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イノーバAIインサイトNo.101
宗像 淳 / イノーバCEO2026/10/02 10:00:001 min read

AIは"サイコロを振る機械"だ ── 確率マシンと、どう付き合うか|イノーバAIインサイト -101


第97回で、僕はAIの正体を「確率で言葉を並べる機械」だと書いた。今日は、その一点を、もう少し深く掘りたい。ここを分かっているかどうかで、AIの使い方が、経営レベルで変わってくるからだ。

まず、簡単な実験をしてほしい。AIに、まったく同じ質問を、二回、三回と続けて投げてみる。すると、答えが毎回、少しずつ違う。言い回しが変わる。順番が変わる。ときには、結論すら変わる。

これは、不具合ではない。AIの、本質だ。

目次

 

コンピュータは、本来"同じ答えを返す機械"だった

考えてみてほしい。これまでのコンピュータは、同じ入力には、必ず同じ答えを返す機械だった。電卓に「2+2」と入れれば、何度やっても4だ。昨日も4、今日も4、1万回やっても4。この"揺るがなさ"こそが、コンピュータへの信頼の土台だった。銀行の残高が、聞くたびに変わったら、誰も使わない。

僕たちは、半世紀以上、この「同じ入力→同じ出力」を当たり前として、ソフトウェアと付き合ってきた。一度きちんとテストして動けば、あとは同じように動く。だから信頼できる。それが、常識だった。

ところが、AIは、その常識を、根っこから覆した。

 

AIは、毎回わざとサイコロを振っている

なぜ、AIは同じ答えを返さないのか。第1回の復習になるが、大事なのでもう一度言う。

今のAI(大規模言語モデル)がやっているのは、突き詰めれば「次に来そうな単語を、確率で選ぶ」ことだけだ。「今日は良い」の次には、「天気」が来る確率が高く、「宇宙」が来る確率は低い。そうやって、確率の高い単語を、一つずつ繋いでいく。

問題は、ここからだ。AIは、毎回、いちばん確率の高い単語を選んでいるわけではない。わざと、少しだけランダムさを混ぜている。確率の高いものを軸にしつつ、たまに二番手、三番手も選ぶ。この"ゆらぎ"の大きさは、専門的には「温度(テンパチャー)」と呼ばれ、設定で変えられる。

つまり、AIは一語ごとに、内部で小さなサイコロを振っている。だから、同じ質問でも、道筋が毎回変わり、たどり着く答えも変わる。電卓が「決まった道」を歩くのに対し、AIは「毎回ちょっと違う道」を歩く。

そして、これは重要なのだが——第97回で話した"ハルシネーション"(もっともらしい嘘)も、この確率機械の必然だ。バグではない。それらしい単語を確率で並べているだけだから、事実かどうかは、そもそも判定していない。たまたま並んだ言葉が、たまたま正しければ「正解」、間違っていれば「嘘」。AIには、その区別がついていない。

 

ここが、経営の落とし穴だ

さて、ここからが本題だ。この"サイコロ性"が、経営にとって、とんでもない落とし穴になる。

僕たちは、長年の習慣で、ソフトウェアをこう扱ってきた——「一度テストして、うまくいったら、OK」。だが、確率機械には、この常識が通用しない。

考えてみてほしい。AIに大事な仕事をやらせて、一回、見事な結果が出た。「おお、使える」と喜ぶ。だが、その一回は、サイコロで良い目が出ただけかもしれない。100回のうち98回は正しくても、残りの2回は、平然と間違える。そして、その2回が、いつ来るかは分からない。「デモは完璧だったのに、本番で事故る」——その正体は、たいていこれだ。

しかも、たちが悪いことがある。AIは、間違えるときも、自信満々で、それらしく間違える。「たぶん違うと思いますが」とは言わない。堂々と、間違った答えを、正しい答えとまったく同じ顔で差し出してくる。だから、見抜くのが難しい。皮肉なことに、モデルが賢くなるほど、"それらしさ"が上がって、余計に見抜きにくくなる。

「たまたま正しい」と「分かっていて正しい」の区別が、つかない。これが、確率機械の、いちばん怖いところだ。

 

 

サイコロを消すのではなく、飼いならす

では、この"サイコロを振る機械"と、どう付き合えばいいのか。三つ、挙げたい。

1. 「一回の成功」を、信じない。大事な用途ほど、一回のデモで判断してはいけない。何度も回し、ばらつきの幅を見る。「たいてい合っている」と「必ず合っている」は、まったく別物だ。この二つを、経営会議で混同しないことだ。

2. 検証を、"仕組み"にする。これは第3回で話した「完了の定義」と地続きだ。人が毎回、目で確かめるのは続かない。「何をもって正しいとするか」をあらかじめ決め、機械的にチェックする仕組みを、業務に組み込む。ばらつく機械には、ばらつきを捕まえる網が要る。

3. 致命的な判断は、AI単独に握らせない。100回に2回の事故が、取り返しのつかない領域——お金、法務、人命、本番データ——では、AIの答えを、そのまま実行させない。第1回で書いた「危ないところは、はじめからコンセントを抜いておく」だ。

最後に、少し前向きな話をして終わりたい。

この"サイコロ性"は、厄介者であると同時に、AIの創造性の源でもある。もし毎回まったく同じ答えしか返さないなら、それはただの検索エンジンだ。少しのゆらぎがあるからこそ、思いもよらない切り口や、新しい表現が生まれる。ブレインストーミングの相手として、AIが優秀なのは、このためだ。

だから、目指すべきは、サイコロを消すことではない。サイコロを、飼いならすことだ。ばらついて困る仕事(計算、記録、判断)では、検証の網で厳しく縛る。ばらついて嬉しい仕事(発想、たたき台、下書き)では、むしろ、そのゆらぎを楽しむ。

AIは、決まった答えを返す電卓ではない。毎回サイコロを振る、気まぐれな天才だ。その正体を知ったうえで、仕事を選んで任せる。それが、確率マシンと上手に付き合う、たった一つのコツなのだ。

 

出典・参考:

Emily M. Bender, Timnit Gebru, Angelina McMillan-Major, Shmargaret Shmitchell.On the Dangers of Stochastic Parrots: Can Language Models Be Too Big? 🦜
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3442188.3445922

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。

1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。

2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。

2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
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