CEO自らが語る新連載
買い手はAIで武装し、営業に会わずに決め、最初に声をかけた一社を選ぶようになった。働き手もまた、専門性がなく、つぶしがきかない「物売り営業」という仕事を選ばなくなった。両側から存在理由を失いつつある営業を、このままにしておくわけにはいかない。私は、営業という仕事は才能でも根性でもなく、設計とAIで組織に再現できると考えている。この連載では、その主張を34回・5部にわたって具体的に述べていく。
- 第1部(1〜6回) 営業が顧客からも働き手からも選ばれなくなる理由
- 第2部(7〜13回) 30年前のまま止まっている営業組織の診断
- 第3部(14〜20回) 情報を取り上げられた営業が、顧客の前で持つべきもの
- 第4部(21〜28回) 天才の勘ではなく、組織で再現する売り方の設計
- 第5部(29〜34回) 営業を作り直した会社に起きる、採用・定着・承継の変化
今回の概要
連載「営業という職業の作り直し」の第1回。日本の営業の価値の大半は、顧客が知らないことを知っているという情報の差だった。買い手が生成AIを使い始めた瞬間、その差は消える。製品知識でも、他社事例でも、提案書でも、足で稼ぐ訪問でも、営業はもう顧客に勝てない。この回では、何が消えたのかを一つずつ確かめ、「では営業は顧客の前で何を持っているのか」という問いを立てる。第1部は、営業という仕事が顧客と働き手の両側から要らなくなる過程を追う。
1. 日本の営業は、情報の差で食べてきた
はっきり言おう。日本のB2B営業が顧客に提供してきた価値の大半は、顧客が知らないことを営業が知っている、という一点に支えられていた。
製品の仕様を読める。価格の相場を知っている。他社がどう使っているかを話せる。カタログの数字の裏にある「実際のところ」を知っている。顧客は自分で調べる手段が乏しかったから、営業を呼んで聞いた。営業は情報を運ぶ役だった。そして情報を運ぶ役は、運ぶ相手に会うことが仕事になる。訪問件数が評価になったのは、訪問が情報を届ける手段だったからだ。
私はこの構造を悪いとは思わない。買い手に情報がなかった時代には、それが合理的だった。問題は、その前提が消えたことに、売る側だけが気づいていないことだ。
2. 買い手がAIを使った瞬間に、消えるもの
顧客の購買担当者が、商談の前にChatGPTを10分使ったとする。何が起きるか。
製品知識で勝てない。「この製品の仕様を、競合3社と比べて表にしてくれ」と打てば、営業が新人研修で半年かけて覚えた内容が数十秒で出てくる。細部に誤りはあるだろう。だが顧客はその表を持って商談に来る。営業が説明を始めた時点で、顧客の頭の中には比較表がある。
事例で勝てない。「同業で導入した会社の事例と、失敗した理由を教えてくれ」と聞けば、業界誌、導入企業のプレスリリース、口コミサイトの内容が要約されて返ってくる。営業が「他社さんではこうでした」と話す前に、顧客はもっと多くの事例を読んでいる。
提案書で勝てない。これが決定的だと私は思う。顧客は自社の要件をAIに入れ、比較表を作らせ、稟議書の下書きまで作らせる。営業が持っていく提案書は、顧客が自分で作った資料と並べて読まれる。営業の提案書は、顧客の稟議の材料の一つに格下げされる。
足で勝てない。訪問は情報を届ける手段だった。届ける情報がAIで手に入るなら、訪問の理由が消える。顧客が営業に会いたがらなくなったのは、営業を嫌いになったからではない。会う理由がなくなっただけだ。
営業が持っていた四つの武器は、どれも「顧客が知らない」ことを前提にしていた。その前提が消えた。
これは海外だけの話ではない。日本の買い手も、家電を買うときは比較サイトとレビューを読んでから店に行く。仕事で調達するときだけ、その人が「まず営業に聞こう」と考えると思うだろうか。私はそう思わない。生成AIは、その行動を仕事の側にも持ち込んだだけだ。
3. その顧客の前に立ったとき、営業は何を持っているのか
ある問いを自社に向けてほしい。AIで武装した顧客が目の前に座ったとき、あなたの会社の営業は何を持っているか。
製品の説明ではない。顧客はもう知っている。他社事例でもない。顧客はもっと読んでいる。値引きの権限だろうか。それは営業の価値ではなく、会社の利益を削って売る手段だ。人間関係だろうか。関係があるから会ってはくれる。だが、会ってくれることと、選ばれることは別だ。
物売り営業の答えは「何もない」になる。情報を運ぶ仕事から情報を取り上げれば、残るものがないのは当然だ。
一方で、顧客がAIに聞いても出てこないものが残る。その顧客の会社が今どんな経営課題を抱えていて、その課題が現場のどの業務のどこで発生していて、自社の製品がそのどこにどう効くのか。この答えは、顧客の中にすら整理されていないことが多い。AIには顧客の内部事情が見えない。だから、顧客の課題を顧客と一緒に言葉にできる営業には、会う理由が残る。
ただし、これは今の日本の営業の大半ができていることではない。顧客の工場や現場を見たことはあっても、顧客の損益計算書を見たことがある営業がどれだけいるだろうか。この話は第3部で詳しく書く。第1部では、まず「消えた」ことを直視するところから始めたい。
結論
営業の価値が情報の差にあった時代は終わった。買い手はAIで武装し、営業が話す内容の大半を、商談の前に自分で手に入れる。製品知識、事例、提案書、訪問。この四つで戦ってきた営業は、顧客の前で何も持っていない。
これは営業担当者の能力の問題ではない。売り方の設計が、情報のない時代のままだという問題だ。経営が変えない限り、営業は変えようがない。
診断1: 自社の営業が商談で話している内容のうち、顧客がAIに聞けば10分で出てくるものは何割あるか?
明日やる一手。営業担当者を一人つかまえて、直近の商談で使った提案書を見せてもらう。その提案書の内容を、顧客になったつもりでChatGPTに聞いてみる。「この製品を競合と比べて、導入のメリットと注意点を表にして」。出てきた表と提案書を見比べる。営業の提案書に書いてあって、AIの答えに書いていないことが、あなたの営業の価値の全部だ。それが何行あるかを数えてほしい。
次回
買い手は営業に会わずに決め、最初に声をかけた一社を選ぶ。営業に会う理由がなくなった買い手は、では誰とどう決めているのか。調査の数字は、営業が商談に呼ばれた時点で勝負がついていることを示している。
参考文献・出典:
- The B2B Buying Journey(Gartner)
https://www.gartner.com/en/sales/insights/b2b-buying-journey
宗像 淳 / イノーバCEO
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。
2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。
2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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