いま、何かを調べるときに最初にAIを開くのは、当たり前の行動になりつつある。検索の回数は急速に減り、イノーバのお客様からも「サイトへの流入が減っている」という相談を受ける機会が増えた。AIがGoogle検索に完全に取って代わる可能性もある。
いま多くの会社が、AIに引用されるための対策(LLMOなど)に注目しており、「これをやれば表示される」という声も多い。だが、本質はそこではない。足元の施策に目を奪われがちだが、この変化は元に戻らない性質のものだ。
従来のWeb検索では、検索結果から何ページも開き、内容を見比べる必要があった。AIなら、それが一度の質問で済む。しかも、調べた結果をそのまま資料にまとめたり、次のアクションに移したりしやすい。検索の「その後」まで含めて考えると、AIで調べたほうが結果的に楽だ、という流れが進んでいる。
みなさんはどうだろうか。半年前、一年前と比べて、検索する回数が減り、代わりにAIを使う場面が増えていないだろうか。一度この楽さを知った人が、手間のかかる方法へ戻ることは考えにくい。だからこそ、視線を先に置いて、この先メディアに何が求められるのかを考える必要がある。
自動車ディーラーが先に経験した変化
その手がかりになるのが、同じ構造の変化をひと足先に経験した自動車ディーラーの事例だ。この事例は、本記事の考え方の土台になる。
インターネットが普及する以前、車を購入する人は、まずディーラーにカタログをもらいに訪れていた。ディーラーは情報を提供する主要な窓口であり、顧客は情報収集のために店舗を利用していた。
しかし現在、顧客は来店前にオンラインでスペックを比較し、レビューを確認する。それに伴い、ディーラーの役割は「情報提供」から「見積もりの提示、納車、アフターサービス」へと変わった。顧客はすでに候補を絞り込んでおり、最終的な確認と意思決定のために来店するようになったのだ。
【自動車の購入プロセスで変わったディーラーの役割】
普及前
カタログをもらう
比べる
もらって購入
普及後
スペックを調べる
比べて絞り込む
見積もりと最終確認
オウンドメディアにおける役割の再定義
この役割の変化は、現在のオウンドメディアにもそのまま当てはまる。
過去長年にわたり、オウンドメディアは検索経由で情報収集層(ToFu:トップ・オブ・ファネル。購買検討の入口にあたる層)を集める「カタログを提供する場」として機能してきた。しかし、前回のデータで確認した通り、一般的な情報提供の役割はすでにAIへと代替されつつある。
これからのオウンドメディアに求められる役割は、企業の信頼性、具体的な実績、担当者の専門性などを提示する「検討層が最終確認(裏取り)を行うための場所」への転換だ。
BtoBの購買プロセスにおいて、顧客は営業担当者に接触する前に検討の約6割を自己学習で進めており、最終的な受注ベンダーの95%は検討初日の候補リストにすでに入っていたというデータもある〔1〕。顧客が自社を候補に入れた瞬間に、適切な情報を提供できる状態を整えておくことが決定的に重要である。
「指名されるメディア」への4つの転換要素
この変化に適応するため、メディアの設計思想において以下の4つの要素を見直さなければならない。
| 転換 | 従来のモデル | 新たなモデル |
|---|---|---|
| 1 役割
集客装置 → 確認・裏取りの場所
|
幅広いキーワードでアクセス数を最大化する。 | 自社の具体的な事例、実績、提供価値、料金体系などを中心に配置し、検討層が必要とする情報を提供する。 |
| 2 対象
情報収集層(ToFu) → 比較検討層(MoFu:ミドル・オブ・ファネル)、意思決定層(BoFu:ボトム・オブ・ファネル)
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ファネルの上部を大量のコンテンツで網羅する。 | AIによる代替が難しい、専門性や独自性の高いコンテンツにリソースを集中する。 |
| 3 入口
一般キーワード検索 → 指名検索
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非指名の一般キーワードでの検索順位を主要な指標とする。 | 企業名やサービス名などの「指名検索」の数と質を重視する。専門家の発信や事例の露出を通じて認知を高めるアプローチが不可欠になる。AIへの引用もブランド言及と相関があることが示されている〔2〕。 |
| 4 チャネル
検索エンジン依存 → 複数チャネルの構築
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オーガニック検索からの流入に大きく依存する。 | 検索エンジン以外の接点(ニュースレター、SNS、営業担当からの直接案内など)を構築し、自社で直接アプローチ可能な読者層を形成する。 |
この4つの転換をどこまで、どの順で進めるかは、自社メディアの現状によって変わる。
次回は、メディアの方向性を判断するための具体的な指標と、存続や再設計に向けた評価基準を明らかにする。
▶ 前回
第2回 検索結果の68%がゼロクリックという衝撃──データが暴く「検索からAIへ」の実態
▶ 次回予告
第4回 そのオウンドメディア、続ける?畳む?──方向性を判断する5つの指標
存続、再設計、縮小、撤退を判断するための客観的な5つの問いと、その判定基準を提示する。
参考文献・出典:
- 〔1〕6sense. The B2B Buyer Experience Report 2025(売り手との初回接触時点で購買プロセスの約61%が完了、受注ベンダーの95%が検討初日の候補リストに存在)
https://6sense.com/science-of-b2b/buyer-experience-report-2025/ - 〔2〕Ahrefs. An Analysis of AI Overview Brand Visibility Factors (75K Brands Studied)
https://ahrefs.com/blog/ai-overview-brand-correlation/
宗像 淳 / イノーバCEO
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。
2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。
2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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