今回の概要
連載「営業という職業の作り直し」の第3回。前の2回で、買い手が営業を要らないと言い始めたことを書いた。今回は働き手の側から見る。営業を本当にやりたくて続けている人はごく一握りだ。若手が営業に感じている不満は四つある。専門性がない、つぶしがきかない、給料が増えない、忙しくてストレスが多い。私はこれを甘えだと思わない。物売り営業という仕事の正確な描写だ。私が見聞きするアメリカの営業組織には、職業の階段と共通の方法論があり、経験が転職市場で評価されやすい。その対比から、日本の営業に何が欠けているかを見る。
1. 営業を選んでいる若手は、ほとんどいない
新卒で営業に配属された人のうち、営業をやりたくて選んだ人はどれだけいるだろうか。私の見る限り、ごく一握りだ。多くは「配属されたから」「文系だから」「他に選択肢がなかったから」営業をしている。そして数年で辞めるか、社内で営業以外の職に移ろうとする。
会社は退職の理由を「給料への不満」「上司との相性」と記録する。退職面談でそう言われるからだ。だが私は、それは本当の理由ではないと思う。給料と上司は、辞める決心がついた後に口にする、角の立たない理由だ。
本当の理由は、若手が営業という仕事をどう見ているかにある。四つある。
2. 若手が営業に感じている四つのこと
一つめ、専門性がない。3年営業をやっても、身についたのは自社製品の知識と、顧客との付き合い方だけ。それは自社の中でしか通用しない。エンジニアなら3年でプログラミング言語が書けるようになる。経理なら決算が組めるようになる。営業は3年後に「何ができるようになったか」を、営業以外の人に説明できない。
二つめ、つぶしがきかない。専門性がないから、転職市場で経験が評価されない。「営業3年」は、どの会社のどの営業でも同じに見える。転職しても、また一から製品を覚え、また一から顧客を回る。積み上がらない。
三つめ、給料が増えない。専門性がなく、つぶしがきかないなら、会社は給料を上げる理由を持たない。上げなくても辞めないし、辞めても代わりがいる、と会社は考える。営業の給料が年功で決まる会社が多いのは、能力で差をつける基準を会社が持っていないからだ。
四つめ、忙しくてストレスが多い。訪問件数を追い、電話をかけ、断られ、月末に数字を詰められる。それだけの負荷をかけられて、上の三つが得られない。
これは甘えではない。物売り営業という仕事の、正確な描写だ。
私は若手を擁護するために書いているのではない。四つの不満を一つずつ確かめると、どれも「情報を運ぶ営業」の性質から出てくる。運ぶ情報は自社製品の情報だから、専門性は自社の中に閉じる。運ぶ仕事に方法論がないから、経験が他社に持ち出せない。方法論がないから能力を測れず、給料に差がつかない。運ぶ量で評価されるから、忙しい。四つは別々の不満ではなく、同じ一つの原因から出ている。
3. 海外では、営業は職業の階段と共通言語を持っている
私が見聞きするアメリカのB2B企業の営業組織では、この四つが別の形をしている。
そこでは営業がいくつかの職種に分かれている。SDR(Sales Development Representative)は、見込み客に最初の連絡を取り、商談の機会を作る役だ。AE(Account Executive)は、その商談を引き継いで提案し、契約を取る役。さらに大口の顧客を担当するエンタープライズ営業がその上にある。SDRとして1〜2年、AEとして数年、その先にエンタープライズ営業か営業マネジャー。営業に、職業としての階段がある。
そして、階段の各段で身につけるべき方法論に名前がついている。たとえばMEDDICと呼ばれる案件の見立て方がある。顧客の判断基準は何か、決裁者は誰か、社内で自社を推してくれる人はいるか、といった項目を一件ごとに確認し、案件が本当に取れるかを判定する枠組みだ。名前は覚えなくていい。
要は「案件を見る目」が個人の勘ではなく、組織の共通言語になっているということだ。
この二つがあると、何が起きるか。営業経験が転職市場で評価されやすくなる。「SDRを2年、AEを3年、MEDDICで案件を管理していた」と言えば、業界が違っても相手はその人が何をできるかを理解する。専門性があり、つぶしがきき、給料は方法論をどこまで使えるかで差がつく。忙しさは変わらないかもしれないが、その忙しさが自分の経歴に積み上がる。
若手が日本の営業に感じている四つの不満は、この階段と共通言語がないことの裏返しだ。海外の営業職の離職率が日本より低いと言いたいわけではない。アメリカの営業にも転職は多いと聞く。だがその転職は、経験を持ち出して次に進む転職だ。日本の若手営業の転職は、営業から逃げる転職になっている。
結論
若手が営業を辞める理由は、給料でも上司でもない。専門性がなく、つぶしがきかず、給料が増えず、忙しい。この四つは、情報を運ぶ物売り営業という仕事から出てくる正確な描写だ。海外の営業組織は、職業の階段と共通の方法論を持つことで、この四つを解いている。日本の営業組織は、階段も共通言語も持たないまま、人の頑張りで売上を作ってきた。
だから若手は、営業を職業として選ばない。
診断3: 入社3年目の営業に「3年後に何ができるようになっているか」を聞いたとき、その人は営業以外の人にも通じる言葉で答えられるか?
明日やる一手。営業部に入って3年前後の若手を一人つかまえて、聞いてみる。「この会社で営業を続けて、3年後に何ができるようになると思う?」。答えに「製品に詳しくなる」「顧客との関係が深くなる」以外の言葉が出てくるかどうかを確かめてほしい。出てこなければ、その若手はもう転職サイトを見ている。
前回・次回
前回: 買い手は営業に会わずに決め、最初に声をかけた一社を選ぶ。勝負は商談の前についている。
次回: 「営業は人が資産」と言う会社ほど、人が採れない。顧客からも働き手からも要らないと言われる営業を、「人が資産」と言い続ける会社に何が起きるか。人に頼るから辞められ、辞められるから売り方ごと失う循環を見る。
参考文献・出典:
- 新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します(厚生労働省、2025年10月24日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html
- Who Created MEDDIC? The History Behind the Framework(MEDDICC、2026年8月13日)
https://meddicc.com/resources/who-created-meddic
宗像 淳 / イノーバCEO
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。
2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。
2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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