Skip to content
Close
馬場 高志2026/06/05 10:00:011 min read

AI検索の新時代――「人間向けWeb」から「AIエージェント向けWeb」へ|イノーバAIインサイト -93

インターネット検索は今、大きな転換点を迎えています。これまで検索の主体は「人間」でした。検索エンジンは、人間がクリックして閲覧するためのリンクを提供し、その前提のもとでウェブ全体が構築されてきました。しかし現在、その前提が大きく変わり始めています。

AI エージェントが自律的にウェブを巡回し、情報を収集・要約し、行動まで実行する「エージェンティック・ウェブ」が現実のものとなりつつあるのです(エージェンティック・ウェブについてはこちらの記事もご参照ください)。

この変化に伴い、検索エンジンの役割も、「人間向けのナビゲーション」から、「AI 向けの推論インフラ」へと再定義され始めています。

本稿では、Google の AI 検索刷新や Exa、Parallel といった新興企業の取り組みを通じて、AI 検索時代にウェブの構造がどのように変化するのかを考察します。

 

Google I/O 2026でのAI検索サービス刷新

Googleは2026年5月19日(現地時間)、「Google I/O 2026」において、検索サービスに大規模なAI機能拡張を導入すると発表しました。

AIモードの標準モデルとして「Gemini 3.5 Flash」が全面採用され、検索ボックスも25年ぶりに刷新されました。AI がユーザーの意図を先読みし、より自然な質問作成を支援します。文字入力だけでなく、画像・動画・ファイル・ブラウザタブを含むマルチモーダル検索にも対応しました。

さらに注目されるのが、自律的に稼働する検索エージェントです。ニュース、SNS、金融情報、商品情報などを継続的に監視し、ユーザー条件に合う変化があれば要約付きで通知します。

また Google は予約支援機能も拡張します。飲食店や各種サービスを横断検索し、価格や空席情報を集約表示。ユーザーはそのまま予約まで完了できます。さらに米国では、住宅修理、美容、ペットケア分野などで、AI が利用者に代わって店舗へ電話し、予約や問い合わせを行う機能も導入予定です。

こうした動きは、検索の主体が「人間」から、自律的に情報収集や行動を行う「AIエージェント」へ移りつつあることを示しています。

 

AI検索時代を支える新インフラ企業

このようにエージェントが検索の主役となる世界を見据え、既存の検索エンジンとは異なる「AIのための検索インフラ」を提供する新興スタートアップが急成長しています。

その筆頭がExaです。同社は、AI時代に特化して最適化された検索エンジンの構築を目指し、アンドリーセン・ホロウィッツ氏が主導する今年5月の追加資金調達で2億5000万ドル (約395億円)を調達し、評価額は22億ドル (約3,476億円)に達しました。ExaのCEOであるウィル・ブリックは、「今年はAIエージェントによるウェブ検索の回数が、初めて人間の検索回数を上回る転換点になる」と予測しています。同社はすでにCursor、Cognition、HubSpot、Monday.comなど数千の顧客を抱え、AIコーディング支援やGTM(Go-to-Market)エージェント向けの検索APIとして急速に採用が広がっています。

また、Twitter (現X)のCEOを務めたパラグ・アグラワル氏が率いるParallel Web Systemsも、セコイア・キャピタル主導の追加資金調達で1億ドル (約158億円)を調達、評価額は20億ドル (約3,160億円)に到達しました。同社のAIエージェント向け検索APIやディープリサーチAPIは、法務AIのHarvey、Notion、Opendoorなど、AI先進企業で活用されています。現在では10万人以上の開発者が同社のプラットフォーム上で開発を行っています。

 

検索は「人間向け」から「AI 向け」へ:従来型検索の限界

検索の主役が人間から機械(AI)へと変わったことで、検索システムに対する根本的な要件も大きく変化しました。AIエージェントは、Googleなどの人間向けに設計された従来の検索エンジンでは十分なパフォーマンスを発揮できず、全く新しい技術とインフラを必要としています。

 

「約400ミリ秒」の速度制約:従来の検索エンジンでは、「速さ」が最優先であり、ユーザーがキーワードを入力してから約400ミリ秒で結果を返すように最適化されています。AIエージェントが複雑なリサーチを行う場合、この速度制約は情報の網羅性を損なう原因となります。エージェントにとって必要なのは、数分や数時間かけてでも「最適な情報を漏れなく取得すること」です。

 

クリックへの最適化:従来の検索アルゴリズムは、人間が最初にクリックしやすいページを高く評価し、クリック率を最大化するように設計されています。そのため、情報が浅いSEO記事や広告が上位に来やすくなります。しかしエージェントは、人間のエンゲージメント指標ではなく、基礎となる質問に最も関連する一次情報や深い文脈を必要としています。

 

キーワードベースのアルゴリズムの限界:従来の検索は、クエリの単語がページ内に文字通り存在するかを評価する「キーワードマッチング」に依存しています。ひとつのアイデアを表現する言葉は無数にあるため、「最新AIモデルの課題を指摘した論考」のような概念的なテーマで検索した場合、入力した単語と直接一致するキーワードがページ内に書かれていなければ、重要な情報を取りこぼしてしまうのです。

 

インターフェースの問題(視覚的ノイズ):従来の検索結果ページ(SERP)は、広告やナレッジパネルなど、人間の視覚的スキャン用に設計された要素で溢れています。これらはAIにとって純粋なノイズであり、限られたコンテキストウィンドウ(トークン)を浪費させる結果となります。エージェントが必要とするのはクリーンなテキストデータです。

 

Exa と Parallel は何を変えようとしているのか

これらの制約を打ち破るため、ExaやParallelはAIエージェントのニーズに特化した新しいアプローチを採用しています。

従来のGoogle検索は、多くのリンクや重要度の高いページからリンクされているサイトほど、高くランキングされるPageRankアルゴリズムをベースとしていました。一方で、Exaが採用しているNeural PageRankは、「そのリンク(ドキュメント)がどのような文脈で共有されているか」をAIに学習させています。具体的には、「この文脈の後に続く最も可能性の高いリンク(ドキュメントID)は何か」を学習・予測します。Exaは自社の巨大なGPUクラスタ上にウェブ全体の意味を理解するベクトル・データベースを構築することで、AIエージェントが自然言語で記述した「概念」や「意図」に対して、キーワードを含んでいなくても最も適した情報を高速に返すことを可能にしています。

一方、Parallelは「人間のクリックのためではなく、AIモデルが推論するためのトークンとコンテキストを最適化する」という理念のもと、独自のAI検索インフラを構築しました。独自のウェブインデックスとクローラーにより、長文PDFやJavaScript多用サイトなど取得困難なデータも処理します。そして、ページ全体ではなく、AIの目的に最も関連する情報だけを高密度な抜粋として提供します。また、従来は複数回の検索が必要だった複雑なマルチホップ推論を1回のリクエストで解決でき、AIの処理能力を高めつつコストと遅延を大幅に削減しています。

 

クリック率激減の「ゼロクリック問題」と新たな収益モデル

AIが検索結果内で完結した回答を生成し、決済や購買までを検索エンジン内で処理するようになれば、ユーザーが元のウェブサイトを訪問する必要性はなくなります。実際、複数の調査データが示す通り、AIによる回答はクリック率(CTR)を61〜93%も低下させます。

この問題に対し、Parallelは「Index」という新しい仕組みを発表しました。AIエージェントが情報収集を行う際、どのウェブサイトのコンテンツがどれだけ回答の生成に貢献したかをリアルタイムで追跡し、その貢献度に基づいてコンテンツ提供者に報酬を支払うというシステムです。これは、人間の「アテンション(クリック)」に代わる、AI時代の新たなコンテンツ収益化インフラとして注目を集めています。

 

AI検索の影響と対応

ゼロクリック問題は深刻に見えますが、検索の目的によって影響は大きく異なります。単なる情報収集を目的とした検索ではクリック率の大幅な落ち込みが避けられない一方、購買意図を持った検索では逆にチャンスが生まれます。AIの回答に引用されたブランドはオーガニッククリックが約35%増加し、AI経由のトラフィックは従来のSEOと比べて約5倍のコンバージョン率を示すというデータもあります。

こうした変化に対して、Google自身も2026年5月に生成AI機能向けの最適化に関する公式ガイドラインを公開しました。そこでは、独自の価値あるコンテンツ作成や明確な技術構造の維持、ローカルビジネス・EC情報の最適化といった概要が示されており、これまでの「従来のSEOの基本的なベストプラクティス」はAI検索においても引き続き有効であると明言されています。

 

おわりに

AI 検索の普及によって、「検索流入」というウェブの前提そのものが変わり始めています。

これまで企業は、人間に検索され、クリックされることを前提に SEO やコンテンツ戦略を構築してきました。しかし今後は、AI エージェントが情報を収集・要約し、場合によっては購買や予約まで完結させる世界が広がっていきます。

その結果、ウェブサイトの価値も、「どれだけ人間を集客できるか」だけでは測れなくなります。重要になるのは、AI に信頼できる情報源として認識され、引用され、推論可能な形で理解されることです。

Google の AI 検索刷新や、Exa、Parallel といった新興企業の動きは、こうした変化がすでに始まっていることを示しています。

今後のウェブ戦略では、「人間向け SEO」だけでなく、「AI に読まれるための情報設計」も新たな競争力になっていくでしょう。

 

▼参考資料

 

avatar

馬場 高志

1982年に富士通に入社、シリコンバレーに通算9年駐在し、マーケティング、海外IT企業との提携、子会社経営管理などの業務に携わったほか、本社でIR(投資家向け広報)を担当した。現在はフリーランスで、海外のテクノロジーとビジネスの最新動向について調査、情報発信を行っている。 早稲田大学政経学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(ファイナンス専攻)。