのは、中間層の抜け落ちである。前回の記事でも述べたが、現在は、若者のキャリア観も大きく変わった。3~5年サイクルで転職することはもはや珍しくない。その結果、育成して、一人前に育った中堅層が、30歳前後、35歳前後という節目の年に転職を選ぶ事が増えているのだ。
中堅層が抜けるとどうなるか。営業責任者が「現場の穴埋め」をせざる得ない。そして、自ら商談を持ち、数字を追う。その結果、営業責任者が、売上確保に忙殺され、営業組織としての戦略的な取り組みや長期的な育成計画ができなくなる。
さらには、もっと深刻な問題がある。少ない人数で、売上を維持しようとするとどうなるか。それは新規開拓の時間を減らし、既存顧客の維持に時間を集中させる事になるのだ。これは、短期の売上の下支えにはなるが、当然ながら、売上成長は無くなっていく。
どうだろうか?御社の営業組織では、これに類似した現象がおきていないだろうか?短期の売上・受注に忙殺され、営業組織はますます疲弊する。そして、何よりも営業責任者自身が疲弊していく。売上の数字は伸びず、経営から厳しく指摘される。このような悪循環が起きてないだろうか。
第4章:営業組織を徹底的に現代化する必要性
いま営業組織に必要なのは、従来の延長線上にないマインドチェンジである。営業責任者が過ごしてきた時代と、今の時代は環境が根本的に異なる。
日本全体の労働人口の急激な減少、採用倍率の激化。営業がいくらでも採用できた時代は、二度と戻ってこない。あえて、厳しく現実を直視するならば、「半分の人数で倍の付加価値を出す」――これが、今後の営業組織に求められる必然の目標であろう。
前回の記事でも触れたように、日本の営業組織の生産性は、欧米の半分以下だと言われている。さらに、本記事の冒頭で述べたように、あと数十年で、日本の人口は半分近くまで減っていく。すなわち、先々の事を考えるなら、「頭数、人数で勝負する営業組織から脱却し、少人数で多くの受注をたたき出す」営業組織に生まれ変わらないといけない。
このためにどうすればいいか?私は、ずばり、分業型の営業モデルの採用と徹底的なIT活用だと思う。前回の記事で、リード獲得や商談創出を切り出して、別チームが担う、分業型の営業モデルを紹介した。実は、この分業型の営業モデルは、分業することによる効率化に加え、電話やZoom、ウェブサイト等、デジタル手法をフル活用するため、在宅で営業業務を行うことが可能になる。在宅が可能になれば、地方の優秀な人材を雇う、育児中の優秀な女性を雇う、こうしたことも可能になってくる。実際、イノーバでは、営業組織は100%のリモートワークを実現している。
御社でも、いきなり100%のリモートワークは難しいかもしれないが、マーケティングやインサイドセールスをリモートワークで行う事は十分に可能だ。最初は、外注を使いながら、新しいチームを立ち上げ、軌道に乗ったら、リモートワークにシフトするのもいいだろう。
この労働人口が半減する日本で、人材の奪い合いの日本で、どのように営業系の人材を確保し、業務効率を上げていくのか。これを解決しないことには、御社の売上成長、受注成長は、もはや難しいだろう。
結論:変革の時は今
労働人口の激減という避けられない現実の中で、営業組織は生まれ変わる必要がある。「うちは特殊だから」という言い訳はもはや通用しない。営業責任者には、現場を回すだけでなく、再現性のある営業の仕組みを作り上げる強いリーダーシップが求められている。
出典
リクルートワークス研究所 第41回ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)
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