日米調査結果から予測する2016年コンテンツマーケティングの動向

コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングは、企業のマーケティング戦略の一つとして認知が広まり、実際に導入する企業も年々増加傾向にある。
コンテンツマーケティングの本格導入は2007年ごろから始まっていた米国では、コンテンツマーケティングのトレンドが一歩先を行っている。ここでは、米国コンテンツマーケティングの業界動向をまとめた調査結果と、日本のコンテンツマーケティングの調査結果を比較し、2016年の日本のコンテンツマーケティングの動向を探る。
日米コンテンツマーケティング調査結果比較
コンテンツマーケティングの立役者でもある、米Content Marketing Institute(CMI:コンテンツマーケティング・インスティテュート)とYahoo!マーケティングソリューションの2016年発表の調査結果を参照する。
日米のコンテンツマーケティングの共通点と相違点を紹介する。
日米の共通点
- コンテンツマーケティングの浸透
米国企業の88%がコンテンツマーケティングを実施していると回答。日本では、およそ50%が3カ月以上の期間にわたって実施していると回答した。日本もコンテンツマーケティングの浸透が進んでいる。
- コンテンツマーケティングを実施する企業では「効果を感じている」と回答
米国では、30%が「大いに効果が高いと感じている」、「効果を感じている」と回答。日本では、75%以上が「大いに効果を感じている」、「効果を感じている」と回答している。満足度の高さは、日本においてより顕在化している。(米国調査結果では44%が「どちらともいえない」と回答している)
- BtoBマーケティングにおける導入の割合が高い
日米ともにBtoBマーケティングにおける効果について高く評価している。米国では、44%が目に見える効果を感じていると回答。日本では、実施企業の41.6%がB2B向けに導入、32.0%がB2B、B2Cの両方に向けて導入している。
- コンテンツマーケティング導入の目的は「ブランド認知」「見込み客確保・育成」「ロイヤリティ向上」
日米ともにブランド認知の向上、見込み客の確保、売上アップ、見込み客の育成、顧客ロイヤリティの向上、と順番は多少前後するもののほぼ共通している。
- 実施しているコンテンツマーケティングの手法上位
ソーシャルメディア、ブログ、メルマガが上位を占めており、日米での共通項目である。
日米の相違点
- ソーシャルメディアを使用したコンテンツマーケティング実施方法
米国
1位 LinkedIn
2位 Twitter
3位 Facebook
日本
1位 Facebook
2位 Twitter
3位 LINE
日本では転職活動の際に使用するソーシャルメディアというイメージの強いLinkedIn。米国ではBtoBマーケティングにおける、コンテンツマーケティング実施手法のトップにランキングしている。
この理由には、LinkedInの登録者の多くがビジネス使用を目的としておりBtoBマーケティングへの適性が高いことがあげられる。ビジネスオーナーも数多く存在するため、B向け商材のマーケティングに適している。また、LinkedInのスライドシェアでは、パワーポイントやPDFでプレゼンファイルが公開できる。
日本の3位にランクインしているLINEの登録者は日本全人口の5割弱にものぼる5,800万人だ(「LINE 2015年10月-2016年3月媒体資料」より)。これに比べ米国では、2,500万以上とまだまだ登録者数が少ない。しかし、インドネシア、タイ、インドでは登録者数が多く、アジアへのグローバル展開を考えている企業にとって、効果を発揮する可能性がある。また、日本独自のソーシャルメディアとして、ニコニコ動画も7位にランクインしている。
- 米国では「インパーソンイベント」もコンテンツとして重視
米国の「実施しているコンテンツマーケティング」に対する回答結果は以下の通りだ。
1位 ソーシャルメディアコンテンツ
2位 ケーススタディー
3位 ブログ
4位 ニュースレター
5位 インパーソンイベント
5位にランクインしている「インパーソンイベント」は、日本ではなじみのない言葉ではないだろうか。
インパーソンイベントとは、対面式のイベントのことを指す。コンテンツマーケティングというとオンラインコンテンツが主であるイメージが強いが、米国ではインパーソンイベントがコンテンツマーケティングの戦略として認知され、導入されている。
たとえば、カンファレンス、展示会、デジタルイベントが挙げられる。インパーソンイベントを実施している企業に対して、効果の高さについて質問したところインパーソンイベントはトップにランクインした。
効果に対する評価が高い実施コンテンツの調査には、ウェビナーとウェブキャストがランクインしている。ウェビナーのメリットには、費用対効果の高さ、情報発信のタイムリー性、視聴者とのインタラクティブ性や視聴者からの評価制度などが挙げられる。日本の調査でも実施コンテンツの8位にランクインしており、期待が高まっている。
また、前年から大きく実施の割合がアップしたものに、「イラスト・グラフィック(写真)」がある。前年に引き続き、動画やインフォグラフィックも高い割合を占めており、ビジュアルコンテンツは引き続き人気だ。
- 米国に見られない日本の導入目的「SEO」「ウェブサイトのトラフィック数」
日本の回答結果に見られた「SEO」や「ウェブサイトのトラフィック数」は、米国調査においては見られず、日本独自のものである。
- 日本での実施コンテンツ「調査・リサーチ」「記事寄稿」が独自項目
日本での実施コンテンツの調査結果は以下の通りだ。
1位 ソーシャルメディア
2位 自社ブログ
3位 メールマガジン
4位 調査・リサーチ
5位 動画
これに続き、事例公開、外部ウェブサイトへの記事寄稿がある。
日本の独自項目であった「調査・リサーチ」は、コンテンツマーケティングだけではなく、これまでマスメディアでも実施されている。調査内容さえ間違わなければハズレのないコンテンツである。「外部ウェブサイトへの寄稿」はリーチできない潜在層へのアプローチに有効だ。
- 「効果の測定に使用している指標」は米国が一歩先のフェーズに
米国では、これまでウェブサイトのトラフィックを指標とする企業が多かったなか、今回は「セールスリードクオリティー(リードの質)」(87%)、「売上」(84%)、「コンバージョン率アップ」(82%)を指標としているという回答が多かった。
日本は、トップが「ウェブサイトのトラフィック」、続いて、「ブランド認知向上」、「コンバージョン率」、「SEOの順位」、「売上」とある。コンテンツマーケティング導入期間が短い企業も多く、まずは、コンテンツ自体の直接的なアクセスや閲覧数を重視する傾向がある。
CMI調査から見るコンテンツマーケティングの効果を高めるポイント
- マーケティングチームでのデイリーミーティング
すでに導入している企業で、「コンテンツマーケティングの導入効果が見える」と回答したマーケターはデイリーもしくはウィークリーでミーティングを開催している。方法は対面式もしくはバーチャルミーティングだが、「もっとも高い効果を感じている」と回答した61%は対面式のミーティングを開催している。
コンテンツマーケティングを成功させるためには、チーム内でのコミュニケーション、データの頻繁な計測が重要であることを裏付ける回答結果である。
- マーケティング戦略書とミッションステートメント
CMIの調査項目に、「マーケティング戦略書の有無」、「ミッションステートメント有無」が大きく取り上げられている。「もっとも高い効果を感じている」と回答した企業の53%がマーケティング戦略書を作成していると回答。48%がミッションステートメントを作成していると回答している。コンテンツマーケティングの戦略や施作のナレッジ化が進んでおり、効果を高めるための手法として取り上げられている。
2016年の課題は、コンテンツ制作、効果測定、予算不足の解消
コンテンツマーケティングの課題は、日米で共通するものが多く、コンテンツ制作、効果測定、予算不足の解消が課題の3本の柱となっている。
下記に日米それぞれの「担当者の悩み・課題」に関する調査結果を記載する。
米国
1位 エンゲージの高いコンテンツ制作
2位 コンテンツの効果測定
3位 コンテンツの定期的な制作
これに続いて、ROIの計測が課題となっている。
日本
1位 企画力不足
2位 コンテンツ制作のスキル不足
3位 ノウハウ不足
これに続いて編集スキル不足、リソース不足が課題である。コンテンツを自社で内製している企業が44.1%と高く、限られた予算の中でこの問題を解決できる方法を見つけ出すことが課題だ。
調査結果から見える2016年コンテンツマーケティング注目ポイント
ペイドメディアの動向 トラディショナルな広告から新しい広告へ
日米ともにSEM(検索連動型広告)、コンテンツディスカバリーツール、プロモーテッドポストの実施が高まっている。米国調査結果では、これらペイドメディアに「高い効果を感じている」と回答する企業も多い。従来のトラディショナルなバナー広告に対する評価は最下位であった。コンテンツだけでなく、広告においてもターゲットの購買ステップにあわせた発信方法とメディアの選択の重要性が高まっている。
コミュニティサイトは成功させたいチャネル
米企業がターゲットに登録、定期購読してほしい順位は以下の通りだ。
1位 ニュースレター
2位 ブログ
3位 コミュニティサイト
3位にランクインしているオンラインの「コミュニティサイト」だが、米国に比べ日本ではあまり成功事例がみられない。多くのインタラクションを生む可能性の高いコミュニティサイトは、成功すれば高い効果が見込める。過去に、世界が注目したプレイステーション2が、コミュニティサイトから誕生したという事例もある。
コンテンツに求められる要素
- より正確性の高いコンテンツ
「検索ランキング上位に表示される=信頼できる情報」という公式は崩れつつある。消費者は複数のコンテンツを比較し、情報の真偽を判断するようになっている。
- パーソナライズした、ターゲットに関係性の高いコンテンツ
ターゲットの購買ステップにあわせた、関連性の高いコンテンツを提供することが求められている。ターゲットが欲しいタイミングに利便性の高いメディアを選択して提供することもポイントだ。
- 視覚で情報をキャッチできるビジュアルコンテンツ
動画、グラフィック、インフォグラフィックなど視覚的に情報を収集できるコンテンツの需要がさらに高まっている。InstagramやTwitterなどでも動画配信機能が追加となり、ビジュアルコンテンツの需要の高さが明らかである。しかし、デザイナーやクリエイターを社内に抱えることはコスト面で厳しく、コンテンツ制作の新たな課題を生んでいる。
まとめ
米国でのコンテンツマーケティングを新たに導入する企業の割合はいったん落ち着きを見せ、成熟期に突入した。ウェブサイトのトラフィック数を増やす目的からセールスリードクオリティーにシフトし、量より質の高さを求める傾向が見られる。
一方、日本のコンテンツマーケティングは1つ前のフェーズにあるといえるだろう。認知度は高まり、徐々にその効果についても評価されはじめている。コンテンツマーケティングを実施していない企業への調査では、「導入を検討している」と回答した企業は回答者の55.5%にものぼった。日本では、2016年もコンテンツマーケティング導入が引き続き拡大することが予測される。
コンテンツマーケティングは米国が発祥であり、戦術や戦略を先取りする参考先として有用である。ただし、米国と日本では文化や背景が異なるため、個別の施策や運用方法が、実践で導入できるかどうかの判別は必要である。
参考:
実施会社 Content Marketing Institute(CMI)
アンケート方法:
電子メール調査(リストの提供元は以下8社:Content Marketing Institute、MarketingProfs、the Business Marketing Association(BMA)、Blackbaud、The Association for Date-driven Marketing & Advertising (ADMA)、Industry Week、New Equipment Digest、WTWH Media)
回答者数:3,714サンプル
実施期間:2015年7月~8月
実施会社:ヤフー株式会社
Yahoo!マーケティングソリューション
アンケート方法:マクロミルモニタを利用したインターネット調査
回答者数:1,030サンプル
実施期間:2015年12月24日~12月25日
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