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【マーケ編03】米国のスタートアップは「営業を雇う前にGTMエンジニアを雇う」。これが何を意味するか
宗像 淳 / イノーバCEO2026/10/29 10:00:021 min read

米国のスタートアップは「営業を雇う前にGTMエンジニアを雇う」。これが何を意味するか|マーケ編03

 


 

今回の概要

海外では、データとAIとワークフローを組み合わせて、見込み客の発掘から接触までを自動で回す「GTMエンジニア」という職種が急速に広がっている。一人で多数の営業担当を支える。日本では「マーケ担当が一人でMAをいじっている」のが実情だ。人の生産性の差が、3年後にどう出るかを書く。

1. 営業の前に、仕組みを作る人を雇う

結論から書く。海外のB2B企業は、営業の人数を増やす前に、営業の仕組みを作る技術者を雇うようになった。この順番の変化が、日本との生産性の差を静かに広げている。

「GTMエンジニア(Go-to-Market Engineer)」という職種がある。2024年頃から米国のスタートアップの求人に現れ、2025年にかけて一気に広まった。私が注目するのは、数字より中身だ。

この職種の仕事はこうだ。企業データベース、ウェブ上の行動シグナル、採用情報、資金調達ニュースといった情報を自動で集める。そこから「今まさに自社の製品を必要としていそうな企業」を条件で絞る。担当者を特定し、その会社の状況に合わせた文面をAIで生成し、送る。返信があれば営業に渡す。この一連の流れを、コードとツールで組み上げ、毎日自動で回す。

営業ではない。マーケターでもない。営業とマーケの間にある「見込み客を見つけて接触するまで」の作業を、人手ではなく仕組みで動かす人だ。

2. なぜこの職種が生まれたか

この動きを象徴するのが、米国のスタートアップClayが提供するツールの台頭だ。Clayは複数のデータ源から情報を集め、AIで加工し、外部ツールに流す。いわば「営業のためのプログラミング環境」である。2025年に大型の資金調達を重ね、8月には評価額31億ドルで1億ドルのシリーズC調達を発表した。この会社の成長そのものが、GTMエンジニアという職種への需要を物語っている。

背景にある事情は三つある。

第一に、データが手に入るようになった。企業情報、担当者情報、ウェブ上の行動は、有償のデータ提供会社を通じてAPIで取れる。かつて営業アシスタントが一件ずつ調べていたことが、機械で引ける。

第二に、AIが文章を書けるようになった。相手の状況に合わせた文面を、一通ずつ人が書く必要がなくなった。

第三に、ツール同士をつなぐのが簡単になった。コードを少し書ければ、あるいはノーコードの自動化ツールを使えれば、データ取得から送信までを一本の流れにできる。

この三つが揃った結果、「営業を10人雇って一件ずつ電話をかける」より、「エンジニアを1人雇って仕組みを作り、営業は返信があった相手だけに集中する」方が、はるかに効率が良くなった。

人を増やして活動量を稼ぐ時代から、仕組みを作って活動を自動で生む時代に、海外は移っている。

3. 日本の実情は「マーケ担当が一人でMAをいじっている」

私が我慢できないのは、ここからだ。

日本のB2B企業のマーケティング体制を見ると、専任が一人、あるいは営業との兼務、というケースが大半だ。その一人がやっているのは、展示会の準備、名刺のデータ入力、メール配信、たまにウェブの更新。MAツールは入っているが、使っているのはメール配信機能だけ。

この人にGTMエンジニアの仕事を期待するのは酷だ。データを集める予算がない。ツールをつなぐ技術がない。何より「営業の前工程を仕組みで動かす」という発想を、経営が持っていない。

一方で営業は、今日も一件ずつ電話をかけ、展示会の名刺リストを上から順にたどっている。相手が今何に困っているかも、検討段階にあるかどうかも知らずに。

同じ「見込み客に接触する」という仕事をしているのに、片方は仕組みで大量の見込み客を動かし、もう片方は人手で一件ずつこなしている。しかも仕組み側は、相手の状況を知った上で接触している。

これは努力の差ではない。設計の差だ。日本の営業担当が海外の営業担当より怠けているわけではない。会社が「営業の前工程」に技術と人を配置していないだけである。

4. 3年後にどう出るか

私は、この差が3年後に「営業一人あたりの受注額」として現れると考えている。

仕組みを持つ会社の営業は、返信があった相手、つまり関心が確認できた相手だけに時間を使う。持たない会社の営業は、関心があるかどうかわからない相手に時間の大半を使い、断られ続ける。同じ人数、同じ能力でも、成果は違ってくる。

そして仕組みは、蓄積する。どの条件の企業が返信しやすいか、どんな文面が効くか、データがたまるほど精度が上がる。3年間仕組みを回した会社と、3年間人手で電話をかけた会社では、蓄積されたものが違う。後から追いつこうとしても、その3年分の学習は買えない。

海外のこの動きは、大企業ではなく、まずスタートアップから始まった。人が少ないから仕組みに頼った。人が少ない日本の中堅・中小B2B企業こそ、本来はこの発想が合っている。

結論

営業を増やす前に、営業の前工程を仕組みにする。海外ではこれが普通になった。日本の多くの会社は、まだ「営業を増やせば売上が増える」で動いている。

小さい一歩でいい。いま社内で「見込み客を探して最初の接触をするまで」に、誰が、月に何時間使っているかを数えてみてほしい。その時間の大半は、仕組みに置き換えられる。置き換えた時間で営業が何をするか。そこに3年後の差が生まれる。


▶ 前回

マーケ編02 買い手はもう営業に会いたくない。B2B購買の7割が「営業と話す前に」決まっている現実


▶ 次回予告

マーケ編04 AI営業担当(AI SDR)は「使えない」で終わった話ではない。第二波が来ている


参考文献・出典:

- I analyzed 1000 GTM Engineering jobs - here is what I learned(Bloomberry、2025年10月3日)
https://bloomberry.com/blog/i-analyzed-1000-gtm-engineering-jobs-here-is-what-i-learned/
- Clay Series C announcement. The GTM engineering era begins now(Clay、2025年8月5日)
https://www.clay.com/blog/clay-series-c-announcement-the-gtm-engineering-era-begins-now
- The GTM engineering era begins now(Clay、Series C特設ページ)
https://www.clay.com/series-c
- Clay Secures $40M Series B Expansion at $1.25B Valuation(Clay、2025年1月22日)
https://community.clay.com/x/announcements/msg_zHqvjT22cUBV/clay-secures-40m-series-b-expansion-at-125b-valuat

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宗像 淳 / イノーバCEO

福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。

1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、楽天で物流事業、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)でソーシャルメディアマーケティング事業の立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携を主導した。

2011年、マーケティング支援会社である株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。日本におけるコンテンツマーケティング/BtoBマーケティングの第一人者として、15年以上にわたり5000社以上の経営課題やマーケティング・営業課題を分析し、幅広い業界で企業の事業成長に貢献。「事業を伸ばすには実行力が重要であり、実行力とは組織・人である」という哲学で、人にこだわった支援会社づくりに取り組んでいる。

2026年2月、最新刊『いちばんやさしいAI時代のコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)を上梓。著書に『商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みを作る』(日経BP社)、『いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本』(インプレス)。
最新刊 旧作1 旧作2