企業がマーケティング活動を行っていくうえで、ビッグデータやAIの活用は大きな効果を発揮します。しかし、単純にさまざまなデータを収集する、AIや機械学習を導入するだけでは成果を上げられません。そこで重要なとなるのが、ビッグデータを用いてマーケティング活動の欠かせない有益な知見を導き出すデータサイエンスです。今回は、企業のマーケティング活動で大きな効果を発揮するデータサイエンスについて、その概要、注目される理由、成果を上げるための活用方法をお伝えします。
データサイエンスとは?
データサイエンスとは、多くの専門知識を使ってデータを有効的に活用し、新たな知識を生み出すものもしくはそれらの活用シナリオを導き出すことを指すものです。多くの専門知識とは数理モデリング、計算機科学、統計学、情報工学、デザイン情報学などが挙げられます。また、データサイエンスを扱う人をデータサイエンティストと呼び、データサイエンスに注目が集まるのに合わせ需要が高まっている職種です。
データサイエンスは、データアナリティクスやデータマイニングなどと混同されるかた多いのではないでしょうか? 確かにデータを扱う点では変わりません。しかし、データアナリティクスは基本的にデータの分析を行うものです。そして、データマイニングはさまざまなデータのなかから関連性のあるものを見つけ出し、有用なパターンやルールを導き出すものです。同じようにデータを使いつつも、そこから新たな知見を生み出すデータサイエンスとは似て非なるものといえるでしょう。
データサイエンスの活用事例
専門知識を使い、データ活用によって新たな知見を生み出すといっても、具体的にどういったことをするのかを理解するのは難しいかもしれません。そこで、実際にデータサイエンスを活用した事例を2つ紹介します。
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AIの活用でじゃがいもの不良品検知を実現
キユーピー株式会社では、品種が多種多様かつ個体ごとのゆらぎが大きいじゃがいもや野菜の良品・不良品の検査・仕訳にかかる手間や時間の解消方法を模索していました。そこで、同社ではディープラーニングを導入。具体的には、製造ラインに流れる食品を撮影した動画をディープラーニングの画像認識や処理技術を用いて良品・不良品の検査・仕訳を自動化しました。これにより、人は取りこぼし分のみを確認すればよくなり、生産性が大幅に向上しています。
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AIカメラを活用した在庫管理システムで販売機会損失軽減を実現
流通業を行っている株式会社トライアルホールディングスが展開する小売店舗、「トライアルQuick大野城店」。同店では、店舗の冷凍冷蔵ショーケースにAIカメラを実装しました。商品の在庫状況やお客様の動き、属性の分析を行い、お客様が商品をショーケースから取り出し、一定の数が売れるとAIが店舗にアラートを出し、品出しを促します。これにより、店頭からの在庫切れによる販売機会損失を軽減させるうえ、店員が在庫チェックで店内を歩き回る手間が省け、効率化も実現しました。
データサイエンスが企業のマーケティング活動に欠かせない理由
現在、少しずつではあるものの、マーケティング活動において、データサイエンスは大きな注目を集めています。そこで、そもそも、データサイエンスが注目される背景を簡単に見たうえで、そのなかでも特にマーケティング活動に欠かせないとされている理由について説明します。
データサイエンスが注目される背景
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スマートフォンの普及とIT技術の進化
スマートフォンの普及により、いつでもどこでもインターネットに接続できる環境が整いつつあります。また、電子マネー、ICカード、ICチップ、電子タグなどIT技術の進化で、データサイエンスに欠かせないさまざまなデータを大量に収集できるようになっています。
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少子高齢化による人材不足の慢性化
日本は急速なスピードで少子高齢化が進み、多くの業種で人手不足が慢性化しています。そのため、業務効率化を進めながら生産性を向上させないと企業として生き残っていくのが難しく、新たな戦略が求められているのです。
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コスト削減
少ない人材で生産性を上げるには、過剰在庫、廃棄ロスなどを極力抑えなければなりません。そのため、属人性に頼らない将来予測が求められるようになっています。
データサイエンスがマーケティング活動に欠かせない理由
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市場の成熟、商品・サービスのコモディティ化
多くの業種で市場の成熟化と商品・サービスのコモディティ化が進み、従来のマーケティングでは競合との差別化が難しく、新たなマーケティング戦略が必要になっています。
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インターネットの普及による消費行動の複雑化
これまでは、四マス広告や家族・友人のクチコミにより近場の店舗で商品を購入というのが一般的な消費行動でした。しかし、インターネットの普及により、SNSや口コミサイトなど全国からの評判を確認したうえで、日本国中の商品を簡単に購入できるようになっています。その結果、消費行動が複雑化。より詳細な顧客分析が求められるようになっています。
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新規事業、商圏の拡大
マーケティング戦略の一つとして、新規事業への進出や既存事業の商圏拡大など未知な分野への取り組みを行う際、人の勘や過去の事例だけで成果を上げるのは簡単ではありません。そのため、多くのデータから新たな知見を得る必要があります。
データサイエンスを企業のマーケティング活動に生かすためのポイント
では、実際にデータサイエンスを企業のマーケティング活動に生かすシーンと、成果を上げるためのポイントを説明します。
企業のマーケティング活動においてデータサイエンスが生かされるシーンとは?
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在庫管理・販売予測
事例でも紹介したように、在庫管理や販売予測は人手をかけたり、属人性に頼ってしまったりでは再現性が生まれないうえ、人手不足解消やコスト削減につながりません。
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顧客分析・レコメンデーション
データアナリティクスによる顧客分析だけでは、既存顧客の行動を理解するだけで終わってしまう可能性があります。顧客分析の結果を新たなレコメンデーションや新規顧客獲得につなげていくには、データサイエンスを活用が欠かせません。
データサイエンスを効果的に活用するためのポイント
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さまざまなデータの収集
データサイエンスを活用するには、単純に大量のデータがあればよいわけではありません。自社の目的に応じて必要なデータを見極め、効率的に収集する必要があります。そのためには、データサイエンスを活用する目的をまず、明確にしなければならないでしょう。
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優秀なデータサイエンティストの雇用
データサイエンスを効果的に活用するには、優秀なデータサイエンティストの雇用が欠かせません。もちろん、社内で候補者を募り教育する方法もあるでしょう。しかし、データサイエンティストは数理モデリング、計算機科学、統計学のほか、AIやディープラーニングといった先端IT技術、マーケティングのなど幅広い知識が求められます。そのため、新たに雇用するもしくは専門会社に依頼するのがおすすめです。
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データサイエンティストが活躍できる環境の整備
優秀なデータサイエンティストを雇用したとしても、活躍できる環境が整っていないと成果を上げるのは困難です。「経営層の理解」「ツールの導入」「プロジェクトチームの発足」など必要な環境を整備することも、データサイエンス活用において欠かせない要素の一つといえるでしょう。
データサイエンスをマーケティングに活用する最大のポイントは経営者の理解と人材雇用
データサイエンスは、企業のマーケティング活動を大きく変える可能性を持っています。そのため、その重要性を経営者が理解し、積極的に活用できる環境整備ができるかどうかが、成果を上げるポイントの一つです。
また、データサイエンスを実行するには、数理モデリング、計算機科学、統計学、情報工学、デザイン情報学などさまざまな専門知識があるだけではなく、大量のデータのなかから必要なものを選択分析する能力も欠かせません。そのため、いかに優秀なデータサイエンティストを雇用もしくは育成できるかも、成果を上げるために重要なポイントとなります。企業のマーケティング活動にデータサイエンスを活用するには、経営者への積極的な働きかけと同時に現場でも研修、勉強会の開催によるデータサイエンスへの理解を深めていくことが欠かせないといえるでしょう。
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