連載|ナーチャリングが効かなくなった本当の理由(全4回)第3回
本稿は、2026年9月8日(火)に開催したスマートキャンプ株式会社との共催セミナー「自社の機会損失はいくら?放置リードから商談数を最大化するナーチャリングの仕組み」のうち、イノーバのパート(登壇:宗像淳)の内容をもとに、加筆・再構成したブログ記事です。当日使用したスライドの一部を掲載しています。
〈全4回の構成〉
・第1回:リードは集まる。商談は増えない
・第2回:「ザ・モデル」は、本国ではもう古い
・第3回:全員に同じメールを送るのを、今日でやめる(この記事)
・第4回:AIが書いたペルソナは、なぜ誰にも刺さらないのか
はじめに
ここまで第1回・第2回と、悪い話ばかり書いてきた。量で押してきたこと。リストが疲弊していること。買い手の期待値が一方通行で上がり、一般論はもう読まれないこと。
今回は打ち手の話をする。ただし、メールの件名の工夫や、ウェビナーの集客方法といった施策の話ではない。その手前にある設計をやり直す話だ。
打ち手01:購買検討プロセスを可視化する

お客様と話していると、実感することがある。セミナーでは、こう話した。
「お客様の購買プロセスを、わかったつもりになっている会社が本当に多すぎる。商談に出てくる人、リードで入ってくる人の裏側に、実際の意思決定者は隠れているんですが、それを全く把握していなくて、想像でやっているところが本当に多い。的が見えていなかったら、いかに狙って矢を打ったところで、的に当たるわけはありません」
最初にやることは、施策の実行ではない。自社の商材が、顧客の社内でどういう経路をたどって決まるのかを、文字にすることだ。個人ではなくグループで捉える。書き出すのは、この4つになる。
・誰が起案するのか(最初に問題を感じ、社内で言い出す人)
・誰が比較するのか
・誰が承認するのか(予算を出す人)
・誰が拒否権を持つのか(情シス、法務、購買、現場の部門長など)
4つ目が見落とされやすい。B2Bの失注の多くは、競合に負けたのではなく、社内のどこかで止まったものだと私は見ている。稟議と合議の国だからこそ、一人のリードではなく、意思決定に関わる人たちの集まりとして捉える発想が要る。
アウトプットは1枚でいい。横軸に検討ステージ(課題認識、情報収集、要件定義、比較検討、稟議・承認)、縦軸に登場人物を並べ、各マスに「その人が、その時期に、何を気にしているか」を一言ずつ書く。それだけだ。
打ち手02:検討開始のきっかけとキーマンを特定する

もう一つ重要なのは、タイミングだ。会社がお金を使うのには、タイミングがある。もともと取ってある予算を使うのか、予算外で特別にお金を取ってくるのか。いずれにしても、課題を感じる瞬間が先にある。海外では「不満の窓(窓が開く)」と呼んで分析する。
たとえば、組織変更や役員の交代があった。既存ベンダーの契約更新が近づいた。売上目標が未達で、原因究明が始まった。こうした出来事が窓を開く。自社の受注案件を遡れば、パターンが見えてくるはずだ。
そして、窓が開いたとき、社内で誰が最初に動き出すのか。これも洗い出す。
窓が開く前に関係ができているかどうかで、勝負はすでに決まっている。ナーチャリングの本来の目的は、いま買う人を追いかけることではなく、いずれ窓が開く人と、その前に関係をつくっておくことだと考えている。
打ち手03:個社の経営課題から入る

相手企業の中期経営計画、IR資料、組織変更のリリースを読む。そこから、その会社に固有の課題を読み取って、こちらから指摘する。以前は手間のかかる作業だったが、AIが使えるようになって、こうした分析をかなり日常的にできるようになった。これは、ABMそのものだと思う。
売れる営業は、もともと商談前に相手企業のことを調べている。その行動を、ナーチャリングの側でもやる。それだけの話だ。「全員に同じメール」から、「この会社に、この論点」へ。
打ち手04:リードを段階・業種・規模で棚卸しする

もう一つ大事なのは、リードの数ではなく、中身だ。意思決定する人と、その人に影響を与える人のリードが大事だ。
たとえば、大手製造業の情シス部長と、従業員20名の会社の営業担当が、同じ資料を3回ダウンロードしたとする。MAのスコアは同じでも、欲しい情報は違う。同じメールを送るのは、明らかにおかしい。
役職、業種、企業規模でリードをTierに分け、検討ステージと掛け合わせる。あくまで一例だが、次のようなイメージだ。
| 課題認識(窓が開く前) | 情報収集(窓が開いた) | 比較検討(候補に入った) | |
|---|---|---|---|
| Tier1:大手・決裁層 | 個社の中計を読んだ上での論点提起 | 同業他社の意思決定事例 | 稟議に使える個別の試算 |
| Tier2:大手・実務層 | 業務の困りごとに寄せた実務コンテンツ | 導入プロセスと社内調整の進め方 | 要件整理シート |
| Tier3:中堅中小 | 汎用コンテンツ・メルマガ(ここは効率でよい) | セルフで進められる資料 | 標準の提案・見積 |
この表に、いま自社が送っているものを置いてみると、ほとんどのマスが空白で、一箇所にだけ全部が詰まっていることに気づく。まず、それを直視することから始めてほしい。
これを全部潰す壁

ここまで4つ書いた。しかし、これをやれば解決するとは限らない。セミナーでは、こう話した。
「マーケと営業の間に溝があるというのは、この時代に、非常に問題が大きいなと思っています」
顧客の検討プロセスを知っているのは営業だ。誰が拒否権を持っていたか、どこで止まったか、窓が開いたきっかけは何だったか。全部、営業の頭の中にある。一方、それを届ける手段(MA、コンテンツ制作、配信の権限)を持っているのは、マーケの側だ。片方だけでは、この4つの打ち手はどれも完成しない。
必要なのは「引き渡し」ではなく、「共同設計」である。打ち手01は、営業とマーケが同じ部屋で、1枚の紙を一緒に書くところから始めてほしい。2時間でいい。これが一番安く、一番効く投資だと、私は考えている。
生成AIの時代に、どう選んでもらうか

もう一つ、根本的な問いがある。AIがここまで浸透すると、「うちの会社の商売は大丈夫か」「うちの商品は買ってもらえるのか」と思っている方は多いはずだ。「SaaS is dead」とまで言われる時代である。
ここまでの打ち手は、どれも顧客を深く理解する方向を向いている。だが、顧客理解の作業そのものが、いまAIでかなりのところまでできてしまう。ペルソナも、カスタマージャーニーも、数分で出てくる。
だとすれば、我々は何で選ばれるのか。これはコンサルティングとコンテンツ制作を生業にしているイノーバ自身の問いでもある。答えは、次回に書く。
前回(第2回):「ザ・モデル」は、本国ではもう古い ── 買い手が変わった15年を、1枚の年表で
次回(第4回):AIが書いたペルソナは、なぜ誰にも刺さらないのか ── 生々しさの手に入れ方
宗像 淳 / イノーバCEO
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。
2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。
2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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