前回は、AI時代にオウンドメディアが「検索窓口」から「裏取りの場」へ変わることを書いた。
「オウンドメディアの運用をこのまま続けるべきか」という相談が増えている。
その背景には、「運用体制の維持が困難になっている」「短期的なリード獲得のプレッシャーが強い」「費用対効果の算出が難しい」といった課題がある。これらは運用上の切実な問題だが、メディアの方向性を決定する経営判断の材料としては、より客観的な指標を用いるべきだ。
検索行動のAIシフトが進む現在、オウンドメディアの方向性は、ビジネスへの貢献度という観点から厳しく評価する必要がある。AIが検索を置き換えていく流れは、もう元には戻らない。今回は、メディアの方向性を評価するための「5つの指標」を提示する。
方向性を評価する5つの問い
以下の5つの項目について、現状のデータに基づいて確認してほしい。
1. 商談の何割がメディア経由で始まっているか?
ページビュー(PV)ではなく、全商談のうち何割がメディア(オウンドメディア経由の検索流入)を起点としているかを確認する。AI経由の訪問者はコンバージョン価値が高い傾向にあるというデータ〔1〕もあるが、まず把握すべきは母数となる全商談に対するメディア起点の比率だ。
2. 「検索依存度」の割合はどの程度か?
新規問い合わせのうち、「非指名キーワードによる検索流入」が起点となっている割合である。この割合が大きいほど、検索エンジンの仕様変更やAI代替による影響を直接的に受けるリスクが高い。運用モデルの見直しは急務だ。
3. 「指名比率」のトレンドはどうか?
検索流入全体において、企業名やサービス名などの「指名検索」が占める割合が上昇しているか、下降しているかを確認する。単月のスナップショット値だけでは判断できないため、半年〜1年前の値と比較して傾きを見る。コンテンツの量産だけでなく、ブランドとしての認知が形成されているかを測る指標となる。
4. 上位表示されている記事は、ターゲット層と一致しているか?
トラフィックを多く集めている記事が、自社のサービスや事業内容と関連性の低いユーザー層を集めていないかを確認する。ここでは単純な二択ではなく、次の3段階で見るとよい。
- 事業に直結する記事
- 読者層(経営層・マーケ担当者など)自体はターゲットと合っているが、事業訴求には直結しない記事
- 読者層自体が乖離している一般的な記事
特に2つ目の“ターゲット層は集めているが直結しない”記事は、一般的なToFu(「〜とは」型)とは性質が異なり、削除すべきか発信チャネルとして活かすべきかの判断が分かれる。ターゲット層と乖離したコンテンツに依存しているメディアは、トラフィック減少の影響を受けやすい〔2〕。
5. メディア再構築に向けた投資と期間を確保できるか?
役割やチャネルの転換など、メディアを根本的に再設計するには、一定の期間とリソースが不可欠だ。これらを継続的に投資する体制が整っているかを確認する。
評価に基づく4つの方向性
5つの問いへの回答をもとに、自社の状況を順番に確認していくと、メディアの方向性はおのずと以下の4つのいずれかに絞り込まれる。
確認する順番は、商談への貢献(問1)、上位記事とターゲット層の一致度(問4)、検索依存度(問2)、指名比率のトレンド(問3)である。再設計とするか縮小とするかは、投資・期間の確保(問5)で分かれる。分岐は下の図と、その後の4つの方向性にまとめた。
【判定の流れ】
- 商談への貢献が確認できない場合 → 【撤退・統合】。撤退は合理的な経営判断の一つだ。すべての記事を削除するのではなく、営業活動で活用できる有益なコンテンツを選別し、資料として統合・保管することが望ましい。
- 商談への貢献はあり、かつ以下のいずれかの兆候が見られ、再構築への投資・期間を確保できる場合 → 【再設計】。
- 上位記事の大半がターゲット層と乖離・準一致。トラフィックの量ではなく質そのものに構造的な課題があるケースだ。検索依存度が低くても、中身が事業に効いていない以上、器から作り直す必要がある。
- 上位記事はターゲット層と概ね一致しているが、検索依存度が高い。中身は健全だが検索一本足打法のリスクが高いケースで、中身は活かしつつ入口とチャネルを分散させる。
- 上位記事が一致していて検索依存度も低いが、指名比率が停滞・下降している。表面上のリスクは低くても、ブランドとしての勢いが失われている兆候であり、放置すれば同じ道をたどる。
- 上記いずれかの兆候がありながら、再構築への投資・期間を確保できない場合 → 【一部維持(縮小)】。新規の更新頻度を落とし、検討層が必要とする情報を整理した静的なページとして維持する。
- 商談への貢献があり、上位記事もターゲット層と一致し、検索依存度が低く、指名比率が上昇傾向にある場合 → 【継続】。現在の運用モデルで一定の成果が出ている状態だ。
イノーバにおける判断の事例
参考として、私たちイノーバが自社メディアを評価した際の状況は以下の通りだった。
| # | 指標 | イノーバの実数 |
|---|---|---|
| 1 | 商談のうちメディア経由の割合 | 約1.9% |
| 2 | 検索依存度 | 約16.5% |
| 3 | 指名比率のトレンド | 約15.7%→約24.7%(上昇傾向) |
| 4 | 上位記事とターゲット層の一致度 | 上位20本中、完全一致7本(35%)/ターゲット層は合うが商談非直結10本(50%)/乖離3本(15%) |
| 5 | 再構築への投資・期間の確保 | 確保済み |
これらの数値を踏まえ、私たちのフローはこう進んだ。
商談への貢献は一定程度確認できる(問1)ので、次に問4を見る。上位記事のうち完全一致はわずか35%で、大半(65%)がターゲット層と乖離・準一致だった。フローチャート上ではこの時点で検索依存度(問2)は経由せず(表の約16.5%は判断に使っていない)、そのまま投資・期間の確保(問5)へ進む。これが確保できる状態だったため、私たちは従来のPVを重視する運用方針から転換し、【再設計】を選択してメディアの再構築を進めている。
上記「問い2〜4」に正確に答えるためには、自社の全コンテンツを評価し、それぞれの役割を把握しなければならない。次回からの第2部「診断編」では、既存の全記事を客観的に評価し、注力すべき領域とそうでない領域を見極める具体的な手順を解説する。
▶ 前回
第3回 検索窓口から「裏取りの場」へ──指名されるオウンドメディアに必要な4つの転換
▶ 次回予告
第5回 全記事を「AIに奪われるか」で仕分けろ──検索意図×AI代替可能性で見極める棚卸し手順
自社の既存コンテンツを整理し、AIに代替されやすいToFu領域を見極め、独自の価値を提供できるMoFu/BoFu領域へリソースを集中する具体的な仕分け手法を提示する。
参考文献・出典:
- 〔1〕Semrush. 26 AI SEO Statistics for 2026 + Insights They Reveal(AI検索経由訪問者のコンバージョン率は通常のオーガニック検索訪問者の約4.4倍、との調査結果を紹介)
https://www.semrush.com/blog/ai-seo-statistics/ - 〔2〕Ahrefs(執筆:Mateusz Makosiewicz、レビュー:Ryan Law). 9 Surprising Takeaways From Analyzing HubSpot's SEO Strategy
https://ahrefs.com/blog/hubspot-seo-case-study/
宗像 淳 / イノーバCEO
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。
2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。
2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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