KPIツリーとは?
事業目標の達成に向けて、具体的に何をすべきか悩んだことはありませんか?KPIツリーは、その答えを見つけるために使用される図です。
組織の最終目標(KGI)から具体的な行動指標(KPI)まで、目標達成に必要な要素を体系的に整理することで、「何をすべきか」が明確になります。例えるなら、高い山の頂上(KGI)に到達するために、ベースキャンプやチェックポイント(KPI)を適切に設定するようなものです。
こちらがECサイトのKPIツリーの簡易版です。
ここでは、「売上金額」をKGI、「サイトへの訪問者数」と「サイト訪問者」の「商品購入率」をKPIに設定しています。KPIは1つという決まりはなく、複数の設定が可能です。また、フェーズによってKPIを変更していく場合もあります。
なぜ今、KPIツリーが注目されているのか
ビジネス環境が急速に変化する現代において、目標達成への道筋を可視化し、進捗を定量的に管理することは、これまで以上に重要になっています。
多くの組織では、部門間の連携がうまくいかない、目標は設定したものの具体的な行動に落とし込めていない、あるいは数値目標の達成度は測れるが原因分析ができないといった課題を抱えています。
KPIツリーは、まさにこうした課題を解決するためのフレームワークとして使用されます。
KPIツリーがもたらすメリット
KPIツリーの最大の価値は、目標達成への道筋を明確にできることです。組織の最終目標(KGI)を具体的な行動レベルまで分解することで、各メンバーが「何をすべきか」を正確に理解できるようになります。
さらに、各指標の関係性が明確になることで、目標未達の原因を素早く特定し、適切な対策を講じることが可能になります。
ここでは、青枠内の「商品購入ページの訪問セッション数」、「注文完了率」、「回遊率」、「カート到達率」、「カート完了率」の数値がどう推移しているかを検証していきます。検証した結果、データ数値が低い、もしくは停滞している数値を見つけることができれば、それがボトルネックになっている可能性が高い要素です。改善策を提案する際にも、このKPIツリーがあれば上司やチームへの共有もしやすく、意思決定を促しやすくなります。
また、視覚的に整理された目標体系により、組織全体で目標を共有できることも重要なメリットです。各メンバーが自分の役割と、それが組織全体の目標達成にどうつながるのかを理解することで、より効果的なチーム活動が実現できます。
KGIとKPIの違いを理解する:目標達成の要となる指標
KPIツリーを効果的に活用するためには、まずKGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)の違いを正しく理解する必要があります。
KGI:組織が目指す最終ゴール
KGIは、組織が達成すべき最終的な目標を表す指標です。通常、「年間売上高30億円」や「市場シェア25%の達成」といった、組織全体の成果を表す具体的な数値目標として設定されます。重要なのは、このKGIが組織のビジョンや戦略と密接に結びついていることです。
KPI:目標達成のための道標
一方、KPIはKGI達成のために監視・改善すべき業績評価指標です。例えば、売上高というKGIを達成するために、「月間Web訪問者数」「商談実施件数」「顧客単価」といった指標を設定します。これらのKPIは、日々の業務活動の中で継続的にモニタリングし、必要に応じて改善アクションを取るための重要な指標となります。
KPIの特徴は、その達成がKGIの実現に直接的に寄与することです。そのため、KPIの設定には、KGIとの因果関係を明確に説明できることが求められます。
例えば、ECサイトの売上高を増やすというKGIに対して、「ECサイト訪問者数」と「商品購入率(コンバージョン率)」をKPIとして設定する場合、この2つの指標を掛け合わせることで売上高が算出できるという明確な関係性があります。
KPIツリーの作り方
KPIツリーの作成は、組織の最終目標を起点に、そこから具体的な行動指標へと階層的に展開していく過程です。ここでは、実践的な手順に沿って解説していきます。
最終目標(KGI)の設定
KPIツリーの作成では、まず組織が目指す最終目標を明確にすることが重要です。この際、単に「売上を伸ばす」といった抽象的な目標ではなく、「2025年度までに売上高50億円を達成する」というように、具体的な数値と期限を含めた形で設定します。目標が具体的であればあるほど、そこに至る道筋も明確になります。
KGIを構成要素に分解する
KGIが決まったら、次はそれを達成するために必要な要素を特定していきます。例えば、売上高というKGIは、「顧客数」と「顧客単価」に分解することができます。さらに顧客数は「新規顧客数」と「リピート顧客数」に、顧客単価は「平均購入点数」と「商品単価」というように、より具体的な要素に分解していきます。
顧客数 = 新規顧客数 + リピート顧客数
顧客単価 = 平均購入点数 × 商品単価
このように数式で表現できる関係性を持たせることで、各指標の相互関係が明確になり、目標達成に向けた施策の効果を正確に測定できるようになります。
各階層のKPIを具体化する
ツリーの各階層で設定するKPIは、SMART原則に従って具体化していきます。SMARTとは、以下の5つの条件を満たす目標設定の考え方です。
- Specific(具体的):「営業力を高める」といった抽象的な表現ではなく、「月間の商談実施件数を50件にする」というように、具体的な数値目標として設定します。
- Measurable(測定可能):設定した指標が客観的に測定できることが重要です。例えば、「顧客満足度スコアを80点以上にする」や「問い合わせ対応時間を2時間以内にする」など、数値やスコアで進捗を把握できる指標を選びます。
- Achievable(達成可能):意欲的な目標設定は大切ですが、現在の実力から見て達成不可能な目標では、かえってモチベーションを下げてしまいます。過去の実績や現在のリソースを考慮した、チャレンジングながらも達成可能な目標を設定します。
- Related(関連性がある):設定するKPIは、必ず上位目標(KGI)の達成に寄与するものでなければなりません。例えば、ECサイトの売上向上が目標なら、「サイト訪問者数」「コンバージョン率」「平均購入単価」など、売上に直接影響を与える指標を選定します。
- Time-bound(期限がある):「いつまでに」という期限を明確にすることで、目標達成に向けた行動の優先順位付けが可能になります。「四半期末までに」「今年度末までに」など、具体的な期限を設定します。
このSMART原則に基づいてKPIを設定することで、目標の進捗管理がしやすくなり、確実な成果につなげることができます。
KPIツリー活用のポイント:効果を最大化するために
KPIツリーを作成したら、次は効果的な活用が鍵となります。ここでは、KPIツリーを組織の成果に確実に結びつけるための重要なポイントを解説します。適切に運用することで、組織全体の目標達成力を大きく高めることができます。
先行指標と遅行指標のバランス
KPIツリーを効果的に機能させるためには、先行指標と遅行指標のバランスを考慮することが重要です。遅行指標は結果を表す指標で、売上高や利益率などが該当します。一方、先行指標は結果を導くための行動を表す指標で、商談件数や見積提出件数などが該当します。
理想的なKPIツリーでは、上位階層に遅行指標を、下位階層に先行指標を配置します。これにより、日々の活動(先行指標)が最終的な成果(遅行指標)にどのようにつながっているのかが明確になります。
「売上金額」は、右側に分解した行動やデータの蓄積によって、結果として現れる指標です。
当たり前のことですが、KPIツリーを作成した後に、このルールが成立しているかチェックすることでKPIツリーの精度が確認できます。
定期的な見直しと改善
ビジネス環境は常に変化しており、設定したKPIが最適でなくなる可能性もあります。そのため、四半期ごとなど定期的にKPIツリーを見直し、必要に応じて改善を加えることが推奨されます。特に、以下の点に注意して見直しを行います。
設定した指標が実際に測定可能か
各指標間の因果関係は適切か
現在の事業環境に照らして適切な指標となっているか
最初から完璧なKPIツリーを作ることは難しいため、運用しながら継続的に改善していく姿勢が重要です。
業界・部門別KPIツリーの具体例
理論的な理解を深めたところで、具体的な活用事例を見ていきましょう。各業界や部門特有の目標に対して、KPIツリーをどのように構築できるのか、実践的な例を通じて解説します。
事例1:人材派遣会社のコンテンツマーケィングのKPIツリー
KGIは、候補者に申し込みフォームから面談の申し込みを完了してもらう件数に設定しています。KPIは、リード数とページビュー数に設定しました。
事例2:課金型アプリケーションのKPIツリー
KGIは「売上金額」。KPIは「新規ユーザー」「平均購入単価」に設定しました。
事例3:BtoBビジネスの営業活動
KGIは「売上金額」。KPIは「新規案件数」と「アポ数」に設定しました。営業活動で、CRMなどを導入している企業であれば、さらに細かいデータを記録し、指標として使うことが可能です。
▼参考:KPI設計後のマーケティングコンテンツマーケティングの成功事例はこちら▼
KPIツリーの効果的な運用とPDCAサイクル
KPIツリーは作成して終わりではなく、運用を通じて継続的に改善していくことで、その真価を発揮します。ここでは、KPIツリーを組織の中で効果的に機能させ、持続的な成果につなげるための具体的な運用方法について解説します。
日常的なモニタリングと改善
KPIツリーを作成した後は、設定した各指標を定期的にモニタリングし、目標値との乖離が生じた場合には速やかに原因を分析し、改善アクションを実行することが重要です。
特に下位のKPIについては、日次や週次での管理が効果的です。例えば、Webサイトの訪問者数や問い合わせ件数などは、日々の変動を把握することで、異常の早期発見や迅速な対応が可能になります。
組織全体での活用
KPIツリーの効果を最大化するためには、組織全体での活用が不可欠です。部門ごとの目標がどのように全社の目標達成に貢献するのか、視覚的に示すことで、従業員一人一人が自分の役割を明確に理解できるようになります。
また、定期的なレビューミーティングを開催し、各指標の進捗状況を共有することで、部門間の協力体制を強化し、より効果的な改善活動を推進することができます。
KPI ツリー作成の無料ツール5選
実は、KPIツリー作成専用の無料ソフトは英語版も含め、まだ市場には多く出回っていません。しかし、マイクロソフトの標準ソフトや、マインドマップ、デジションメイキング用のソフトで応用することが可能です。実際に、KPIツリーを作成することのできる、おすすめツール5選をご紹介します。
1. マイクロソフトOffice のPower Point / Excel
今のところ、もっともシンプルで汎用性が高いのが、マイクロソフトOfficeのこの2つのソフトウェアです。上図でご紹介しているKPIツリーもPower PointのSmartArt(挿入→SmartArt)で作成したものです。ExcelにもSmart Art(挿入→SmartArt)の機能がついていますので、使い慣れたソフトウェアを選んでください。
2. Coggle
Coggleは、複雑な情報を簡単に視覚化し、情報共有することを目的とされて開発されツールです。主にマインドマップの作成のために使われるソフトですが、KPIツリーの作成にももちろん使えます。ダウンロードやインストールが不要で、Googleアカウントでログインするだけで使える手軽さも魅力です。直感的に操作できるだけでなく、デザインや色調がカラフルでデザイン性があります。無料版で、PDFや画像データとして出力することも可能です。
3. Xマインド
こちらもマインドマップとして有名なオープンソースの無料ソフトです。KPIツリーの作成にも向いています。世界中に、多くのユーザーがいることが、このソフトの使いやすさを証明しています。ただ、無料版では、PDFへの書き出しができない点だけご注意ください(EvernoteやSNS上への共有は可)。
4. MindMaple(英語サイトのみ)
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MindMapleもマインドマップ作成を目的としたツールですが、KPIツリー作成にも対応しています。現時点では、Windows版のみ無料版が公開されており、使用時にはソフトウェアのダウンロードが必要です。macOS版も、さほど高価ではなく$9.99で購入可能です。
無料版では、複数のテンプレートが使用することが可能ですが、PDFなどの出力ができません。しかし、有料プロ版では、PowerPoint、Word、Excel、HTML、TXT、image files、XMind filesなどへの出力が可能で、その他の拡張機能も高い点がその他のソフトウェアと一線を画しています。
5. Canva
Canvaはデジションツリーの作成を目的としたツールですが、簡単なKPIツリーの作成にも使用できます。選べる多種多様なデザイン、レイアウト、素材、テキスト、背景などが魅力で、PDFやJPG形式でダウンロードも無料版で使用可能です。社内のKPIツリーの作成というより、クライアントへのプレゼン、社内で可視化したいKPIツリーといった見せるKPIツリーを目的とした場合に魅力的なツールです。
まとめ
KPIツリーは、組織の目標達成を支援する強力なツールです。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、適切な指標の設定と継続的な運用が欠かせません。本記事で解説した手順とポイントを参考に、ぜひ自組織に適したKPIツリーの構築に取り組んでみてください。
まずは小規模な範囲から始めて、徐々に対象範囲を広げていくアプローチがお勧めです。実践を通じて得られた気づきを基に、より効果的なKPIツリーへと発展させていくことができるでしょう。