連載|ナーチャリングが効かなくなった本当の理由(全4回)第2回
本稿は、2026年9月8日(火)に開催したスマートキャンプ株式会社との共催セミナー「自社の機会損失はいくら?放置リードから商談数を最大化するナーチャリングの仕組み」のうち、イノーバのパート(登壇:宗像淳)の内容をもとに、加筆・再構成したブログ記事です。当日使用したスライドの一部を掲載しています。
〈全4回の構成〉
・第1回:リードは集まる。商談は増えない
・第2回:「ザ・モデル」は、本国ではもう古い(この記事)
・第3回:全員に同じメールを送るのを、今日でやめる
・第4回:AIが書いたペルソナは、なぜ誰にも刺さらないのか
はじめに
前回、ナーチャリングが効かなくなった症状を10個挙げ、その根が「獲得したあとの育てる工程」にあると書いた。そして我々が、育てると言いながら量で押してきたことも認めた。
ではなぜ、量が効かなくなったのか。答えは我々の側ではなく、買い手の側にある。海外ではその変化が段階的に議論され、KPIも組織も何度も組み替えられてきた。日本では、その更新が追いついていない。
買い手の行動は、どう変わったのか?
当日、買い手側の変化として4つを挙げた。

一つ目は、営業が出てきたときには、もう手遅れだということ。「営業があった時には手遅れ」とは昔からよく言われる話だが、いまはそれがさらに進んでいる。
二つ目は、お客さんが生成AIで探すようになり、自分で情報収集するようになったこと。以前なら「比較表をください」と言ってきた買い手が、いまはAIに作らせている。
三つ目は、それっぽいコンテンツが溢れていること。
誰でも記事を量産できるようになった結果、記事は読まれなくなった。当たり前の話だが、我々はその当たり前を無視して本数を積んできた。
海外のB2Bマーケティングは、15年でどう変わってきたのか?
いま日本で多くの会社が取り組み、あるいは壁にぶつかっている「ザ・モデル」は、2010年代前半にセールスフォースの社内で生まれた仕組みだ。それが海外ではどんどんアップデートされてきたのに対し、日本はそのアップデートが追いついていない。そう私は見ている。

年表の各行が何を意味するのか、日本ではあまり語られない背景も含めて補足しておく。
2010年代前半:リードを「量」で測る時代
この時期の型は、マーケティングがスコアリングで「見込みあり(MQL)」と判定したリードを、営業が受け取る「商談化可能(SQL)」へと引き渡していくものだ。リードを漏斗の上から下へ流していく工場のような発想で、マーケティングの成果は「リードを何件渡したか」で測られた。ザ・モデルは、この考え方を営業とマーケティングの分業の仕組みとして整理したものだ。
2016〜19年:「個人」から「企業」へ
個人のリード単位で追っていると、同じ会社の複数人が動いていても、それが一つの検討だとは見えない。そこで、先にターゲットとする企業(アカウント)を決め、その企業の購買に関わる複数の人へまとめて働きかけるABMが主流になった。買い手が個人ではなく組織で決めている、という事実への最初の適応だ。
2020〜22年:数字の分断への批判と、見えない検討
MQLの件数を追っても、営業が受け取って商談にならないなら意味がない。営業とマーケティングが別々の数字を持つこと自体が問題だとして、売上という共通の数字で両者を束ねるRevOps(営業・マーケティング・カスタマーサクセスのプロセスとデータを一体で運用する考え方)が広がった。同時に、買い手の検討の多くが、SNS、口コミ、コミュニティなど企業側から見えない場所で進んでいることも前提になっていった。
2023〜25年:「誰のリードか」から「どの組織が、いま動いているか」へ
生成AIによって、誰でもコンテンツを量産できるようになった。その結果、リードの数ではなく、購買に関わる複数の関係者の集まり(バイインググループ)と、その組織が検討を進めているサイン(シグナル)をどう捉えるかが焦点になっている。見る対象が、個人から組織へ、そして「いつ動くか」というタイミングへ移ってきた。
この表を横に読むと、一本の線が見える。「量」から「単位」へ、「単位」から「可視化」へ、「可視化」から「タイミング」へ。15年かけて、見るべき対象が段階的に移動している。縦に読むと、もっと重要なことに気づく。我々が「これが標準だ」と思って運用している型は、この表の一番上の行にある。
ただし、誤解のないように書いておく。ザ・モデルそのものが悪いと言いたいのではない。非常にいい本だ。問題は、それを機械的に実施し、その後の更新を取り込んでこなかった、受け手の側にある。私自身も含めてだ。
これはB2Bマーケティングに限らず、海外の経営知が日本に入ってくるときの構造だと思っている。最初の紹介だけがあって、その後の更新が続かない。
顧客の期待値は、なぜ戻らないのか?
もう一枚、時間軸で整理した資料を見てほしい。今度は売り手ではなく、買い手側の変化だ。

インターネット以前は、私が新卒で富士通に入った頃だ。新橋でカタログを渡されて、「お前、これから飛び込み営業だ」と研修をしたものだ。いまは、飛び込み営業自体をしなくなったし、あるいはしても嫌がられる。
そこにコロナがあって、オンライン商談もウェビナーも一般化し、誰でもやるようになった。そしてAIの登場で、お客さんは営業マンに聞くまでもなく、自分で調べて、自分で解決してしまう時代に入ってきている。
この変化で大事なのは、「見てもらう」難易度が、一度も下がっていないことだ。一度「検索すれば比較できる」と知った人は、もう営業の説明だけでは判断しない。一度「ウェビナーに出ても得るものがなかった」経験をした人は、次の申込に慎重になる。顧客は学習する。そして学習は元に戻らない。
セミナーでは、こうまとめた。
「もう一般論は通用しない。自分の会社、自分個人に役立つ情報しか、お客さんは取らない時代にたどり着いた」
一般論はAIに聞けば済む。だから、一般論は読まれない。コンテンツマーケティングを生業にしてきた私にとって、これはかなりきつい事実だ。「〜の基礎知識」「〜のポイント5選」といった記事は、役割を終えつつある。
量で押す時代は、なぜ終わったのか?

前回、我々が量で押してきたことを認めた。今回、その量が効かなくなった理由を見た。買い手の側が変わったからだ。しかも15年かけて、段階的に、後戻りしない形で。
だとすれば、やることは一つしかない。届く情報の条件を、顧客の側から定義し直すこと。「自分の検討に役立つ」と相手が判断する情報とは何なのか。それを、送り手の都合ではなく、受け手の検討プロセスから逆算して設計する。
これは新しい発明を必要としない。海外が15年かけて通った道であり、方法論も蓄積されている。15年遅れているということは、答え合わせができるということでもある。次回から、具体的な打ち手に入る。
前回(第1回):リードは集まる。商談は増えない ── ナーチャリングが効かなくなった本当の理由
次回(第3回):全員に同じメールを送るのを、今日でやめる ── 購買プロセスに寄り添う4つの打ち手
宗像 淳 / イノーバCEO
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。
2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。
2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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