コンテンツマーケティング時代の購買行動モデル「DECAX」を考える

コンテンツマーケティング

皆さんこんにちは。イノーバマーケティング部の亀山です。

「購買行動モデル」という言葉を聞いたことがありますか? 人が、モノを購買する際の行動プロセスをモデル化したものです。マーケティングのお仕事をしている方や、かつて大学でマーケティングを勉強した方は「AIDMA(アイドマ)」などにピンとくるかもしれません。

この購買行動モデル、世の中が変わり、私たちの「モノの買い方」が変わるのにあわせて共に変化してきました。

そして先日、電通デジタル・ホールディングスの内藤敦之氏が「コンテンツマーケティング時代に対応した購買行動モデル」その名もDECAXを提唱しました。

今日はそんな購買行動モデルの歴史を紐解きつつ、その変化を考えてみたいと思います。

購買行動モデルの歴史

元祖購買行動モデル「AIDMA」

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図1)AIDMAモデル 

購買行動モデルとして、おそらく世の中で最も通りが良いのが「AIDMA(アイドマ)」でしょう。「Attention(注意)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(購買)」の頭文字をとって、AIDMA。

およそ100年近く前に米国の著者サミュエル・ローランド・ホールによって提唱されたこのモデルは、永きにわたってマーケティングの教科書の定番であり続けました。

ですが、ネット時代を生きるいまの私たちからすると、若干の違和感も覚えます。

たとえば「Desire(欲求)」の後、「Action(購買)」までの間に「Memory(記憶)」という段階があります。これは、以前はAmazonのように「欲しいと思った時にすぐ買える」手段がなかったことから来ています。

「欲しい」と思っても、すぐには買えないから忘れてしまう。だから、広告などの手段で「強く記憶に焼き付ける」か「欲しいと思った記憶を呼び起こさせる」必要がある。

これに対し、AIDMAをネット時代に対応させたのが「AISAS(アイサス)」です。

ネット時代の基本モデル「AISAS」

インターネットの普及によって徐々に消費者の購買行動が変わる中、電通が提唱したモデルがAISAS(アイサス)です。「Attention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(購買)→Share(情報共有)」から来ています。

大きく変わったのは、「Search(検索)」と「Share(情報共有)」というネット時代ならではの要素が加わったこと。

Interest(興味)を持った対象(モノやコト)について、買い手が自らネットを使って「Search(検索)」し、能動的にAction(購買)をおこす点はまさにネット時代の購買行動を反映していると言えます。さらに、従来であれば家族や同僚といった身内に限定されていた「クチコミ」の力も、ネットによって極大化。「Share(情報共有)」という購買後の行動が加わりました。

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図2)AISASモデル

「買う前にネットで比較&クチコミチェック」が当たり前になった時代の「AISCEAS」

話題のアイテムを手に入れたら商品レビューを書き込んだり、評判のレストランを訪れたらFacebookに写真をアップしたり……購買行動に関する情報を「Share(情報共有)」するという習慣が一般化した結果、ネット上には売り手が発信する情報に加え、消費者による情報が大量に溢れるようになりました。

ありとあらゆる商品・サービスを購入前にネット上で比較可能になったのです。

人々は購買前にネットで「Search(検索)」し、仕様や価格を「Comparison(比較)」し、さらには実際に購買した人のクチコミや評価を「Examination(検討)」するようになりました。

この「Comparison(比較)」と「Examination(検討)」をAISASに加えたのが、アンヴィコミュニケーションズが提唱した「AISCEAS(アイシーズ)」です。

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図3)AISCEASモデル

ネット以前の比較対象は「過去の自分の経験」だった

もちろん、ネット普及以前にも「比較」や「検討」という行動はなされていました。

しかし、比較の根拠とする情報源としては店頭販売員の説明やカタログといった「売り手がコントロール可能な情報(=広告)」しか手に入りにくく、買い手はそれら売り手が発信する情報と、過去の自分自身の経験にもとづいた比較検討しかできませんでした。

大量のマス広告によって「A社は品質がよさそう」というイメージを作り上げれば、人々はそれを否定する情報になかなか触れる機会がなかったのです。

テレビCMをはじめとしたマス広告が絶対的な効果を誇ったのも当然と言えます。

しかし、ネットの普及と検索の一般化によって買い手=消費者側の情報収集能力が劇的に向上。かつ、ブログやソーシャルメディアなどにより情報発信のハードルも下がったことで、売り手がコントロールできないさまざまな情報がネット上に溢れるようになりました。

それらの情報の中には事実と異なったものや信頼性の低いものなどもありまさに玉石混淆。買い手側にはそういった情報の真偽を見極める力が求められるようにもなりましたが、少なくとも購買の意思決定に利用可能な情報は増えたわけです。

AIDMAを起源とする購買行動モデルにはAISASやAISCEASの他にもさまざまな派生型が存在しますが、ネット時代を迎えてから登場したものは基本的に「買い手によるネットでの情報収集と発信」を内包しています。

コンテンツマーケティングに対応した?「DECAX」

ではいよいよ「コンテンツマーケティングに対応した購買行動モデル」として最近電通が発表した「DECAX(デキャックス)」を見てみましょう。

DECAXは「Discovery(発見)→Engage(関係)→Check(確認)→Action(購買)→eXperience(体験と共有)」をあらわしているそうです。

CNET Japanの紹介記事に具体的な例が掲載されていたので、下記に引用します。

.ニキビに悩んでいるAさんが、いつも訪れるニュースサイトで記事を読んでいる。

.偶然表示されていたオススメ記事(コンテンツレコメンデーションプラットフォームが提供するネイティブ広告)の中に、ニキビケア商品を開発する企業が発信した記事コンテンツを「発見」する。

.その企業の(Aさんにとって有益な)コンテンツを何度も見ることで、Aさんと企業は「関係」を深めていく。

.関係がある程度深まると、Aさんはその企業が出しているニキビケア商品を細かく「確認」する。

5.自分が求めている商品だと思えば「購入」する。

6.その商品を「体験」して、その感想をSNSやクチコミサイトなどで「共有」する。

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図4)DECAXモデル

消えた「A」と「I」

ここまで見てきた購買行動モデルとの違いとして真っ先に気付くのが、行動の起点である「Attention(注意)」と「Interest(興味)」が「Discovery(発見)」と「Engage(関係)」に置き換えられている点ではないでしょうか。

従来の、主に広告を用いて買い手の「Attention(注意)」をひく、という発想は極めて売り手的発想だったと言えます。

それに対し、人々の日常的な生活行動の中から自然に自分達を「Discover(発見)」してもらう、というのは確かにコンテンツマーケティング的と言えるでしょう。

提唱者である電通デジタル・ホールディングスの内藤敦之氏は前述のインタビューの中で

「生活者の多くは、スマートフォンを使って情報を仕入れています。スマートフォン利用は「ながら文化」の側面があるため、事業者が「Attention」をりにいくというよりは、生活者が自分の興味のあったものに対して「Discover」する行動が多い。」

と、スマホを持ち情報との接点が多様化した現代の人々の行動を述べています。

「Engage」=コンテンツ

「Discovery(発見)」に続く「Engage(関係)」は、いわゆる「コンテンツ」そのものを示しているそうです。

自分の興味のある情報を発信しているオウンドメディアを見つけて、いくつかの記事を読んで気に入り、Facebookページにいいねをしたり、メールマガジンに登録をしたり、繰り返しサイトに訪れるようになるようなイメージでしょうか。

「Check(確認)」されているのはなにか?

続いての「Check(確認)」について内藤氏は「AISASにある「Search」の置き換えというより、コンテンツの信憑性や中立性、本当に役立つのかを確認する、といった意味合い。」と述べ、いわゆるステマなどによる「Engage(信頼)」の毀損について触れています。ステマだと気付いた瞬間に、他のすべての情報も信じてもらえなくなる、ということです。

確かにユーザーの立場からすると発信者(メディア)の信頼性は継続的な読者・ファンになるかを左右する重要なポイントです。そして、続いてプロセスである「Action」を「購買」と定義するのであれば、ここで「Check(確認)」されるのはコンテンツの信頼性や有用性だけではないはずです。

「Engage(信頼)」はユーザーに購買してもらうための必要条件ではあっても、十分条件ではないからです。(信頼してそのブランドのファンになったからといって、すぐに購入するかといえばそれはまた別の問題ですよね)

この点について前述の記事に記述はありませんでしたが、掲載されているDECAXモデルの図解では、EngageとCheckという「繰り返しのコンテンツ接触によって信頼関係を築く」部分がループ構造になっていますので、おそらくAISCEASでいうところの「Comparison(比較)」と「Examination(検討)」もこの部分に内包されていると考えると理解しやすそうです。

売っただけで終わりじゃないから「eXperience」

「Action(購買)」の後ろの「eXperience(体験)」は、前述の具体例では単純に「商品を体験して……」とされていますが、もうすこし深い意味合いがあるようです。

クラウド型のサービスはいわずもがな、いま身の回りの多くの商品がネットに繋がることを前提に作られるようになってきています。いわゆるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)というやつですね。

テスラ社の電気自動車が、ネット経由のソフトウェアアップデートによってディーラーに持ち込まなくても常に最新の機能を利用できるように、売り手と買い手の関係が「売ったら終わり」ではない商品が増えていると言えるでしょう。

テスラの例のような、従来のカスタマーサポートの延長のみならず、ソフトウェア企業が自社のサービスを次々とオープンソース化し、ユーザーを巻き込んでコミュニティ化をはかるといった動きも見られます。

いま、売り手と買い手との接点は購買の前にも後ろにも伸びているのです。
(「共創マーケティング」なんていう言葉もありますね)

そして、そのプロセスのあらゆるところで「eXperience(経験)」したことはユーザーによって積極的にシェアされていく。

売り手側もそれを前提としたコミュニケーションの必要があるといえます。

いかにコンテンツを「Discovery(発見)」してもらうか

前述のDECAXの例では、ユーザーの「Discovery(発見)」をもたらした接点として、コンテンツレコメンデーションプラットフォームによって配信されたニュースサイト上のネイティブ広告が挙げられています。

CNET同記事は前出の電通デジタル・ホールディングス内藤氏とコンテンツレコメンデーションプラットフォーム最大手のOutbrain(アウトブレイン)の日本支社長の対談という形式をとっているので、例に使ったものと思われますが、なにも「ネイティブ広告を使うべし!」という話ではないのでしょう。

重要なのは、これからより一層「いかにコンテンツをDiscover(発見)してもらうか」という視点が大切になっていくという点です。

デジタルマーケティング先進国である米国の主要なマーケティングカンファレンスでは、すでに「コンテンツマーケティング」というトピックでのセッションは姿を消しているそうです。

それは、すでにコンテンツを用いたマーケティングコミュニケーションが当たり前だから。

9割を超える企業がマーケティングにコンテンツを利用している中で、いま米国では「コンテンツをいかにターゲットに届けるか」という点に注目が集まっています。

また、その中でマーケティング活動をはかるための指標も「リード数」や「コンバージョン」から「エンゲージメント」や「購読者数」、その先の「ブランディング」へ移行しているそうです。

Outbrainのようなコンテンツレコメンデーションプラットフォームや、Facebookのインフィード型広告を含むネイティブ広告といった比較的新しい広告手法も、従来型の広告手段も、さらにはSEOも、「売り込む」という旧来の広告の役割から離れ、「いかにコンテンツをDiscover(発見)してもらうか」を実現するための手段として組み合わせていくことが重要になりそうです。

コンテンツプロモーションについては下記記事が参考になります(英文)
Paid Content Promotion: How to Orchestrate
http://contentmarketinginstitute.com/2015/02/how-to-orchestrate-paid-content-promotion/

まとめ:「Action」につなげられるかできるかどうかはコンテンツ次第

このように、コンテンツによる売り手と買い手の接点が増えれば増えるほど、そこから「Action(購買)」につなげられるかはコンテンツの質や設計にかかってくるといえます。

コンテンツで「Discover(発見)」してもらい、コンテンツによる「Engage→Check」の繰り返しで信頼を築き、ニーズを育てて「Action(購買)」につなげていく。

そのためには顧客視点に立って、彼らの知りたいこと、情報ニーズを満たす高品質なコンテンツを、タイミングよく、最適なチャネルで提供していくこと。

非常に地味で根気の要る作業ですが、それこそがDECAXの示すこれからのマーケティングの王道なのではないでしょうか。