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宗像 淳 / イノーバCEO2026/10/28 10:00:011 min read

全員に同じメールを送るのを、今日でやめる ── 購買プロセスに寄り添う4つの打ち手|イノーバ×スマートキャンプ共催セミナー再録 第3回

連載|ナーチャリングが効かなくなった本当の理由(全4回)第3回

本稿は、2026年9月8日(火)に開催したスマートキャンプ株式会社との共催セミナー「自社の機会損失はいくら?放置リードから商談数を最大化するナーチャリングの仕組み」のうち、イノーバのパート(登壇:宗像淳)の内容をもとに、加筆・再構成したブログ記事です。当日使用したスライドの一部を掲載しています。

〈全4回の構成〉
・第1回:リードは集まる。商談は増えない
・第2回:「ザ・モデル」は、本国ではもう古い
・第3回:全員に同じメールを送るのを、今日でやめる(この記事)
・第4回:AIが書いたペルソナは、なぜ誰にも刺さらないのか

スマートキャンプ株式会社との共催セミナー第2弾が決定しました。詳しくは、下のバナーをクリックしてください。

11月26日(木)12:00〜13:00 オンライン・参加無料。イノーバ×スマートキャンプ共催セミナー「一律CPA管理から抜け出す BtoBマーケティング予算ポートフォリオ」

 

はじめに

ここまで第1回・第2回と、悪い話ばかり書いてきた。量で押してきたこと。リストが疲弊していること。買い手の期待値が一方通行で上がり、一般論はもう読まれないこと。

今回は打ち手の話をする。ただし、メールの件名の工夫や、ウェビナーの集客方法といった施策の話ではない。その手前にある設計をやり直す話だ。

 

打ち手01:購買検討プロセスを可視化する

打ち手01:自社商材の購買検討プロセスを明文化する。誰が起案し、誰が比較し、誰が承認し、誰が拒否権を持つかを書き出す

お客様と話していると、実感することがある。セミナーでは、こう話した。

「お客様の購買プロセスを、わかったつもりになっている会社が本当に多すぎる。商談に出てくる人、リードで入ってくる人の裏側に、実際の意思決定者は隠れているんですが、それを全く把握していなくて、想像でやっているところが本当に多い。的が見えていなかったら、いかに狙って矢を打ったところで、的に当たるわけはありません」

最初にやることは、施策の実行ではない。自社の商材が、顧客の社内でどういう経路をたどって決まるのかを、文字にすることだ。個人ではなくグループで捉える。書き出すのは、この4つになる。

・誰が起案するのか(最初に問題を感じ、社内で言い出す人)
・誰が比較するのか
・誰が承認するのか(予算を出す人)
・誰が拒否権を持つのか(情シス、法務、購買、現場の部門長など)

4つ目が見落とされやすい。B2Bの失注の多くは、競合に負けたのではなく、社内のどこかで止まったものだと私は見ている。稟議と合議の国だからこそ、一人のリードではなく、意思決定に関わる人たちの集まりとして捉える発想が要る。

アウトプットは1枚でいい。横軸に検討ステージ(課題認識、情報収集、要件定義、比較検討、稟議・承認)、縦軸に登場人物を並べ、各マスに「その人が、その時期に、何を気にしているか」を一言ずつ書く。それだけだ。

 

打ち手02:検討開始のきっかけとキーマンを特定する

打ち手02:検討開始のきっかけ(不満の窓)とキーマンを洗い出す

もう一つ重要なのは、タイミングだ。会社がお金を使うのには、タイミングがある。もともと取ってある予算を使うのか、予算外で特別にお金を取ってくるのか。いずれにしても、課題を感じる瞬間が先にある。海外では「不満の窓(窓が開く)」と呼んで分析する。

たとえば、組織変更や役員の交代があった。既存ベンダーの契約更新が近づいた。売上目標が未達で、原因究明が始まった。こうした出来事が窓を開く。自社の受注案件を遡れば、パターンが見えてくるはずだ。

そして、窓が開いたとき、社内で誰が最初に動き出すのか。これも洗い出す。

窓が開く前に関係ができているかどうかで、勝負はすでに決まっている。ナーチャリングの本来の目的は、いま買う人を追いかけることではなく、いずれ窓が開く人と、その前に関係をつくっておくことだと考えている。

 

打ち手03:個社の経営課題から入る

打ち手03:個社の経営課題・中期計画から入る(ABMアプローチ)

相手企業の中期経営計画、IR資料、組織変更のリリースを読む。そこから、その会社に固有の課題を読み取って、こちらから指摘する。以前は手間のかかる作業だったが、AIが使えるようになって、こうした分析をかなり日常的にできるようになった。これは、ABMそのものだと思う。

売れる営業は、もともと商談前に相手企業のことを調べている。その行動を、ナーチャリングの側でもやる。それだけの話だ。「全員に同じメール」から、「この会社に、この論点」へ。

 

打ち手04:リードを段階・業種・規模で棚卸しする

打ち手04:リードのTier分け。役職、業種、企業規模で分け、検討ステージと掛け合わせる

もう一つ大事なのは、リードの数ではなく、中身だ。意思決定する人と、その人に影響を与える人のリードが大事だ。

たとえば、大手製造業の情シス部長と、従業員20名の会社の営業担当が、同じ資料を3回ダウンロードしたとする。MAのスコアは同じでも、欲しい情報は違う。同じメールを送るのは、明らかにおかしい。

役職、業種、企業規模でリードをTierに分け、検討ステージと掛け合わせる。あくまで一例だが、次のようなイメージだ。

課題認識(窓が開く前)情報収集(窓が開いた)比較検討(候補に入った)
Tier1:大手・決裁層個社の中計を読んだ上での論点提起同業他社の意思決定事例稟議に使える個別の試算
Tier2:大手・実務層業務の困りごとに寄せた実務コンテンツ導入プロセスと社内調整の進め方要件整理シート
Tier3:中堅中小汎用コンテンツ・メルマガ(ここは効率でよい)セルフで進められる資料標準の提案・見積


この表に、いま自社が送っているものを置いてみると、ほとんどのマスが空白で、一箇所にだけ全部が詰まっていることに気づく。まず、それを直視することから始めてほしい。

 

これを全部潰す壁

落とし穴:マーケと営業の分業の溝。顧客の検討プロセスを知っているのは営業、届ける手段を持っているのはマーケ。必要なのは「引き渡し」ではなく「共同設計」

ここまで4つ書いた。しかし、これをやれば解決するとは限らない。セミナーでは、こう話した。

「マーケと営業の間に溝があるというのは、この時代に、非常に問題が大きいなと思っています」

顧客の検討プロセスを知っているのは営業だ。誰が拒否権を持っていたか、どこで止まったか、窓が開いたきっかけは何だったか。全部、営業の頭の中にある。一方、それを届ける手段(MA、コンテンツ制作、配信の権限)を持っているのは、マーケの側だ。片方だけでは、この4つの打ち手はどれも完成しない。

必要なのは「引き渡し」ではなく、「共同設計」である。打ち手01は、営業とマーケが同じ部屋で、1枚の紙を一緒に書くところから始めてほしい。2時間でいい。これが一番安く、一番効く投資だと、私は考えている。

 

生成AIの時代に、どう選んでもらうか

生成AIがあれば、もう「コンサルなんて要らない」と言われる時代に、どうやって選んでもらうか。

もう一つ、根本的な問いがある。AIがここまで浸透すると、「うちの会社の商売は大丈夫か」「うちの商品は買ってもらえるのか」と思っている方は多いはずだ。「SaaS is dead」とまで言われる時代である。

ここまでの打ち手は、どれも顧客を深く理解する方向を向いている。だが、顧客理解の作業そのものが、いまAIでかなりのところまでできてしまう。ペルソナも、カスタマージャーニーも、数分で出てくる。

だとすれば、我々は何で選ばれるのか。これはコンサルティングとコンテンツ制作を生業にしているイノーバ自身の問いでもある。答えは、次回に書く。

 

前回(第2回):「ザ・モデル」は、本国ではもう古い ── 買い手が変わった15年を、1枚の年表で
次回(第4回):AIが書いたペルソナは、なぜ誰にも刺さらないのか ── 生々しさの手に入れ方

 

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。

1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。

2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。

2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
最新刊 旧作1 旧作2