カスタマージャーニーとは、読んで字のごとし「ある顧客によるブランド体験の旅」。顧客がブランドを知り、購入を検討、そして成約にいたりブランドを体験するまでを旅に見立てたものです。カスタマージャーニーマップは一連の流れを行動、思考、心理状態から整理し、図として可視化します。
BtoC向けのマーケティングでは一般的で、BtoB向けでも効果を発揮します。BtoB向けのカスタマージャーニーマップ作成について、メリットや特徴、注意点やプロセスなどポイントをみていきましょう。
BtoB向け企業がカスタマージャーニーマップを作成するメリット
カスタマージャーニーマップを作成するメリットは、次の2点です。
顧客視点での商品・サービス設計やマーケティング施策を検討できる
商品開発の現場目線だと、思い入れが強すぎて商品やサービスを客観的に見られなくなる可能性があります。そこで、顧客の行動や思考、感情の動きをイメージしたカスタマージャーニーを描くことで、ひとりよがりすぎない、顧客の目線に立った商品・サービス設計やマーケティング施策を検討できるようになるのです。
また、顧客の抱える課題を明確にイメージすることで、その課題解決に向けた具体的な方針が立てやすくなり、予算や人的リソースの配分もしやすくなります。
チーム内で顧客像や施策の目的を共有できる
商品やサービスの開発に至るまで、数多くの担当者や部門が関わってくるでしょう。それぞれの思惑やKPIに従ってバラバラに動いていては軋轢のもとになり、結果的にインパクトのある商品を打ち出せなくなります。
顧客の行動や思考、感情の動きをイメージしたカスタマージャーニーを思い描くだけでなく、それをマップとして可視化すると、チーム内で顧客像や施策の目的を共有しやすくなり、全体的なマーケティング戦略に統一感が生まれるようになるのです。
BtoB向けカスタマージャーニーマップの特徴
前項で挙げたカスタマージャーニーマップ作成のメリットは、BtoC向けのマーケティングでよく挙げられる内容になりますが、BtoB向けでも基本は同じといえます。
一方、BtoBのカスタマージャーニーマップ作成において個別に注意すべき特徴もあります。
BtoB向けの商材については一般的に以下の特徴があります。
- 費用が高い(傾向)
- 購入に至るまでの検討プロセスが長い
- BtoCに比べ、検討プロセスの型化はしやすい
- 複数人が関わってくる
- ジャーニーのプロセスの前後を行き来することがある
概して、BtoB商材については費用が高く、会社の中で稟議を通して購入・契約が決定します。担当者一人の個人的な好みや衝動で購入が決定することはほとんどなく、社内のある程度決まったプロセスの中で、時間をかけて検討が進められます。そのため、ある程度の時間幅とプロセスを持ったカスタマージャーニーは、BtoCよりも組みやすいとも言えます。
また、BtoBとBtoCマーケティングの決定的な違いは「決裁権」にあります。BtoBでは商品に関する情報収集を行う担当者と、最終的に購入に至る決裁権を持つ担当者が異なることが多々あります。成約に至るまでのプロセスには、情報収集担当者本人の好みよりも、所属する組織が抱える課題や社内の状況、決裁権を持つ人の意見の影響がはるかに大きくなります。そのため、そもそも1つのカスタマージャーニーを組むにしても、実際に自社とやりとりする担当者以外にも顧客の社内で検討に関わる重要人物が複数人いる、ということは念頭に置いておいた方がいいでしょう。
その点では、「ジャーニーのプロセスの前後を行き来することがある」という点にも注目すべきです。上記に挙げたように、BtoB向けの購入プロセスには複数人が関わり、情報収集を行う担当者と、最終的に購入に至る決裁権を持つ担当者が異なることが多々あります。そうした複数の意見や思惑が飛び交う中、「検討が進んでいたのに、会社内の稟議で決定がひっくり返り、結局検討が前段階に戻ってしまった」などというトラブルも十分に起こりえます。そのため、BtoBのカスタマージャーニーマップでは、 BtoC向けマーケティングのように「ブランド認知→購入検討→購入→ブランドを体験」という一直線ではなく、プロセスを行きつ戻りつしながら成約に至る、という形になる可能性もあります。
BtoB向けカスタマージャーニーマップを作成する際の注意点
ペルソナを作りこむ
BtoB向けのカスタマージャーニーマップにおいて、主人公たるペルソナの作り込みは重要です。
マーケティング用語でのペルソナとは、「自社のサービスを購入する顧客像」を意味します。氏名や性別、年齢、居住地といったおおまかな属性だけでなく、学歴や家族構成、職業や役職、ライフスタイル、考え方、価値観といった詳細な人物像を設定し、ユーザーモデルとして使用します。
前述のとおりBtoB向けの商材やサービスでは、情報収集を行う担当者と、最終的に購入に至る決裁権を持つ担当者が異なる場合も多々あります。
そのため、BtoB向けのカスタマージャーニーマップ作成では、ペルソナも情報を収集する担当者や現場担当者、決裁者というように役割を分け、それぞれの行動をイメージしながらマップを作る必要があるのです。とくに、購買にまつわるキーパーソンの設定が大切です。
イノーバではBtoB企業向けの「ペルソナ作成ワークブック」をご提供しています。ペルソナ作成にお悩みの方はぜひご参照ください。
顧客の社内フローを意識する
さらに、BtoB向けのカスタマージャーニーマップでは、意思決定にまつわる社内フローまでを含めることも重要です。先に挙げたように、BtoB向けのカスタマージャーニーの特徴として、ジャーニーのプロセスの前後を行き来することが多々あります。意思決定に重大な影響をおよぼす社内フローをあらかじめ把握しておけば、顧客の行動に対する解像度がより高くなり、マーケティングの精度も高まります。
こうした情報は、もちろん顧客企業によって違うものですし、なかなか想像によって埋めるのは難しい部分です。ただ、ある程度の傾向を掴むために、ペルソナに近い企業規模・業界の企業担当者にユーザーインタビューを実施したりすることは有効な手段です。
BtoB企業向けカスタマージャーニーマップのプロセスと実例
では、BtoB向けの商材やサービスでのカスタマージャーニーマップ作成のプロセスと実例を見ていきましょう。
カスタマージャーニーマップの作成およびそれに準じたマーケティング施策の実施は、おおまかに以下の手順で進めます。
- ペルソナの設定
- 顧客情報の分析・収集
- カスタマージャーニーマップの作成
1) 顧客の思考・感情をプロセスごとにプロットする
2) 思考・感情に紐づいた行動をプロットする
3) 行動時に触れるチャネルやコンテンツをプロットする
- マップをもとに、顧客の必要としている情報や助けとなるような施策を社内で考え・実行する
- カスタマージャーニーマップをもとに、定期的に更新し、振り返りをする
実際にカスタマージャーニーマップを作ってみよう
それでは、実際に制作事例を見ながら各プロセスにおいての考慮事案を確認していきましょう。例えば、都内に本社を置く名刺管理ソフトの販売会社が、「新規顧客からの受注率を高めるために、マーケティング施策を見直したい」という目的でカスタマージャーニーマップ作りに取り組むとしたらどうでしょうか。
- ペルソナの設定
顧客となる企業の担当者イメージを設定します。ここでは仮に「国内大手製造業に務める営業部長」としましょう。BtoB向けの商材やサービスでのカスタマージャーニーマップでは、この顧客の人物像だけでなく、勤め先の業種や規模、年商、組織の風土といった「企業のペルソナ」も設定します。
- 顧客情報の分析・収集
ソーシャルメディアや顧客インタビュー、営業担当者へのヒアリングなどをもとに、顧客情報を収集・分析します。たとえばTwitterやFacebookといったソーシャルメディアを探れば、製品・サービスに関する不満やユーザーの悩みなど生の声を探ることができるかもしれません。
この際大切なのは「一次情報をもとにすること」。生の声をもとにせず、顧客はこう考えているに違いない・・・・・・と思い込みで作業を進めてしまうと、ユーザー目線からずれてしまう可能性があります。
- マップの作成
購買にいたるプロセスを横軸に、プロセスごとの顧客の思考・感情、思考・感情に紐づいた行動、行動時判断のもとになる情報のチャネルやコンテンツを縦軸にして、カスタマージャーニーマップを作成ます。
- マップをもとに、顧客の必要としている情報や助けとなるような施策を社内で考え・実行する
いよいよマップが完成したら、顧客の必要としている情報や助けとなるようなマーケティング施策を社内で実行するフェーズです。マップでプロセスを可視化すると、各段階における顧客の思考・感情にもとづき、適切な情報チャネルやコンテンツを提供しやすくなります。
- 定期的に更新し、振り返りをする
ユーザーや顧客からのフィードバックをもとにマーケティング施策を振り返り、改善させていくと、戦略の精度を高めていけます。よって定期的な更新と振り返りは最重要といえるでしょう。カスタマージャーニーマップを作成したら終わり、ではなく、アジャイル的な運用こそが理想的だといえます。
BtoB向けの商材でもカスタマージャーニーマップは効果大
BtoC向けとは購買に至るプロセスが異なるといえど、BtoB向けのマーケティングでもカスタマージャーニーマップやペルソナの作り込みは効果が大きいものです。ここまで紹介してきた流れやポイントを抑えながら、カスタマージャーニーマップづくりに取り組んでみてください。
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