生成AIは、今や人間が書いたものと見分けがつかないほど自然な文章を生成できるようになりました――少なくとも、そう言われています。しかし実際に、ニュース記事、企業のウェブサイト、SNSの投稿などを読んでいるとき、ふと「これ、AIが書いたのではないか」という違和感を覚えることはないでしょうか。文法は完璧で、論理も破綻していない。それなのに、どこか妙に劇的で、空虚な響きが残る。そんな経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに、AIが生成する文章には特徴的な「文体」が存在するようです。今週のコラムでは、米ニューヨーク・タイムズ・マガジン紙に掲載されたサム・クリス氏による記事「Why Does A.I. Write Like … That?(なぜAIはあんな風に書くのか?)」を基に、AI特有の「文体」の正体とそのメカニズム、そしてそれが私たち人間に与えている意外な影響について考察します。
AIの文章があふれる世界
2022年末にChatGPTが公開されて以来、AI生成テキストは爆発的に増加しました。イギリスの作家協会の調査によれば、フィクション作家の20%、ノンフィクション作家の25%が生成AIを仕事に活用しています。学術論文、ニュースメディアの記事、さらには企業の公式声明に至るまで、AIが書いた、あるいは書くのを手伝った文章が社会にあふれかえっています。
Instagramではコメント機能にAIが統合され、ユーザーは自分の言葉の代わりにMetaのAIに「面白い」「サポート的な」「カジュアルな」トーンでコメントを生成させることができます。主要なメールクライアントも同様のサービスを提供しています。私たちは、あらゆるコミュニケーションを生成AIという万能の書き手に委ねつつあります。
しかし問題は、この生成AIには極めて特徴的な「声」があることです。ChatGPTにAIの文体の特徴を聞くと、「平易で中立的」などと答えますが、その声は、決して滑らかで中立的なものではありません。むしろ、奇妙で、識別可能なのです。
AIの文体の特徴
AIの書いた文章には、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。ニューヨーク・タイムズ・マガジン紙記事は、下記のような特徴を挙げています。これらは英語の文章についての分析ですが、日本語の文章にもかなり共通する傾向が見られると思います。
1. 典型的な語彙:「深掘り」や「タペストリー」への偏愛
AIには、異常なほど好んで使う単語があります。最も有名なのが「Delve(深掘りする)」です。
医学分野の論文データベース「PubMed」の分析によると、ChatGPT公開前の2022年には1万件に1件程度しか使われていなかったこの単語が、2024年には使用率が2700%という驚異的な急増を見せています。
他にも、「intricate(入り組んだ)」「tapestry(タペストリー)」といった複雑さを示す言葉や、「swift(素早い)」「meticulous(綿密な)」といった精密さを強調する言葉が多用される傾向にあります。
- 特徴的な構文:「それはXではなく、Yだ」
記事では、AIが好む特有の構文パターンも指摘されています。特に顕著なのが、「It’s not X, it’s Y(それはXではなく、Yだ)」という形式です。
聖書やシェイクスピアにも見られる一般的な構文ですが、AIはこの対比構造を乱用します。記事では、カマラ・ハリス前副大統領とジョー・バイデン前大統領が、トランプ政権を批判する声明で、相次いでこの構文を使った例を挙げています」:
「この政権の行動は公共の安全のためではない——恐怖をあおるためだ」 (カマラ・ハリス)
「共和党の予算案は無謀なだけでなく、残酷だ」 (ジョー・バイデン)
クリス氏は、これは偶然かも知れないが、「話し方がこれほど独特で異なる2人の政治家が、全く同じスタイルで書くのは奇妙です」と指摘しています。
2. 「3の法則」への執着
AIは情報を3つ並べる「トリコロン(三項目並列)」を病的なまでに好みます。
記事では、SNSで拡散された「捨て子を拾った女性」の感動的なストーリーが例に挙げられています。
「家族もいない。電話もない。ただ静寂だけ(No family. No calls. Just silence.)」
「若すぎる。独身すぎる。未熟すぎる(Too young. Too single. Too inexperienced.)」
このように、リズムを整えるために3つの要素を並べる癖は、人間の作家も使う技法ですが、AIは異常なほどこれを多用します。
なぜそんな書き方をするのか?:「良い文章」の過剰学習
なぜAIはこれほどまでにステレオタイプな文章を書くのでしょうか。その原因は、AIの学習の仕組みそのものにあると記事では分析しています。
AIは現実世界を経験しません。風の強さも、食事の味も知りません。彼らが知っているのは、大量のテキストデータ内における単語同士の統計的な相関関係だけです。
AIは「良い文章」とタグ付けされたデータを学習する際、そこで頻出する特徴を過剰に学習(オーバーフィッティング)してしまいます。
例えば、「em dash(エムダッシュ記号『—』)」は、文学的で質の高い文章によく現れます。そのためAIは、「ダッシュを使えば質の高い文章になる」と統計的に判断し、あらゆる場面でダッシュを乱用するようになります。
この「過剰学習」の滑稽な例として、初期のGPTに「アニメのシンプソンズの面白いエピソード」を書かせた事例が紹介されています。AIはジョークを書く代わりに、登場人物たちが延々とお互いを「くすぐり(tickle)」合う脚本を書きました。
「ジョーク=笑い」「くすぐる=笑い」。AIのネットワークの中でこの2つが結びつき、「くすぐることについて書けば、それはジョークを言っているのと同じだ」と判断したのです。現在のモデルはこれほど単純ではありませんが、根本的な構造——人間が好む「良質な文章」の特徴を抽出し、それを過剰に再生産する——は変わっていません。
創作における「静寂」と「幽霊」への奇妙な執着
この「過剰学習」は、AIにクリエイティブな文章を書かせたときに、より奇妙な形で現れます。AIは「文学的であること」を、「静寂、幽霊、ささやき」と混同している節があるのです。
OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏は2025年3月、新しいモデルに「AIと悲しみについてのメタフィクション短編ストーリー」を書かせた結果をX(旧Twitter)に投稿し、その出来栄えを称賛しました。
しかし、その約1100語のストーリーを分析すると、「Quiet(静かな)」「Hum(ハミング)」「Echo(こだま)」「Liminal(境界の)」「Ghosts(幽霊)」といった単語が頻出していることがわかります。
AIにとって、「良い文章」とは「繊細さ(Subtlety)」を含むものです。繊細さとは、静かに語られること、あるいは直接的には語られないことです。その「繊細な効果」を再現しようとして、AIは「すべてが影のようで、繊細で、静かである」と、大声で叫ぶような文章を書いてしまうのです。
人間への逆流:私たちもAIのように話し始めている
しかし、AIの奇妙な文体を笑っていられるのも今のうちかもしれません。なぜなら、私たち人間自身が、無意識のうちにAIの言葉遣いを真似し始めているからです。
サイエンティフィック・アメリカンの記事によると、マックス・プランク人間発達研究所の研究チームが、YouTube動画やポッドキャストの会話データを分析した結果、ChatGPTのリリース以降、話し言葉においても「Delve」などの「GPT語」の使用が急増していることが判明しました。
この論文の共著者のレビン・ブリンクマン氏は、これを「文化的なフィードバックループ」と呼んでいます。人間がAIを「知的で重要な存在」と見なすほど、その模倣は加速します。AIを「知的で重要な存在」と見なすようになればなるほど、私たちはAIの言葉を模倣するようになります。それは言語の多様性を狭め、私たちの文化そのものを「AI的」なものへと変質させるリスクを孕んでいます。
求められる「ストーリーテラー」
AI生成コンテンツが氾濫するなかで、米国の求人市場では興味深い現象が起きています。それは、生身の人間による「ストーリーテラー(語り部)」への需要が急増していることです。
ウォール・ストリート・ジャーナルの「Companies Are Desperately Seeking ‘Storytellers’(企業は必死に『ストーリーテラー』を求めている)」という最近の記事によると、LinkedInにおいて「ストーリーテラー」という用語を含む求人掲載数は、最近1年間で倍増しました。GoogleやMicrosoftといった大手企業が、広報やコピーライターといった従来の肩書きではなく、ブログ、ポッドキャスト、ケーススタディなどを通じて顧客や投資家とつながる専門職として「ストーリーテラー」を募集しています 。
なぜ今、あえて「人間」の語り部なのでしょうか。その背景には、AIコンテンツへの反動があります。
コミュニケーション戦略会社のCEO、スティーブ・ハーシュ氏は、AIが生成する粗製乱造されたコンテンツ(いわゆる「AI スロップ」)が「多くの不信感を生み出している」と指摘します。AI特有の「完璧だが空虚な」文章が溢れる現代において、勝者となるブランドは「最もオーセンティック(本物)で、人間味があり、共感できる」発信をしている企業だというのです。
AIは劇的な言葉で雰囲気を演出しようとしますが、そこには実体験に基づく重みや、信頼を築くための「人間味」が欠けています。企業は今、AIにはまだ到達できない「信頼」や「共感」の担い手として、人間のストーリーテラーを求めているのです。
おわりに
AIの文体は、私たちの文化やビジネスコミュニケーションに浸透し、静かに変質させようとしています 。
ビジネスリーダーやマーケターにとって、AIの効率性を活用しつつ、その「統計的な平均値」に飲み込まれないことは、今後のブランド戦略において極めて重要です。AIが生成した言葉をそのまま受け入れるのではなく、人間ならではの具体的な身体感覚や独自の視点を意識的に付加していくことが求められます。
AIとの融合が進む新しい現実の中で、自らのオリジナルの声を磨き続ける姿勢が必要不可欠なのです。
▼参考記事
- 「Why Does A.I. Write Like … That? (なぜAIはあんな風に書くのか?)」 ニューヨーク・タイムズ・マガジン
- サム・アルトマンのX投稿
- 「ChatGPT Is Changing the Words We Use in Conversation(ChatGPTは私たちの会話で使う言葉を変えている)」 サイエンティフィック・アメリカン
- 「Companies Are Desperately Seeking ‘Storytellers’(企業は必死に『ストーリーテラー』を求めている)」 ウォール・ストリート・ジャーナル
お知らせ
いつもイノーバAIウィークリーインサイトをご覧いただきありがとうございます。
本連載はこれまで毎週お届けしてまいりましたが、今後もより末永く、安定して皆様にお届けできる体制を整えるため、次回より隔週更新に変更させていただくことになりました。
それに伴い、連載シリーズの名称も「イノーバAIウィークリーインサイト」から「イノーバAIインサイト」にリニューアルいたします。
これからも、皆様のビジネスのヒントとなる質の高いインサイトをお届けできるよう尽力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。