Skip to content
宗像 淳 / イノーバCEO2024/11/06 14:30:04< 1 min read

BtoBブランディング①|なぜイメージ広告だけでは不十分なのか?

「うちもブランディングをしなければならない時代だ。すぐに取り掛かってくれ」

ある製造業の経営企画部長が、突然社長からこう言われたとします。多くの場合、最初に思い浮かぶのは、ロゴの刷新や企業スローガンの策定、あるいは新聞やテレビでのイメージ広告展開ではないでしょうか。

そして次のアクションとして、広告代理店に相談し、「御社の認知度を上げるには、まずは新聞広告からですね。YouTube やSNSも始めましょう」というアドバイスを受けるかもしれません。

しかし3ヶ月後、社長から「ブランディングの成果は?」と問われた時、明確な答えを持ち合わせていない―――。こんな状況に心当たりはありませんか?

これは、BtoBブランディングの本質を見誤った典型的なケースです。

目次

 

ブランディングの本質とは

ブランディングというと、多くの人が目に見える部分に注目しがちです。ロゴ、スローガン、広告キャンペーンなど、表面的な要素です。

しかし、これは氷山の一角に過ぎません。真のブランディングの力は、水面下にある見えない部分にこそ存在します。それは「顧客の心の中に特別な地位を築くこと」です。

この「見える部分と見えない部分」の区別を理解することは、BtoBブランディングを成功させる第一歩となります。なぜなら、多くの企業がこの「見える部分」に過度に注力し、本質的な「見えない部分」の構築をおろそかにしているからです。

 

「顧客の心の中に特別な地位を築く」とは

これは具体的にどういうことでしょうか。

「顧客の心の中に特別な地位を築く」とは、以下の3つの状態を実現することを意味します。

  1. 課題が発生した時に、真っ先に思い出される企業になること
  2. 「この会社なら解決策を見出してくれるはずだ」という確信を持ってもらえること
  3. 長期的なパートナーとして選ばれ続けること

これは「ファーストコールカンパニー」という言葉で表現されることもあります。この概念は、「何かあった時に、まず相談したいと思われる会社」を意味します。

ファーストコールカンパニーになるためには、一時的な印象づけではなく、継続的な価値提供の積み重ねが必要です。顧客との日々のやり取り、提供するソリューション、アフターフォロー、すべての接点が「特別な地位」を築くための要素となります。

 

BtoCとBtoBブランディングの本質的な違い

この「特別な地位を築く」というゴールは、B2CとBtoBで共通しています。しかし、そこに至るアプローチは大きく異なります。なぜなら、BtoB取引特有の性質が、ブランディングの方法論に大きな影響を与えるからです。

BtoBブランディングがBtoCと大きく異なる点は、以下の3つの特徴にあります。

1.組織的な意思決定

  • 複数の関係者が意思決定に関与
  • 部門をまたいだ合意形成が必要
  • 個人の好みや感情だけでは決定されない
  • 客観的な評価基準が重要

 

2.長期的な取引関係

  • 継続的なビジネス関係が前提
  • 導入後のサポート体制が重要
  • 取引コストの観点から、取引先の変更は慎重に検討
  • 信頼関係の構築が不可欠

 

3.理性的判断の重要性

  • 感情的要素よりも、専門性や信頼性が重視される
  • 具体的な数値やデータによる裏付けが必要
  • コスト対効果の明確な説明が求められる
  • 組織としての意思決定を支える論理的根拠が重要

BtoBブランディングのこれらの特徴は、相互に関連し合っています。組織的な意思決定であるからこそ、長期的な関係構築が重要となり、それゆえに理性的な判断基準が求められるのです。このことは、BtoBブランディングが単なるイメージ戦略ではなく、顧客との深い信頼関係の構築を目指すものであることを示しています。

 

なぜイメージ広告だけでは不十分なのか

このようなBtoBの特徴を踏まえると、なぜ従来型のイメージ広告だけでは不十分なのかが見えてきます。確かにBtoC企業のイメージ広告は印象的で記憶に残りますが、実はBtoB企業の本質的な課題解決にはつながりにくいのです。

イメージ広告が効果を発揮するのは、主に以下の3つの領域です。

  • 採用ブランディング(優秀な人材の獲得)
  • インターナルブランディング(社内の一体感醸成)
  • 投資家向けブランディング(企業価値の向上)

しかし、BtoBの取引先が本当に知りたいことは異なります。

  • その会社が持つ専門性の深さ
  • 具体的な課題解決能力とその実績
  • 長期的なサポート体制の信頼性
  • コスト削減や業務効率化への具体的な貢献
  • リスク軽減への明確なアプローチ

このギャップこそが、BtoB企業が単純なイメージ広告だけでは十分な効果を得られない理由です。組織的な意思決定、長期的な関係構築、理性的な判断という特徴を持つBtoB取引において、真に必要なのは、具体的な価値提供の証明なのです。

 

真のBtoBブランディングへの道筋

BtoBブランディングは、一朝一夕には実現できません。それは以下のような要素を、計画的かつ継続的に築いていく必要があるからです:

  • 顧客との信頼関係の積み重ね
  • 具体的な課題解決の実績
  • 専門性の継続的な証明
  • 長期的なサポート体制の確立

イメージ広告のような派手な施策は、時として即効性のある認知度向上には効果的かもしれません。しかし、真のBtoBブランディングはそれだけでは達成できません。

むしろ、地道な信頼構築の積み重ねこそが、最終的に「顧客の心の中の特別な地位」を確立することにつながるのです。この積み重ねの過程で重要なのは、すべての施策が「顧客にとっての価値」を軸に展開されることです。

技術や機能を価値に変換し、それを効果的に伝えていく。この一見地味な取り組みこそが、結果として強固なブランドの構築につながっていくのです。

その第一歩として、まずは自社の技術や製品が、顧客にどのような価値をもたらしているのか、あらためて見つめ直してみてはいかがでしょうか。その視点の転換が、新しいBtoBブランディングの始まりとなるはずです。

▶BtoBブランディングシリーズ記事一覧

BtoBブランディング①|なぜイメージ広告だけでは不十分なのか?【本記事】
BtoBブランディング②|デジタル時代の顧客行動とは?データで見る劇的な変化
BtoBブランディング③|技術や機能の説明だけでは競争力を持てない理由
BtoBブランディング④|3社の成功事例から学ぶ具体的手法
BtoBブランディング⑤|実践ステップ:小さな成功の積み重ね方
BtoBブランディング⑥|よくある疑問を一挙解決!

avatar

宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。 2011年6月にコンテンツマーケティング支援の株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。