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馬場 高志2025/04/04 10:00:001 min read

AI企業のビジネスモデル:OpenAIはアグリゲーターかプラットフォームか?|イノーバウィークリーAIインサイト -45

はじめに:OpenAIの企業価値と損益の現状

最先端AIモデルの開発には、学習のためのコンピュータ費用など莫大な資金を必要とします。このため、

OpenAI、Anthropic、xAIなどの先端AI企業は、たびたび巨額の資金調達を行ってきました。そして、資金調達のベースとなる企業価値は下記の表の通り、莫大な金額になっています。

 

AI企業の資金調達と企業評価 (150円/$換算)

企業名

資金調達時期

調達額

その時点での企業評価額

OpenAI

2024年10月

66億ドル (9900億円)

1570億ドル (23兆5500億円)

 

(現在交渉中との報道)

400億ドル (6兆円)

3,000億ドル (45兆円)

Anthropic

2025年3月

35億ドル (5250億円)

615億ドル (9兆2250億円)

xAI

2024年12月

60億ドル (9000億円)

500億ドル (7兆5000億円)

テクノロジー業界ニュースサイトのThe Information記事によれば、OpenAIの売上は2023年の約10億ドル(約1500億円)から2024年には約40億ドル(約6000億円)と急速に伸びていますが、損益は50億ドル(約7500億円)近くの巨額の赤字となっていると言われています。

 

▼OpenAIの2024年損益構造 (出典 The Information)

 

同記事によれば、OpenAIが投資家に見せている事業プランでは、2029年に初めて黒字化を予想していますが、それまでの2023年から2028年までの総損失は440億ドル(6兆6000億円)に上るとのことです (しかも、この損失には株式による報酬の費用は含まれていない)。

 

このような莫大な赤字が続く中でも、投資家が巨額の資金を提供し続ける理由は何でしょうか? 今回は、先端AI企業のビジネスモデルに関する、AI研究者のネイサン・ランバートのブログ記事をご紹介します。

 

アグリゲーターとプラットフォーム:デジタル経済における2つのビジネスモデル

ランバートの記事の主要な論点は、OpenAIやその他の先端AI企業が、アグリゲーター (Aggregator: 集約者)型かプラットフォーム (Platform)型の、いずれのビジネスモデルを取ることになるだろうかということです。

 

まず、アグリゲーター型とプラットフォーム型のビジネスモデルとは何かについてご説明しましょう。これはテクノロジー企業の戦略に詳しいベン・トンプソンが、Stratecheryというブログやポッドキャストで、展開しているインターネット時代のビジネスモデルについての理論です。

 

アグリゲーターとは?

ベン・トンプソンのアグリゲーション理論は、インターネットによって市場のバリューチェーンと利益構造が根本的に変化したことを説明しています。バリューチェーンは、サプライヤー、ディストリビューター、消費者/ユーザーの3つに分けられます。高い利益を上げるためには、水平的な独占を得るか、垂直的に統合して競争優位性を確立する必要がありました。流通コストが大きかった時代、例えば、新聞業界では、ディストリビューター(新聞社)がコンテンツのサプライヤー (記者)を統合することで、広告収入を通じて大きな利益を得ていました。しかし、インターネットはデジタル商品の流通コストをほぼゼロにしたため、従来のディストリビューターの優位性は失われました。

 

この変化により、競争の原理は一変しました。ディストリビューターは独占的なサプライヤー関係で優位に立つことができなくなり、代わりに消費者/ユーザーとの関係が、最も重要になりました。成功する企業(アグリゲーター)は、最高のユーザーエクスペリエンスを提供することで多数の消費者/ユーザーを獲得します。これが多くのサプライヤーを引きつけ、さらにユーザーエクスペリエンスを向上させるという好循環を生み出します。

 

サプライヤーはコモディティ化され、アグリゲーターは多くの場合、サプライヤーのコンテンツを無料で集約し、ユーザーとの独占的な関係を築きます。

 

例えば、Googleは個々のウェブページや記事をモジュール化し、検索を通じて直接アクセスできるようにしました。Facebookは広告とコンテンツを独立させ、広告主が直接顧客をターゲティングできるようにしました。Amazonはeコマースと電子書籍を通じて流通を独立した機能として提供し始めました。

 

これらのアグリゲーターは、従来の新聞社、出版社、放送局などコンテンツ制作を垂直統合していた企業の強みを無力化しました。重要なのは、ネットワーク効果があるということです。サービスを利用するユーザーが増えるほどサービスが向上し、強い勝者総取りの傾向が生まれます。

 

プラットフォームとは? 

プラットフォームは、他の企業や開発者がサービスや製品を提供できる「場(プラットフォーム)」を作ることで、経済圏を形成するビジネスモデルです。具体的には、オペレーティングシステムのWindows、iOSやクラウドインフラのAmazon AWSのように、開発者がアプリケーションを構築し、ユーザーがそれを利用できる環境を提供するものが挙げられます。プラットフォームもそこに参加するユーザーやサプライヤーが増えるほど、プラットフォーム全体の価値が高まるネットワーク効果によって高い利益を生み出します。

 

プラットフォームとアグリゲーターの重要な違いは、その役割と第三者との関係性にあります。プラットフォームは、あくまでユーザーと第三者の間の関係を「促進」し、エコシステムの成長に重点を置きます。例えば、Shopifyはマーチャントが独自のブランドを構築し、顧客を獲得するためのツールとインフラを提供します。対照的に、アグリゲーターはユーザーと第三者の関係を「仲介」し、ユーザーを集約することで力を持ちます。

 

AI企業はアグリゲーター型とプラットフォーム型のどちらを選ぶのか?

ランバートは、ChatGPT無料版のような一般的な質問への回答コストはほぼゼロに近づくと考えています。そのため将来、AI企業がチャットフォーマットに合せた広告モデルを開発できれば、アグリゲーター型ビジネスモデルを狙うことができるのではないかと考えています。実際、検索とAIを組み合わせたサービスを提供するPerplexityは、すでに広告を表示する計画を明らかにしています。また、Facebook (Meta)などすでにアグリゲーターとして成功している企業が、低コストの生成AIを使って、魅力的なコンテンツや広告を作り、既存のビジネスを強化するという展開も十分考えられます。

 

一方で、最近、各AI企業から続々登場している高度な推論能力を持つモデルについてはアグリゲーター型ビジネスモデルが成立しないかもしれないとランバートは考えています。OpenAI o1やo3のような推論モデルは、質問に答える前に「深く考える」ことで複雑な問題に対応します。これは、推論時(回答時)に大きな計算コストを費やしていることを意味します。

 

AI利用は、以下の2つのカテゴリーに分類できます。

  1. ChatGPTのような汎用チャットボット
  2. 特定のドメインに特化したモデル、エンタープライズ製品、API、AIエージェントなど

 

推論時の計算コスト増加の影響は、この2つのカテゴリーで異なると考えられます。

 

汎用チャットボットの場合、一般のユーザーは、どのモデルを選ぶべきかを分からないことが多いでしょう。そのため、ユーザーが意識しなくても、システムが自動的に適切な計算リソースを選んでくれることが、ユーザーエクスペリエンスとして優れていると考えられます。現在の推論モデルが一般ユーザーにもたらす主なメリットは、単純な性能向上ではなく、回答の信頼性と分かりやすさが向上することです。このため、最近のモデルでは回答を作る過程で思考の連鎖(Chain of Thoughts)のステップを見せることが一般的になってきています。この程度の計算量の増加であれば、限界費用はアグリゲーター型ビジネスが可能な範囲に収まると考えられます。

 

一方、エンタープライズユーザーや特定の専門分野のパワーユーザーは、性能と計算コストの関係をよく理解しており、それに基にモデルを選びたいと考えています。計算コストが高くても、その分性能が上がって価値の高い仕事ができるなら、高い料金を払う価値はあると判断するでしょう。

 

しかし、推論コストの大幅な増大は、アグリゲーター型ビジネスモデルには当てはまらないダイナミクスを生み出す可能性があります。高コストだけど高インパクトな新しいAIの使い方は、運用費用がゼロに近い高収益サービスとは異なったビジネスモデルを必要とするかもしれません。

 

ランバートは、初期投資と限界コストの両方が非常に大きい場合、将来のAIスーパー企業は、アグリゲーターよりもむしろプラットフォーム型に近くなる可能性があると言っています。これは、推論に多大な計算リソースを必要とする高性能なAIツールを提供できる企業が限られてくるからです。

 

ランバートは、AI企業は二極化する可能性があると示唆しています。大量の消費者需要を掴んだ企業は、より安価なモデルで集約を進める一方、特定のニッチ市場に焦点を当てる企業は、パフォーマンスで競争することになるでしょう。どれだけ高い価格が許容されるかは不明であり、新たなプラットフォーム上にどのようなエコシステムが築かれるかはまだ明らかではありません。

 

ランバートは、AI企業にこれだけ大きな投資が流入している状況を考えれば、必ずしもAI市場が勝者総取りになるとは限らないとも考えています。例えば、AnthropicがAIエージェントのプラットフォーム、ChatGPTがコンシューマー利用のアグリゲーター、別の企業がコード生成を支配するというように、より分散的な市場構造が生まれる可能性もあり得るというのです。

 

おわりに

ネイサン・ランバートの記事は、AIモデルの推論時の計算リソースの増大が、AI企業のビジネスモデルに新たな変化をもたらす可能性を示唆しています。特に、高度な推論能力を持つモデルは、アグリゲーター型ビジネスモデルには適さず、プラットフォーム型のビジネスモデルを必要とする可能性があります。

 

この変化は、AIビジネスに参入する企業だけでなく、AI技術を活用するマーケターにとっても重要な意味を持ちます。 マーケターは、AIの推論コストを考慮しながら、最適なAIモデルを選択し、効果的なマーケティング戦略を策定する必要があります。AI技術の進化は、マーケティングの未来を大きく変える可能性を秘めています。  AI技術の動向を常に注視し、その変化に対応していくことが求められます。

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馬場 高志

1982年に富士通に入社、シリコンバレーに通算9年駐在し、マーケティング、海外IT企業との提携、子会社経営管理などの業務に携わったほか、本社でIR(投資家向け広報)を担当した。現在はフリーランスで、海外のテクノロジーとビジネスの最新動向について調査、情報発信を行っている。 早稲田大学政経学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(ファイナンス専攻)。