現代のブランド戦略は、「消費者視点」「顧客中心」のマーケティング戦略と密接な関係性があります。ブランドイメージを発信し、消費者や社会に「ブランド」を認知してもらうためには、マーケティング活動における、プロモーションがプロセスに関わってくるためです。
こういった強い関係性から、ブランド戦略の実施は、マーケティング活動やセールス活動にもプラスの効果を生みだします。そのため、アメリカで近年大きな成功をおさめている企業では、ブランド戦略の位置付けをマーケティング戦略の上流に、経営戦略に近い位置づけにすることで、ブランド戦略に力を注ぎ、業界における競争性を高め、売上シェアを高めています。
ここでは、ブランディング戦略の重要性について理解を深めるために、ブランド戦略の基礎、ブランド戦略を実施した企業の成功事例・失敗事例を紹介していきます。最後に、実際にブランディングを実践するための構築手順についてご紹介します。
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ブランド戦略が企業に必要な理由
ブランド戦略とは?
ブランド戦略とは、自社の製品やサービスがもつ独自性、差別ポイント、強み、価値を消費者や社会に認知してもらい、イメージの向上を図ることで、製品やサービスを選択する際の決定要素、購入を継続するための動機付けとすることを目的としています。
ブランド戦略によって消費者のブランドへの信頼が高まれば、ロイヤリティの高い顧客を獲得でき、その結果、企業の売上の拡大、安定性、継続性を底支えする効果があることから、企業における戦略の一つとして重要視されています。
ブランドとはどのように確立される?
ここで、「ブランド」が確立される定義について明確にしておきます。というのも、この問いに正確に答えられる人は意外と少なく、誤って理解している人も多いため、押さえておきたいポイントです。
「ブランド」が確立されるには、3R(Relationship、Relevance, Reputation)と呼ばれる概念が登場します。
まずは、企業が発信元となり、消費者やステークホルダーに向けて、企業が発信したいブランドイメージを発信します(Relevance)。また、企業はブランドイメージを世の中に発信してくれる支援者となるグループとも、ブランドイメージを共有、関係性を構築します(Relationship)。これは、狙っているブランドイメージを世の中に発信、拡散することが目的です。この支援者グループが、企業のブランドイメージを正しく認知すると、今度は消費者グループへそのイメージを伝達、拡散する活動をします(Reputation)。広報活動をするメディアもこの支援者に含まれます。これらの三者が、同様のブランドイメージを認知し、消費者がそのブランドイメージを認知した時に、はじめて「ブランド」が構築されたといえます。
企業が一方的にブランドイメージを発信するだけでは、ブランドは確立されたとは言えないことがポイントです。
ブランド戦略の位置付け
日本におけるブランド戦略は、広報活動の一つとして捉えられている傾向がありますが、アメリカなどで成功している企業では、ブランド戦略は経営戦略に深く関わっているという考えが主流になってきています。そのため、ブランド戦略は、経営戦略とマーケティング戦略の間に位置付けられています。
ブランド戦略が、この位置付けに上り詰めた理由について説明していきます。
ブランド・エクイティという概念の確立
ブランドが、経営戦略と密接に関わり合うことになったきっかけは、ブランドの資産価値を指すブランド・エクイティという概念の台頭があります。この概念を世間に広げたデビット・アーカー氏は、ブランド・エクイティは、ブランド・ロイヤリティ、ブランド認知、知覚品質、ブランド連想によって評価されると説いています。ブランド力が高まれば、ブランド・エクイティが高まり、そしてこれが株価に強く影響することも、財務分野の研究者によって実証されました。
ブランド・エクイティという概念の誕生により、いままで、ブランド戦略に見向きもしなかった経営者や株主、投資家なども、ブランド戦略を実施することの重要性に注目し始めるようになりました。
企業のブランディングを成功させるためのポイントと4つのプロセス
成功事例・失敗事例から見るブランド戦略の効果
それでは、ブランド戦略の効果をより明確にするために、ブランド戦略の実施によって成功をおさめた米国の企業2社、ブランド戦略で失敗した日本企業の事例をご紹介します。
Zappos(ザッポス)
米国に本社をおくザッポスは、1999年に創業し、短期間で企業ブランディングに成功した靴のECサイトです。
ザッポスは、企業文化の統一を軸にブランド戦略を立案しました。軸となるフィロソフィーは「最高の顧客サービス・エクスペリエンス」です。
トニー・シェイは、このフィロソフィーを軸に、従業員に、顧客が満足するために自主的にサービスを提供するよう一任しました。
ここで肝となったのが、今までにない評価制度の提案でした。
あるコールセンターでの最長対応時間は、8時間とあります。その他にも、問い合わせのお客様の欲しい商品の在庫がない場合には、競合サイトを検索したり、競合他社の店舗に電話をして、在庫の情報を確認し、自社のお客様に情報提供することもサービスとして提供しています。
従来のコールセンターでは、処理時間や売上が、評価基準でした。しかし、「最高の顧客サービス・エクスペリエンス」を届けることをフィロソフィーとしているザッポスでは、社内評価と顧客評価を評価基準としました。専門の調査員が顧客リサーチによってこれを正当に評価します。この正当な評価によって、従業員はフィロソフィーに沿ったサービスを提供することが実現しました。
ザッポスの従業員は、「顧客が感動して思わずWowと唸るサービス(ザッポスのコア・バリューの一つ)」を提供できた実績を積み重ねていく中で、自分の仕事を誇りに思う気持ちと会社への愛着心を醸成し、企業文化の統一が図られました。
消費者は、ザッポスの従業員による一貫した高いサービスにより、ザッポスのブランドイメージをかなり早い段階で認知するようになりました。まずは、口コミで拡散され、メディアでも次々と取り上げられるようになりました。ザッポスは創業からたった数年で独自のブランドを確立することに成功しました。
これを証明しているのが、Amazonがザッポスを競合として立ち上げたEndless.comの敗退にあります。ザッポスよりも10%~30%程度の低価格帯で販売したにもかかわらず、順調な売上は得ることができず、結果としてAmazonはザッポスを巨額買収することになりました。
顧客は、販売額だけでなくザッポスのブランド力を購買の決定要素として選んだということの裏付けです。
成功事例:Salesforce.com(セールスフォース・ドットコム)
セールスフォース・ドットコムは米国に本社をおく、企業向けにクラウド型CRM(顧客管理)やSFA(営業支援)を販売する企業です。CRMの世界シェアトップを誇る同社ですが、設立当初より一貫した企業ブランディングを実施しています。
コア・バリューとなっているのは、信頼(Trust)、成長(Growth)、イノベーション(Innovation)、平等(Equality)という4つです。ここでは、イノベーションと平等について詳しく解説します。
イノベーションで徹底した差別化を図る
1999年に創業し、CRMという新しい概念と製品を世の中に広めたセールスフォースは、
製品ブランディングにおける、徹底した顧客目線で実利価値を提供しています。セールスフォースは、業界初となるクラウド型CRMやSFAをリリースし、「業界初」という、他社との徹底した差別化を確立しました。
セールスフォースはエンタープライズテクノロジを「民主化」することを重点とし、いまも尚、これまでにない新たな製品を世に輩出し続けています。
もちろん、これらのサービスがユーザーにとって使いやすく、魅力的であったことが、ブランド認知された大きな理由です。
企業が社会のためにあることを「平等」をキーワードに発信
セールスフォースは、自社の製品・株式・就業時間のそれぞれ1%を社会の支援のために使う1-1-1モデル」という社会貢献活動を行っています。その活動モデルは、製品の1%を非営利単体へ無償で寄付、株式の1%を寄付や資金援助、従業員の就業時間の1%を社会貢献活動に回すというものです。
こういった活動の裏には、創業者であるマーク・ベニオフ氏の「自分たちの会社はシェアフォルダーではなく、ステークホルダー(従業員、地域社会、行政、取引先など)のためにある。」というフィロソフィーが基礎にあります。
これらの社会貢献活動を行うことで、社会がセールスフォースにポジティブな印象を持つだけでなく、提供する側の従業員も自社への誇りや社会実現(実現価値)を体験し、会社へのロイヤリティを高めるという効果があります。
こういった活動の実施により、セールスフォースは、日本でも働きがいのある企業ランキングで1位を獲得しています(就職・転職のリサーチサイト「Vorkers」調べ)。IT人材不足が危ぶまれる現代において、企業ブランド力の高さは人材不足解消にも大きく貢献しています。
失敗事例:ファースト・リテーリング
ユニクロを運営するファースト・リテーリングは2002年に野菜販売「SKIP」を展開しました。隔週ごとに旬の野菜やフルーツの詰め合わせが宅配されてくるサービスです。全買上げ契約を農家と結び、時間をたっぷりかけた栄養度の高い高品質な野菜を提供するため、金額は少し高めになりますが、物流コストを下げることでプレミアム価格までには到達しないように調整をしました。しかし、これが、わずか1年後の2003年6月期の決算で9億円以上の赤字を出し、2004年3月に撤退することとなりました。
なぜ、ファースト・リテーリングは野菜事業に失敗したのでしょうか?
さまざまな議論が取り沙汰されていますが、ブランディングの観点で考えるファースト・リテーリングの運営する「ユニクロ」と「SKIP」のブランドイメージの乖離にあったことが言えます。
ファースト・リテーリングは「高品質・低価格」なユニクロという強固なブランドイメージによって世界進出を果たすまでに成長してきた企業です。しかし、野菜事業ではこのブランドイメージとは異なる「高品質・少し高い価格帯」という違ったポジショニングを取りました。
この図で、ブランドポジションのずれを確認していただけるでしょう。
従来のユニクロファンやユニクロブランドを認知している消費者はユニクロを「スーパーバリュー」を提供しているブランドと認知していました。しかし、野菜事業に関しては「高価値」の製品を提供するセグメントに移行し、言わば製品が格下げになったようなイメージです。
こういった失敗を避けるために、ブランドポートフォリオという考えがあります。
これは、所有する複数のブランドを体系化し、それぞれのブランド価値と、企業価値がよい影響を与えあい、更なるブランド価値を生み出すよう、各ブランドイメージを発信する戦略です。ユニクロとSKIPは、ブランドポートフォリオという概念から戦略的でなかったことが言えます。
ブランド戦略構築のステップ
それでは、実際にブランド戦略とはどのように構築されていくのか、具体的にご紹介していきます。
ステップ1:自社や製品の立ち位置を調査
はじめに、企業ブランドや製品ブランドに対するイメージの評価を調査します。消費者を対象に行う消費者調査や、商品の市場規模や競合商品などを調査し、自社のポジショニングや市場の将来性を測定します。実際に、製品をテスト販売し、モニターからの反応を測定する実地調査などの方法もあります。
ステップ2:発信したいブランドイメージを明確にする
発信したいブランドイメージを明確にすることを、ブランド・アイデンティティといいます。ブランド・アイデンティティを決める際には、自社や自社製品の差別化ポイントが肝になります。また、どんな価値を、誰に提供することを約束するのかを具体的に考えていきましょう。
ステップ3:課題抽出、戦略立案、実行
ステップ1の調査結果と、ステップ2で決まったブランドイメージのギャップを比較し、課題抽出していきます。
課題を解決するには、どんな戦術が考えられるのか、上図をもとに説明していきます。
コーポレート・アイデンティティ、ビジュアル・アイデンティティ、マインド・アイデンティティ、ビヘイビア・アイデンティティは、ブランド・アイデンティティを発信するために必要な要素とされており、この観点から改善すべき点を具体的に決めていきます。
例えば、製品ブランディングであれば、代表的なものが戦略商品の設定・企画開発、ロゴやデザインなどの改定が挙げられます。企業ブランディングであれば、ビジョンの見直しや、コーポレートイメージを発信するためのWeb サイトのリニューアルや、企業文化統一を目指した社内活動などがあげられます。
ステップ4:ターゲットにブランドが認知されているかを検証(PDCA)
ブランディング戦略が走り出したら、ブランド評価の定点観測を行い、戦略がワークしているかを検証します。
ステップ1同様に、消費者調査、市場調査のほかにも、PR活動やWebサイトなどのオウンドメディアを通じて効果測定することも可能です。企業ブランディングの場合には、従業員満足度や従業員ロイヤリティなどを図る社内でのアンケートを行います。
この調査結果で、適切な評価が得られていない場合には、改善策の考案を行い、PDCAを繰り返し行うことが必要です。
まとめ
ブランド戦略は、あらゆる企業が永続的に成長していくための戦略の一つです。マーケティング戦略しかり、ブランド認知も、戦略立てて行うことで、それぞれが相乗効果を生み出し、成果を出すことに繋がります。
まずは、企業や製品がどういったブランドイメージを世の中に発信したいかを明確にし、他社との差別化ポイントを社会や消費者に認知してもらうことが第一歩です。
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