企業のマーケティング担当者のマーケティング戦略の立案・実行において、役立つのがSWOT分析とクロスSWOT分析。実際の事例をベースにしたケーススタディを通して、実践するコツをつかみましょう。
弊社では、BtoBマーケティングを中長期に渡ってトータルでサポートする、伴走型マーケティング支援サービスを提供しております。よろしければご覧ください。
マーケティングでSWOT分析を使用するタイミング
実際のマーケティング活動でSWOT分析を使用するタイミングはさまざまです。
「マーケティング戦略の立案・実行のプロセス」においては、最初の、「マーケティング環境分析と市場機会の発見」のステップで使用されます。しかし、実際には最初のステップでSWOT分析を深堀することは時間や取得している情報量の点から困難なことが多く、後工程である、ターゲティングやポジショニングのステップ、マーケティング・ミックスの工程で、最初のステップで実施したSWOT分析を見直し、修正することも多くあります。他の分析や戦略策定にも共通して言えることですが、マーケティングにおける分析は、この見直しと修正のプロセスの繰り返しといっても過言ではありません。
関連記事
SWOT分析とは?
SWOT分析は、分析対象の特徴を多面的に把握し、目的・ゴールを達成に向けたより良い戦略を生み出すための基本的な枠組みです。
たとえば、自社商品の売上を伸ばすにはなにが必要なのか、どういった戦略が効果的なのかを考えるときに、まずその対象となる商品について理解できていなければ有効な戦略を生み出すことは難しいです。商品の特徴を多面的に把握・発見するためのフレームワークとして、SWOT分析を活用してください。
SWOT分析は、分析対象の特徴を以下の4つの観点で分析します。(ここから分析対象を商品として記述します。)
- S(Strength:強み)
- W(Weakness:弱み)
- O(Opportunity:機会)
- T(Threat:脅威)
SとW(商品の強みと弱み)を商品自体の特徴、OとT(商品の販売などの機会や競合や代替サービスの脅威)を外部環境の特徴として、整理することもできます。
商品自体の特徴では、商品が優れている点、劣っている点を考えます。自社商品の強みや弱みを整理・集約することが、策定する戦略の軸となります。
外部環境の特徴は、顧客のニーズや社会全体のトレンドなど、戦略実施による目標達成に影響があり、かつ、自分では変えられない事実です。商品を取り巻く環境を把握することで、立案する戦略において、その環境をどう活かすか、なにが障壁となるのかを明確にします。
SWOT分析のやり方
SWOT分析作業や結果が極端に中途半端であまりにも曖昧なものだと、後工程の戦略立案作業で無駄な時間を多大に生んでしまいます。効率的なSWOT分析の手順例を説明していきます。
目標を定める
先にも述べたように、実際の戦略策定においてSWOT分析は一度だけ実施するのではなく、SWOTのそれぞれの観点を深堀し見直し作業を行うことが多いです。見直し作業においては、自社製品がターゲットを絞るステップにいるのか、定めたターゲットの獲得戦略を策定する段階にいるのかなどによって(再)分析の目的は異なります。目的がなになのかをはっきりさせましょう。目的をはっきりさせることにより、SWOT分析の深堀の過程で行き詰まっても、「この分析でなにをはっきりさせたかったのか」に立ち戻り行き詰まりを解消できます。
外部環境の特徴を考える
目標を定めたら、SWOTのOT(機会と脅威)について分析していきます。外部環境の特徴から分析を始め、取り巻く環境における商品の強みと弱みをまず把握することにより、次の工程である商品自体の特徴の分析における観点の多面性を高めることができます。
外部環境の特徴は主に顧客、競争相手の2軸で考えます。商品を購入するのは顧客であり、競争相手や代替手段があるケースがほとんどであるため、顧客と競争相手が商品に影響を与える要因を考えるのが妥当と言えます。顧客を軸とした外部環境の特徴としては、顧客層の所得がどう変化しているのか、どのようなトレンド(好みの傾向など)があるのか、などを考えましょう。競争相手を軸とした外部環境の特徴としては、直接的な競合製品だけでなく、競合製品や自社商品を利用しない別の手段があるかなどを考えるのがいいでしょう。
外部環境の特徴を書きだしたら、その特徴が自社商品にとってプラス(機会)なのかマイナス(脅威)なのか判断して分類していきます。例えば、食品を輸入販売する会社にとって外食離れのトレンドは機会ですし、円安の進行は脅威となります。
商品自体の特徴を考える
外部環境の特徴をOとTに分けることができたら、次に、商品自体の特徴を書き出してからSとWに分けていきます。商品自体の特徴は自社の商材の強みと弱みですから、思いつく限りたくさん書き出しましょう。
たとえば、「40代の女性に人気」は強み。「他社製品に比べて値段が高い」は弱み。といった具合です。
SWOT分析のコツ
外部環境の特徴・商品自体の特徴として挙げられた項目が多ければ多いほど、戦略の選択肢が多くなります。SとW、OとTに分けることができなく項目についても、未分類などと整理し、書き残すようにしましょう。対象商品に関する社内の関係者を集め、時間を決めて付箋紙1枚に1つの項目を記載し、付箋紙で整理する方法もおすすめです。多方面の視点で対象商品とその環境を見直すことが、新たな戦略につながっていきます。
できるだけ多くSWOTを書き出すために、社員に協力してもらうだけでなく、既存顧客や関係の良い潜在顧客に商品の特徴についてアンケートに回答してもらえるとなお良いです。第三者からの意見はとても貴重なもので、自分たちでは気付かなかった視点が得られることが多いです。
こうして対象商品についてのSWOTを書き出すことで、対象商品についての特徴を明確化できます。しかし、次にいきなり戦略を考えることはおすすめしません。戦略を考えるためには情報量が多すぎますので、次にクロスSWOT分析を実施しましょう。
STP分析とは?事例と実施のポイント
クロスSWOT分析を活用しよう
クロスSWOT分析とは、いわばSWOT分析で列挙された商品自体の特徴と外部環境の特徴の各項目を掛け合わせて取りうる戦略のパーツを分析する手法です。
上図の列の見出しと行の見出し部分にSWOTの各項目を配置します。それぞれの項目がクロスする4つの部分に、以下のような考えをもとにした戦略を考えていきます。
- S×O=「強みと機会を最大限に活用してなにができるか」
商品自体の強みと環境の機会がマッチしているならば、それを活かさない手はありません。機会を味方につけ、強みを発揮できる最高の戦略を考えます。
- S×T=「強みを活かして脅威をどのように克服できるか」
商品にとっての脅威も、強みを活かして乗り越えることができるかもしれません。ピンチをチャンスにする戦略を考えます。
- W×O=「弱みの影響で機会を逃さないためになにができるか」
商品の弱点のために、せっかくの市場機会を逃すのはもったいないことです。弱みが足かせとならないようにする戦略を考えます。
- W×T=「弱みと脅威が重なったとき、どのように危機を回避できるか」
商品の弱点が外部環境の脅威と重なってしまうのは避けたいこと。最悪のシナリオを招かないための戦略を考えます。
クロスSWOT分析を行うことで、列挙したSWOTの項目による考えるべき戦略の整理ができます。特にS×Oの戦略は最高のチャンスですので、まずはここから考えてみましょう。
ここまでフレームワークとしてのSWOT分析について説明してきました。以下では、実際にSWOT分析とクロスSWOT分析を活用して成功した事例を見ていくことにします。ぜひ自社商品の戦略を練るうえでの参考にしてください。
5分で学べるケーススタディ3選
(1)押し寄せるデジタル化の脅威をチャンスに変える(S×T)
アナログからデジタルへの変化は日々進んでいます。印刷でいえば、今までは1枚の印刷でさえも製版業者に依頼していた訳ですが、パソコンやプリンタの普及に伴い、家でも簡単に印刷ができるようになりました。
個人でもパソコンで製版(データを作成)することが可能になった今、製版に特化した事業になにができるでしょうか。製版業にSWOT分析をすれば、自社の製版サービスにとっての最大の脅威(T)は外注による製版のニーズが落ちること。 強み(S)は個人よりも優れた印刷技術があること。
強みを活かして脅威をチャンスに変える1つの戦略として、“個人にできない印刷”に着目することができます。製版業者としてスタートしたプリントパックは、「どこにも負けないスピード」と「40年のこだわりの品質」を強みとして、大量印刷を主にした印刷通販にシフトして成功を収めています。強みを活かして脅威をチャンスに変えたSWOT分析の好例といえるでしょう。
(2)物件ごとのSWOT分析によるS×Oの最善策を提案するリフォーム会社
「自社のリフォーム技術を顧客ごとにどのように活かせるか。」リフォーム会社にとって、顧客のニーズはさまざま。最高のパフォーマンスを実現するために、物件ごとにSWOT分析を行っているリフォーム会社があります。
賃貸物件のリフォームを主とする朝日リビングは、“戦略的なリノベーション”を掲げ、商品となる物件やその環境をSWOT分析したプランを提案しています。外部環境の特徴であれば立地、商品自体の特徴であれば劣化状況など、物件ごとに異なる長所と短所を整理し、戦略を立案。客観的に物件を見直すことで、よりよいリフォームプランを提供することができるのです。
朝日リビングはリフォーム産業新聞「住宅リフォーム売上ランキング2016」業種別ランキング賃貸部門で見事1位を獲得しています。
(3)インスタント食品の評判をSWOT分析で覆す
Smiles for All. のスローガンでおなじみ、東洋水産の目玉商品として、「マルちゃん正麺」のカップ麺があります。この商品が開発された背景には、即席麺に対する世間の評判がありました。即席の味には期待しないという世間の常識(W)を機会(O)だと捉えた東洋水産は、「即席麺で済まそう」を「即席麺を楽しもう」に変えることを目標に商品開発に取り掛かり、大ヒット商品「マルちゃん正麺」が生まれたのです。
即席麺を取り巻く環境はなにか。顧客はどのように考えているのか。常識を覆すためには、自分が常識に囚われていてはいけません。SWOT分析は、自分の立ち位置を客観的に見直し、画期的な戦略を打ち出すための1つの手段でもあるのです。
まとめ
今回は、SWOT分析の基本から分析方法、実際の活用例まで幅広く取り上げました。自社商品のマーケティング戦略を練るために、まずはSWOT分析をして商品の「マーケティング環境分析と市場機会の発見」を行いましょう。また、クロスSWOT分析をすることも大切です。分析には時間と労力がかかりますが、目標をもって分析することで効果的な戦略を練ることができるでしょう。
弊社では、上述のような分析や現状調査を含めてBtoBマーケティング全般をサポートする、伴走型マーケティング支援サービスを提供しております。BtoBマーケティングに本格的に取り組みたいけれど社内にノウハウや専門人材が不足している、思うようにスタートダッシュを切れない、などの課題やお悩みを抱えている方、ぜひ一度、御覧ください。