「ほぼ日」の商品はなぜ売れる? コンテンツマーケティングの事例として分析してみた

コンテンツマーケティング

糸井重里氏のエッセイが毎日読めるWebメディア「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」が、実はコンテンツマーケティングの優れた事例として注目を集めていることをご存じでしょうか。今回は広告モデルではなく物販だけで高収益を実現する、その秘密に迫りました!

突然ですが皆さん、「くうねるあそぶ」という言葉が、どうやって生まれたか知っていますか?

怠惰で楽しい時間を示す表現として、今でこそ一般的に定着しているこの言葉。実はもともと、有名なコピーライターである糸井重里氏が、日産自動車が1988年に発売した「セフィーロ」というセダンの広告コピーとして考案したものなのです。

「食っちゃ寝」だと単にだらしないだけですが、そこに「あそぶ」という言葉を加えることで、人生を謳歌する素敵なライフスタイルを想起させる、見事なコピーへと昇華させています。

このほかにも、糸井氏は「このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。(となりのトトロ)」や「愛は地球を救う(日本テレビ24時間テレビ)」など、日本人なら誰もが知っている有名なコピーを数多く手がけています。また、エッセイストとして本を出したり、タレントとしてテレビにも出演したりもしているので、そちらでファンになったという人も多いかもしれません。

このように多方面で活躍されている糸井氏ですが、彼が運営しているWebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」が、コンテンツマーケティングの事例として密かに注目を集めていることをご存じでしょうか。

ほぼ日が生まれたのは1998年であり、それはもちろん、コンテンツマーケティングが日本で一般的になる前のこと。その意味では、コンテンツマーケティングと言うよりはオウンドメディアとの事例と呼んだほうがいいのかもしれません。ただ、日々コンテンツマーケティングを実践するマーケターの皆さんにとって、学ぶべきことの多いサイトであることは事実です。

そもそも、コンテンツマーケティングって何だっけ?

糸井氏についてお話する前に、まずはコンテンツマーケティングについておさらいしてみましょう。イノーバでは、コンテンツマーケティングを以下のように定義しています。

“読者にとって価値あるコンテンツの制作・発信をとおして見込み顧客のニーズを育成、購買を経て、最終的にはファンとして定着させることをめざす一連のマーケティング手法”

コンテンツマーケティングとは?」より引用

このマーケティング手法で成果を上げるために大切なのは「価値あるコンテンツを作る」こと、「顧客を育てる」こと、そして「ファン化する」ことの3つ。

サイトに掲載するコンテンツは、読者が欲しいと思っている情報で、かつ潜在的なニーズの喚起や購買活動につながるものである必要があります。そして、さらに読者がコンテンツやサイトを好きになって、ファンとして定着してくれるようなものでなければ、長期的な効果を期待することはできません。

これらのポイントは、言うのは簡単でも実践するのは難しいもの。しかし、糸井氏の運営するほぼ日は、コンテンツマーケティングに欠かせないこれらの要素を、高いレベルで実践しているのです!

少し余談になりますが、コンテンツマーケティングとつながりの深い「インバウンドマーケティング」という思想。この提唱者であるブライアン・ハリガン氏と糸井氏は、2011年にボストンで邂逅を果たしており、その様子はほぼ日の特設ページ( http://www.1101.com/hubspot/index.html )の中でも紹介されています。

そして、この出会いのきっかけになったのはハリガン氏らの著書「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」であり、糸井氏はその日本語版の監修も務めています。こうした経緯を知ると、糸井氏は早期からほぼ日で、「コンテンツマーケティング」や「インバウンドマーケティング」を意識せずに体現していた……と言えるかもしれません。

ハリガン氏らと糸井氏が6年ぶりに再会。その様子が日経ビジネスオンラインで2016年12月12日から連載されています。

グレイトフル・デッドな3人、6年ぶりに語る

売上高なんと37億円!その秘密は一体どこにある?

さて、それでは「ほぼ日」がどのようなサイトなのか、具体的に見ていきましょう。

ほぼ日のメインコンテンツは糸井氏が毎日更新する「今日のダーリン」というエッセイ。サイト名には「ほぼ」と付けられていますが、1998年の開設以来1日も休まず更新されているようです。

このサイトが他のウェブメディアと大きく違うのは、他社の広告が一切掲載されていないこと。つまり、広告枠を販売して収益を上げているわけではありません。また、コンテンツは全て無料で公開されていて、ユーザーはそれを読むのに金銭を支払う必要はありません。

その代わりに、事業としての収益を支えているのは物販です。システム手帳として有名な「ほぼ日手帳」や、はしや土鍋などのキッチン用品、タオルや衣類などの生活用品など、ジャンルを問わずさまざまな商品がサイト上で販売されています。

ここで注目したいのは、これらの商品は高級感はあるものの、どれも取り立てて特別な商品ではないということ。糸井氏のこれまでの活動とリンクしているわけでもなければ、ほぼ日でなければ絶対買えないというものでもありません。

それにも関わらず、売上高は直近の会計年度で37億円(※1)を記録するという好調ぶり。オリジナル商品の「ほぼ日手帳」に至っては、約60万部(※2)も売れたというのだから、驚かされるばかりです。

ほぼ日のサイトでこれだけものが売れるのには、さまざまな理由が考えられます。商品そのものが魅力的であることや、糸井氏自身のカリスマ性も見逃せない理由と言えるでしょう。ただ、よくよく見ていくと、コンテンツマーケティングを成功に導くうえで欠かせない「価値あるコンテンツを作る」「顧客を育てる」「ファン化する」の3つのポイントが、丁寧に実践されていることにも気付かされるのです。

(※1)出所:運営会社「株式会社ほぼ日」の会社概要ページ

(※2)出所:ほぼ日手帳に興味を持ってくださったお客さまへ - ほぼ日手帳 2017 厳密には、「60万」は、ほぼ日のWebサイトに加えて、実店舗での販売数も含めた数字です。

読者にとって、価値あるコンテンツとは?

ほぼ日の中に見られる「価値あるコンテンツ」とはどのようなものなのでしょうか。その一例として、2016年1月に公開された「バルミューダのパンが焼けるまで」という記事を紹介します。

この記事は、ふんわりサクサクのトーストが焼けるとして話題になったスチームトースターのメーカー、バルミューダの代表である寺尾玄氏と糸井氏が対談するというもの。そして、その特設ページの脇にはトースターの商品説明ページや販売ページヘのリンクもしっかり貼られています。ここまでは、通常のECサイトのつくりと大きく変わりません。

hobonichi_balmuda.png

この記事が面白いのは、対談の中で商品をアピールするような記述がほとんどないこと。話題は寺尾氏がバルミューダを立ち上げるまでの経緯や、それ以前にミュージシャンを目指していたことなどが中心で、まるでビジネス雑誌のトップ対談のような雰囲気で進んでいきます。

そして、この対談の内容が、糸井氏の鋭いツッコミのおかげもあって、とても面白い!本稿の書き手も、この原稿を書きながらついつい10ページ分の対談を読み切ってしまいました(仕事の合間などに、おすすめです)。

ほぼ日はもともと、「何か情報を仕入れよう」と思って訪れるサイトではありません。仕事の合間や通勤途中などに、ちょっと一息つける読み物を求めて立ち寄るようなサイトです。そんなサイトの中で「いいトースターだから買ってください」なんて宣伝文句があったり、うまく隠しても「広告っぽい」においのするページがあったりしたら、読者は離れてしまうでしょう。

もともと、ほぼ日がこのトースターを取り扱うようになったのは、糸井氏が個人的にトースターを買って、そのパンの美味しさに感動したことがきっかけ。バルミューダとほぼ日は会社の規模が似ていることもあり、寺尾さんのこれまでの経緯や商品の開発について話をしてみたいという思いから、この対談が実現したのだそうです。

こうした経緯もあり、この記事は広告や宣伝といった要素を抜きにして、純粋に面白い読み物として仕立てられています。ほぼ日に一息つくためにやってきた読者にとって、それが価値あるコンテンツになっていることは言うまでもないでしょう。

知らず知らずの間に顧客は育てられる

収益の中心が物販である以上、モノを売らないと事業は成り立ちません。物販のページはどのようなつくりになっているのでしょうか。

先ほども取り上げましたが、ほぼ日が取り扱っているのは、はしや土鍋などのキッチン用品やタオルや衣類などの生活用品など。どの家庭にもあるようなものばかりで、わざわざこのサイトで購入しないと困るようなものではありません。

hobonichi.png

それにも関わらず、ほぼ日の商品が売れ続ける理由は、ひとえに編集力にあると言ってよいでしょう。例えば、「わたしのおはし 黒檀」とい商品ページでは、以下のように説明されています。

きりっとした四角い箸です。

かたちは四角です。
四角箸のよいところは、転がりにくく、
箸先まで四角になっていることで、
食べ物をはさみやすいこと。
太いところで約7ミリと、やや細めですが
木目のこまかさ、密度の高さで、
持つとかなりしっかりした感触と重みがあります。
先端は約2ミリまで細く削っていますが、
頼りなさを感じることはありません。
むしろ、すこしくらい力を入れて挟んでも、
しっかりしなる、強いばねのような弾力があります。

わたしのおはし 黒檀 | ほぼ日刊イトイ新聞 より引用】

ただ単に「良いはしです」では何の興味もわきませんが、上記のように細部まで考えられて作られた道具であることを知らされると、「ちょっと使ってみたいな」と思う人も多いのではないのでしょうか。

一般的なECサイトなら、ここで大きさや素材といった単純な商品スペックが表記されるところですが、ほぼ日ではその商品がどのように考えて作られているのか、どのような使い方をすればいいのかが、ていねいに語られています。そして、その説明は商品の売り文句というよりは、純粋に品物の魅力を伝える記事のような構成になっていて、読んでいるうちに自然と興味が掘り起こされるのです。

そうこうしているうちに、読者は自宅にもあるはずのはしを、「購入しようかな」と検討し始めるのかもしれません。そうなれば、顧客の育成はほぼ成功したと言っていいのではないでしょうか。

商品への共感が、顧客をファンにする

商品が瞬間的に売れることと、永続的に売れることは別の話です。コンテンツマーケティングの最終的な目標である「顧客のファン化」はどのようにして行われるのでしょうか。

先ほどの「わたしのおはし 黒檀」のページ内には、以下のような記載があります。

箸を使う所作が、きれいになります。

じっさいはとても丈夫な木ですけれど、
見た目の細さが、とても品がいい。
そのため「ていねいに扱う」という
きもちがうまれますし、
力強く(おそらくそれまで、過分な力を
入れて持っていたのだと思います)
持つこともなくなりました。

わたしのおはし 黒檀 | ほぼ日刊イトイ新聞 より引用・抜粋】

先ほど紹介した説明と比べると、商品そのものよりも、その品物があることで、暮らしがどのように変わるかという視点で書かれていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

モノをただ売るだけで顧客をファンとして定着させることは簡単ではありませんが、「生活をもっと楽しくする」という視点であれば、その商品に共感を覚える人は少なくないでしょう。

ほぼ日で取り扱っている商品には、こうした考え方で紹介されている商品が数多くあります。使い込むことで煮えやすく丈夫に“育っていく”土鍋、手にしっくりとおさまるカレー皿、山野草で作るハーブティ……などなど。商品ページを読めば読むほど、こうした品物があれば、生活がもっと楽しくなるかもしれないと思わせてくれるモノばかり。ほぼ日のページを開くたびに、次はどんな品物を手にしてみようかとワクワクさせてくれます。

莫大な広告費をかけることもなく、ほぼ日のサイト内での物販を柱にこれだけ大きな売り上げを創出できている背景には、こうした商品に共感を覚えるファンの存在があることは想像に難くありません。

真似は難しい、でも参考にすべきところはたくさんある

一般的に、ECサイトを運営する際は売りたい商品が先にあり、どうすればこの商品が売れるか、どんなアピールをすればいいかという視点で掲載情報が決められます。しかし、ほぼ日はその逆で、まず先に面白い商品があり、どうやったらその魅力を伝えられるかという視点でページが作られています。そういう意味では、ほぼ日をそのまま真似しても、同じように成功することは難しいでしょう(もちろん、イノーバも含めて!)。

しかし、ほぼ日がコンテンツを通して人々を共感させ、実際にビジネスを拡大しているのは紛れもない事実であり、運営している糸井氏やそのスタッフの取り組みから学べることはたくさんあるのではないでしょうか。

「ほぼ日」には、もしかしたらあなたのビジネスを大きく変えるヒントが隠されているかもしれません。コンテンツマーケティングの優れた事例として、今後も注目してみてはいかがでしょうか。

参考:

この記事を読んだ人におすすめの記事

コンテンツマーケテイングについてのブログ一覧はこちらから

コンテンツマーケテイングが有効な業界・商材とは?』や『月1000件以上のリードを生み出すコンテンツマーケティングの効果測定とKPI管理まとめ【管理シート付】』など、イノーバのノウハウが詰まった無料eBookもぜひ!

TOP