目標を確実に達成するには、ゴールの設定だけでは不十分です。企業の各部門で働く人たちが、それぞれの部門で共通に認識できる目標を立て、それが最終的なゴールに結びついていくことが大切です。
近年注目を集めるABM(アカウントベースドマーケティング)の実行においても、各部門のメンバーが協働してターゲットからの受注や、売上のゴールを目指していきます。今回は、目標達成のために欠かせない各部門のKPIについて解説していきます。
KPIとは?
KPIとはKey Performance Indicatorの略で、重要業績評価指標と訳されます。KPIはKGIとセットで使われることが多い指標なので、KGIについても知っておく必要があります。KGIはKey Goal Indicatorの略で、こちらは重要目標達成指標と訳されます。KGIとは最終的なゴールを定量的に(たとえば売上や利益など)表現したもの、KPIはKGIを達成するための中間的な目標を定量的に(案件数やリード顧客数など)表現したものです。
KPIは、KGIへの中間的な指標として目標に対してどれだけ進捗しているか、どれだけ足りないのかの判断材料となります。たとえばKGIを単に「開発案件を年間10億円売り上げる」と設定したとしても、それだけでは具体性に欠けた目標となってしまいます。実際に達成するためには標準的な単価でどれくらいの開発案件が、いつまでにいくつ必要なのか、KPIとして設定する必要があります。とても単純化した話ですが、標準的な納期が2ヶ月だとすると(日本の事業年度で考えれば)1月には10億円分の開発案件をすべて受注済か納品済にしておかなければなりません。そこから逆算して、標準単価○○○○万円の開発案件をいつまでに受注し、さかのぼっていつまでに商談化し、いつまでにいくつのリード顧客を獲得しておく必要がある、とKPIを決めていくイメージです。
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ABMにおける各部門の役割
企業としての営業活動である限り、どのようなマーケティング手法でもKGIとKPIは必要です。言葉として用いていなくとも、ゴールと細分化した定量的な中間指標は、目標達成までの工程を曖昧にしないために必要だからです。ABMの手法で活動する場合でも、KGIとKPIは必要になります。ABMでは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスが協働して動くことがほとんどです。ここではまず、ABMの概要とマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの役割について確認しておきましょう。
ABMとは?
ABMとはAccount Based Marketingの略で、近年B2B企業が注目しているマーケティング手法です。それまでのリード顧客(個人)中心のアプローチではなく、企業全体をアカウント(顧客)として捉え、企業ごとに最適なアプローチを行って成果を上げていきます。ABMはSFAやMAの情報を統合、インサイドセールスや外部サービス(企業データベースなど)による情報補完を行って優良アカウントを攻略します。
各部門の役割
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マーケティング
マーケティングとは本来、企業活動のほぼすべてを表す言葉ですが、ここでは広報・広告活動などによる顧客の誘引活動と定義します。SFAやMAの情報から優良アカウントをターゲティングし、ターゲットとする企業にとってどれだけ魅力的なコンテンツや広告で自社に誘引できるかがマーケティング部門の役割です。
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インサイドセールス
インサイドセールスとは、顧客を訪問しない営業スタイルです。電話やメール、オンライン会議システムなどを使い、顧客と非対面でコミュニケーションを行います。インサイドセールスの一番の役割はBANTCの確認です。BANTC(バントシーと読む人が多い)とは、Budget(予算)、Authority(権限)、Needs(需要)、Timing(時期)、Competitor(競合)の頭文字を取ったもので、この確認を経てリード顧客は商談フェーズへと入っていきます。
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フィールドセールス
フィールドセールスは対面で行う顧客へのアプローチです。インサイドセールスが商談レベルまで上げてくれた案件の、条件交渉や価格交渉、契約など難易度の高いアプローチが主になります。フィールドセールスの一番の役割は、商談のクロージング(受注から納品、売上回収までを含む)です。
ABMにおける各部門のKPIとはどのようなものか?
上記のように各部門(マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス)には違った役割がありますが、各部門のKPIはどのようなものが多いのでしょうか?ABMにおける重要なKPIと共に見ていきましょう。
マーケティングの KPI
マーケティング部門は、ターゲットとする企業に自社の商品やサービスを認知させ、どれだけ自社(Webサイトや展示会など)に誘引してリードにできるかが重要です。マーケティングのKPIには、主に以下のようなものがあります。
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Webサイトへのアクセス数(PV数)
自社のWebサイトにどれだけアクセス(Page View)があったかの指標です。訪問したユーザーのIPアドレスから、ドメイン名が判明するのでターゲットとした企業のアクセス数も把握できます。
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回遊率(重要ページ到達率)
回遊率は本来、ユーザーが一度の訪問でWebサイト内のページをどれだけ閲覧したかを示すものですが、この場合は一番見て欲しいページに到達しているかを指標とします。
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メール開封率、URLクリック率
メルマガなどを発行した場合に、そのまま捨てられることなく開封されたかどうかの指標です。実際には開封されたか否かはわからないので、メルマガ内のURLがクリックされるなど、ユーザーからの反応があった場合にカウントします。
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保有リード数(企業単位)
ターゲット企業リストの中での保有リード数です。ターゲット企業へのアプローチ先を獲得できているかの指標となります。
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保有リード数(リード顧客単位)
ターゲット企業内の保有リード数ですが、アプローチ可能なリードは複数あるか?役職やキーマンのリードは獲得できているか?などが指標となります。
インサイドセールスの KPI
インサイドセールスは、マーケティングが獲得したリード顧客に電話やメール、オンライン会議システムでアプローチを行い、商談化しアポイントするのが役割です。インサイドセールスのKPIには、主に以下のようなものがあります。
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架電数・通話時間
何件電話をかけたか、どの程度の時間顧客と話したかの指標ですが、あくまで稼働の状態を確認するだけの指標と考えましょう。重要なのは商談化した件数になるからです。
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商談化(案件化)数、商談化率
マーケティングから送られたリード顧客と関係構築を行い、どこまで商談化できたかという一番重要な指標です。ここで商談化され、アポイントできた案件がフィールドセールスに送られます。
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ターゲット企業のリード獲得数
マーケティング部門がリードを獲得しきれていないターゲット企業に対して、手紙やアウトバウンドコールをしてリードを獲得するのもインサイドセールスの役割です。本指標は、インサイドセールスとしてのリード獲得数の指標です。
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アポイント率
商談はアポイントができて成立します。商談化できたリード案件のうち、どれくらいアポイントできているかの指標です。
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受注数・受注率
本来、受注数や受注率はフィールドセールスのKPIですが、受注確度を意識した商談設定を行わせるように、インサイドセールスのKPIとする企業も多いようです。
フィールドセールスの KPI
フィールドセールスの役割は、商談の受注から納品、売上回収までを含みます。商談の総仕上げの役割なのでKPIはシンプルです。
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受注数
インサイドセールスから送られた商談を、どの程度受注できたかの指標です。
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受注単価(利益率)
単価を下げて受注すれば受注率は上がりますが、利益率は低下します。決められた利益もしくは利益率で受注しているかの指標です。
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受注率
ABMは受注しやすい企業を狙うことが前提です。また特定セグメントに対して営業するため、受注精度も高められます。このため、通常の営業より高い受注率を目標とします。
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回収率、キャッシュフロー
納品後の売上金額が売掛金となっていないか、また著しく遅い入金条件になっていないかなどをチェックする指標です。自社の利益に直結する指標なので、KPIとして確実にフォローすることが重要です。
まとめ
KGIとKPIの関係は、しっかりとした合理性の感じられる、誰もが納得できる関係でなければなりません。あまりにも無謀なKGIではKPIを作ることができませんし、逆にプアなKPIではKGIへの道筋が見えません。特にKPIは、全メンバーが「これならできそうだ」と思うことが目標の達成につながります。設定の内容次第で、メンバーのやる気にも関わってくるKPI。自社の状況を見極め、無理のないように設定していきましょう。
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