Skip to content
イノーバマーケティングチーム2024/03/26 8:17:562 min read

大学のためのブランディング戦略:個性を際立たせ、選ばれる大学になるための方法論

1. はじめに

大学におけるブランディングの重要性が高まっている。グローバル化や少子高齢化による大学間競争の激化、学生の多様化などを背景に、大学は自らの存在意義を明確に打ち出し、個性を際立たせることが求められている。大学ブランディングは、大学の価値を創造し、伝達し、維持するための戦略的な取り組みである。

大学ブランディングの歴史は古く、欧米の名門大学では19世紀から自らのアイデンティティを確立してきた。一方、日本では1990年代以降、大学の自由化や国際化を契機に、ブランディングの必要性が認識されるようになった。今や大学ブランディングは、志願者獲得や学生満足度向上、卒業生ロイヤルティの強化、大学ランキングの上昇など、大学経営に不可欠な要素となっている。

本コラムでは、大学ブランディングの基本概念から私立大学・国公立大学の戦略、事例研究、実践ガイド、未来展望まで、多角的に考察する。大学関係者にとって、ブランディング戦略の立案と実行に役立つ情報を提供したい。

2. 大学ブランディングの基本概念

ブランディングとは、製品やサービス、組織などに関する情報を整理し、それらの価値を高め、他との差別化を図ることである。大学ブランディングは、大学の持つ無形の価値を可視化し、ステークホルダーに伝達するための活動といえる。

大学ブランドの構成要素には、ビジョン(大学の将来像)、ミッション(大学の使命)、バリュー(大学の価値観)、パーソナリティ(大学の個性)などがある。これらを明確に定義し、一貫したメッセージとして発信することが重要だ。

大学ブランディングのプロセスは、①調査(自校の強みや競合校の動向を把握)、②戦略策定(ブランドコンセプトを決定)、③実行(ブランドの内外への浸透)、④評価(ブランド指標の測定と改善)の4段階に分けられる。各段階を着実に進めることが、ブランディングの成功につながる。

大学ブランドの階層構造として、マスターブランド(大学全体のブランド)、サブブランド(学部・学科のブランド)、個別ブランド(研究室・ゼミのブランド)がある。これらを整理し、相互の関係性を明確にすることで、ブランドの一貫性を保つことができる。

また、大学ブランドの管理には、ブランドガバナンス(ブランドの意思決定体制)とブランドアーキテクチャ(ブランドの構造設計)が不可欠である。トップのリーダーシップの下、全学的な推進組織を設置し、PDCAサイクルを回すことが求められる。

3. 私立大学のブランディング戦略

私立大学は、建学の精神や教育理念に基づき、独自のブランドを築く必要がある。特に、少子化による大学の淘汰が進む中、差別化とポジショニングが生き残りの鍵を握る。

私立大学のブランド構築には、①教育の質の向上、②研究力の強化、③国際化の推進、④社会貢献活動の充実など、複合的な取り組みが求められる。特色ある学部・学科の設置、先端的な研究の推進、留学生の受け入れ拡大、地域社会との連携など、大学の強みを生かした戦略が有効だ。

ブランドアイデンティティの確立では、ビジュアルアイデンティティ(ロゴ、カラー、デザイン)と、コミュニケーション戦略(広報、広告、イベント)を一体的に進めることが重要である。また、キャンパス環境の整備、教育プログラムの充実、学生サポートの強化など、ブランド体験の設計にも力を入れたい。

私立大学の中には、ブランド拡張戦略として、大学院の充実や社会人教育の強化に取り組む例もある。さらに、ブランド評価と改善のために、定期的なブランド監査やブランドトラッキングを実施することが望ましい。

4. 国公立大学のブランディング戦略

国公立大学は、私立大学とは異なる特性を持つ。設置者が国や地方自治体であり、公的な役割が求められる一方で、近年は自律的な大学運営が求められている。こうした中で、国公立大学におけるブランディングの意義と課題を整理したい。

国公立大学のブランド構築では、①地域貢献、②研究力強化、③国際化の3点が重要な戦略となる。地域の産業振興や人材育成に貢献する取り組み、世界的な研究拠点の形成、海外大学との連携強化など、大学の特色を生かした取り組みが求められる。

ブランドアイデンティティの確立では、建学の精神や校風、伝統などを再確認し、現代的な意味づけを行うことが重要だ。また、地域連携、産学官連携、社会貢献活動など、大学の知的資源を生かしたブランド体験の設計にも注力したい。

国公立大学のブランド評価と改善では、第三者評価や自己点検・評価を活用することが有効だ。外部の視点を取り入れながら、ブランド戦略の PDCAサイクルを回すことが求められる。

5. 大学ブランディングの事例研究

国内外の大学ブランディングの成功事例を分析することで、戦略立案のヒントを得ることができる。

国内の事例としては、慶應義塾大学、早稲田大学、国際基督教大学、会津大学などが挙げられる。

慶應義塾大学は、「実学」の伝統を生かし、イノベーション教育の推進や、産学連携の強化に取り組んでいる。早稲田大学は、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」の建学の精神を現代に活かし、グローバル人材の育成や、社会貢献活動に力を入れている。

国際基督教大学は、リベラルアーツ教育と国際化を大学の個性として打ち出し、学生の主体的な学びを支援している。会津大学は、コンピュータ理工学の専門大学として、IT人材の育成と地域貢献を両立させている。

海外の事例としては、ハーバード大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学、シンガポール国立大学などが注目される。

ハーバード大学は、世界トップレベルの研究力と教育力を誇り、優秀な学生と教員を世界中から集めている。スタンフォード大学は、シリコンバレーの中心に位置し、起業家精神とイノベーションを大学の文化として根付かせている。

オックスフォード大学は、世界最古の大学として、伝統と革新を融合させ、グローバルな課題解決に取り組んでいる。シンガポール国立大学は、アジアのハブとなる研究大学として、国際共同研究や産学連携を推進している。

これらの事例から、①大学の個性の明確化、②トップのリーダーシップ、③ステークホルダーとの協働、④ブランド体験の重視、⑤継続的な改善努力といった成功要因が浮かび上がる。一方で、ブランディングの形骸化や、短期的な成果主義に陥ることは避けなければならない。

6. 大学ブランディングの実践ガイド

大学ブランディングを成功させるには、戦略の立案と実行を着実に進める必要がある。

ブランディングの第一歩は、自校の強みや特色、競合校の動向などを把握することである。学生や教職員、卒業生など、ステークホルダーへのインタビューやアンケートを行い、ブランドに対する認識や期待を明らかにしたい。また、他大学の戦略や事例を分析し、ベンチマークとすることも重要だ。

次に、ブランド戦略の立案では、大学の将来ビジョンに基づき、ブランドコンセプト(大学の存在意義)、ブランドストーリー(大学の物語)、ブランド体験(大学での経験価値)を設計する。それぞれの要素を、大学の個性や強みを生かしながら、一貫性を持たせることがポイントとなる。

ブランドコミュニケーションの展開では、ロゴやスローガン、広報誌、ウェブサイトなど、visual identityを統一するとともに、大学の魅力を伝えるコンテンツを戦略的に発信していく。また、オープンキャンパスや講演会、シンポジウムなど、大学の体験価値を伝えるイベントの開催も効果的だ。

デジタル化の進展に伴い、SNSやオンラインメディアを活用したデジタルマーケティングの重要性も高まっている。受験生や在学生、卒業生とのエンゲージメントを高め、ブランドへの共感を得ることが求められる。

ブランド評価と改善では、ブランド認知度やブランドイメージ、顧客満足度など、定量的な指標を設定し、定期的に測定・分析することが重要だ。得られた結果を基に、ブランド戦略の修正や改善を行い、PDCAサイクルを回していく。

大学ブランディングを推進するには、トップのリーダーシップと、全学的な推進体制が不可欠である。理事長や学長の強いコミットメントの下、ブランディング専門の部署を設置し、各部門との連携を図ることが求められる。また、教職員の意識改革やスキル向上のために、研修や勉強会を定期的に実施することも重要だ。

ブランディングには一定の予算が必要となるが、長期的な視点で投資対効果を見極めることが肝要である。ブランド価値の向上は、学生募集や寄付金獲得、企業連携など、大学経営の様々な側面に好影響をもたらすことを忘れてはならない。

7. 大学ブランディングの未来

大学ブランディングは、今後も大学経営において重要な位置を占め続けるだろう。特に、以下の3つの潮流に注目したい。

第一に、デジタル化の進展である。オンライン教育の拡大や、AIやビッグデータを活用した教育・研究の高度化など、大学の在り方そのものが変化しつつある。こうした中で、大学ブランドをデジタル空間でどのように構築し、発信していくかが問われている。バーチャルキャンパスの構築や、デジタルコンテンツの充実など、新たなブランド体験の設計が求められるだろう。

第二に、グローバル化の加速である。国境を越えた学生の移動や、大学間の連携が一層活発化する中で、大学ブランドの国際的な通用性が問われている。海外大学とのダブルディグリープログラムや、国際共同研究の推進など、グローバルな視点でのブランディングが必要となる。また、海外の学生や研究者に対する大学の魅力の発信力を高めることも重要だ。

第三に、社会貢献の重視である。大学には、地域社会や国際社会の課題解決に貢献することが求められている。SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みや、環境・社会・ガバナンス(ESG)への対応など、大学の社会的責任を果たすことがブランド価値の向上につながる。産学官連携や、ソーシャルイノベーション、ボランティア活動など、大学の知的資源を社会に還元する取り組みを積極的に進めたい。

大学ブランディングの未来は、これらの潮流を的確に捉え、大学の個性や強みを生かしながら、新たな価値を創造していくことにある。そのためには、ブランディングの専門人材の育成や、他大学との連携・協働など、大学の枠を越えた取り組みも必要となるだろう。

8. おわりに

大学ブランディングは、大学の個性を際立たせ、ステークホルダーに選ばれる大学となるための重要な経営戦略である。本稿では、大学ブランディングの基本概念から、私立大学・国公立大学の戦略、事例研究、実践ガイド、未来展望まで、多角的に考察してきた。

大学ブランディングの成功のポイントは、以下の5点に集約できる。

  1. 大学の個性や強みを明確にし、ブランドコンセプトを確立すること
  2. トップのリーダーシップの下、全学的な推進体制を構築すること
  3. ステークホルダーとの協働により、ブランド体験を設計すること
  4. デジタル技術を活用し、ブランドコミュニケーションを革新すること
  5. ブランド評価に基づき、継続的な改善を図ること

大学ブランディングは、一朝一夕には成し遂げられない。長期的な視点に立ち、大学の本質的な価値を見つめながら、ブランド構築に向けて着実に歩みを進めることが肝要である。

本稿が、大学関係者にとって、ブランディング戦略の指針となれば幸いである。大学の未来は、ブランディングにかかっている。各大学が、自らの個性や強みを生かしながら、魅力あるブランドを創造し、高等教育の発展に寄与することを期待したい。

ブランドマネジメントについて理解を深めるために、以下の関連記事もチェックしてみてください。

大学ブランディングFAQ

Q1. 大学ブランディングに必要な期間は?

A1. ブランディングは長期的な取り組みです。一般的に、ブランド浸透には3~5年程度を要すると言われています。ただし、効果を実感するには、さらに時間がかかるケースもあります。

Q2. ブランディングの予算はどの程度必要?

A2. ブランディングの予算は、大学の規模や戦略によって異なります。一般的に、大学の総予算の1~5%程度を目安とする例が多いようです。ただし、初期投資として、ブランド調査や広報ツールの制作など、一定の費用が必要となります。

Q3. ブランディングの効果はどのように測定すれば良い?

A3. ブランド認知度、ブランドイメージ、志願者数、学生満足度、卒業生の満足度・ロイヤルティなど、定量的・定性的な指標を設定し、定期的に測定・分析することが重要です。また、ブランドが大学の経営にもたらす影響を、長期的な視点で評価することが求められます。

大学ブランディング チェックリスト

  •  ブランディングの目的と目標を明確にする
  •  ブランドの現状を把握する(調査・分析)
  •  ブランドコンセプトを定義する
  •  ブランドアイデンティティを確立する
  •  ブランド体験を設計する
  •  ブランドコミュニケーションを展開する
  •  ブランドの浸透度を測定する
  •  ブランド評価に基づき、改善を図る
  •  ブランディングの推進体制を構築する
  •  ブランディングの予算を確保する
avatar

イノーバマーケティングチーム

株式会社イノーバの「イノーバマーケティングチーム」は、多様なバックグラウンドを持つメンバーにより編成されています。マーケティングの最前線で蓄積された知識と経験を生かし、読者に価値ある洞察と具体的な戦略を提供します。