「20%ルール」を捨てた?Googleは今後もイノベーティブでいられるのか

経営・ビジネスハック
時価総額3,000億ドル、45000人もの従業員を抱える世界有数の巨大企業Google。数多くの革新的なサービスで世界中の人々の生活を変えてきたIT界の巨人の、「イノベーションの源泉」とも呼ばれる制度をご存じだろうか?
「20%ルール」だ。
しかし今、その制度が急速に失われつつあるという。
「Gmail」「AdWords」「Docs」といった多くのサービスを生み出してきた「20%ルール」。
なぜ今Googleは、それを手放そうとしているのだろうか?Googleはこれからもその革新性を維持し続けることができるのだろうか?
「20%ルール」の功績
「Googleのイノベーションの源泉」とも評され、HPや3M、Yahoo!といった名だたる大企業にも導入されてきた「20%ルール」(会社によっては15%だったり10%だったりする)。その制度は「従業員の勤務時間中の一定時間を、通常の職務を離れて従業員自身が取り組みたいプロジェクトに費やすことができる」というものだ。
過去、Googleではこの「20%ルール」から生まれたプロジェクトが多くの成功をおさめてきた。「AdWords」「Docs」「Gmail」など、現在の主要サービスに繋がったものも少なくない。これらのプロジェクトの中には、採算性を度外視して取り組める同制度の恩恵を受けて生まれ、のちに莫大な利益をもたらすようになったものも含まれる。
これこそが、「20%ルール」が同社のイノベーションの源泉といわれるゆえんだ。
「義務化」による革新性の維持
古くから、先進的な企業に取り入れられてきた同制度だが、Googleはこの制度をより積極的に使うことで大きな成功をおさめた。
それが「義務化」だ。
Googleにおいて、従業員は「勤務時間の20%を他のプロジェクトに費やしても良い」のではない。「費やさなければならない」のだ。これは人事評価の対象にもなり、従業員はその20%の時間を使って「本業以外の何か」を生み出すことを期待されている。
「20%ルール」は従業員のモチベーション維持のためのインセンティブでも、自由な社風のための演出でもなく、高度に戦略的な制度といえる。
そしてその戦略は一定の成功をおさめてきたのだ。
「選択と集中」へのシフト
この「20%ルール」が、徐々にその存在感を失っているという。いつからか同制度は「義務」ではなく「許可制」になり、また従業員個々人の生産性を重要視されるようになった結果、事実上この制度を利用できないような状態になっているという証言もある。
同社は公に「20%ルール」の廃止を宣言したわけではない。しかし、「多くのアイデアを生み出し、そこから有望なものを育てる」という過去のスタンスから、「あるものをより良くする」というスタンスへとシフトしつつあることは確かなようだ。
「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」というミッションを掲げるGoogle。
数多くの小さなプロジェクトにリソースを分散させることよりも、既に全世界規模へと成長した既存サービスの進化に集中することの方が、理にかなった選択のように見える。
忍び寄る「イノベーションのジレンマ」
「選択と集中」による経営資源の最適化。経営効率化の観点からは一件合理的に見えるこの選択だが、これは「イノベーションのジレンマ」の典型例でもある。
クレイトン・クリステンゼンによって提唱された「イノベーションのジレンマ」は、業界のトップ企業がシェア獲得後に既存製品の改善・改良によりさらなるシェア向上を目指す「持続的イノベーション」に注力するあまり、失うもののない新興企業の生み出す「破壊的イノベーション」に対処することができず衰退していく、という傾向のことである。
Googleは「20%ルール」を義務とすることで「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の両立を実現してきた。
それを捨てた今、Googleは高い生産性を得た代わりに革新性を失うリスクを負うことを選んだように見える。
イノベーションを「外注」する
では、Googleはこれからただ巨大なだけのつまらない会社に成り果ててしまうのであろうか?
否。
Googleは「革新性」の内製に見切りを付け、イノベーションを「外注」することを選んだのではないだろうか?
革新的なアイデアで急成長の見込みがある有望なスタートアップを見つけては片っ端から買収していく。
モノになるかわからないプロジェクトをゼロから作り出すよりも、可能性の見えたものをその段階で取り込み、自社サービスの全体の適正化、品質向上に繋げる。将来の競合の芽を摘むという観点からも一石二鳥の戦略である。
2011年のGoogleの企業買収は週1社ペースにも及んだという。今後もこのペースは世界規模で加速していくだろう。
「Googleへのバイアウト」によって一夜にして億万長者。。。そんな物語が、今の時代のアメリカンドリームなのかもしれない。
記事執筆:(株)イノーバ。イノーバでは、コンテンツマーケティングのノウハウを詰め込んだ無料のebookや事例集をご提供しています。ダウンロードはこちらからどうぞ→https://corporate.clst01.innova-jp.net/library/
参考元:
・Google Effectively Kills ’20 Percent Time,’ The Perk That Gave Us Gmail: Quartz
・So What If Google’s ’20 Percent Time’ Is Dead? Let It Live on in Schools!
・Google Couldn’t Kill 20 Percent Time Even if It Wanted To
Photo: Some rights reserved by Robert Scoble, flickr
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