マーケティング活動を組織的にスムーズに進めて行く上で、非常に重要な役割を果たす「ペルソナ」。
この記事ではペルソナとは何か、ペルソナを作ることでどんなメリットがあるのかを説明した上で、あわせてペルソナの作り方を簡単にご紹介します。
ペルソナは顧客の代弁者
ペルソナとは、ひとことで言えば代表的な見込顧客・顧客像を表す架空のユーザー像のこと。
もともとは演劇や心理学などの分野で用いられてきた言葉ですが、2007年頃、S.プルーイット氏の著書『ペルソナ戦略――マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』をきっかけとして、マーケティング手法として一般に広く知られるようになりました。
自社の製品やサービスを購入してくれる架空のユーザー像を定義し、このユーザー像を中心に据えてマーケティングを展開していくことを、ペルソナマーケティングと呼びます。
「架空のユーザー」と書きましたが、ペルソナは「絵にかいた餅」のような非現実的な存在ではありません。綿密な調査に基づいて年齢や性別、居住地などはもちろん、名前や趣味、職業、年収、家族構成まで細部にわたって具体化し、あたかも実在するかのようなリアリティを持たせたユーザー像がペルソナです。
なぜペルソナを作成するのか?
ペルソナを定義する最大のメリットは、顧客を深く理解し、顧客の視点で考えることができるようになるという点です。
マーケティングを行う上で何よりも重要なのは、「誰に」「何を」「どのように」伝えるのかを明確にするということです。ペルソナを定義することで、このうちの「誰に」の部分が明らかになります。つまり、ペルソナ設定によって、ターゲット像が明確になるのです。
マーケティング担当者であれば、自社製品のターゲット顧客像をある程度は認識していることでしょう。しかし、「40代の女性」「中規模の製造業者」「子供を持つファミリー」といった、ざっくりした定義だけで満足してしまってはいないでしょうか?このような「粗い」定義も無いよりマシではありますが、効率よくマーケティングを進める上では十分なものとはいえません。
たとえば、ある局面でターゲット顧客がどのような行動をとるかを予測する際に、「40代の女性」というだけでは手がかりがあまりに少なすぎます。
一方、「32歳の専業主婦で、5歳年上の夫と5歳の娘との3人家族。夫の年収は600万程度で、生活には多少余裕がある。化粧品代は毎月5千円くらい。趣味はテニス、週に3回自治体が開いているテニススクールに通っている」…というように人物像まで明確に定義されていれば、ずっと想像しやすいのではないでしょうか。
言い換えると、そこまで深く顧客を把握して初めて、現実味のあるマーケティング施策を検討することが可能となるのです。ペルソナを定義するということは、せんじ詰めれば顧客理解を深めるということでもあります。
ペルソナを定義するもう一つのメリットは、関係者間における認識の共有がやりやすくなるという点です。「40代の女性」というざっくりとした定義だけでは、人によって思い浮かべる顧客像にブレが生じる懸念があります。けれど、前述のように具体的なペルソナを設定しておけば、そうしたブレを最小限に抑えることが可能です。
ペルソナに必要な要素とは?
前述のとおり、ペルソナを定義する際にはあたかも実在する人物であるかのような具体性を持たせることがポイントです。定義すべき項目には様々なものがありますが、最低限、以下のような要素については定義しておきたいところです。
①基本情報
年齢、性別、住所地、家族構成、職業、収入といった、ターゲット顧客の基本的な属性情報。
②行動
生活様式や交友関係、趣味、情報収集の方法など。
③商品・サービスとの関わり方
自社の商品・サービスと、どのように関わるのか。
どのようにして商品を知り、どんな経緯で使うようになるのか。商品を選ぶ時の観点など。
なお、BtoBの場合、役職や担当している業務内容、業務上のゴールやゴール達成を阻む課題といった「職務情報」をあわせて定義することで、ペルソナの意思決定プロセスをより具体的にイメージすることができます。
ペルソナの活用シーン
作成したペルソナは、マーケティングのあらゆる局面で活用します。
「ペルソナの山田さんにはどんなキャッチコピーが"刺さる"だろう?」「どんなパッケージに惹かれるだろう?」「週に何通以上メールが届くと鬱陶しいと思うだろう?」…というように、「ペルソナの視点」を常に意識して施策を検討するわけです。
また、近年マーケティングにおいて重視されているカスタマージャーニー・マップを作成する際にも、ペルソナが重要な役割を果たします。
ペルソナ作成のポイント
次に、ペルソナを作成するにあたってぜひとも抑えておきたいポイントを3つご紹介します。
①「理想の顧客像」ではなく「リアルな顧客像」を定義する
ペルソナ定義における落とし穴の一つに、「理想の顧客像」を定義してしまうというものがあります。つまり、実際の顧客像を定義する代わりに、「こんなお客さんだったらいいな」という企業側の勝手な願いに基づいてペルソナを定義してしまうわけです。
そうではなく、実際の顧客像を正しく理解した上でペルソナを定義してください。そのためには、ペルソナ定義に先駆けてターゲット顧客に関するデータを収集することが大切です。営業部門にヒアリングをしたり、アンケート結果を分析したりして、ターゲット顧客の真の姿を浮き彫りにしていきましょう。定義しようとしているペルソナと属性の近い人物が身近にいれば、そういった人へのヒアリングを行うのもよい方法です。
②必要に応じて複数のペルソナを定義する
商材にもよりますが、商品・サービスの顧客が1タイプだけに収まるということはあまりありません。通常は属性の異なる複数の顧客グループに向けて、マーケティング施策を展開していくことになるでしょう。
このような場合、ペルソナも複数定義しておくのが望ましいといえます。
主要なターゲット顧客をメインペルソナとして定義した上で、属性の異なるサブペルソナをいくつか作成し、ペルソナごとに最適化したマーケティング施策を検討していきましょう。
たとえば、商材がエイジング化粧品なら、40代で美容意識の高い女性がメインペルソナとなりますが、30代で老化に危機意識を抱いている人や50代、60代の女性もターゲットになり得ます。場合によっては、「妻にいつまでも若くて欲しい」と考える男性がターゲットとなることもあるでしょう(プレゼント需要)。そうした異なるターゲット像を個別に分析し、ペルソナとして定義します。
ただし、ペルソナの数は多ければ多いほど良いというものではありません。必要十分な数のペルソナを定義するのがポイントです。
③ペルソナは成長させない
実際の顧客、は商品・サービスと接触した瞬間から「成長」を始めます。ここでいう「成長」とは、「商品への理解度が深まる」とか「自社へのロイヤリティが高まる」というほどの意味で、通常は見込顧客→実顧客→リピーター→優良顧客といった成長の流れを辿ります。
しかし、一度定義したペルソナは基本的に成長させません。つまり、見込顧客のペルソナとして定義した「山田花子さん」は、半永久的に見込顧客のままだということです。一人ひとりの顧客は成長していきますが、市場には常にあらゆる段階のターゲットが存在します。そのうちのどの層にアプローチするのかを明確にした上でペルソナを定義し、作ったペルソナはその段階で固定しておいてください。
ペルソナを活用してマーケティングを有利に進めよう
以上、この記事では、マーケティングにおいて重要な役割を果たす「ペルソナ」について解説しました。ペルソナの意味や使い方、ペルソナ定義のポイントなどについて、理解していただけたでしょうか。
ペルソナがきちんと定義されているかいないかで、マーケティングの効率は大きく変わります。
ぜひ、貴社でもターゲット顧客のペルソナを作成し、マーケティングに役立てていってください。
なお、前述の通り、ペルソナはより現実のターゲット像に近い形リアルに定義するのが理想ですが、事前の調査やデータ収集にコストをかけるのが難しいのであれば、まずは可能な範囲で疑似ペルソナを定義してみることをお勧めします。正規の手法で作成したペルソナよりは効果は落ちるかもしれませんが、曖昧な顧客理解のまま施策を検討するより、ずっとよい結果が出るはずです。