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馬場 高志2026/01/09 10:00:011 min read

AIがバブルである6つの理由と、そうではない6つの理由|イノーバウィークリーAIインサイト -82

現在、シリコンバレーからウォール街、そして日本のビジネス界隈に至るまで、熱い議論の的となっているのが「AIはバブルなのか?」という問いです。

(この問題については、このコラムでも過去に取り上げました:

[No.73]AIバブルはこうして弾ける:循環取引と隠れ債務が示す危険な兆候

[No.64]加速するAIデータセンター投資はバブルか?

 

AI楽観派(ブル)は「これは産業革命に匹敵する変革だ」と主張し、悲観派(ベア)は「ドットコム・バブルの再来だ」と警告します。しかし、日々のニュースを追っていると、断片的な情報ばかりが飛び交い、全体像を掴むのが難しいと感じるのではないでしょうか?

 

今回ご紹介するのは、著名なテックジャーナリストであるデレク・トンプソン氏とティモシー・リー氏が共同執筆した記事、「How to Sound Like an Expert in Any AI Bubble Debate(あらゆるAIバブル論争で専門家のように語る方法)」です。

 

この記事は、AIバブル論争の中心となっている12の統計データや研究結果をわかりやすく整理しています。本コラムでは、これをベースに「バブル肯定派」と「否定派」それぞれの論拠を6つずつ解説します。

 

「AIはバブルだ」:悲観派が示す6つの証拠

まずは、警鐘を鳴らす「AIバブル肯定派」の6つの主要な論拠から見ていきましょう。彼らの主張は、主に「過剰な支出」「実態のない評価額」「不透明な資金循環」に集約されます。

 

1.支出規模が異常である

議論の出発点は、巨大テック企業の設備投資額です。Amazon、Meta、Microsoft、Alphabet(Google)、Oracleの5社だけで、直近の四半期における設備投資額は1,060億ドル(約16兆円)に達しました。これは米国のGDPの約1.4%に相当し、歴史的な巨大インフラプロジェクトに匹敵する規模です。

 

19世紀の鉄道や20世紀のインターネットと同様、米国企業が何かに熱狂するときは常に「作りすぎ(過剰投資)」が起き、それがバブル崩壊の引き金となってきました。AI投資は今やマクロ経済に深い影響を与えるほどの規模に膨れ上がっており、急激な減速があればその衝撃は深刻なものになる可能性があります。

 

2.実態のない企業への巨額投資

ドットコム・バブルとの違いとして「今のAI企業は実態がある」と言われますが、本当にそうでしょうか?

 

象徴的な例が、元OpenAIのミラ・ムラティ氏が率いるスタートアップ「Thinking Machines」です。同社はこの夏、製品をリリースする前に20億ドルという企業史上最大のシードラウンド(創業初期の資金調達)を実施しました。驚くべきことに、この資金調達において、投資家に対して「何を作っているか」さえ明かさなかったと報じられています。

 

その後、同社はさらに50億ドルの調達を計画し、評価額は500億ドル(Fordや大手スーパーマーケットチェーンのTargetの時価総額以上)に達しようとしています。製品がほぼ存在しない企業に、100年の歴史を持つ多国籍企業並みの価値がつく現状は、明らかに「何かがおかしい」と言わざるを得ません。

 

3.生産性が実は向上していない?

「AIはプログラミングを劇的に効率化する」という定説に対し、METRという研究機関が7月に発表した調査結果は衝撃を与えました。

 

16人のプログラマーに246のタスクを行わせたところ、AIを使用したグループは使用しなかったグループに比べて平均19%時間がかかりました。興味深いのは、AIを使った開発者自身は「20%速くなった」と感じていた点です。つまり、私たちはAIによって生産性が上がったと「思い込んでいる」だけかもしれません。

 

4.循環取引による「無限マネー」疑惑

AI業界の収益構造には、「ウロボロス(自分の尾を食べる蛇)」のような循環的な資金の流れがあるという懸念があります。

 

例えば、NvidiaはOpenAIへの出資を発表し、その見返りとしてOpenAIはNvidiaのチップを購入します。さらにOpenAIはOracleと巨額の契約を結び、OracleもまたNvidiaのチップを購入します。

 

この「循環取引」により、実際には新たな需要が生まれていないにもかかわらず、帳簿上の売上が膨らんでいる可能性があります。このサイクルのどこかが破綻すれば、連鎖的に業界全体が崩壊するリスクがあります。

 

5.隠されたコストと減価償却リスク

巨大テック企業は、AIインフラのコストをバランスシートから隠そうとしているという指摘があります。

 

MetaやCoreWeaveなどの企業は、データセンター建設にSPV(特別目的事業体)を利用し、年金基金や保険会社などから資金を調達しています。これにより、リスクを自社の株主ではなく外部の投資家に移転しているのです。

 

さらに、AIチップ(GPU)の「陳腐化」スピードも問題です。高速道路や光ファイバーは何十年も価値を持ちますが、GPUは数年でより高性能なモデルに取って代わられます。数年ごとに巨額の買い替えが発生すれば、企業の利益率は大きく損なわれるでしょう。

 

6.悪化する負債状況

これまで巨大テック企業は豊富な手元資金で投資を行ってきましたが、Oracleのような企業は状況が異なります。

 

Oracleはデータセンター建設のために巨額の借入を行っており、2028年までに負債総額は3,000億ドルに達すると予測されています。しかし、GPUレンタル事業の利益率は約14%と薄利で、同社の従来のビジネス(粗利70%)と比較して非常にリスクが高い状態です。AI需要が冷え込めば、巨額の負債と稼働しないGPUだけが残る可能性があります。

 

「AIは本物だ」:楽観派が指摘する6つの実態

一方で、AIはバブルではなく、実体のある成長軌道にあるとする「バブル否定派」の主張も強力です。彼らは「圧倒的な収益力」「普及スピード」「技術の進化」を根拠に挙げます。

 

1.史上最速の普及スピード

「AIの導入は減速している」という懐疑論に対し、データは逆を示しています。生成AIは、インターネットの約2倍の速さで普及しています。

 (出典: セントルイス連邦準備銀行)

例えば教育現場では、約半数の教師が毎月AIを使用しています。定期的に使用する教師は週に6時間の業務時間を削減しており、これは年間約1.5ヶ月分の有給休暇に相当する効率化です。AIはすでに多くの産業に深く浸透しています。

 

2.巨大テック企業の圧倒的な資金力

確かに投資額は巨額ですが、投資している企業の「体力」が過去とは違います。

 

巨大テック企業は史上最も豊かな企業群であり、現在のAI設備投資額は、フリーキャッシュフロー(自由に使える現金)の半分にも満たない水準です。かつてのドットコム企業とは異なり、彼らは既存ビジネスで莫大な利益を上げながら、将来のさらなる利益のために投資を行っているのです。

(出典: ゴールドマン・サックス)

 

3.妥当な株価収益率

現在の株価はバブルに見えるかもしれませんが、利益の実態が伴っています。

 

1999年のドットコム・バブル時、CiscoやOracleの株価収益率(PER)は100倍を超えていました。対して、現在のAIブームの中心であるNvidiaのPERは約30倍であり、これはNetflixと同等の水準です。

(出典: ゴールドマン・サックス)

 

Nvidiaの利益は前年比65%、その前年からは200%以上増加しており、株価の上昇は期待だけでなく、実際の実績に基づいています。

 

4.指数関数的な収益成長

「投資に見合う収益が得られない」という懸念に対し、AIの売上は急増しています。

 

Exponential Viewの分析によれば、生成AIの収益は過去2年間で70億ドルから600億ドルへと9倍に成長しました。このペースが続けば、投資回収に必要とされる年間6,500億ドルの収益ラインに、2029年には到達する計算です。MicrosoftやOpenAIなど主要企業は、今年のAI収益が倍増すると予測しています。

 

5.「シャドーAI」の実質的な効果

「企業のAI導入プロジェクトの95%が失敗している」というMITの研究結果が話題になりましたが、これには続きがあります。

 

同研究は、公式なトップダウンのプロジェクトは失敗していても、従業員が個人的にChatGPTなどを使う「シャドーAI」経済が繁栄していることを明らかにしました。従業員は自分の仕事を自動化し、成果を上げています。つまり、AIは「使えない」のではなく、現場レベルではすでに有用であり、公式な導入プロセスが追いついていないだけなのです。(このMITの研究については、イノーバウィークリーAIインサイトNo.80で解説しました。 )

 

6.驚異的な能力向上

最後に、AIの能力そのものの進化です。METRの別の分析によれば、AIが独力で完了できるタスクの長さ(Task length)は、7ヶ月ごとに倍増しています。

 

2021年のモデルは数秒のタスクしかこなせませんでしたが、現在は人間なら数時間かかるリサーチ業務を遂行できます。このトレンドが続けば、10年以内に数日・数週間かかるソフトウェアタスクをAIが自律的に完了できるようになると予測されています。知的能力が指数関数的に向上している技術を「バブル」と断じるのは困難です。(このMETRの研究については、イノーバウィークリーAIインサイトNo.79で解説しました。)

 

結論:2つの異なる未来予測

この記事の著者2人の結論も割れています。

 

デレク・トンプソン氏は「AIはバブルである」と結論付けます。彼は、19世紀の鉄道、ドットコム、住宅バブルとは異なる「特別な種類のバブル」と考えています。AIは将来の生産性と利益に影響を与える重要な技術ですが、あまりにも多くの企業を巻き込んだインフラへの過剰投資に対して収益が追いつかず、今後24ヶ月以内に調整局面(クラッシュ)が訪れると予測しています。

 

一方、ティモシー・リー氏は「AIはバブルではない」と考えます。彼は、現在のAIモデルがすでに多くの産業で価値を生み出す十分な能力を持っており、その能力向上が止まらない点に着目しています。個別の企業の淘汰はあるものの、業界全体としては現在の巨額投資を正当化するだけの明るい未来があるとしています。

 

おわりに: ビジネスパーソンとしての向き合い方

このように、「12の論点」を押さえることで、AIバブル論争の全体像が見えてきたのではないでしょうか?重要なのは、どちらか一方の意見を鵜呑みにするのではなく、この「綱引き」の状態を理解しておくことです。

 

過剰な期待による短期的な調整のリスク(バブル崩壊)を警戒しつつも、長期的・実質的な生産性向上(技術革新)の波に乗り遅れないこと。このバランス感覚こそが、今の私たちに求められているのかもしれません。

 

皆さんは、この12の論点を見て、どちらの陣営に説得力を感じたでしょうか?

 

▼参考記事

 

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馬場 高志

1982年に富士通に入社、シリコンバレーに通算9年駐在し、マーケティング、海外IT企業との提携、子会社経営管理などの業務に携わったほか、本社でIR(投資家向け広報)を担当した。現在はフリーランスで、海外のテクノロジーとビジネスの最新動向について調査、情報発信を行っている。 早稲田大学政経学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(ファイナンス専攻)。